パーフェ☆ラ 第5章

E 最高の修学旅行


シンとした女子部屋のすみで、あたしは1人膝を抱えていた。
・・・・・なんであたしだけが謹慎なのよっ!
平井だって悪いのに・・・・・
ううんっ! 諸悪の根源は平井だって言っていいほど、あいつが悪いのに・・・・・っ!!
あたしとメグが険悪になったのも平井のせいだし、平井のせいでメグの「オレの女」発言が出たんだし、それのせいでみんなに色々聞かれるし、そのせいで自信のない自分に気付いて落ち込んじゃったし。
何より・・・ 平井と揉めたせいで自由行動なくなっちゃったし・・・・・
また溜息が出てくる。
―――メグと回りたかったな。
一緒に買い物して、ぜんざい食べて、たくさん写真撮って・・・・・
なのに、あたしこんなところで何やってるんだろう・・・・・
グズグズと泣いていたら、廊下をパタパタと走るスリッパの音が聞こえた。
この旅館はあたしたちの学校で貸切り状態だから、自由行動でみんなが出払った今、旅館内はとてもシンとしている。
だから、さっきからこうして、仲居さんたちが小走りに廊下を移動する音が部屋まで届いていた。
今、仲居さんが入ってきたら驚くだろうな・・・
今まで修学旅行でここに泊まって、こんな風に1人でいじけて泣いてる子なんて、見たことないに決まってる・・・・・
そう思っていたら、急に廊下側の扉が開く音がした。
えっ!? マ、マジで仲居さん入って来ちゃったっ!?
もしかして、お布団敷きに来たのかなっ?
ど、どうしよう・・・ 涙・・・拭かないと・・・
とあたしがタオルをバッグから出そうとしたら、ノックもなしに部屋の襖がガラリと開けられた。
ちょ、ちょっと―――ッ!!
慌てて背中を向ける。
・・・・・なんなの? ここの仲居さんは・・・ 普通ノックぐらいするでしょっ!?
それとも舐められてんのかな? 学生だからって・・・
・・・・・ふんだ!
そっちがノックもなしに入ってくるなら、こっちだって無視してやるからいいけどっ!
お布団敷いたらさっさと出てってよねっ!?
そうお腹の中で悪態をついていたら、仲居さんの足音がドスドスとあたしの方に向かってくる!
ホントになんなの、ここの仲居さんはっ!!
そんな足音荒く入ってきて・・・ あたしの方が、もっと静かに歩けるよっ!!
・・・・・っていうか、えっ!?
なんであたしの方に来んのよっ!? お布団が入ってる押入れはそっちでしょっ!!
あたしが怒ったり焦ったりしているうちに、仲居さんはあたしのすぐ後ろまでやってきた。
「真由?」
そして、仲居さんがあたしの名前を呼んで、そっと背後から抱きしめてきて・・・・・・
―――って・・・
「仲居さんっ!?」
驚いて振り返った。
「・・・・・誰が、仲居なんだよ」
「メグッ!!」
メグが、ちょっと怒ったような、呆れたような・・・そんな顔であたしを見下ろす。
「え・・・? なんで?」
「なにが」
「だって・・・・・」
みんなと一緒に出かけたんじゃなかったの?
怒ってたんじゃなかったの?
あたしがビックリして何も言えないでいたら、
「・・・・・普通、修旅で夜這いするっつったら、男が女子部屋にって決まってんだろ?」
メグが、やっぱり呆れたように笑いながら、「お前女のくせに、なに男部屋襲ってんの?」
とあたしのおでこを突いてきた。
「え・・・ それは、あの・・・・・」
「そんなことやってっから、自由行動なくなるんだよ。 相変わらずバカだな?」
「ど、どうせバカだよ・・・」
・・・・・あたしだって、本当はメグと回りたかったんだよ。
一緒にお土産屋さん見て回って、歩き疲れたら甘味処とかで休んで、
「何買ったの〜?」
なんて買ってきたものを見せ合いっこしたりして・・・・・
そんなことがしたかったんだよ・・・
落ち込んでるあたしに、メグは、
「ホントにお前は、周りの迷惑を考えない!」
とさらに追い討ちをかける。
「だ、だって〜・・・」
「だって、何?」
だって、平井が・・・・・ メグのこと、悪く言うから・・・・・
「平井・・・ ムカつくんだもん・・・」
「なんで?」
メグがあたしの顔を覗き込む。
「・・・・・な、なんだっていいじゃん。 メグにはカンケーないことだよ」
そう言って顔を背けたら、メグも黙ってしまった。
あ・・・ また怒っちゃった?
