チェリッシュxxx 第5章

C 初体験


「どうしたの?」
いきなり来たオレに亜矢はビックリした顔をしていたけど、迷惑そうではなかった。
オレはケータイから亜矢に電話をして、亜矢のマンションにやって来た。
いつもはカチッとした服装でオレんちに来る亜矢が、Tシャツにショートパンツという格好で玄関に出てきた。
「・・・センセーに、通知表見せようと思って」
ホントは他に行くとこが思いつかなくて、亜矢に電話をしたんだけど・・・
亜矢はちょっとだけオレの顔を見つめたあと、
「じゃ、見せて?」
と手を差し出した。黙って通知表を差し出すオレ。
「ふうん。・・・ホントに上がってるね?」
「だろ?」
15秒もかからないで見れる通知表を、亜矢は5分以上かけてじっくりと眺めていた。
オレはその間黙って、きれいに手入れされた亜矢の爪を見ていた。薄いピンクのマニキュアが塗られている。
頑張ったね、と言って、亜矢が通知表を返してきた。
「・・・わざわざこれだけのために来たの?」
「・・・うん」
違うんだよ、センセー!
オレ、家にいる場所ねーんだよ!!
―――でも、そんなことカッコ悪くて言えねぇ・・・
「・・・帰る」
オレが踵を返したら、
「待って!」
と亜矢がオレを呼び止めた。「・・・シチューたくさん作ったから、食べてかない?」
マジで涙出そーだったよ。そんときのオレ。
「そーだったんだ・・・」
オレは家のことを亜矢に全て話した。
「信じらんねーだろっ? 浮気相手、センセーと同じ歳だぜ?」
「恋愛に、年齢はカンケーないからね。・・・ウチもママ母だけど、あたしと10歳も離れてないし」
「えっ? センセーんとこも、親 離婚してんの?」
「ううん。ウチはあたしが小さい頃、母親が死んじゃってるの」
「そーなんだ・・・」
亜矢んとこも、最近父親が再婚をして、それをきっかけに亜矢は1人暮らしを始めたということだった。
「でも、やっぱり、パパにはずっとママだけを想ってて欲しかったな・・・」
「パパ、だって」
オレがちょっとからかったら、
「うるさい! 帰るっ?」
「ゴメンゴメン! そんなこと言わないで?」
って言ったけど、もう11時を過ぎている。そろそろ帰んねーと・・・
オレがチラリと時計を見上げたら、
「お父さんたち、心配してるかな?」
と亜矢も時計を見上げた。
「いや、それは大丈夫だと思うけど・・・ でも、センセーが・・・」
「ん?」
「いやホラ・・・ なんつーか・・・ オレも一応男だし、さ」
実際、さっきから理性を保つのが大変だったんだよな。
亜矢の部屋はワンルームで、すぐ目の前にベッドが置いてあった。
亜矢の手を引っ張って、2歩あるいたらもうベッド! みたいな。
オレが小さな理性をフル稼働させていたら、
「・・・男だったら・・・何?」
「何、って・・・」
あぐらをかいているオレの足に、亜矢が手をかけてきた。
―――うっ! ヤベーよっ!! また下半身に血が・・・ッ!!
落ち着け! ジュニアッ!!
オレが必死に下半身に念を送っても、亜矢の手がだんだんソレに近づいてくるせいで、余計に血液が集中して来た。
「セ、センセ・・・?」
「あたし、知ってるよ? いつも陸が想像の中で、あたしをどうしてるか」
「ッ!!」
下半身だけじゃなくて、頭にまで血が上った。
「想像だけで、いいの?」
「イヤ・・・ でもっ アッ」
亜矢の白い手が、ジーンズ越しにオレの下半身に触れた。全身に電気が流れたように痺れが走る。
気付いたらオレはベッドに亜矢を組伏していた。
どうやって脱がせたのか、それとも亜矢が自分から脱いでくれたのか分からないけど・・・
オレはトランクスだけで、亜矢は下着姿だった。
母親以外のこんな姿を見るのは初めてだった。
「いいよ? こっちも教えてあげる・・・」
毎晩オレの頭ん中で言わされているセリフを、実際に亜矢が口にしただけで、頭がイカレそうだった。
とりあえずブラジャーを外そうと、亜矢の背中に手を回した。
―――――・・・ これ、どーやって外すんだよ?
