パーフェ☆ラ 第2章
B 売られたケンカ
恭子と別れたあと教室に戻ったら、涼は席についてコミック雑誌を読んでいた。 「涼!」 「ん? なんだ、真由か」 「ちょっと話があんだけど? こっち来て」 一応クラスの女子の誤解は解いたけど、やっぱり気になるみたいで、あたしと涼が話しているとチラチラといった視線を感じる。 内容も内容だし、場所を移動して話したほうがいいよね。 「なんだよ? 次のデートの約束か?」 涼はニヤニヤ笑いながらあたしの反応を楽しもうとしてる。「ここで話してもいーじゃん」 こいつっ!! ・・・いかんいかん。 ここでムキになったら、こいつの思うツボだよ。 あたしはわざとらしく涼に笑顔を向けると、 「いいよ? ここで話しても。 ・・・恭子のことだけど!」 とサラリと言ってやった。 不意をつかれて顔を赤くする涼。 ―――ビンゴ! 「・・・なんだよ、話って・・・」 昼休みの残り時間が少なくて、あたしたちは仕方なくベランダで話すことにした。 「時間もないし、ストレートに聞くけど・・・ 涼、恭子のこと好きなの?」 さっき赤い顔をしてあたしを睨んでいた涼は、もういつものペースに戻り、 「恭子? オレが? 誰が言ってんの?そんなこと。 しっかし、次から次と噂が絶えねークラスだな?」 と笑っている。 「噂じゃないから! あたしが勝手に思ってるだけ」 「・・・真由の妄想にオレを付き合わせんなよ」 と涼は教室に戻ろうとする。「話なら、もっと笑えるやつにして?」 「ちょっと、待ってよ!」 「なんだよ?」 涼が振り返る。 「お笑い好きかなんか知らないけど、こっちは真面目に話してんだからねっ!? そんなんだから、恭子だって・・・」 涼が自分のことなんか気にかけてないって思っちゃってるんだよ! あたしがそこまで言いかけたら、 「お前・・・ まさか、恭子に余計なこと言ってねーだろーな?」 と涼が凄んできた。いつもの笑いモードが消えている。 「よ、余計なことって・・・ うわっ」 いきなり涼があたしを抱きすくめてきた。 く、苦し・・・ 顔面が涼の胸に圧迫されて息が出来ない。 「・・・真由の好きな男って、誰?」 「ンンッ?」 「言ってたじゃん、さっき。 好きな人に誤解されたくないって。いるんだろ?教えろよ?」 意地の悪い声が頭上から降ってくる。「ヒトのことばっか言ってないでさ? オレだって協力してやるよ?」 ウソつけっ! 絶対 茶化して遊ぶつもりに決まってる!! 「い、いないっ! さっきのは、ウソだもんっ!!」 「言うまで放してやんない」 涼が腕に力を込める。「真由の好きなヤツってこのクラス? さっさと言わないとこうしてんの見られちゃうんじゃね?」 あたしたちが話してたのはベランダの端のほうだったから、教室からは死角になってるんだけど・・・ いつ誰かがベランダに出てくるとも限らないっ! 「ふ、ふざけないでっ!」 あたしは慌てて涼から離れようともがいた。「いい加減に―――・・・」 「おい。いい加減にしろ」 |
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急にあたしの身体が自由になった。驚いて振り返ると、後ろにメグが立っていた。 メグはあたしの背後から腕を伸ばして、涼の手を掴み上げている。 そのメグを睨みつけている涼。 メグはちょっとだけあたしに笑顔を向けて、 「市川さん。 もう教室入りな?」 「え・・・ う、うん」 ベランダに涼とメグを残したまま、慌てて教室に戻る。 ―――・・・フリをして、ベランダに出る戸口の裏に身を潜める。 メグ・・・ 涼とベランダに残ったけど、何話すんだろ? 険悪なことにならなきゃいいけど・・・ 今朝の2人の言い争いを思い出し、ちょっと心配になる。 メグも、普段は大人しいけどカッとなったら予想外のことしでかしそうだしな〜 そう言えば小5のとき、あたしに水かけたバカ男子たちに1人で向かって行ったコトあったっけ・・・ ―――・・・はっ!? まさか、メグのヤツ・・・ 「おい。真由に手ぇ出すなよ?」 とか、 「アイツをかけて、オレと勝負だ」 とかとか・・・ 言っちゃう? 待って待って? そんなこと言ったら、またすぐ噂になっちゃうよ? まだ、幼なじみだってことすら隠してる感じなのに、イキナリ「オレの女」的発言したら、みんな驚いちゃうじゃん! 困るよ〜〜〜ッ!! 「真由? あんた、なにニヤニヤしてんの?」 目の前にミドリとチハルがしゃがみ込んで、あたしの顔を覗きこんでいた。 「うわっ! な、なにっ!?」 