と焦ったら、
「・・・・・もしかして、ずっとそうやってたの?」
と呟いて、またメグがあたしを抱きしめてきた。
「え・・・?」
怒ったんじゃなかったの?
な、なんか今日のメグ・・・ よく分かんない・・・・・
メグはあたしの耳元で、
「・・・お前はことごとくオレの予定を狂わしてくれる」
「予定って・・・」
「自由行動だよ!」
メグがあたしの肩をつかむようにして、少し身体を離す。「・・・お前と回ろうと思ってたのに」
「えっ!?」
「お前が大暴れするから、オレの予定が狂っちゃったろ?」
メグが目を細めて優しく笑いかけてくれる・・・
・・・ホント?
ずっとメグと気まずいままだったし、修旅中も一言も口きけなかったから、まさかメグがそんな風に思ってくれてるなんて思わなかった・・・・・
〜〜〜〜〜〜メグッ!!
「メグ―――ッ!」
メグの胸に抱きついた。
ゴメンねゴメンね? あたし相変わらず考えなしで、バカで・・・・・
少しはメグにつり合うイイ女になろうって、思ってるそばからこれだもんね・・・
すぐにイイ女になるのは無理かもしれないけど・・・
でも、あたし頑張るから。
だからもうちょっと待っててね?
メグのシャツを握り締める。
「メグと一緒に回りたかったな・・・」
メグはチラリとあたしを見下ろして、
「仕方ないだろ。 自分が悪いんだから・・・ つか、なんで平井なんかと揉めたんだよ?」
「えっ!? だから、それは・・・・・ 忘れたって言ったじゃん・・・」
「お前・・・・・ ホントにバカだな」
またバカって言われた・・・・・
でも、バカって言うメグの目が、いつもより優しい気がするのは・・・
気のせいかなぁ・・・
「メグとおそろいのお守り・・・ 欲しかったな」
明日はもう帰る日だし、地主神社なんか行ってる時間ないし・・・
諦めるしかないのかなぁ・・・
と落ち込んでいたら、メグが、
「・・・オレ、今、清水寺行ってきたんだ」
とポケットを探りはじめた。
え・・・・・? 清水寺って・・・・・
――――――もしかして、地主神社ッ!? 行ってきたのッ!?
そう言えばあたし、修旅に行く大分前、メグに、
「地主神社のお守り欲しい」
なんて話したことあったし・・・・・
メグ、それ覚えててくれたんだねっ!?
そう言えば、前もあたしの誕生日に、あたしが欲しがってたケータイ(結局はメグのものだけど)を買ってくれたことあったけど・・・
ありがと〜〜〜!! メグッ!!
メグってサプライズ用意するのが上手いよねっ!!
「ありがとっ!! お守り買って来てくれたんだ? 嬉しいっ!!」
「えっ!?」
メグが一瞬動きを止める。
「あたし、一生の宝物にするねっ!!」
「や・・・ あの・・・」
「もう今回は駄目だと思ってたから、ホントに嬉しいっ!」
あたしはメグに両手を差し出して、「見せてっ!」
とメグがポケットからお守りを出してくれるのを待った。
メグは一瞬躊躇った後、
「いや・・・ 地主神社、行ったは行ったんだけど・・・」
とポケットから小さい紙袋を取り出した。「・・・・・閉まってたんだよな」
「え・・・? ・・・ええ――――――ッ!?」
「神社って営業時間あんのな? 知んなかった」
そ、そーなの・・・? あたしも知んなかった・・・ けど・・・
ウソでしょ―――っ!!
