パーフェ☆ラ 第4章
C ゲームセット
「だ〜めだぁっ!やっぱり、平均行かなかった!」 チハルとミドリが、返ってきた答案用紙をヒラヒラさせながらあたしの席にやってきた。 「真由はどうだった?」 「凄腕カテキョのおかげで、軽〜く平均クリア?」 二人の問いかけにも答えず、あたしは答案用紙を見つめていた。 ミドリたちがあたしの手元を覗き込む。 |
「―――・・・えっ!? 真由、28点!?」 「シ――――――ッ!!」 あたしは慌てて二人の口を押さえた。 「・・・・・赤点じゃん」 各教科一応30点が合格ラインで、それ以下の点数を取った者は追試を受けなければいけないことになっている。 ―――あたしは、数Uで赤点を取ってしまった。 「凄腕カテキョも、真由には勝てなかったかぁ」 チハルが溜息をつく。 「違うよっ! カテキョはちゃんとやってもらってたよ! あたしがそれをちゃんと聞いてなかっただけでっ!」 思わず反論したら、チハルもミドリも驚いた顔をして、 「どうしたの? 真由・・・ この前は、性格悪いとかスパルタだとか、散々悪口言ってたのに・・・」 「そ、そうだけど・・・」 あの日・・・ あたしと矢嶋が会ってた日以来、あたしとメグの間はギクシャクしたままになっていた。 はじめは、 「何よっ! メグは!! なんであたしばっかり怒られなくちゃならないのよっ!!」 ってムカついてたんだけど・・・・・ よくよく考えたら、あたしの方がワガママ言ってたんだよね。 あたしは、 「メグこそ今日何してたのよっ! あの頃の女子と会ってんでしょ!?」 なんて疑ってたけど、ホントは1人でシュート練習しに行ってただけだったし・・・ メグは体調崩すほどあたしの勉強見てくれてたのに、それにも気付かないであたしってば勝手なこと言っちゃって・・・ メグはあたしに心配かけないようにって、病院に行ったことすら内緒にしようとしていた。 結局はあたしがメグんちのおばさんに、強引に聞き出したんだけど・・・ 「ホントにごめんね? 疑ったりして。 あたしメグのこと全然考えないで、自分のことばっかりで・・・ メグが体調悪いのにも気付いてあげられなくて・・・」 ってあたしが謝ったら、一応、 「いや・・・」 ってメグは言ってくれたけど、なんとなく気まずいままになっていた。 そのまま期末テストを受けたら・・・ 他の教科は平均以上取れたのに、数学だけ・・・・・ 赤点を取ってしまった。 どうしよう・・・ メグに怒られちゃう・・・・・ 「数学だけはヤマのかけようがねーんだから、数こなして慣れろ!」 って言われてたのに・・・・・ 赤点は完全にあたしのせいだった。 内緒にしていてもすぐにバレるから、あたしは答案が返ってきたその日にメグに赤点を取ってしまったことを報告した。 「・・・・・そっか・・・ そりゃ、悪かったな」 ―――って・・・え? それだけっ? 絶対怒鳴られると思っていたのに・・・・・ メグッ!? もしかして、まだ体調悪いのッ!? 「追試、いつ?」 「ら、来週の11日・・・」 あたしは俯いた。 どうしよう・・・・・ よりによって、その日が追試日なんて・・・ メグも一瞬黙ったあと、 「・・・ま、お互い、自分のこと精一杯やるっつー事で」 と言っただけで、「じゃ、復習するから、答案用紙と教科書」 「う、うん・・・」 11日はバスケの地区予選の日だった。 あたしはまだ一度もメグの試合を見たことがなかったから、絶対この地区予選は応援に行こうと思っていた。 なのに・・・ 「・・・・・応援、行きたかったな・・・」 「・・・仕方ないだろ? つか、お前の応援なくても勝てるし」 「な、なによーっ!!」 とあたしが頬を膨らましたら、メグもちょっとだけ笑ってくれた。 