「なに・・・って・・・ こっちのセリフなんだけど? こんなところで1人でしゃがみ込んでるから、具合悪いのかと思ってきてみたら、ヘラヘラ笑ってるし・・・ なんか拾って食った?」 「く、食ってない食ってない!」 慌てて首を振る。 ・・・あたし、ニヤニヤしてた? おかしいな・・・ 困ってたはずなのに・・・ 「な、なんでもないから、あっち行ってて?」 「なんだよ? ヒトがせっかく心配して来てやってんのに・・・」 「ホントだよね? あっち行ってろって・・・」 「あ、ゴメン・・・ でも、大丈夫だからさっ?」 もうっ! ミドリたちが騒いでいるせいで、2人の会話聞こえないじゃんっ! 「真由・・・ なんか隠してるだろ?」 ミドリが凄む。 「は? な、なにを? 何も隠してなんかないよ?」 「じゃ、なんでこんなとこでニヤニヤしてた?」 「だからっ! ニヤニヤなんかしてないってっ!!」 「ニヤニヤじゃないなら、ヘラヘラだっ!! いいからさっさと白状しろよっ!!!」 ミドリがあたしの首を絞める。 「ちょっ!? マ、マジで苦しいから―――・・・」 「・・・何やってんの?」 あたしとミドリが戸口の裏で揉み合っていたら、その戸口からメグと涼が入ってきた。呆れた顔でメグがあたしを見下ろす。 「立ち聞き? ・・・じゃなくて、座り聞きか・・・ いいシュミだね?」 「あ、あの・・・っ」 メグはそのまま席に戻って行った。 呆然とメグの後ろ姿を見送るあたしに、涼がデコピンをしてきた。 「いったぁ・・・」 「・・・お前の妄想。他言無用だからな?」 あたしはおでこを押さえながら、 「・・・恭子にも?」 って、恭子には言っちゃってるんだけど。 ・・・恭子は信じてくれなかったけど。 涼がまた、あたしのおでこを弾こうと指を近づける。 「わ、分かったっ! 言わないっ!!」 さすがにバスケやってるだけあって涼の手は大きいし、指の骨は太いしで、たかがデコピンと言えど、殺傷能力は十分すぎるほどある。 あたしは慌てて首を縦に振った。 涼は、よし、と肯くと席に戻った。 ホントは涼に、 「恭子が好きな男はね、あんただよ!?」 って教えてやりたかったんだけど・・・ ま、いっか。 両想いなんだし、くっつくのも時間の問題だよね。 良かったね、恭子! 「ほらっ! やっぱりニヤニヤしてるっ!」 またミドリに突っ込まれた・・・ 翌朝。ちょっと浮かれながら登校。 恭子にも、 「やっぱり、涼も恭子のこと好きみたいよ!」 って教えたかったんだけど・・・ やっぱり、本人から直接聞きたいよね? あたしはうずうずしながらそのときを待つ事にした。 良かったね〜、恭子! 自分のことみたいに嬉しいっ! ってか、ちょっと涼にジェラシーすら感じてる・・・ だって、恭子はかっこいいし、かわいいし、一途だし、オトメだし・・・ あたしが男だったら、絶対惚れてるもん! ホントに涼でいいのっ!? とか、突っ込みたいくらい。 きっと恭子は、 「涼で、いいのって・・・・・・ あたしは、涼が、いいんだよ?」 とかって、言っちゃうんだろーなーっ! あのカワイイ顔でっ!! 涼の相手が恭子だったら、誰も文句言えないし・・・ いいな〜 恭子。 あたしも・・・ ―――早く・・・メグの気持ち、確かめたいな・・・ ホントにメグはあたしのコト、どー思ってんだろ? もう涼には聞けないし・・・ そんなことを考えながら昇降口で靴を履きかえる。脱いだ靴をしまおうと腰をかがめたら、あたしの目の前に誰か立っている。 「あんた? 市川って」 顔を上げたら、キレイにメイクした女子が3人・・・ 「は・・・? あの・・・?」 上靴がエンジ色だから・・・ 3年生だよね? 「ちょっと、こっち来て?」 と先に立って歩き出す。 あたしは、ちょっとオドオドしながら、 「あの・・・ もうすぐSHRが・・・」 「そんなの出なくたって大丈夫よ」 笑顔であたしの腕を取る3年女子。 「いや、でも・・・」 さらにあたしが渋ったら、 「・・・いいから、来いよ!」 と急に凄んできた。 こわっ!! とりあえず大人しく後をついていく。 3年女子が、上靴のまま1階の渡り廊下から花壇のあたりに出て行く。あたしもそれに続く。 ・・・もしかして、これって・・・ ミドリが言ってた「闇討ち」? 「涼に手を出すんじゃないわよっ!」 とか、言われちゃうの? あたし。 こんなことってホントにあるんだ? ―――マンガの中だけかと思ってた・・・ しかもマンガの中で主人公を脅すイジワルな女子って、主人公よりブサイクって相場が決まってるよね? お前、勘違いすんなよ? みたいな。 このお姉さま方、チョー綺麗系なんですけど・・・? そんな綺麗系お姉さま方が、こんな十人並みのあたしに・・・闇討ち? いや、闇討ちっていうのも変か。 