ここまで来たのに?
せっかくメグが、あたしのためにわざわざ自由時間使って行ってくれたのにっ!?
ショック――――――・・・
あまりのことに落ち込むあたしに、メグがポケットから取り出した紙袋をくれた。
「でも、代わりにそれ買ってきた」
「え・・・? 何・・・?」
紙袋を開けたら・・・
中から朱色の四角いものが出てきた。
「これ・・・ もしかして、コンパクト?」
メグが肯きながら、
「幸せ鏡ってゆーんだって。 それ持ってたら、両想いになれたとか、結婚出来たとか・・・ 結構ご利益あるらしいぞ?」
「そーなんだ・・・」
コンパクトに映った自分の顔を見てみる。
さっきまで泣いてたせいでヒドイ顔になってる・・・
ヤバイ、メグに気付かれたかな? 泣いてたの・・・・・
あたしは慌ててコンパクトを閉じた。
「えと、ありがとねっ! 一生大事にするっ!!」
「ん」
「これ持ってれば、両想いになれるんだよね? ・・・頑張るよっ!!」
「・・・もーなってんじゃん」
メグが呆れたように笑った。
「そーなんだけど・・・ でも、絶対あたしの方が好きが多い気がするんだよね!」
「は?」
「だからメグもあたしと同じくらいあたしのこと好きになってくれるように・・・頑張るよ! メグがみんなに自慢できるような彼女になれるように頑張る!!」
いつの事になるのか分からないけど、
「お似合いだね」
ってみんなに言われるような、イイ女になるからね!
とりあえず・・・ 男子と取っ組み合いのケンカなんかもうしないようにするね?
なんて心の中で誓いを立てていたら、
「・・・お前、やっぱり全然分かってない」
「え?」
メグのセリフに驚いてメグを見上げる。
あれ?
なんか、もしかして・・・ メグ・・・ 怒ってる?
え? なんでなんでっ!? あたし今度は怒らせるようなこと言ってないよねっ!?
全然分かんないんだけどっ!?
メグが怒る理由が分からなくて戸惑っていたら、急に顎をつかまれた。 そのまま顔を上に向かされる。
「オレがどんだけお前のこと好きか・・・ 全然分かってない・・・」
「え・・・」
「やっぱ、お前バカだ」
「・・・ンッ!」
そう言ってメグがあたしに口付けてきた。
「ん・・・ め、ぐ・・・」
すごく・・・すごく久しぶりに触れるメグの唇。
ずっとキスしたかった、柔らかいメグの唇・・・
「・・・キスするの、久しぶりだな」
「だね」
そう言ってちょっとだけ見つめ合ったあと、またキス。
鼻を擦るようにして何度も向きを変え、メグがあたしの唇を食む。
―――良かった。
修学旅行はもう終わりだけど・・・
結局メグとはどこも一緒に回れなかったけど・・・
けど、こうやって仲直りできて、またいっぱいキス出来て・・・ 良かった。
「は・・・ ん・・・」
やっぱりメグのキス・・・ 気持ちいい・・・
メグに捕まったら、あたしは砂糖菓子になる。
メグの舌の上で、すぐに溶かされてしまう・・・
なんて、メグの舌の動きに身を委ねていたら、
「・・・・・ん? ・・・えっ!?」
メグが、スカートに入れていたあたしのシャツを指先で引っ張り出している!
