パーフェ☆ラ 第4章

D 再試合@


体育館に入るとすぐ、館内利用者が休憩したりするためのベンチが並んでいるスペースがある。
そこにメグがユニフォームのまま座っていた。
なんて声をかけていいのか迷った挙句、結局何も思い浮かばないままメグに歩み寄った。
「メグ・・・?」
メグがゆっくりと顔を上げる。
「―――お前・・・ 追試は?」
「ちゃんと受けてきたよ」
メグの瞳にもう涙はなかった。 けれど目が少しだけ充血していた。
「試合・・・ 見てたのか?」
さっきのヤジマの話を思い出す。 あたしは首を振って、
「ううんっ! 試合には間に合わなかったんだ。 結果だけ聞いた・・・ 残念だったね・・・」
「・・・仕方ねーよ」
そう言ったきり、またメグが俯く。
どうしよう・・・ なんかメグが元気になるような言葉かけてあげたいのに・・・ 何も思い浮かばないよ・・・
あたしって、本当に頭悪い・・・・・・
「え・・・と・・・ 一緒に帰ろ?」
メグは俯いたまま、
「・・・・・これから学校戻って、ミーティングあるから」
「そーなんだ・・・ 待っててもいい?」
「・・・・・なんで?」
なんでって・・・
理由がなきゃ、一緒に帰っちゃいけないのっ?
そりゃ、あたし頭悪いからたいした言葉もかけてあげられないけど・・・
でも、メグと一緒にいたいんだよ?
そんなに落ち込んでるメグ1人に出来ないよっ!!
「・・・・・・とにかく、オレ部長だし・・・ 1回学校帰んなきゃなんねーから・・・」
「分かった・・・」
仕方がないから肯いた。
けど、やっぱり家でメグの帰りを待ってるなんて出来なくて、学校の最寄り駅でメグを待ち伏せた。
メグは一瞬だけ驚いた顔をしたあと、
「ヒマだね? お前も・・・」
とちょっとだけ笑った。 その笑い方が・・・
余計に悲壮感漂ってるよ―――ッ!!
メグッ!? そんなに落ち込んじゃったの?
そりゃ、メグが部活に力入れてたのは知ってるけど・・・
けど・・・
あの、自信満々なメグはどこ行っちゃったの―――ッ!?
電車の中でも、メグは殆ど口をきかず、ドアにもたれかかるようにして窓の外を見下ろしている。
どうしよう・・・ なんとかしてメグを元気付けてあげたい・・・
でも、どうやったら、メグ元気出してくれるんだろう・・・ 全然分かんない・・・
・・・・・・あ!
「真由、今日お母さんね・・・」
今朝あたしが学校に行く前にお母さんが言っていたことを唐突に思い出した。
お母さんが言っていたことを思い出したのと同時に思い付いた事に・・・・・・胸の動悸が早くなってくる。
もしかしたら・・・ これでメグのこと・・・・・・
「・・・・・・メグ?」
「ん?」
「・・・・・・これから・・・ ヒマ?」
メグがちょっとだけ眉を上げて、何?といった感じにあたしを見返す。
「ヒマだったら・・・ ちょっと、ウチ来てくれない?」
「・・・なんで? 追試は終わったし・・・ しばらく勉強しなくてもいいだろ」
―――確か、今朝お母さん、
「今日 お母さん、高校時代の友達と晩ご飯食べてくるから。戸締りとか気をつけてね」
って言ってたよね・・・
あたしは勇気を出して、
「違うよ・・・ カテキョの話じゃなくて・・・」
メグの顔が見れなくて、顔を背けて続ける。「・・・いいから、とにかく来て?」
メグは首をかしげながら、いいけど、と言ってくれた。
2人で社宅の階段を上る。
全身が心臓になったみたいにドキドキしてる・・・
ど、どうしよう・・・
って、あたしから誘ったんだから、もうどうにもならないんだけど・・・
部屋の前にたどり着く。
「カバン置いてから行くよ」
とメグが自分ちのドアを開けようとする。
「ま、待ってっ!?」
ここでいったんメグと離れたら、あたし絶対怖じ気づきそうな気がする・・・
「やっぱなんでもなかった! あはははは―――ッ!!」
とか、誤魔化しちゃいそうな気がする・・・
でも他に、落ち込んでるメグを慰める術なんか思い浮かばない・・・
やっぱり、今ウチに来てもらわなくちゃッ!
