チェリッシュxxx 第5章

A 不安


「スーパーボールすくいもいいけど、すくった後って、結構困らない?」
「そうッスね」
「・・・ね、キャンディすくいってのはどう? ティースプーンとか小さいスプーンを使って、時間内に取れた分だけあげるとか」
「あ! それ、いいッスね〜!」
「って、コレ、あたしが高校のときにやったやつなの。結構評判良かったわよ」
今日のLHRは、来週末に控えた文化祭の準備にあてられていた。
あたしたちのクラスは縁日をやることになっていた。
飲み物を出したり、ちょっとした駄菓子を売ったり、輪投げやボールすくいなんかのゲームもやることになっている。
成瀬先生もあたしたちと一緒になって、その準備を手伝ってくれていた。
「さすが成瀬先生だよな〜。頼りんなるよ♪」
「2週間しかいないなんて、チョーつまんね〜! 先生、来年絶対ウチの高校の先生になってくれよな」
「って、お前、卒業してるだろっ!」
成瀬先生を囲んで、クラスの男子たちが盛り上がっている。
すごい人気・・・ って、当然だよね。 非の打ちどころないもん。
女子はそうでもないのかな・・・ あんまり先生と話してるの、見たことない・・・
あたしは先生好きだから、ホントだったらあっちにまざって先生の話いろいろ聞きたいんだけど・・・
あたしは先生たちを横目で見ながら自分の作業を進めていた。
「あいたっ!」
よそ見しながらやっていたら、針で指を刺してしまった。あたしは、みんながおそろいでつける髪留めを作っているところだった。
左手の人差し指から血が滲む。
ダメだ・・・ 集中出来ない・・・
「大丈夫?」
五十嵐くんが声をかけてきた。
「うん。ちょっと針で刺しちゃっただけだから」
あたしが指を舐めながらそう答えたら、
「イヤ・・・ その事じゃないんだけど・・・」
と言って、五十嵐くんは男子たちに取り囲まれている成瀬先生の方に視線を向けた。
「ああ・・・」
あたしも成瀬先生の方を見て、「すごい人気だよね、先生。美人だし、気さくだし、頼りになるし」
いつもクラスの男子に子供扱いされてるあたしとは大違い・・・
陸が先生選んだって全然おかしくないよね?
―――っていうか、むしろその方が自然・・・?
あたしが溜息をついていたら、
「聞いてないの? 商業科に。 昨日のこと」
と五十嵐くんがあたしの隣の椅子に座りながら、「コレ、あとどーするの?」
と、あたしの前に並べてあるバレッタと布で作った小さな花を指差す。
「ん? ・・・このお花とバレッタをボンドでくっつけるの」
「貸して」
五十嵐くんがボンドを手に取る。 手伝ってくれるみたい。
「ありがと」
バレッタと花を五十嵐くんに渡しながら、「・・・昨夜、電話したよ。陸に・・・」
「なんだって?」
「・・・なんか・・・陸も、誤魔化してる感じで・・・、結局ハッキリ聞けてないの」
あたしがぼそぼそと言い訳がましくそう言ったら、
「ったく・・・ 相変わらずだけど、何やってんの? 村上さんたち。・・・て言うか、商業科!」
五十嵐くんが呆れたように言う。
「だって・・・ 怖くてハッキリ聞けなかったんだもん。もし、成瀬先生の方がいいって言われたら? ―――あたし、泣くかも・・・」
「・・・泣けば?」
「イジワルっ!」
あたしは五十嵐くんを睨んだ。五十嵐くんはあたしの視線なんか全然気にしてないって感じで、黙々と作業を進めている。
「・・・なんかさ、冷静に考えれば考えるほど、あたしに勝ち目なさそうに思えるんだよね」
「ん?」
「成瀬先生。すっごくステキじゃない?」
「そうかな?」
「そうかな・・・って。―――五十嵐くんだって、先生みたいな人の方がいいでしょ?」
「さあ?」
さあ・・・って・・・
五十嵐くん、もしかして、美人タイプ苦手なのかな?
麻美も美人なのに、どうも五十嵐くんの好きな人は麻美じゃないみたいだし・・・
五十嵐くんって、変わりモノ好き?