メグは期末テストが終わってから、ますます部活に打ち込むようになったみたい。 なのに、あたしが追試になってしまったせいで、予選が近いっていうのにカテキョは時間を見つけてちゃんとやってくれている。 そんなメグの応援にも行けないなんて・・・・・ ―――彼女失格じゃん? あたしは答案用紙に目を落としたまま、 「ねぇ・・・ 追試の日、風邪とか引いた子はどうするんだろ?」 「そりゃ、再追試受けることに・・・」 とメグは言いかけて、「・・・・・お前、絶対余計なこと考えんなよ?」 あたしの考えを察したメグは、あたしを睨みつけて釘をさしてきた。 「そんなことして来られても、嬉しくない。 つーか、迷惑」 ・・・・・だよね。 きっと今、一番メグを喜ばせるのは、あたしが無事追試に受かること・・・ なんだよね。 「それに、予選2日間やるから・・・ 次の日来れば?」 メグがチラリとあたしを流し見る。 「勝つの?」 「負けるつもりで試合するヤツなんかいねーよ」 ・・・・・・そうだよね? あたしは教科書に視線を落とした。 「メグ! あたし頑張るよ!」 メグだって頑張ってるんだから、あたしだって受かる気で頑張るよっ!! それに、メグに教えてもらったこと無駄にしたくないもん! あたしが教科書の例題と格闘しはじめようとしたら、 「・・・・・真由」 とメグが。 「え?」 なになに? 早速間違ってた? ―――っていうか、メグあたしの名前呼ぶの、珍しいかも・・・ とメグを見上げたら、メグの顔が近づいてきて・・・・・ メグのやわらかい唇があたしの唇に触れた。 |
「・・・・・頑張れ。 オレも頑張るから」 溶けそうに甘いメグの瞳・・・ 「ん!」 「追試、頑張ったらご褒美やる」 「え――――っ!? なになにっ!?」 今まで、「お仕置き」しかされたことないけど・・・・・ ご褒美ってっ!? 「それは、あとでのお楽しみ」 「え―――っ!?」 って、ご褒美かぁ〜〜〜・・・ よ――――し! 頑張るぞ―――ッ!! 「それでは1時50分まで。 はじめてください」 追試を受ける子たちが、一斉にプリントを表にする音がする。 あたしも表に返した。 今日は午前中授業だったんだけど、あたしたち追試組は午後も学校に残っていた。 メグ! あたし絶対合格するからねっ! メグも勝ち進んでよっ!! 試験時間は50分間。 けれど、前回のテスト内容と大体同じだったことと、メグにしつこいぐらいに教えてもらったおかげで、その半分の時間で解答し終えることが出来た。 スゴくないっ!? あたしっ!! ・・・・・って、調子に乗っちゃダメなんだ・・・ 「絶対、時間ギリギリまで見直ししろよ? お前ケアレスミス多いから」 とメグに言われた通り、またはじめの問題に視線を戻す。 戻したんだけど・・・・・ もう全然問題が頭に入ってこない。 あたしは壁の時計をチラリと見上げた。 ―――1時25分。 メグたちは、午前中に行われた1回戦は勝てたって、ケータイで恭子に教えてもらった。 「次の試合は1時半からだよ」 って恭子言ってたっけ・・・ ここからK体育館まで30分・・・ 今から急いでいけば、後半戦には間に合う。 でも・・・ 「見直しで5点は上がると思えよ?」 ってメグから言われてるし・・・ その見直ししないで終わりにしたのがバレたら、絶対また怒られる・・・ でも、メグの応援したいし・・・ でも見直し・・・・・ でもでも〜〜〜・・・ッ!! 「・・・・・先生ッ!」 あたしは手を上げた。 「ん? なんだ? どうした、市川?」 「―――――お腹痛い・・・」 ごめん、メグッ!! あたしはカバンをつかむと、教室を飛び出した。 |