オレがモタモタしていたら、
「これはね、こーやって寄せるようにして外すの」
と亜矢が自分で外してくれた。
服の上からでも亜矢の胸がデカいのは分かってたけど・・・ 実際見ると、壮観というか、圧巻というか・・・ とにかく凄かった。
「さ、触って、いい?」
「いいよ」
そっと手の平で亜矢の胸を包み込んだ。
「あ・・・ んっ」
すぐに亜矢の胸の先が立ち上がってきた。
エロ漫画やAVで見て知ってたけど・・・ マジで硬くなるんだ?
そのままゆるゆると揉んでみる。
「は・・・ あ・・・ん」
亜矢が溜息を漏らす。我慢出来なくなって、亜矢の胸に吸い付いた。
「あんっ! いいっ」
いい・・・って、気持ちいいってことかな?
オレはテキトーに舌先で亜矢の胸の先をくすぐってみた。
「はあ・・・ ああんっ」
亜矢はオレの頭を抱え込むようにして抱き寄せた。
女って不思議だ。
セックスのとき吸われるとこんなに感じるのに、赤ん坊におっぱいやるときはどうしてんだろ?
やっぱ、感じてんのかな? よがんのガマンしてるとか?
そんなことを考えていたら、
「下も、触って?」
亜矢が、空いてる方のオレの手を取って、自分の下肢の付け根あたりに持っていった。
オレはちょっとビビりながらそこに指を這わせた。下着の上からでもそこが濡れているのが分かった。
「センセ・・・ 濡れてる・・・」
オレがかすれる声でそう言ったら、
「陸が気持ち良くさせるからだよ?」
とちょっとだけ頬を赤くして亜矢がオレを見つめた。
そのセリフと視線で、また血液が体中を駆け回る。そのままの勢いで亜矢のショーツを脱がせた。
初めて生で見る女の裸。 マジで目眩起こしそう・・・
って言うか、もう下半身、バクハツ寸前なんだけど!
「セ、センセ・・・? オレ、もう・・・」
挿れたい、と目で訴えたら、
「ん。 いいよ」
今思うと、ほとんど前戯なしなのに、よく亜矢は許してくれたと思う。
「あ・・・」
そこまで行ってから、オレは肝心なことに気が付いた。「どうしよう・・・ オレ、持ってない」
まさか、こんな状況になるとは思ってなかったら、オレはゴムを用意してなかった。
「・・・大丈夫。あたし、持ってる」
「え?」
オレが驚いていると、亜矢はベッドの横にあるチェストの一番上の引き出しを開けた。
中からカラフルな箱を取り出す。・・・ゴムだった。
これで亜矢の部屋に男が来てることは分かったけど、あえて口には出さない。
当然だけど、童貞のオレはゴムを着けるのも初めてだった。オレが袋を破ろうとしたら、
「待って。・・・少し横に寄せないと、切れちゃうよ」
言われた通りに封を切る。「裏表あるから気を付けて?」
なんか、色々難しーんだな。 亜矢が慣れてて助かった。
これ、初めて同士の場合は、どうしてんだろ?
そんなことを考えながら、なんとかゴムを装着し終えた。
亜矢の足の間に身体を割り込ませる。
え〜と・・・ この辺に挿れるんだよな・・・
手探りで大体の場所に見当をつけたあと、オレのモノをそこにあて、少しずつ腰を押し付けた。
けど、なかなか入らない。
え? ここじゃないのか? ―――いや、ここでいいはずだろ?
クソ・・・ あのビデオにボカシが入ってたせいで・・・っ!
オレが、まったく見当違いな怒りをエロビデオに向けていたら、
「ん・・・ ちょっと・・・」
と言って、亜矢がオレのモノに手を添え、ちょっと角度を直してくれた。
―――教官っ!!