そんな事を考えながら作業を続けていたら、
「二人で仲良く、何作ってんの〜?」
とあたしたちの机の前に成瀬先生がやってきた。「うわっ! か〜わい〜い♪」
五十嵐くんがボンドで付けてくれたバレッタを手に取る先生。そのバレッタを自分の頭にあてながら、
「似合う?」
と五十嵐くんに笑顔を向ける。
「はい・・・」
あたしが、似合いますよ、と言おうとしたら、
「大人の先生には、どうかな?」
五十嵐くんがそう言って手の平を先生に差し出した。
「・・・それってもしかして、オバさんだって言いたいの? あたしのこと」
先生がちょっと笑いながらバレッタを五十嵐くんの手の平に返す。
そんなこと言ってませんよ、と否定するかと思ったら、
「ははっ」
とちょっと笑って、五十嵐くんはまた作業をはじめた。
―――五十嵐くん、やっぱり、美人さん苦手?
先生はちょっとムッとした顔をしたけど、すぐに笑顔に戻って、
「聞いたわよ〜? 見かけによらず、ケッコーやるんだって?」
「は?」
五十嵐くんが先生を見上げる。その五十嵐くんに先生はちょっとだけ顔を寄せて、
「村上さんのこと、壊さないようにね?」
と言うと、さっさと教室を出ていった。
「先生っ!」
あたしは慌てて立ち上がった。
なんか先生、ちょっと怒ってなかった?
しかも、あたしと五十嵐くんのこと勘違いしたままだし・・・
「・・・今のどーゆー意味だろ?」
五十嵐くんが眉をひそめる。
「成瀬先生、あたしの彼氏が五十嵐くんだと思ってるのっ!」
「は? ・・・なんで?」
まだ難しい顔をしている五十嵐くんを置いて、あたしは成瀬先生の後を追った。
先生怒ってたよね? さっきムッとした顔してたし・・・一瞬だけど。
あたしが五十嵐くんの彼女だって思ってるから、一緒にあたしのことも怒ってるかも・・・
あたし、先生のこと好きだし、嫌われたくないし・・・
・・・って、それだけ? あたしが今、先生を追いかけてる理由って・・・
ホントはもっと、聞きたいことあるよね?
でも、どう聞いたらいい?
そんなことを考えながら1階の渡り廊下を急いでいたら、廊下と校舎のちょっとした隙間のところに成瀬先生がいるのを発見。
「先生っ!」
あたしが声をかけると、先生は一瞬ビックリしたように肩を震わせ、慌てて手に持っていたものを背後に隠した。
「・・・なんだ〜! 村上さんか〜・・・ もう、驚かさないでよ!」
先生は声をかけたのがあたしだと知ると、安心したように息を吐き出した。
「先生・・・ タバコ吸うんですか?」
思わず成瀬先生の指に挟まれているものを見つめる。
「ん・・・ 内緒にしてね?」
「あ・・・ ダメなんですか? 教生の先生は吸っちゃ・・・」
「そんなことないけど・・・ ほら、やっぱり吸いづらいじゃない?」
そういうもんなのかな・・・ よく分かんないけど・・・
先生は白い煙を吐き出しながら、
「まさか、大人になってまで、こんな隠れてタバコ吸うなんて思わなかったわね」
と笑って、「吸う?」
とあたしに緑の箱を差し出してきた。あたしはその箱を見つめながら、
「いえ・・・ あたしは・・・」
と顔の前で手を振った。
「こう見えても、ケッコー気使うのよね。高校生の中にいるのって」
「そう・・・なんですか?」
全然そんなふうに見えないけど・・・ むしろ、楽しそうにあたしたちの相手してくれてると思ってた・・・
「さっきだって、村上さんの彼にオバさん扱いされるし」
「あ、それ、違うんですっ!」
「いいわよいいわよ。フォローしてくれなくても! 村上さんたちの頃の4歳上って、オバさんだもん」
あたしもそう思ってたし・・・と先生は続けた。
「いえ・・・ そうじゃなくて。 あたしと五十嵐くん、そんなんじゃないんです」
「え?」
成瀬先生があたしを振り返る。
「だから、その・・・ 五十嵐くんじゃないんです。彼氏・・・」
「・・・そーなの?」
あたしは黙って肯いた。
―――言おう。あたしの彼は陸だって。 それで、昨日のことも聞こう!