K体育館は、ものすごい歓声に包まれていた。 あたしは息を切らしながら、 ・・・・・メグの試合って、どのコートでやってんの? と体育館内を見回した。 館内にはコートが4面あって、その全てで試合が行われている。 たしか、総武は白いユニフォームだったよね・・・ ギャラリー部分をウロウロしながら、白のユニフォームを探す。 ・・・・・って、え? 全てのコートで白いユニフォームの選手が走っている。 もうっ! なんでみんなおんなじようなユニフォーム着てんのよッ!! 見当違いな怒りを見知らぬ選手たちに向けながら総武を探していたら、やっと見つけることが出来た。 あれ・・・? 白じゃなかったんだ・・・ 総武はブルーのユニフォームを着ていた。 ちょうど第3クォーターが始まったところみたいだった。 11点差で、総武が負けてる・・・ ・・・けれど、メグはベンチに座っている。 え? なんで? なんで出てないのっ!? 急いでギャラリーの最前列に駆け寄ろうとして、慌ててやめる。 ―――あたし、まだ追試の時間なんだった・・・ 絶対メグには見つからないようにしなきゃ・・・ メグに見つからないように、死角になる メグが座っているベンチの真上あたりの席にコソコソと座ろうとしたら、 「市川っ!」 と急に腕を引っ張られた。 驚いて振り返ったら、ヤジマだった。 「マジでサボって来たんだ?」 ヤジマはまた笑っている。 ・・・ヤジマって、いっつも笑ってるよね。 「サボって来たんじゃないよ。 今日は午前中授業だったの!」 ちょっと違うけど、ヤジマにはこの説明で十分。 「じゃ、今来たのかよ?」 「うん」 「なんだよ〜。 せっかく応援してもらおうと思ってたのに!」 「ヤジマの試合終わっちゃったの?」 「今日の分はな。 さっき」 「って事は、明日もあるってこと? 勝ったんだ?」 イエースと言いながら、ヤジマが親指を立てる。 「明日、この試合で勝った方とやんの」 とヤジマは真下のコートを指差した。 「じゃ、メグたちが勝ったら、明日・・・?」 「そうなるな」 とヤジマは言って、「となると、結局市川には応援してもらえないのか。オレ」 とちょっと笑いながらあたしを流し見た。 そのままあたしの隣にヤジマが座る。 「ちょっと・・・ 悪いんだけどさ、離れて座ってくれる?」 「あ? なんで?」 「メグに怒られたくないから」 「なんだ? それ?」 あたしはこの前のことをヤジマに話して聞かせた。 ・・・キスの部分は除いて。 やっぱりヤジマは笑いながら、 「ひゅ〜! 千葉って意外と嫉妬深いんだ? つか、愛されてんね? お前」 「そういうわけだからさ・・・」 とあたしが立ち上がりかけたら、 「んじゃ、妬かせちゃおうかな」 ヤジマがあたしの肩に手をかけてきた。 「ちょ、ちょっとぉ!」 慌てるあたしの耳元でヤジマが、 「千葉がなんで出てないのか、知りたくね?」 「え?」 「教えてやるから、隣」 と、ヤジマは隣の席を指差す。 「え〜〜〜・・・」 見つかったらまた怒られちゃうよ・・・ っていうか、もうメグにそういう誤解されたくない。 でも、メグがなんで出てないのかも知りたいし・・・ それに、もともとあたしがここにいること事体見つかっちゃダメだから、隠れてれば大丈夫・・・かな? 「・・・なんでメグ、出てないの?」 あたしは大人しくヤジマの隣に座った。 「ファウルが4つだから」 「え?」 「5ファウルで退場。 第4クォーターはベストメンバーで臨むのが普通だから、千葉はそれまで引っ込んでるってわけ」 「そーなんだ。 ・・・・・もしかしてメグって、いつもファウル多いの?」 そう言えば、前にウチの高校でやってた試合をこっそり見に行こうとしたときも、ファウル多いとかなんとか・・・下級生たちが言ってたけど・・・・・ 「そーでもないよ。 今日はマンツーマンで千葉に付いてるヤツがくせモンなだけ。 オールコートであんなプレスかけられたら、オレでもイラつくよ」 「ふうん・・・」 |