「なっ、何やってんのっ!?」
慌ててメグから離れる。
「なにが」
「なにが、じゃないよっ! ちょ、ダメだって・・・ メグっ!! ンッ!」
あたしの抗議もメグの唇に塞がれる。
メグの手が、あたしのシャツの中をゆっくりと這い上がってくる。
それに合わせるように、あたしの肌が粟立ちはじめる。
「あ・・・ はぁ・・・」
気まずくなる前に、何度もしたことを思い出して・・・ また身体が勝手に反応する。
「・・・やっぱり待ってる♪」
また勝者の顔でメグがあたしを見下ろす。
「な、何言ってんのっ!? エロッ!!」
「お前もな」
「や、やだやだっ! バカ・・・ あんっ!」
ブラの隙間からメグの指先が忍び込んできて・・・・・
「やだってば・・・ 〜〜〜あ、あぁんっ!」
またあたしを苛む。
メグがちょっとだけ目を細めて、また余裕の笑顔をあたしに向ける。
「やだって言ってるときの方が感じてるよ? お前」
「し、信じらんな・・・ あっ・・・」
メグが身体を寄せてくる。
まるで、2人の境界線がなくなるかのように、強くあたしを抱き寄せる。
あ・・・ ダメ。
また何も考えられなくなってきた・・・
メグと触れ合うと、いつもこうなっちゃう・・・・・
場所も時間も、今自分たちがどういう状況にいるとか・・・・・ 全然考えられなくなる。
メグの唇があたしの首筋に下りてきた。
メグの熱い息遣いと、肌を這うメグの舌が起こす水音が、あたしを甘美な世界に誘う。
抗えない誘惑に、あたしは一歩近づこうとする・・・
「あ・・・ んっ」
―――メグ・・・ 大好き・・・・・
あたしの頭が白濁しかけたとき、あたしとメグの間から、突然電子音が響いた。
「うわっ!」
「きゃぁっ!!」
驚いて離れる。
な、なにっ!? この音・・・・・
「・・・・・オレのケータイだ」
メグが舌打ちしながらケータイを開き、「ヤベ・・・ 涼からだ」
眉間にしわを寄せて通話ボタンを押し、何事もなかったかのように会話を始めるメグ。
あたしは、そのすきにメグから離れて慌てて制服を直した。
・・・・・た、助かった〜〜〜ッ!!
もし涼から電話が入ってなかったら、このまま・・・・・
修学旅行中なのに・・・ みんな一緒に宿泊する女子部屋で・・・・・
あ、危なかった〜〜〜〜〜〜ッ!!
っていうか、あたしメグに誘われて断れたことあったっけ?
・・・・・って、ない気がする・・・
だ、ダメだ・・・ あの甘い目と声に誘われたら・・・ 絶対断れない・・・
これからは注意しなくちゃ!
っていうか、やっぱりメグ・・・ エロくなってるよね〜〜〜ッ!?
「ワリ・・・ 集合時間だった」
短く通話を終えたメグが振り返る。
「え?」
時計を見上げたら8時50分を指していた。
自由行動の門限は9時だ。
「オレ班長だし遅刻できないから・・・ ごめん、行くな?」
「う、うんっ!」
そうだった・・・
すっかり時間のことなんか忘れてたけど、そろそろ部屋のみんなが帰ってくる時間なんだよね。
あたしが男子部屋に行ったときですら怒られたんだから、メグが女子部屋にいるのが見つかったら怒られるだけじゃすまないかもしれない!
早くメグを部屋から出さないと・・・っ!!
なんて、あたしが焦っているのに対して、メグはいたずらっ子のような顔で、
「名残惜しいだろうけど、続きは帰ってからってことで」
って・・・
「な、名残惜しくなんかないよっ! エロ―――っ!!」
メグは笑いながら部屋を出て行った。
もうメグってば、ホントにエロいっ!
