パーフェ☆ラ 第6章

@ 最後のキス


「シャツのボタン・・・ 外して」
「・・・」
―――言われたとおりにボタンを外す。
「ちょ・・・ 足、開いて」
「・・・・・」
―――やっぱり言われたとおりに足を開く。
「あと・・・ それ、咥えて?」
「・・・・・・・」
――― 一瞬ためらった後、それを咥える。
「あ! サングラスかけてみてもいい?」
さらにあたしがファインダー越しにそうお願いしたら、
「〜〜〜〜〜〜お前・・・ いい加減にしろよっ!?」
ベッドの上のメグが怒り出した。「これがオレのプライベートだと思われたらどうするんだよっ!!」
「え・・・ 不自然かな?やっぱ・・・ ていうか、ワイルドさを出そうかと」
「どこがワイルドなんだよ!? ・・・ちょ、カメラ寄こせっ!!」
メグが立ち上がってあたしのカメラに手を伸ばしてきた。
「えっ? 何すんの?」
「フィルム抜く」
「やだっ! ちょっと待って!?」
あたしは慌ててカメラを胸に抱え込んだ。
「今の写真をこの世から抹消する。 寄こせっ!!!」
「ダメだよっ! それまで撮ったヤツも全部なくなっちゃうっ!」
「知らねーよ。 そんなこと」
うわっ!
メグ、本気で怒ってるよ・・・・・
「わ、分かったっ! じゃ、現像したあとその写真だけ抜くからっ! ネガも捨てるしっ!! だったらいいでしょっ!?」
「・・・・・」
メグは無言であたしを睨んでいる。
「お願いっ! ・・・じゃないと、あたしまた津田沼に怒られちゃうよ!」
「・・・・・」
「・・・ホントはあたしだってメグの写真撮るの複雑なんだよ? メグのファンの女子が買うかと思ったら・・・」
「・・・・・」
「でも、修旅の写真撮り忘れちゃって・・・ いろいろあったから・・・・・」
あたしがそう言って俯いたら、メグは大きく溜息をついて、
「・・・・・絶対、最後の写真は始末しろよ?」
とカメラを指差した。
「メグっ! ありがとっ!!」
思わずメグに抱きつく。
―――あたしの名前は市川真由。 総武高校の2年生。 一応写真部員。
普段は超ユーレイ部員のあたしが、ただ今マジメに撮影中。
被写体は、あたしんちの隣に住んでる幼なじみで、クラスメイトで、あたしのカテキョもやってくれていて、それで・・・あたしの彼氏でもある千葉恵・・・メグ。
あたしはそのメグを被写体に、来月行われる文化祭で販売するための写真を撮っているところだった。
毎年、文化祭であたしたち写真部は、日々地味〜に撮った写真を展示している。
でも、電車の写真とか、山の写真とか、雲の写真とか・・・部員の趣味だけで撮った写真を展示しているだけじゃお客さんは誰も来てくれない。
だから、そういった趣味写真の展示以外に、スナップ写真の販売もしている。
もちろん、電車や風景の写真じゃない。 販売するのは総武の生徒の写真だ。
殆どの子がカメラ付きケータイを持ってるのに・・・?って思うんだけど、これが意外と売れて、我が写真部の貴重な活動資金になっている。
で、毎年文化祭前にある修旅の写真がよく売れるから、写真部の2年生は手分けして修旅中に写真を撮りまくる。
今年の2年生はあたしと部長の津田沼の2人だけ。 だから2人で8クラス分を手分けして、津田沼が前半クラス、あたしが後半クラスを撮る予定だった。
予定だったのに・・・
ちょっと修旅中イロイロあって、写真どころじゃなくて・・・・・ 全然撮れなかったんだよね。
・・・・・っていうか、写真のコトなんかすっかり忘れてた。
「ちょっとっ!? どーすんの? こんなんじゃ予定売り上げの半分くらいにしかならないよ?」
当然津田沼に怒られた。
「ゴメン・・・」
「これから文化祭までの間、特にイベント的なものもないから写真撮れないし・・・」
と津田沼は一瞬考え込んだあと、「そー言えば、市川さんさ・・・」
とあたしを振り返った。
「え?」
「千葉くんと付き合ってるんだって? 噂で聞いたけど」
「えっ!? ・・・・あ、うん」
それまで、なんとなくみんなに内緒にするような形で付き合っていたメグとの仲が、この前の修旅で一気にみんなに広まった。
それはそれで嬉しいことなんだけど、かなりプレッシャーもあったりする。
それは、あたしが 成績、容姿、運動神経全てで平凡女子なのに対して、メグは成績は学年2位だし、背も高くてメチャクチャカッコいいし、バスケ部では部長もやってるくらい運動神経いいしで・・・、あたしにはもったいないくらいパーフェクトだから。
まぁ、メグのファンは涼のファンみたいに過激なオネエ様系はいなさそうだから、
「お前、カン違いすんなよ!?」
とか囲まれることはないと思うんだけど・・・
―――って、囲まれても黙ってやられたりしないけどねっ! あたしはっ!!