なんかヤジマの話、全然分かんない・・・ プレスってなんだろ? ヤジマはボールを目で追いながら、 「やっぱ、千葉が1番じゃないとパス回しがイマイチだよな。 アリウープも出せないし」 また分かんない単語の連発。 でも、いちいち聞くもの悪い気がして黙って肯く。 そんなヤジマの解説(あたしにとってはチンプンカンプンだったけど)を聞いていたら、第3クォーターが終了するブザーが鳴った。 メグが羽織っていたジャージを脱ぎ、ユニフォームになった。 ジャンプしたり首を回したりしている。 「ほらな?」 とヤジマ。 あたしも肯きながら、 メグ、出るんだねっ!? とこぶしを握り締めた。 短いインターバルのあと、第4クォーターが始まる。 点差は11点差のまま・・・ メグッ! 頑張って!! ―――それにしても、バスケの試合って、なんて展開が早いんだろう・・・ 総武がゴール決めたと思った数秒後には、逆に相手チームの方がシュート決めたり・・・ それに、かなり接触多いよね・・・ あたしから見たら、格闘技だよ・・・ 相手チームが放ったシュートが決まらず、ボールがリングの上で弾む。 それに飛びつく選手たち。 やっぱり格闘技みたいで怖い・・・ 「あ、涼っ!」 ボールに飛びつく選手の中に涼が! 「取った! 行けっ!千葉っ!!」 隣でヤジマも叫ぶ。 リバウンドを取った涼がメグにボールをまわした。 相手チームはまだディフェンスの体制が整っていない! |
メグはそのままドリブルで相手をふり切り、1人でゴールを決めてしまった! 「メグ―――っ!! すごい、すごいよっ!!」 思わず立ち上がり――・・・ 慌てて座る。 ・・・・・そうだ。 こっそり来てるんだった・・・ 「やっぱ、カッケーな。 千葉のファーストブレイクは。 ただ走ってるヤツより、ドリブルしてる千葉の方がはえーんだから」 すげーよ、とヤジマが笑う。 「ありがとね? ヤジマ」 「え? なにが?」 「メグのこと褒めてくれて」 とあたしがお礼を言ったら、ヤジマはすっと笑うのをやめて、 「・・・なんで市川が礼言うわけ?」 とちょっとムッとした顔をした。 え? ・・・・・あたしなんか、怒らすようなこと言った? あたしが首を傾げたら、 「なんでもね」 とヤジマはコートに視線を戻した。 ・・・・・なんだろ? メグの速攻や、涼のゴール下の活躍で、あっという間に点差は4点差にまで縮まった。 けど残り時間も少ない。 「・・・やべーな」 ヤジマがコートを見つめながら呟く。 「残り時間少ないもんね。 でも、さっきみたいに速攻で行けばすぐ逆転出来るでしょ?」 「出来ればな・・・」 相手チームの攻撃で、総武がディフェンス側に回る。 でも・・・・・ 「・・・? なんか、急にゆっくりになったね。試合展開・・・」 「・・・相手が時間稼ぎしてんの」 ヤジマが舌打ちする。 そう言われて見てみたら、やたら相手チームがパスばかり出して、全然シュートを打とうとしない。 「下手にシュート打ってリバウンド取られたら、すぐに速攻かけられるから時間稼いでんだよ」 「そんなのズルいじゃんッ!! 反則でしょっ!?」 「24秒以内にシュート打てば反則になんないんだよ。 ボードの上に時計ついてんだろ?」 ヤジマが指差す方を見たら、確かにバックボードの上にカウンターのようなものがついていて、どんどん数字が減っていく。 どうやらあれが0になる前にシュートを打てば反則にはならないらしい。 ・・・・・けど・・・ そんなのズルいよ・・・・・ 0になる直前、やっと相手がシュートを打った。