みんなが帰ってくる前にもう一度制服を直して、髪が乱れていたりしてないかコンパクトで確認した。
メグがくれたコンパクト・・・
―――幸せ鏡ってゆーんだって・・・・・
メグのセリフを思い出しながら、そのコンパクトを指先でなでる。
メグ・・・ ありがとね。
あたし、これ一生の宝物にするよ・・・・・


「はぁ・・・ 5日間なんてあっという間だよねぇ」
チハルが隣の席でお菓子を食べながら溜息をつく。「もっといたかったなぁ」
帰りの新幹線は行きのそれと違って、少しだけテンション低め。
「5日は短い」
ってみんな言うけど、やっぱり疲れは出ているみたいで、寝ちゃってる子も結構いる。
旅行中はあんなにテンション高かったミドリも(って、ミドリはいつも高いか・・・)、米原を出てすぐに寝息を立て始めた。
「真由は自由行動もなくなっちゃったし、お土産とか? あんまり買えなかったんじゃない?」
「ん? そーでもないよ? あぶらとり紙も買ったし、あとベタだけど生八ツ橋も買った」
「あたしもー! 何味?」
「イチゴ。 あたしニッキ苦手なんだよね」
「あたし、チョコとバナナ買ったー!」
なんて話をチハルとしていたら、前の車両からメグがやってきた。
あたしたち4組はたまたま車両が分かれていて、メグたち男子は前の車両、あたしたち女子はその後ろの車両だった。
トイレにでも行くのかな・・・?
なんて考えていたら、
「佐倉さん、ちょっと席代わってくれる?」
とメグがあたしの隣に座っているチハルに声を掛けた。
「えっ!?」
チハルが驚いてメグを見上げる。
え・・・ えぇ――――――っ!?
な、なに・・・メグ、急に・・・・・・
っていうか、チハルだけじゃなくて、他の女子もみんな驚いた顔してるよ?
チハルはメグとあたしを交互に見て、諦めたように溜息をついて席を立った。
そこに当然のようにメグが座る。
「ちょっと・・・ ど、どーしたの? 急に・・・」
回りの女子の目が気になって、思わず小声になる。
い、いいのっ? みんなにあたしみたいな平凡女子と付き合ってるって思われても・・・
あたしがコソコソしているのに対して、メグはいつもと変わらない様子で、
「ん? 別に。 ・・・なに? 隣に座っちゃダメなわけ?」
「ダ、ダメってワケじゃないけどさ〜・・・」
恥ずかしくないのかな? みんなチラチラ見てるし・・・
さらにメグはあくびをしながら、
「ねむ・・・ 着いたら、起こして?」
とあたしの肩に頭を預けてきた!!
ぎゃ――――――ッ!!
ちょ・・・ この体勢・・・ かなり恥ずかしいんですけどッ!?
眠いんだったら、自分の席でも寝れるじゃん―――っ!!
なんてお腹の中でメグに突っ込みながら・・・
でも・・・・・
―――いやじゃ、ない・・・・・
なんて思ってるあたしがいて・・・・・
もしかして、メグ・・・ 他の女子に見られても平気って思ってくれてるのかな・・・?
だからわざわざこっちの車両来てくれたの?
だから、あたしの肩で眠ってくれるの・・・?
そう思ったら、色々胸につかえてたものが溢れそうになって、慌てて瞬きをした。
長いまつ毛を伏せて、長い腕を組んで、子供みたいに安心しきってあたしに身体を預けてくるメグ。
メグ・・・・・ 大好きだよ。
気まずいまま始まった修旅だったけど。
全然一緒に回れなかったし、おそろいのお守りも買えなかったけど・・・
けれど、メグはちゃんとあたしが欲しがっていた物を覚えていてくれて、わざわざそれを探しに行ってくれた。
結局は買えなかったけど、素敵なコンパクトを探してきてくれた。
そして、他の女子がみんな見てるっていうのに、わざわざ隣の席に座ってくれて・・・・・
―――やっぱり最高の修学旅行だったよ。
「ありがと・・・ メグ」
小さく、小さくメグに声を掛ける。 すると、すっかり眠っているもんだと思っていたメグが、
「なにが?」
と返事をしてきた!
「お・・・起きてたの?」
「ありがと、って、なに?」
急にそう聞かれて焦るあたし。
だって・・・ 別に、コレ!って具体的な何かがあって言ったわけじゃなくて、溢れてきた感情に任せて言っちゃっただけなんだから・・・
そんな、説明なんか出来ないよっ!