「何?」
メグがドアノブに手をかけたまま振り返る。
「あ、あのさぁ! メグが大丈夫なら・・・ そ、そのままウチ来てくれる?」
あたしがどもりながらそう言ったら、メグはちょっとだけ眉間にしわを寄せながら、それでも黙って肯いてくれた。
シンと静まり返ったウチの中・・・
壁にかかっているプーさんの時計の音が、やけに大きく聞こえる。
あたしの部屋に入ると、メグは勉強机の上にカバンを置きながら、
「・・・で? 用って何?」
・・・そんな改まって聞かないで欲しい・・・
「と、とりあえず、ジュースとか・・・飲まない?」
とあたしがキッチンに向かいかけたら、
「いや、いいよ」
あっさりとメグは断ってきた。「それより、ホントに何の用?」
「そ、それがね・・・」
恥ずかしくなって俯いた。
どうしよう・・・ ホントに言いづらい・・・
って言うか・・・
女の子から誘うときって、なんて言えばいいの―――ッ!?
ま、まさか、
「・・・しよ?」
なんて・・・
言えないっ! 絶対っ!!
・・・・・でも・・・ じゃ・・・ さ、再試合、とか?
それだって、あたしたちの間では、
「しよ?」
とまるっきりおんなじだし・・・ッ
あたしがいつまでもモジモジしていたら、
「あっ!?」
と、メグが何か思いついたような顔になった。
「え? な、何?」
「お前まさか・・・」
メグが眉をひそめる。
ドキ―――ッ!
わ、分かっちゃった? あたしが言おうとしてること・・・
は、恥ずかし〜〜〜ッ!!
・・・けど、メグに気付いてもらえて良かったかも。
やっぱり、あたしから誘うのは難しい・・・・・
「お前まさか・・・ 追試もヤバかったのか?」
「・・・・・・は?」
今度はあたしが眉をひそめる番だった。
「追試に通らなかったら、強制的に夏期講習に参加して、そのあと再追試だぞ?」
「追試って・・・・・ 違うよっ! そんなコトじゃないよっ!!」
「じゃ、なんだよ?」
メグが眉間にしわを寄せる。
「再試合のことだよっ! ・・・ぁッ!?」
・・・・・・うっかり、ストレートに口に出してしまった。
ど、どうしよ―――ッ!!
どう言おうか悩んでたわりに、あたしってば結局1番ストレートなことを・・・・・・!!
とあたしが焦っていたら、
「? 試合はトーナメント式だから、負けたら次はねーんだけど・・・」
とメグがトンチンカンな答えを返してきた!
「ち、違うよっ! バスケの試合じゃなくてぇッ!!」
も、も―――ッ!! メグってば、分かんないのかなぁッ!?
この前メグが自分で、
「じゃ、再試合で」
って言ったんじゃんッ!! 忘れちゃってるのかなぁっ!? 〜〜〜もうっ!!
「・・・何怒ってんの?」
「怒ってなんかないよっ! もうっ!!」
「怒ってんじゃん」
・・・・・・ダメだ。 コレじゃいつものパターンだよ・・・
いっつもこんな感じでケンカして、気まずくなって・・・っていうパターンなんだよね・・・
ダメダメ! メグは何のことか分かっていないんだから(ってか、メグってそんなにニブかったっけ?)、あたしがハッキリ言わなくちゃ・・・
恥ずかしいけど・・・
とあたしが深呼吸をしたら、
「・・・・・・もしかして、誘ってんの?」
と不意にメグがあたしの肩に手をかけた。
「えっ?」
「誘ってんだろ?」
メグがあたしの顎をつかむ。 そのまま上を向かされた。
「え・・・あっ ンッ!」
あっという間にメグに口を塞がれる!
形のいいメグの唇・・・
はじめは啄ばむようにあたしの唇を食んでいたメグのキスが、段々熱を帯びたものになってくる。
メグの腕があたしの頭を抱え込んできて、逃げられないっていう状況に、あたしの身体まで熱くなってくる。
そして、その指先があたしの耳の後ろあたりの髪を弄ぶかのように優しく梳いてきて・・・
うわうわうわっ! もうダメっ!!