けどリングに当たっただけで入らない。それを総武の選手が拾い、メグにパスする。 「メグッ!」 「速攻警戒されてんな・・・」 メグがそのままボールを運ぼうとしたら、すでに何人かの選手が戻っていてシュートまでは決められなかった。 「セットか・・・ でも時間ねーぞ・・・」 一瞬、涼たちが戻るのを待つのかと思ったら、まだ完全に体制が整う前に、メグが中に切り込んで行った。 そしてそのままシュートを打つ・・・・・フリをして、完全にノーマークだった味方にパスを出した。 その選手が綺麗なフォームでシュートを決める。 「2点差――――ッ!!」 「スゲーよ、千葉! 全然ファウル怖がってねーよ!!」 相手チームのミスで、さらに総武にボールが渡る。 でも、今度は速攻をかけられなくて、メグがボールを弾ませながら何か叫んでいる。 けど、何を言っているのか全然聞こえなかった。 「おいおい・・・ 時間ねーぞ。 そこから打っちゃえよ・・・」 時間はラスト15秒になっている! そうだよ、メグ、シュート打っちゃってよ! 倒れるほど練習したんだから、大丈夫だよっ! それでも、まだメグはパスを回そうとしている。 でも、誰もいいポジションにいなくて、結局はまたメグのところにボールが戻ってくる。 ラスト8秒・・・ 7秒・・・ 6秒・・・ 5秒・・・ ああ〜〜〜… 神様ッ!! あたしは顔を伏せた。 怖くて見ていられない! 心臓が爆発しそうな勢いで早鐘を打っている。 「千葉ぁ―――ッ!! 打てよッ!!」 |
隣の席のヤジマが立ち上がる。 つられてあたしも思わず顔を上げたら、ちょうどメグがシュートを放った瞬間だった。 えっ!? あんな遠くからっ? とあたしが驚いたのと同時にブザーが鳴る。 「入れ入れ入れ入れ・・・・・ッ!!」 ヤジマが呪文のように呟く。「入れば逆転だ・・・」 メグは3Pエリアからシュートを打っていた。 ボールが吸い寄せられるようにリングに近づいていく。 ボールがリングに当たる。 そのままバスケットの真上に上がって・・・・・ ―――ボールはリングの外側に落ちた・・・ 「あ〜〜〜・・・」 という溜息と、それをかき消すような歓声が同時に上がる。 相手チームの選手が飛び上がる。 総武の選手は大きく息を弾ませながら、スコアボードを見つめていた・・・・・ 「〜〜〜クソッ!」 ヤジマがバスケットシューズで床を蹴る。 ――――――負けちゃったの? ホントに・・・? メグのシュート入らなかったの・・・・・? 両チームの選手が整列する。 選手たちが頭を下げる中、メグはやっぱり大きく息を弾ませながら俯いている。 ―――でも、メグ頑張ったよっ! あたし、ちゃんと見てたっ!! すごくカッコ良かったよ!!! 総武の選手がベンチに戻ろうとする。 メグも俯いたままゆっくりとした歩調でベンチに向かった。 そんなメグの肩を涼が抱く。 ちょっとだけメグが顔を上げた。 ・・・・・え? 心臓が大きく脈打つ。 ・・・・・あれ、汗じゃないよね・・・? メグの目が充血している・・・ ―――――メグが・・・・・泣いてるッ!! あたしはこっそり来てるのも忘れて、ギャラリーの最前列に駆け寄ろうとした。 そのあたしの腕をヤジマが引っ張った。 「・・・・・出るぞ」 「えっ!? だって・・・」 あたしはコートを振り返った。 「いーから、早く来いよっ!」 |