「や・・・ 色々・・・ コンパクトとか」
だからテキトーにそんな風に答えておいた。
「どーいたしまして」
「そう言えばさ、メグはなんかお土産とか買ったの? 荷物少なかったみたいだけど・・・」
さっき京都駅で見かけたメグの荷物は、行きのそれとほとんど変わらないように見えた。
あたしなんか着替えとかが入ったバッグのほかに、大きな紙袋2つにもなっちゃったのに・・・
チハルなんか3つだよ?
「ウチには買ったよ。饅頭とか?そんなの。 カバンに入ってる」
「え? 自分の分は?」
「あ〜・・・ 特に買っては・・・ないな」
「そーなのっ!? せっかく京都まで行ったのにっ?」
あたしも家族へのお土産は買ったけど、自分の分はそれ以上に買っている。
メグってあんまり物欲ないのかな・・・
こんなことなら、あたしがメグへのお土産買ってあげればよかった・・・
っていうか・・・
あたし、自分はコンパクトとか買ってもらったくせに、なんでそういうことに気付かないかな〜・・・
こんなことにも気付かないんじゃ、まだまだイイ女への道は遠いよね・・・
と軽く落ち込んでいたら、
「でも・・・ いいものは手に入れたよ?」
とメグが制服の胸ポケットをゴソゴソと探り出した。
「え・・・? いいものって、なに?」
「京都ならではのモノ?」
そう言って、名刺サイズのカードをあたしに見せてくれた。「しかも、お前も乗りたいって言ってた」
メグが見せてくれたカードを見て驚く。
「・・・・・え? コレ・・・ まさか、メグ、乗ったのッ!?」
メグは肯きながら、
「夕べ、清水寺からの帰りに。偶然」
「ズルイ〜〜〜ッ!! あたしだって乗りたかったのに〜〜〜ッ!!」
唸りながら手元のカードに目を落とす。
『四つ葉のクローバー搭乗記念』
『あなたに幸運が訪れますように・・・』
って書いてある、四つ葉のタクシーの搭乗記念カード・・・・・
乗ると幸せになれるってガイドブックに書いてあったから、メグと乗りたいって言ってた・・・
1200台に4台しか走ってない、幸せのタクシー・・・・・
―――それに、メグ・・・乗ったんだ?
1人で乗っちゃったんだッ!?
ズルイズルイズルイ〜〜〜ッ!!
「・・・・・このカード、ちょうだい!」
「え? やだよ」
「いーじゃん! メグは実際に乗ったんだからさ! あたしにも幸せを分けてよ!!」
「お前にはコンパクトやったろ?」
「そ、そーだけど・・・ でも、これも欲しいのっ!!」
「返せって!」
「やだっ!」
なんてことをやっていたら、
「おい・・・ うるさくて眠れねーんだけど?」
と窓際の席で眠っていたミドリが眉間にしわを寄せた。
「わっ・・・ ゴメンね、ミドリ」
慌てて謝る。 ミドリは大きな溜息をつきながら、
「はぁ〜あっ! そばでイチャこかれるとムカつくから、別な席行こーっと!」
「イ、 イチャついてなんか、ないよっ!!」
ただ話してただけじゃんっ!
ミドリはあたしが慌ててるのなんか気にも留めてない感じで、
「はい、どいてどいて!!」
とあたしとメグの前を通って、さっさと通路に出てしまった。
「成田さん」
メグがミドリに声を掛ける。 ミドリが振り向いた。 そのミドリにメグが、
「ありがとう」
ってお礼を言っている・・・・・ なんで?
ミドリはほんの少しメグを見下ろしたあと、
「・・・・・別に」
とそれだけ言って、「涼の隣、行っちゃお〜♪」
と前の車両に移動して行った。
「・・・・・何の話?」
「ん〜〜〜・・・ 男同士の話?」
「それ、ミドリに言っていい?」
「・・・・・ゴメン、言わないで」
とメグが眉を下げる。
なんだかおかしくなって、2人で顔を見合わせて笑った。


あたしたちを乗せた新幹線が、東京に帰ってきた―――・・・
おわり
「おわり」をクリック! オマケがあるよ。


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