思わずメグの胸を押してしまった。 メグがちょっとだけ唇を離して、至近距離からあたしを見下ろす。
マ、マズイ・・・
覚悟決めたはずなのに・・・・・
「え・・・エヘ?」
意味もなく笑ってしまった。
―――な、何がエヘ、なんだか・・・
と自分に呆れていたら、
「・・・ンッ!」
メグに腰を抱き寄せられ、またキスされた。
いつもはもっと強引にあたしの中に入ってくるメグが、今日は舌先で様子を窺ってくる。
いや、窺ってくるというより、あたしから受け入れろって命令されてるみたいな・・・
ドキドキしながら命令に従う。 ちょっとだけ唇を開いたら、すぐにメグが入ってきた。
「ン・・・ッ! ンンッ」
またメグの巧みな舌先に命令され、手探りでメグの舌を受け入れる。
・・・・・なんでメグのキスって、こう蕩けるように甘いんだろ・・・
まるであたしは砂糖菓子になって、メグの舌で溶かされちゃってるみたい・・・
ホントに溶け出したみたいに、あたしの足に力が入らなくなってきた。 腰に回されていたメグの腕が、あたしを支える。
メグがちょっとだけ身体を離して、あたしの手を取った。
「・・・・・来いよ」
そしてそのままベッドの縁に座る・・・・・
・・・・・・・・きっ
来た来た来た来た――――――ッ!!
「う、うん・・・」
あたしもメグの隣に腰掛けようとしたら、
「そこじゃねぇよ。 ここ」
とメグの膝の上に座らされた! で、座った途端、またメグのさらうようなキス!!
メグの唇が、顎から首筋に移動してくる。 そのまま耳の付け根辺りまで這ってきた。
軽い目眩と、恐怖があたしを襲う。
メグの唇・・・ 気持ちいい・・・
けど、この先のことを考えると・・・・・・ やっぱり怖いッ!!
メグが耳たぶを甘噛みしながら、制服のリボンを取った。
・・・や、やっぱ・・・ 痛いのか、なぁ・・・
・・・痛いよね? 血が出るくらいだもん・・・
ベストを脱がされ、メグのキレイな指先が 今度はシャツのボタンを器用に外していく。
・・・血が出るほど痛いのが・・・ 一体いつ気持ち良くなるんだろ・・・?
・・・あ〜〜〜ッ! 情報なさすぎッ!!
・・・こんなことなら、イロイロ亜紀ちゃんに聞いとくんだった・・・
胸元が外気にさらされる。
・・・メ、メグ・・・ ボタン外すの早い・・・
首筋を何度も這っていたメグの唇が一旦離れ、腕で背中を支えるようにしてあたしをベッドに横たえる。
メグがあたしを見下ろす。
微かに揺れているメグの瞳。
さっきまで充血していた、メグの瞳。
怖いけど・・・ でもやっぱりあたしには、こんなことしか思いつかないから・・・
恐怖を追い出すように、ギュッと目と瞑った。
一瞬の間を空けたあと、ブラの上からメグがあたしの胸に触れてきた!
「―――・・・ッ!!」
だ、だだ、大丈夫、大丈夫っ! まだ全然痛くないじゃんっ!?
・・・って・・・ 聞くほど気持ち良くもないけど・・・
・・・・・・いや、緊張で・・・全然それどころじゃないんだけど・・・
でも―――・・・
・・・・・メグが気持ち良ければそれでいい。
今日の試合のこと、これで少しでも慰められるんだったら・・・ それでいい。
メグがブラのストラップを腕の方に落とす。
いっ・・・ いよいよだ――――――ッ!!
思わず腕に力が入る。
き、きっと、痛いのなんて一瞬だよねッ!?
すぐ、気持ち良くなるよねッ!? そうだよねッ!?
・・・なんてことを考えていたら、ベッドのスプリングがちょっとだけ揺れて、今まで感じていたメグの体重が急に軽くなった。
「・・・え?」
戸惑って目を開けたら、メグは身体を起こしてベッドの縁に腰掛けたまま、視線を足元の方に落としていた。
「・・・・・・やっぱ、やめた」
「・・・え?」
な、なんで?
メグはあたしから視線を外したまま、
「疲れてるし・・・ 悪いけど・・・」
とだけ言ってそのまま黙り込んでしまった。
「う、うん・・・」
・・・・・・メグ・・・ どうしたの?
前は、あんなエロ全開で迫ってきたのに・・・ やっぱり試合で疲れてるのかな・・・?
でも・・・
覚悟を決めてメグのコト誘ったけど・・・ こうなって正直ホッとしてる。 あたし・・・
「・・・帰る」
「うん・・・」
気まずいままメグと分かれた。
1人になってから、冷静に考えてみる。
・・・メグ、なんでしなかったんだろ・・・? 疲れてるとか言ってたけど・・・
だったら、はじめに断りそうじゃない? 普通・・・
なんであんな土壇場で・・・ ブラのストラップずらすとこまで行って・・・
―――って・・・ はっ!?