そのままもう一度腰を押し付けたら、今度はすんなり入ってくれた。
初めて入った女の中は・・・ もう、言葉では言い表せないほどのパラダイスだった。
自分の手とは比較にならないほどの刺激に、一気に昇りつめそうになる。
オレは慌てて腰を振った。
・・・この辺は動物なんだな。 ちゃんと腰の振り方は分かってんだから・・・
生まれて初めてのセックスは、1分も持たなかった。
なのに、フルマラソンをした後のように息が上がって、全身に汗が滲んでいた。
亜矢を潰さないように肘を付いた状態で覆いかぶさっていたら、
「・・・よく出来ました。 気持ち良かったよ?」
とオレの頬に亜矢が手を添えた。
1分も持たなかったんだから亜矢が気持ち良くなるわけないのに、亜矢はそう言ってくれた。
「センセッ!」
オレはたまらず亜矢に口付けた。・・・このときになって、オレは初めて亜矢とキスをした。
結局その晩、オレは亜矢の部屋に泊まって、5回もヤッってしまった・・・
「・・・センセー」
二人とも裸のまま、ベッドに横になっていた。
「亜矢って呼んでいいよ」
「・・・んじゃ、亜矢?」
「なーに?」
「カレシ、いるんでしょ?」
亜矢は一瞬黙ったあと、
「陸はそんなこと気にするの? いーじゃない、別に」
とオレから視線を外した。
やっぱいんのか・・・
でも・・・ 良かった。 ―――じゃ、オレとのことは完全に遊びだったってことだよな?
オレも、よく後先考えないでヤッちゃったけど、亜矢も遊びだったんなら気がラクだ。
そのあとも、週2回くらいのペースでオレは亜矢の部屋に通っていた。
もちろんセックスのためだ。
亜矢のことも好きだったけど、それが恋人に対するものなのかと聞かれると、自信がなかった。
大体、亜矢には男がいるしな。
そんなことを深く考えるより、目の前の快楽に溺れて行くほうが先だった。
オレは亜矢からセックスを教えたもらったあと、他の女とも試してみたくて、片っ端からヤりまくっていた。
オレがそんな節操のないことをしてるってことは、亜矢も薄々感づいているみたいだったけど、何も言われなかった。
まぁ、亜矢だって男がいるのにオレと寝てんだから、同じだけど。
亜矢とのそんな関係も、夏休みが終わるとともに終わった。
オレの両親が離婚したからだ。
オレは母親に引き取られることになった。当然家も出ることになり、家庭教師も取りやめになった。
「引越しするの?」
「ん・・・ 亜矢、今までサンキューな? マジで救われたよ」
「・・・もう、会えないね」
「・・・ん」
オレはベッドに寝転んだままタバコを吸っていた。これも、亜矢に教わった。
亜矢が吸ってるタバコは、ちょっとメンソールがキツいタバコで、初めて吸ったときは正直吐きそうになるくらい気持ち悪かった。
けど、何回か吸ってるウチに、気に入るようになってきた。
今までは亜矢からもらってたけど、これからは自分で買うのか・・・
ふと気が付くと、亜矢がオレに背中を向けて、肩を震わせていた。
「あ、亜矢? どーしたの?」
オレが顔を覗きこもうとしたら、亜矢はそれを遮った。「もしかして・・・泣いてんの?」
「違うっ!」
亜矢は顔を背けたまま、ちょっと怒ったようにそう言った。
「え、だって・・・」
この震え方・・・ やっぱ、泣いてんだろ?
「寒いのっ! それだけっ!!」
寒いって・・・
・・・今、8月だぞ? 今日の最高気温34度だぞ?
まさか・・・ オレと会えなくなるから、泣いてる? ―――まさかっ!?
だって、亜矢、男いたよ・・・な?
でも・・・ え? どっち?
「あの・・・ 亜矢? オレ、引っ越しても、会いにくるよ?」
どっちか分かんなかったから、とりあえずそんなことを言ったら、
「勘違いしないでっ! あたし別に、陸のコトそんなふうに想ってないッ!!」
亜矢が振り返る。涙は流れていなかったけど、目が真っ赤だった。
「あー・・・うん。 ・・・分かってるよ、うん」
なんだよ? どーなってんだよ? やっぱ、泣いてたんじゃねーか・・・
でも、亜矢、男いんだよな?