「あのっ」
「なーんだぁっ! そーだったの?」
なぜだか先生は、ちょっと怒った口調になり、「だったらあのとき、文句の一つでも言ってやればよかったわ! 村上さんの彼だからと思って、黙ってたけど!!」
くやし〜、と言って、先生が吸っていたタバコを靴の裏で揉み消す。
あたしは曖昧に笑いながら、それを見ていた。
どうしよう・・・ なんか、タイミング逃しちゃったよ・・・
「・・・ねぇ?」
「はい?」
「高校生から見たら、大学生って・・・しかも、あたし4年だからもう22なんだけど・・・ そんなに大人に見えるかな?」
あ、五十嵐くんにオバさん扱いされたこと、まだ気にしてる?
「先生はすごくカッコいいですよ。あたしも先生みたいな大人の女性になりたいと思ってるし・・・憧れですよ」
「ありがと」
と先生は微笑んで、「・・・でもね、ホントは村上さんたちとそんなに変わらないのよ? 中身なんか特に・・・」
「先生?」
なんか、先生がちょっと沈んで見えた。「どうかしたんですか?」
「―――ううん! なんでもない!」
先生はすぐにいつもの調子に戻って、「あ! 今日は午後、一旦大学の方に戻らなきゃいけなかったんだ! 木下先生に言うの、忘れてた!」
先生は、じゃぁね、と言って、職員室の方に向かって行った。
あたしもそれに笑顔で手を振った。
けれど、先生が吸っていたタバコが陸と同じ物だったということに、言いようのない不安を感じていた・・・
あたしが教室に戻ると、すっかり作業を終えた五十嵐くんが、
「どうだった?」
「怒ってたよ? 五十嵐くんのこと。オバさん扱いしたって」
「イヤ・・・ そんなことじゃなくてさ・・・」
五十嵐くんは、チラッとあたしを見た後、
「ま、いいや」
と呟いて席を立った。
「・・・あたし、今日陸に聞いてみるよ」
五十嵐くんはちょっとだけ振り返って、そう、と言うと自分の席に戻っていった。

「結衣? どーしたの?」
放課後。 あたしが商業科の方の昇降口で陸のことを待っていたら、陸が驚いた声をあげた。
「ん・・・ 待ってたの。一緒に帰ろうと思って。・・・ダメだった?」
ここのところ、文化祭の準備や陸のバイトで、殆ど一緒に帰る時間がなかった。
ホントは今日も、陸のバイトがある日だから別々に帰るはずだったんだけど・・・
「ダメなわけないじゃん! チョー嬉しいよ!」
と言いながら、陸があたしの顎に手をかけて唇を近づけてきた。
えっ? ここ、昇降口だよ?
あたしは慌てて、
「ちょっ、ちょっと待って! み、みんなが見てるよ!」
「見せつけてやるよ」
「や、やだっ」
慌てて顔を伏せたら、頬や耳元にキスを落とされた。「ちょっと、ホントに、やめてっ」
顔を伏せているからよく見えないけど、周りに人がいるのが分かる。
恥ずかしいから、やめて〜っ!!
「いい加減、上向けよ?」
無理矢理 陸に顔を上げられる。「これ以上キスさせてくれなかったら、今すぐここで、6回戦だよ?」
やだ―――っ!!