あたしが戸惑っているうちに、ヤジマはグイグイとあたしの腕を引っ張って、体育館の外にあたしを連れ出そうとする。 ちょ・・・っ!? あたし、メグに声かけたいんだけどっ!? 「ちょっとっ? 放してよっ!!」 ・・・それでもヤジマはあたしの腕を放さない。 あのパーフェクトなメグが泣いてるんだよっ!? それって相当なことだよっ!? ・・・・・励まさなくちゃっ! メグのことっ!! 「ねぇっ!? 何すんの? 放してよっ!!」 体育館を出たところで、やっとヤジマはあたしの手を放した。 「あたし、メグに・・・」 声かけたい、と言おうとしたら、それに被せるようにしてヤジマが、 「お前、たった今ここに来たことにしろ! 試合は見てない。 いいな?」 と真面目な顔をしてあたしを見下ろした。 「はぁ? なんでっ!?」 ・・・そりゃ、追試抜け出して来たのがバレたらメグに怒られちゃうけど、この際そんなことどうでも・・・ ・・・って、あれ? ヤジマはあたしが追試受けてること知らないはずだよね? じゃ、なんで・・・・・? ヤジマはちょっとだけ声を落として、 「・・・・・男が、好きな女に泣いてるとこ見られたくねーだろ?」 と体育館の方を振り返った。 驚いてヤジマを見上げる。 え・・・ じゃ、ヤジマはメグのこと考えて、あたしのコト連れ出したの・・・? ヤジマはまたあたしを振り返って、 「分かったか? 返事は?」 「う、うん・・・」 ヤジマの勢いに押され肯く。 ヤジマは真剣な顔のまま、よし、と小さく肯いた。 こんなヤジマの顔、初めて見た・・・・・ あたしが驚いたままヤジマの顔を見つめていたら、ヤジマはフッと表情を緩めて、 「・・・って、オレは落としたい女の前では、わざと泣くけどね」 と言って、またいつもみたいに笑った。 「なにそれ・・・」 「女って、意外と弱ってる男に情湧いたりすんだよ。 母性本能っての? それ」 と言いながら、やっぱりヤジマは笑っている。 さっきは見たことないくらい真面目な顔してたくせに、今度はいつもの軽いノリ。 でもそれは、メグの涙にあたしがいつまでも拘らないようにするためだってすぐ分かった。 「ヤジマ・・・ あんたって、いいヤツだね」 本当に、小学校のころのヤジマからは想像つかない。 いつの間にこんなに周りに気を使えるようになったんだろ? よく見るとヤジマって、顔も割といいし、背高いし、ノリ良さそうだし・・・・・ で、女心の研究もしてて。 ・・・・・こいつ、ケッコー学校じゃモテてんじゃないかな? そんな気ぃする。 そう思ったら、やっぱりヤジマがあたしに言い寄ってきたのは冗談じゃないかと思えてくる・・・ わざわざあたしなんか相手にしなくても、寄って来る子いっぱいいるでしょ? そんなことを考えていたら、 「んじゃ、オレに乗り換える?」 とヤジマがあたしに顔を寄せてきた。 「え?」 ヤジマは真面目な顔をして、至近距離からあたしの顔を覗きこんでいる。 「カン違いすんなよ? オレ、全然いいヤツなんかじゃねーよ」 「・・・え? な、なに?」 意味が分からなくて戸惑っている間に、ヤジマはまたいつもの笑顔に戻った。 「・・・千葉に言っといて。 チャンスがあったらいつでもブレイクするつもりだって」 と言いながらヤジマは体育館の方に走って行ってしまった。 ヤジマ・・・・・ どういう意味だったんだろ? なんか真面目な顔してたし・・・ 「オレ、全然いいヤツなんかじゃねーよ」 なんて言ってたけど・・・ ・・・・・もしかして、褒められたから照れてるのかな? でも、今日はヤジマのことちょっと見直しちゃったよ。 いつもヘラヘラしてる感じなのに、ちゃんと他人のこと真剣に考えられるヤツなんだなぁって・・・ ―――これで、あのお母さんがいなかったら、本当にモテモテじゃない? せっかく彼女出来ても、あのお母さんが相手じゃね・・・ すぐに逃げられそう・・・ ヤジマの姿が完全に体育館内に消えてから、あたしも体育館に向かった。 |
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