「だったらさ、千葉くんのプライベート写真撮ってきてよ」
「・・・は?」
「船橋くんほどじゃないけど、千葉くんもかなり人気あるよね? ・・・この前の修旅でもたくさん撮ったけど・・・ プライベート写真とか?あったら売れると思うんだよね」
・・・・・それは・・・ あったら、かなり売れるでしょ。 あたしが欲しいくらいだし。
でも・・・
メグの写真を他の女子が買っていくと思うと・・・ それはそれでかなり・・・ううん、相当複雑だ。
でもでも・・・・・
あたしが修旅の写真を撮り忘れたせいで、部の活動資金が足りなくなる・・・っていう状況も申し訳ない気がする。
まぁ、当のメグが承諾してくれるかどうか・・・・・ それが一番の問題だけどね。
「・・・一応聞いてはみるけどさ。 あんま期待しないでよね?」
「お願いね。 今後の写真部の活動は市川さんにかかってるからねっ!?」
って津田沼にはっぱかけられて・・・
案の定、最初メグは、
「はぁっ!? ・・・・・何言ってんだよ? やだよ」
ってソッコーで断ってきた。
「・・・だよね」
「当たり前だろ? そんなの言われた時点で断れよ」
「そーなんだけど・・・ 修旅の写真撮り忘れちゃったから、すぐに断りづらくてさ・・・」
「修旅?」
「うん・・・ 5組から8組まではあたしが担当してたのに、写真撮り損ねちゃったんだよね」
修旅中はメグと気まずい関係になっちゃってたから、そっちばっかり気になっちゃって・・・
しかも、バカ男子平井と揉めたりしてて、とても写真どころじゃなかった。
まぁ、どっちもメグには話したくないことだけど。
仕方ない。 津田沼には謝って、許してもらおう。
それとも・・・・・ そうだ! 涼のプライベート写真でも撮ろうかな?
前に、爆笑問題のファンだってコト隠したがってた感じあったから、それをネタに頼み込めば・・・
なんてあたしが考えていたら、
「・・・・・仕方ねーな。 んじゃ、ちょっとだぞ?」
と急にメグがOKしてくれた!
「えっ!? いいのっ?」
驚いてメグを見上げたら、しぶしぶって感じの表情だけど、ちゃんと肯いてくれた!
なんでメグが急にOKしてくれたのか全然分からなかったけど・・・
とにかくOKしてくれたんだから、メグの気が変わらないうちに撮っちゃおう!
―――って、撮影を始めたんだけど。
メグが意外にもあたしが言ったとおりのポーズを取ってくれるから、あたしもだんだん調子に乗ってきちゃって・・・・・
初めは、机に向かって勉強してるところとか、くつろいでいるところとか撮ってたんだけど、そのうち、
「ベッドに乗れ」
とか、
「シャツのボタン外せ」
とかヒートアップしてきちゃって、さすがのメグも我慢できなくなったみたいだ。
やっぱり・・・ 調子に乗りすぎた?
「ゴメンね。 でも、これで写真部も安泰だよ」
「当日は何やんの? お前」
「写真部の売り子かな。 2年生はあたしと津田沼だけだし、1年生は文化祭初めてだから誰かついてないとダメだし、3年生は自由参加だし・・・ どうせクラスの方は裏方しかやらせてもらえないしね!」
最後はわざとらしく言ってやった。
「当たり前だろっ! ・・・つか、なんで平井はあんなの提案してんだよ・・・」
文化祭で、あたしたち2年4組はメイド喫茶をやることになってしまった。
男子は喜んでるけど、女子は反対するんじゃ・・・?って思ったら、意外にも、
「あ。 あたしメイド服って着てみたかった〜♪」
「可愛いのだったらいいよね! ゴスロリっぽいのとか? 好き」
って一部の女子・・・チハルとかにウケて、決定になってしまった。
決定後、すぐにメグに呼ばれて、
「お前は裏方専門な! じゃなかったら参加させねぇっ!」
って、クギをさされた。
チハルみたいに、すごく着たい!・・・ってワケじゃないけど、あたしも一応女の子だし可愛い服には興味がある。
けど、顔や体型に自信があるわけじゃないし、下手に着て、
「似合わね〜〜〜!」
とか言われるのはショックだから、別に着たって着なくたってどっちだって構わないんだけど・・・
けど、メグのそのオレ様な言い方はどうなのっ!?