・・・え? なに? ホントワケ分かんね・・・
「・・・こないで」
「え?」
「もう来ないで、ここに!」
亜矢がオレを睨む。
「引越し来週だから・・・ それまでは来てもいい?」
「ダメっ! 絶対来ないで!」
「・・・なんで?」
オレが亜矢を見つめたら、亜矢はちょっと目を伏せて、
「―――飽きたから」
「は?」
「もう、陸に飽きたから! って言うか、年下はやっぱりダメよ!」
「亜矢?」
「それに、陸、セックス下手だし!」
「おいっ!」
そりゃ初めの頃はオレも全然ガマンが出来なくて、1人で先イッちゃったりとか?してたけど・・・
今じゃ、亜矢の方がイクの早ぇーだろ? 今日だって・・・
とにかく、そのあとは帰れ帰れの一点張りだったから、オレはろくに別れを告げられないまま、亜矢とはそれっきりになっていた。
なのに・・・ まさか、こんなとこで会うとは・・・
亜矢はときどき机の間を歩いて、オレたちのプリントがちゃんと進んでいるかチラチラ眺めている。
髪・・・伸びたな。 相変わらず、胸はデケーし。
2年会わないだけで、女ってのはずいぶん変わるんだな・・・
なんてことを考えながら亜矢のことを見ていたら、亜矢がオレの列の方にやってきた。
そして、オレの横を通り過ぎるとき、机の上にメモを落として行った。

その日の放課後。オレはメモに書かれてあったM駅近くのコーヒーショップにやって来ていた。
今日はバイトのない日で、ホントだったら結衣と一緒に帰ろうと思ってたんだけど、なんか結衣は文化祭の買い出し当番とかで一緒に帰ることが出来なかった。
「すごく大人っぽくなったね?」
亜矢はオレより30分ほど遅れてやってきた。
「そ?」
「うん。前はもっと子供っぽかった。 ・・・って言うか」
亜矢が意味ありげにオレを見つめる。「ホントに子供だったもんね?」
オレは笑いながら、
「ホントだよ! オレ、亜矢にオトナにしてもらったんだよな〜」
「もう、陸ってばスゴかったわよね〜ッ! 1回覚えたら、見境なしって感じだったもん」
「しょーがねーだろッ? 中学生男子なんか、頭ん中、女のコトばっかなんだから」
「今だってそうなんじゃないの?」
「まあね」
亜矢が笑いながらオレの頭を小突いてきた。オレも一緒になって笑う。
ひとしきりそんな昔話をしたあと、
「―――ね・・・? 久しぶりに、しよっか?」
と亜矢がオレの手を握ってきた。
「あれ〜? 年下には飽きたって、フラれたんじゃなかったっけ? オレ」
オレが笑いながらそう返すと、
「違うわよッ! あれは・・・」
と亜矢は口ごもった。 表情から、亜矢がふざけているわけじゃないというのが分かった。
・・・マジなのか?
「あ〜・・・ でもオレ、今、彼女いるし」
と言いながらカップに手を伸ばす。
「前にあたしと付き合ってた時だって、他の子としてたじゃない」
「・・・やっぱ、バレてた?」
「バレてた」
亜矢がオレを睨む。
・・・って、そっちだって男いたろーよ?
てか、付き合ってたのか? オレら?
亜矢は男いたし、オレも他の女とヤりまくりだったし・・・ セフレじゃね?
どう返していいのか分からず黙っていたら、亜矢も黙ってオレを見つめていた。
沈黙が苦しくなり、タバコでも吸おうと箱を取り出して、この店は禁煙なのを思い出す。
「・・・まだ吸ってるんだ? それ」
「ん? あ〜、まぁなんとなく?」
別に深い意味ねーんだけど。
他もの吸ってみたけど、これが1番オレの好みに合ってるってだけで・・・
でも、亜矢は何を思ったのか、
「ふふ。なんか、嬉しいね♪ そういうの」
と上目遣いにオレを見つめた。
―――なんか、誤解してねーか?