慌てて胸元を覗き込む。
ま、まさか、このブラがいけなかったっ!?
あたしこの前、
「勝負下着じゃないからっ!」
って言ったし・・・ メグ、もしかして期待してた?
急だったしそこまで考える余裕なかったから、いつものブラのまま誘っちゃったけど・・・
もしかして、こんなんじゃ全然勝負にならなかった??
っていうか、勝負する気にもならなかった・・・とか?
けど・・・・・ どこがダメなのか全然分からない。
色? それともカタチッ!?
もうっ! どこがダメなのかちゃんと教えてよっ! メグっ!!

翌日。 悩みを抱えたまま学校へ。
メグは、試合に負けたことも、その・・・途中で止めたことも、何事もなかったような顔をして涼と雑誌を見ながらしゃべっている。
なんだったんだろ・・・ ホントに・・・
こっちは気にしすぎで、夜も眠れなかったって言うのに・・・・・
って言うか、女から誘ったのに断るのってどーなのよっ!?
・・・・・・そんなにあたし、魅力ない? いや、自分でもすごく魅力あるってワケじゃないのは分かってるけど・・・
溜息をつきながらトイレの鏡に自分を映してみる。
どうやったら、魅力的になるんだろ・・・?
してる子はしてるけど、あたしはメイクとかしないから・・・ 今さらメイクしても素顔知られてるし、あんま意味ないよね。
それに、もしメグがあたしのことスキって言ってくれたのが顔がポイントだったとしてもずっと素顔見てたんだから、今さら・・・
いや、それはないか・・・ あたしの顔がポイントになるなんて、そんなコトあるわけない。
あ〜〜〜・・・ もう全然分かんない!
髪をかきむしりながらトイレから出ようとしたら、隣にある男子トイレから話し声が聞こえてきた。
「参ったよ。聞いてくれよ」
「何が? ・・・あ〜、また女のことだろ? お前遊んでるからな〜」
「まぁな」
・・・お、男の子同士でもそういう相談したりするんだ?
思わず身を潜めて話を窺う。
「この前ヤッた子が処女でさ〜」
しょっ・・・!?
「ラッキーじゃん」
「それが全然なんだって! 初めてだっつったって、もうちょっと反応しろよ!?みてーな?」
「とんだマグロを釣り上げたって?」
男の子たちが声を立てて笑う。
な、なに・・・? マグロって・・・ あの、お刺身とかの??
「そんで、1回ヤッたら彼女ヅラしてウゼェし。 こっちはそんな気ねーってのに」
「相変わらずひでぇ男だな、お前は・・・ そー言えば・・・」
男の子たちの会話が笑い声とともに遠ざかっていく。
な・・・ なに? 今の会話・・・・・・
しょ、処女って男の子にとってはウザいものなのっ!?
ううん、ちがうっ! 一緒にいた子が、ラッキーって言ってたし・・・
「もうちょっと反応しろよ!?みてーな?」
・・・それだ!
そう言えばあたしも、メグに、
「ねぇ? なんでいつも固まっちゃうの?」
って言われたことある・・・ しかも、何回も・・・
も、もしかして、それが原因で・・・ 昨日・・・
そ、そうなのっ!? メグっ!?
「あれ? 真由? こんなトコで何やってんの?」
それに、あたし付き合うようになってから、ちょっとしつこくしてたかも・・・ どっか行こうとか、ケータイ持てとか・・・
もしかしてそれも、
「彼女ヅラしてウゼェし」
だった?
「真由? 早くしないと休み時間終わるぞ?」
だからあえて教室でも他人のフリとか?
「おい、真由・・・?」
ミドリとチハルがあたしの顔を覗きこんできた。「大丈夫か?」
「・・・・・ミドリっ!!」
あたしはミドリの腕をつかんだ。「帰り、ミドリんち寄ってってもいい?」
「は? ・・・いいけど?」
ミドリは眉間にしわを寄せながら、「何? 急に」
「・・・・・ちょっと、借りたい物があるから」
確か、前ミドリんち行ったときに、アレがあったの見たんだよね・・・
「え〜? なになに〜? 面白そうだからあたしも行っていい?」
チハルがあたしの腕を組んできた。


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