―――確かにメグは女子に人気がある。
それは、成績もいいし、背も高いし、運動も出来るから。 ・・・そして、
「千葉くんって優しいよね〜」
って女子みんなに優しいから。
―――約1名・・・ あたしを除いて。
本当に、メグってみんなには優しい王子様なのに、なんであたしにはオレ様なんだろ?
だからつい反抗したり、意地張っちゃったりするんだよね・・・

「それはアレだろ? 真由にだけ素を見せられるってことだろ? ・・・もう1本クギ取って」
一緒に看板を作っていた涼が、視線は手元に落としたままそう言ってきた。
あたしたちは、LHRの時間を使って文化祭の準備をしているところだった。
準備するものはいくつかあるんだけど、班ごとに分かれて製作を行っている。
衣装を作る係とか、メニューやチラシを作る係とか、あとは看板や飾り付けの大道具を担当する係とか・・・
あたしは裁縫の才能ゼロだし、あんまり頭使うのも苦手だから、必然的に大道具係ということに。
メグとは分かれちゃったんだけど、偶然涼とは同じ係になった。
あたしは涼にクギを渡しながら、
「・・・そうかなぁ」
「そうだよ。 千葉は入学した当時からカッコつけてて、あんま人前で素を出したりしなかったんだよな。いつもポーズ取ってる」
「そうなの?」
涼は肯きながら、
「それが、真由が絡んできたときだけはカッコついてなくて素。 真由のことでいらん事言ったら、殺されんじゃねーかってくらいの勢いだし」
「いらん事って?」
あたしがそう聞いたら、涼はちょっとだけ笑って、
「いや? 別に」
・・・・・? なんだろ?
でも・・・ 涼の言うことがホントなら、ちょっと嬉しいかも・・・
男子にはそれほど気を使ってないのかもしれないけど(涼相手に王子様だったらコワイ・・・)、女子で素顔のメグを知ってるのは、あたしだけ・・・みたいな。
それって彼女の特権だよね♪
「真由―――っ! ちょっと手ぇ空いてるんなら、こっち来てっ!」
涼の隣でそんなことを考えていたら、衣装係のチハルに呼ばれた。
「ん? なに〜?」
「いい男独占しない! ・・・ハイこれっ!」
ハンカチくらいの大きさの布やレースを何枚か渡された。
「え? ・・・何これ?」
「これでヘッドドレス作って」
「え?」
ヘッドドレスって・・・・・ なに?
「小さいものだし簡単だから、ウチで作ってきて? 今作り方説明するから」
「えっ!? ちょっと待って!? あたし裁縫苦手・・・」
「そんなこと言ってられないの! お裁縫係少ないんだからっ!」
チハルは有無を言わさず、あたし以外にも何人か集めて、
「えーとね。すごく簡単なんだけど、レースのギャザー寄せのところだけ説明するね。 ミシンの針目を最大にして、上糸を1番緩くして一回縫うのね。 それから針目も糸調子も普通に戻して、で、先に縫った下糸を引っ張ってギャザー寄せしながらその上を縫うの」
と早口で説明を始めた。
ちょっ、ちょっと待ってっ!?
何言ってるのか全然分かんないっ!!
でも・・・
「係じゃないのに悪いんだけど、意外と作るものが多くて手が足りないの! もし余裕があったらチョーカーとかも作ってもらいたいんだけど、いいかな?」
「うん、いいよいいよ。 お裁縫大変だもんね。 出来ることなら手伝うよ」
って・・・
みんなあの説明で分かったのっ!?
もしかして分かってないのってあたしだけっ!?