陸が唇を近づけてくる。と、その直後、
「おい―――っ! 陸っ!! こんなとこで、なーにサカってんだよっ!」
と陸のクラスメイトのさわやかクンがやってきた。「楽しいコトすんなら、オレも交ぜてくれ」
「うるせぇっ! さっさと帰れよ!」
そんな応酬をしながらさわやかクンが靴を履きかえる。
「あ、そうだ! コレ、ヒカルちゃんにあげる」
帰り際、さわやかクンがあたしにチケットのようなものをくれた。「イズミさんたち誘って、みんなで来てよ!」
なんだろ? もらったチケットを眺める。
陸もそれを覗きこんできて、
「あ、もう印刷出来たんだ?」
「おう! 飛ぶよーにさばけてんぜ? なんせ、オレがいるからな。ナンバーワンが!」
「おいっ! いつテメーがナンバーワンになったよ!?」
さわやかクンは陸に中指を立てると、笑いながら昇降口を出ていった。
「・・・何コレ・・・? ビーナスって・・・」
「ん? B組の男子。B男子をもじってもじって・・・ビーナス?」
「名前のコト言ってるんじゃないよ! なに? これ、ホスト・・・」
「ああ。ホストクラブやんの。オレらのクラス。文化祭で」
「ホ、ホストクラブッ?」
「そ。みんな女の子大好きだし、座ってしゃべってりゃいいって言って、ソッコーだよ」
「じょ、女子は? なんにも言わないのっ?」
「当日なにもやらなくていいからラッキーだって。逆に、客として来るとか言ってるのもいるよ」
そ、そーなの・・・ 商業科のノリってイマイチついていけないかも・・・
陸と一緒に商業科校舎を出る。
普通科校舎との間にある中庭を横切って校門へ向かう。
「結衣来てくれたら、チョーサービスするよ!」
「え・・・ いいよ、普通で」
なんか、みんなの前で、
「結衣〜♪」
とかやられたら、恥ずかしい・・・
「なに遠慮してんの! ってか、サービスしたい! させて?」
中庭の途中まで来たところで、陸があたしの肩を抱いて、「・・・そだ。今のウチに、先にサービスしちゃおっかな」
「え・・・ええっ!? ンッ」
驚いて陸を見上げたら、そのままキスされた。「んんッ」
すぐに差し入れられる陸の舌。歯列の裏側や上顎を何度もなぞられて・・・
やっぱり、別な生き物みたいな動きに、あたしの頭が白濁してくる!
「あ・・・はぁ・・・」
やっと唇を離されたときには、気が付いたら陸の制服にしがみついて、息が上がってしまっていた。
「・・・延長サービス、する?」
陸があたしの耳元で囁きかける。「お望みなら、6回戦でも、いいよ?」
あたしは陸にしがみついたまま、片手で陸の胸を叩いた。
そのとき、胸ポケットに入っているタバコの箱も一緒に叩いてしまった。
急に、さっきの、タバコを吸っている成瀬先生の顔を思い出した。
それに、昨日のキスのことも・・・
・・・そうだ。 それ聞きたくて、今日は陸のこと待ってたんだ。
どーやって切り出そう・・・
あたしが俯いてそんなことを考えていたら、なんか陸は勘違いしたみたいで、
「悩んでるなら、しようよ! オレんち、行こ!!」
「は? 違っ! ・・・それに、今日バイトでしょっ?」
「そんなの、サボっちゃうよ」
「だ、ダメだよっ」
陸に引きずられるように校門を出る。
「ちょ、ちょっと待って! あたし話したいことがっ!!」
「ベッドの中で聞くよ」
いや―――――っ!!
半ば引きずられるようにして駅への道を歩いていたら、急に陸が立ち止まった。勢いで陸の背中にぶつかる。
「え? どー・・・」
どうしたの?と聞こうとしたら、
「陸!」
と前から誰かが陸に声をかけた。
え・・・ この声って・・・
陸の背後から声の主を窺ったら・・・
「待ってたの! お茶してかない? ―――って、村上さんっ!?」
そこにいたのは、やっぱり成瀬先生だった。
「え? えー・・・と? あれ? なんで二人が一緒にいるの? っていうか、知り合いなの?」
陸を見ると、明らかに動揺している感じで、慌てて視線を足元に落としている。
陸があんまり何も言わないから、あたしは自分で、
「あ・・・ あたしたち、付き合ってるんです」
と成瀬先生に言った。すると、先生は驚いた顔をして、
「えぇっ? そーなのっ!? 陸の彼女って村上さんだったの?」
と陸に問いかけた。けれど黙ったままの陸。
先生はそのままあたしに向かって、
「そーなんだぁ・・・ 村上さんの彼氏って、五十嵐くんじゃなくて、陸だったんだ〜」
と言いながら、じろじろと頭からつま先まであたしを眺めた。
な、なんか・・・ 見定められてる?