よく考えもしねーで亜矢の呼び出しに来ちゃったけど、メンドくさいことになったら・・・ 厄介だな。
「・・・出よっか? そろそろオレ、バイトの時間だし・・・」
と席を立つ。
「え? どこでやってるの?」
亜矢も席を立った。オレは二つのカップをゴミ箱に捨てながら、
「コンビニ」
「え―――? ホストじゃなかったっけ?」
と亜矢は笑って、「ね、一緒に行ってもいい? 陸が働いてるとこ見たい♪ そのあと、ウチに・・・」
「・・・亜矢」
オレは亜矢の話を遮って、「亜矢には、スゲー世話んなったと思ってるよ。オレ」
「ん?」
「オレんちがゴタゴタしてたとき、オレ亜矢がいなかったら、マジであの家飛び出してたと思うし・・・」
「ふふ・・・ そーね。 イロイロとお世話してあげたわよね♪」
また意味ありげに亜矢が笑う。 オレも笑うしかなかった。
亜矢が腕を組んできた。 形のいいデカい胸がオレの腕に当たる。
「・・・でも、ゴメン。 オレ、今は、亜矢と出来ない」
「え?」
「亜矢のコト、もう抱いたり出来ない。・・・彼女、泣かしたくねーんだ」
腕を組んだまま、亜矢がオレを見上げる。
「・・・そんなに大事にしてるんだ?」
オレが黙って肯くと、亜矢は見る見るうちに表情を硬くしていった。
思わず目を伏せる。
「な、なによ〜! 妬けちゃうじゃない!?」
亜矢が急に明るい声を出した。「ってゆーか、誰よ? あの陸を、ここまで落ち着かせた女って!」
亜矢は結衣のクラスの教生だ。しかも、結衣は亜矢に憧れている。
亜矢とオレとの関係が結衣に知られるのは避けたかった。
「・・・フツーの子だよ」
と誤魔化したら、
「ウソばっかり! ―――あ? 陸、まさか、おミズのツバメなんかやってんじゃないでしょーね?」
「やるかっ!! 同じ学校の子だよっ!!」
思わず突っ込んでしまった。
「・・・誰?」
―――ヤベ・・・
「ねぇねぇ? 誰よ? 同じクラスの子?」
「・・・別に、亜矢が気にするほどの子じゃないよ。ホントにフツーだし?」
亜矢がちょっと睨むようにオレを見つめる。「・・・それに、亜矢の方が美人だし」
オレが言い訳がましくそんなことを言っていたら、亜矢は怒ったようにして、
「教えてくれないなら、陸の友達に聞くからいいわよッ! 確か・・・ジュンくんだっけ?」
亜矢のしつこさに、ちょっと苛立ちを覚える。
「・・・知ってどーすんの?」
「どーしよっかな〜」
亜矢はオレから視線を外して、ちょっと考え込むと、「なんか面白くないから、イジメちゃおうかな〜・・・・・・きゃッ」
オレは亜矢の顎をつかむと、強引に自分の方に向かせた。
「あいつになんかしたら、いくら亜矢でも、許さないよ? オレ」
ちょっと泣きそうな、でも怒りの滲んだ瞳をオレに向ける亜矢。
・・・ちょっと言い過ぎたか?
いや、でも、なんかしつこいし、マジで結衣になんかされたらやだし・・・
亜矢の視線に耐えられなくなって思わず顔を背けようとしたら、いきなり亜矢がオレにキスしてきた。
「・・・ンッ! ―――おいっ」
慌てて亜矢の身体を引きはがす。「みんな見てんぞ?」
オレたちがコーヒーショップの目の前でそんなことをやっていたから、店外のテーブルにいた客がジロジロとオレたちを見ている。
「別にいいわよ。見られたって」
「・・・よくないでしょ? 先生?」
オレがわざとらしくそう言ったら、亜矢もやっとオレから離れてくれた。
「・・・駅まで送ってくからさ。 帰ろ?」
「・・・じゃ、今日は、帰ってあげる。 陸もバイトなんでしょ?」
「うん」
ホントは休みだけど。
亜矢の教生期間はあと1週間もある。その間なにも起きなければいいけど・・・
しばらく、校内で結衣と会うのは避けたほうがいいかも知んねーな。
ま、文化祭も近いし、お互い色々忙しいから、1週間くらいあっという間か・・・
そんなことを考えていたら、その日の夜、結衣から電話がかかってきた。
『今日、何してた?』
いつもよりちょっとトーンの低い声の結衣。
その声でそんなこと聞かれると、なんか・・・
―――尋問されてるみてーなんだけど・・・
って、オレがやましさを感じてるから、そー聞こえるだけだよ! ・・・・・な?