とても、出来ない、なんて言える雰囲気じゃなくて、黙って布を受け取った。
どうしよう・・・
お母さんもあたしに似てお裁縫ダメだし・・・(って、あたしがお母さんに似てるのか・・・)
数学や英語だったらメグに教えてもらえるけど、お裁縫じゃいくらメグだって・・・・・
―――・・・って、なんか、やったらあたしより上手そう。
ダメだっ! 絶対メグには聞けない! 女のプライドにかけてもっ!!
なんとか自分で頑張るしかないよね・・・

「スゲー顔になってるよ、お前。 クマ出来てる」
朝練がない日。
一緒に登校していたメグがあたしの顔を覗き込んだ。
ここんとこ遅くまで・・・ヘッドドレス?とかいう、頭につけるリボンみたいなものを作っていたせいで、寝不足だった。
チハルはミシンでの作り方を教えてくれたけど、何を言ってるのか全然分からなかったから、あたしは地道に手縫いでヘッドドレスとやらを作っていた。
・・・っていうか、ミシンを出したのがチョー久しぶりで・・・
ミシン壊れてたんだよね。
「ちょっとね! ・・・それより、メグたちの班は進んでる? チラシとかチケット作ってるんでしょ?」
お裁縫が出来なくて寝不足なんて知られたくないから、さっさと話題を変える。
「テキトーに進んでるよ。 校外に出す分は事前にチェック受けなきゃなんねーからそれだけ早めに作んなくちゃなんねーけど・・・ それも順調。 結構成田が色々仕切ってくれるから、みんなやりやすいって」
ミドリもメグと一緒にチラシ作り班だった。
「あ〜、ミドリってキャラ強烈だけど、リーダーに向いてるよね」
あたしがそう言ったら、メグも笑いながら、
「それはあるな。 オレもボサッとしてたら怒られたし」
「えっ!? ・・・メグでも怒られることあるの?」
「あるよ。 あいつ、こえー」
怖いと言いつつ、笑顔のメグ。
・・・・・いくらミドリだっていっても、他の女子のことでメグが笑ってるのは複雑・・・
「・・・・・なんか、楽しそうだね。チラシ作り班」
あたしは寝不足になるほどお裁縫で苦しんでるのに・・・
「当日、部の方であんま参加できないからな。 準備だけでも手伝っとかないと」
本当はあたしたち2−4の出し物も、最初はホストクラブはどうかって話が出ていた。
涼とメグがいるから。
でも、2人ともバスケ部で殆どクラスの方に出られないから、その案はすぐ流れちゃったんだけど・・・
でも、ホストクラブがダメならメイド喫茶って・・・・・・ どうなの? ウチのクラス・・・
文化祭当日、メグたちバスケ部は体育館で招待試合をするらしかった。
詳しくは聞いてないけど、インハイ予選のような鬼気迫るものじゃなくて、ゲーム自体をみんなに楽しんでもらえるようなお祭り的なものみたい。
文化祭1日目の土曜日が女子の試合で、次の日曜日は男子の試合が行われるらしい。
―――って、これは全部恭子から聞いたんだけど。
「あたしも当日は裏方とかでケッコー時間空いてるしさ、写真部の売り子が終わったら応援行くね!」
ってメグに言ったら、
「いや・・・ 別に無理して来なくていーけど」
なんてこと言っている。
なぜかメグはあんまり招待試合のことを話してくれない。
まぁ、あたしがバスケ殆ど知らないせいもあるんだろうけど・・・ それにしても、応援まで来なくていいって・・・・・
なんで?
もしかして・・・ テレてる? あたしに試合見られるの。
そういえば、前にも、
「かっこ悪いとこ見られそうで焦った」
とか言ってたことあるし・・・・・
もう、メグってば! かわいいんだからっ!!
「大丈夫だよっ! あたしメグの試合ちゃんと見たことないし・・・ 時間作って行くよ!」
前にインハイの地区予選見に行ったときは途中からだったし、なによりメグに見つからないようにってコソコソしてて、思うように応援出来なかった。
だから、今度こそちゃんとメグがバスケやってるところ見てみたいんだよね!