先生は再び陸に向かって、
「今まで付き合ってた子とは、タイプ違うね。陸? カワイイ系?」
先生はちょっと首をかしげると、「って言うか、村上さんって、年齢より幼く見えるよね?」
こ、子供っぽいって・・・言いたいのかな・・・
・・・そりゃ、先生に比べたら、あたしなんか子供だけど・・・
「じゃあ、邪魔しちゃ悪いわね。今日は帰るわ」
先生は、また今度ね、と言って学校の方へ歩きかける。あたしたちの横を通り過ぎようとしたとき、陸に向かって何か囁いた。
「ペドフィリア」
「亜矢っ!!」
陸が先生を睨んだ。
「ふふっ。 冗談よ」
先生は陸の肩にちょっとだけ手をかけると、そのまま行ってしまった。
陸・・・ 今、先生のこと、亜矢って呼んだよね・・・?
「・・・え? り、陸と成瀬先生って、・・・知り合いなの?」
あたしがドキドキしながら陸に問いかけると、
「ん・・・ 中学んときのカテキョ」
と陸も駅に向かって歩き出した。あたしもその後に続いて、
「それだけ?」
「・・・なんで?」
陸は前を向いたまま、逆にあたしに聞いてきた。
「や・・・、だって・・・」
カテキョの先生、ファーストネームで呼ぶ?
そ、それに、昨日キスしてたし・・・
不安になって陸の顔を見あげたら、ちょっとだけ眉間にしわを寄せて、軽く唇をかんでいる陸。
慌てて視線をそらした。
なんか、いろいろ聞きたいコトあったのに・・・
陸、いつもと全然違くて・・・ なんか、怖くて聞けないよ・・・
黙ったまま歩いているのが辛くなって、
「ねぇ。 さっき先生が言ってた、ペド・・・なんとかって、何?」
「え? ああ・・・ 全然カンケーねーことだから、気にすんな」

次の日の朝。学校に着いてカバンの中身を机に移していたら、成瀬先生があたしのところにやってきた。
「村上さん。悪いんだけど、資料運ぶの手伝ってくれる?」
顔は笑っているけど、なんか、昨日までの笑顔と違う気がするのは・・・あたしの気のせい?
「あ・・・、はい」
先生の後について行ったら、会議室ではなく渡り廊下に連れて行かれた。
「あ、あの・・・ 先生? 資料運ぶんじゃ・・・」
あたしがそう聞くと、先生はどうでもいいことのように、
「ああ。アレね、ウソだから」
「ウソ・・・ ですか」
あたしは俯いた。
「いつから?」
「はい?」
「いつから付き合ってんの? 陸と」
なんか・・・ 尋問みたいになってきた。
こ、怖い・・・
「あ、あの・・・ 商業科が引っ越してきてから・・・4月から、です」
とあたしが答えると、成瀬先生は指折り数えて、
「じゃ、半年なのね・・・ ふうん」
と呟きながらポケットからタバコの箱とライターを取り出した。
・・・陸と同じタバコ。
あたしは思い切って、
「・・・あのっ! 陸とは、・・・その、どーゆー関係ですか?」
「陸はなんて言ってた?」
逆に聞かれる。
「中学のときのカテキョだって・・・」
先生は、ふふっと笑うと、
「まぁ、間違いじゃないわね。・・・ちゃんと勉強も教えたし」
勉強も、って・・・
先生の言い方に、含みがあるのが分かる。
「あの・・・ 他にも、なにかあるんですか・・・?」
先生があたしをチラリと見る。
「陸、タバコ吸うでしょ?」
あたしは黙って肯いた。
「陸にね、タバコ教えたの、あたし」
先生は取り出したタバコを唇に挟むと、持っていたライターで火をつけた。
・・・昨日、先生が持っていたタバコの箱を見た時から感じていた不安が、どんどん膨らんでいく。
陸・・・ かなり先生の影響受けたんだ・・・ 今も同じタバコ吸ってるんだから・・・
そんなことを考えながら先生のタバコを見ていたら、
「ついでに言うと」
「え?」
「陸に、女の抱き方教えたのも、あたしだから!」
先生はそう言って、あたしの顔に向かって白い煙を吐き出した。


1話前に戻る チェリッシュの目次 NEXT