「べ、別に! 何も? ・・・なんで?」
『あたしね。今日、M駅の方に買い物に行ったの』
―――ギクッ・・・
M駅といえば、今日オレが亜矢と会っていたコーヒーショップがある駅だ。
まさか、見られた? イヤ・・・ まさかだろ?
「そ、そーなんだ・・・ 何買ってきたの?」
『・・・紙コップとかだけど』
なんか、結衣、声沈んでね? やっぱ、なんか感付いてる?
あのトロい結衣が?
イヤ・・・ でも、女ってのは、そーゆーこと嗅ぎ付ける能力、警察犬並みだからな・・・
・・・それ言ったら、亜矢なんか、簡単に結衣のこと探し出しそうじゃね?
「おいっ! ジュン! お前亜矢になんか聞かれても、余計なこと言うなよ?」
翌朝。登校するなりジュンを捕まえて釘を刺しておいた。
「なんだよ? 今度は教生かよ? ホント手広くやってんね? お前も」
ジュンは亜矢のことを気に入ったらしく、隙をみては声をかけようとしている。
そんなところでいらんコトを言われたら、たまったもんじゃねー・・・
なんで亜矢がオレに固執するのかは知らねーけど、結衣のことは知られないようにしねーとな・・・
とにかく、1週間のガマンだ。
1週間、結衣と会うのを控えて、嵐が過ぎ去るのをじっと待ってりゃいいんだ。
と思っていたら、放課後、結衣が商業科の昇降口でオレのことを待っていた。
「結衣・・・ どーしたの?」
今までこんなコト・・・ オレのことを迎えに来たりなんか、したことなかったよな?
「ん・・・ 一緒に帰りたいと思って・・・ ダメだった?」
と上目遣いにオレを見上げる結衣。
「ダメなわけないじゃんッ! チョー嬉しいよっ!!」
昨日亜矢と会った時、今日は午後から大学に戻ると言っていたから、もう亜矢は校内にいないはずだった。
思い切り結衣を抱きしめる。
「や、やんっ! ちょっと、待って?」
昨日、あんな亜矢と会っていたせいか、こうやってオレから逃げようと抵抗している結衣が、スゲー新鮮に思える。
結衣の抵抗なんか、抵抗にもなってないけど。 軽くかわして、素早く口付ける。
「ン・・・ や、だ・・・ 苦し・・・よ」
なんて、まだ抵抗してるけど、オレが唇を割って舌を入れたら、すぐにその力も抜けた。
・・・きっと、顔赤くして、困ったよーな切なそーな顔してんだろーな・・・
キスしてると、顔見れないのがもったいねーよな。
なんてことを考えながら、手を結衣の腰にまわす。
結衣は足に力が入らなくなってきたみたいで、しゃがみ込もうとしている。そのまま腰を抱え上げるようにしてキスを続けていたら・・・ オレもガマンが出来なくなってきた。
「・・・オレんち、行かない?」
さすがに学校の中庭じゃ、結衣を抱けない。
「だ、だって・・・ 今日、バイトでしょ?」
・・・そーだった。
「サボっちゃうよ。そんなの」
「だって、ドタキャンしたらクビって、前・・・」
「いいよ。どうせ辞めようと思ってたし」
「ええ―――ッ! ちょ、ちょっと待って!?」
顔を真っ赤にして必死に抵抗する結衣。
あ――――ッ! この顔ッ!! そそられる・・・
ヤベェ・・・ オレ、今日もS入りそう・・・
なんてエロいことを想像しながら結衣の手を取って歩いていたら、前方に亜矢が立っているのが見えた。
驚きに足が止まる。
なんだよ・・・ 今日、大学に行ってるんじゃなかったのか?

―――早速亜矢に、結衣のことがバレてしまった。
・・・何やってんだよ、オレは・・・・・・


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