なんてのん気なことを考えていたら、思いも寄らない心配事が出てきた・・・・・


「真由・・・ スゲー顔してんぞ?」
そう涼に言われても、眉間に寄ったしわを戻すことが出来ない。
視線の先にはメグとミドリ・・・・・
あたしの気のせいかもしんないけど、最近メグとミドリの仲が・・・いい気がする。
2人はチラシ作り係で、学校側からチェックを入れられるからその打ち合わせも多いみたい。
だから、殆どはそのチラシ関係の話なんだろうけど・・・
それとなくメグに、
「最近、ミドリと仲いいよね」
って聞いても、
「ん? まぁ、成田は男みたいで話しやすいしな。 つか、感覚的にはもう男同士だな」
とか笑ってるんだよね・・・
なんか、修旅が終わったあたりから、ときどき話してるのとか見かけることあったけど、最近それが頻繁になった気がする!
「あ。 赤がなくなった」
涼が缶の底に微かに残ったアクリル絵の具を筆で集める。
「・・・あたし、取って来る!」
思い切って立ち上がった。
「1人で? オレも行くよ」
アクリル絵の具は倉庫の棚の上の方にある。 だから、背の高い涼が一緒に来てくれた方が取り出しやすい。
けど・・・・・
「・・・いい」
あたしはスタスタとメグの方に歩いていって、
「・・・メ、メグっ!」
やっぱり何か打ち合わせ中だったみたいで、ミドリと話していたメグに声を掛けた。
メグがちょっと驚いた顔をしてあたしを見上げた。
「え、絵の具取りに行くの付き合って! 棚の上の方にあるの!」
あたしがそう言ったら、
「ああ・・・」
とメグは立ち上がりかけて、ふと視線をミドリの方に向け・・・ いきなりミドリの頭を叩いた!
「いってーなぁ」
と言いつつ、ミドリはおかしくてたまらないと言う顔をしている。
「うるせぇ! ・・・行くぞ」
メグはミドリにそう怒鳴ったあと、あたしを促して教室を出た。
な、なに・・・ 今のやりとり・・・・・
「うるせぇ!」
なんて・・・ メグがあたし以外の女子に言ってるの初めて見た・・・
っていうか・・・ なんで頭叩いたんだろ・・・・・
あたしだって、メグに、
「うるせぇ」
とか、
「バカッ!」
とか言われるのが好きってわけじゃない。
「こんな問題も出来ねーの?」
ってされるデコピンだって出来ればされたくない。
でも最近、メグがそうやってくれるのはあたしだけなんだ、あたしにだけ素を見せてくれるんだって思うようになってきたのに・・・・・
ミドリにも同じようにしてる・・・・・

メグは、
「成田とは男同士みたいなもん? だから話しやすい」
って言ってるし、ミドリも本命は涼だからそんな心配無用なのかもしれない。
けど、涼には恭子がいるし、メグだって涼に負けないくらいカッコいいし・・・ 気が変わるってことだってあるよね?
「何色?」
「赤・・・」
「ん」
踏み台を使わなくても、ラクに絵の具の缶を取り出せるメグを見上げる。
メグの首筋から顎のラインが好き。
長くてしなやかな腕も好き。
それから、形のいい唇も・・・・・
「赤だけ? 他のはいーのか?」
「それだけでいい」
メグは、そう、と言って倉庫を出て行こうとする。
「メグ・・・」
「ん?」
メグが振り返る。
「キ、キスしたいっ! ・・・・って・・・えっ!?」
自分で言ったセリフに自分で驚いた。
な、なに言っちゃってんのっ!? あたしっ!!
しかも学校でっ!!
「ちょ・・・ ゴメン、今のなしっ!」
慌てて顔の前で手を振った。
「・・・なし?」
「うんっ! なんか・・・間違った! あははっ!」
あたしがそう言って笑ったら、メグも笑って倉庫を出て行こうとして・・・
開けっ放しだったドアを閉めた。
「え・・・、 メグ? あの・・・」
メグがあたしの顎に手をかける。
「リクエストにお答えして」
「はっ!?」
途端に顔が熱くなる。
リ、リクエストって・・・
「め、ぐ・・・ んっ!」
あたしの好きな、形のいいメグの唇が何度もあたしの唇を啄ばむ。
「・・・なんか食ってた?」
「え・・・ 食べて、ないけど・・・ ん・・・」
「甘い味がする・・・」
やっぱりあたしは砂糖菓子みたいだ。 すぐにメグに溶かされる・・・
あたしたちのキスが起こす水音が、薄暗い倉庫に響く。
その音がやけに大きく耳に届いて・・・ あたしの身体が余計に熱くなる・・・
メグ―――・・・ 大好き・・・・・

このときのあたしは、まさかこのキスがメグとする最後のキスになるなんて思いもよらなかった・・・・・


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