今、朝だしね・・・ 「やっぱこの場合、朝討ちって言うのかな?」 「・・・あんた、なにブツブツ言ってんの?」 お姉さまが眉間にしわを寄せる。 「いえ・・・ なんでもないデス」 黙ってやられるつもりはないけど・・・ っていうか、やったらあたしの方が強いだろ?って感じがする。 これでも、小学校の頃は男子と対等に・・・いや、男子以上に強かったんだからね! けど、ここは一応穏便に済ましたほうがいいか・・・ もうすぐSHRも始まるし。 「おまえさぁ、なんか勘違いしてるみたいだけど。どういうつもりなワケ?」 とにかく下手に下手に・・・ 「と、申しますと?」 あたしが、先生にすら使ったことないような丁寧な切り返しをしたら、余計にお姉さまが怒り出した。 「バカにしてんのっ!?」 ・・・下手作戦、失敗・・・ 「涼があんたなんか相手にするわけないじゃんっ! 調子に乗んなっつってんだよ!」 こういうとき、マンガではどうしてたっけ? ・・・そうだ。 大抵その男が現れるんだよね。 「おい! やめろ! オレの女に手を出すな!!」 とか言って。そんで主人公が、 「あ、ありがとう」 とか言って・・・イジワル女子は逃げて行く・・・みたいな? そんな展開あるかな? ―――う〜ん・・・ 期待薄っ!! ってか、あたしと涼がホントに付き合ってないってところで、すでにマンガと違うんですけどっ!? |
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「聞いてんのかよっ!」 あたしが前に読んだマンガの内容を思い浮かべていたら、お姉さまの怒りが増してしまったみたいだ。 「はぁ・・・ 一応聞いてますけど」 あたしって妄想癖あんのかな? よくヒトの話聞きながら、別なこと考えちゃったりして突っ込まれることあるけど・・・ 「一応じゃねーんだよ! マジムカつくっ! こいつっ!!」 「あんまナメてっと、やっちゃうからな?」 「ってか、やっちゃう?」 お姉さま方がツバを飛ばしてきそうな勢いでまくし立てる。 ・・・てか、あたしなんでこんなお姉さま方に文句つけられなきゃいけないんだろ? 涼の付き合う相手があたしじゃ気に入らないってんなら、涼に直接文句言えばいいじゃんっ! しかも、ホントは付き合ってなんかないしっ!! しかもしかも、好きですらないしっ! 涼のコト!! なんか、そんなことを色々考えていたら、もの凄く腹が立ってきた。 「・・・なに睨んでんだよ?」 「売るなら買いますけど?」 「はぁ?」 「そっちがその気なら、やってやるって言ってんのっ! 大体ね、こんなことしたって涼はあんたたちの事なんか絶対好きになんないからねっ!」 涼の相手は、もう恭子で決まりなんだからっ!! 「ッ! コイツ・・・」 お姉さま・・・もとい、メス猫があたしの頬を平手で殴ってきた。そのメス猫の胸を突き飛ばす。 「きゃっ」 猫が尻餅をついた。 「2年のクセに生意気なんだよっ!!」 「1年若い分? オネエサマ?」 「テメ〜ッ!」 残りの2人もあたしの制服や髪を引っ張ってきた。 けど、負けずに応戦する。 カバン持ってて良かった・・・ これ、ケッコー武器になるよね? お姉さま方は丸腰だけど、1対3だしこれくらいハンデもらったってバチあたんないよ。 こういうのって、昔取ったキネヅカ・・・とかいうんだっけ? やっぱり、小学生時代にバカ男子たち相手に毎日ケンカしてただけあって、あたしの方がお姉さま方より強いみたい。 あたしもダメージ受けてるけど、お姉さま方だってかなりのもんだよね? あ・・・ 付けまつ毛、取れかかってますよ? 「・・・あんた、卑怯じゃん! カバンなんか使って!」 「1人を3人で囲むのは卑怯じゃないわけ? ケンカに卑怯なんてセリフ、通用しないのっ!!」 ちょっと・・・ 今のあたしのセリフ、カッコよくない? ケンカに卑怯なんてセリフ通用しない・・・ 名言じゃん!? あたしが自分のセリフに酔っていたら、 「・・・カッコいいこと言うじゃん」 と付けまつげの取れたお姉さまが髪を直しながら言った。「ちょっと、押さえてて?」 「え?」 とあたしが思ったときには、残りの2人があたしの左右の腕を取って あたしを押さえつけた。 思い切り暴れたけど、両腕を押さえられたんじゃどうしようもない。 「・・・何する気?」 付けまつ毛がスカートのポケットからライターを取り出す。 ・・・なに? ・・・まさか、だよね? ちょ・・・そんなコトしたら、シャレになんないじゃん! 「あたし、将来ヘアデザイナー目指してんだよね」 付けまつ毛がライターの火をつけたり消したりする 「・・・それが、なによ」 「この前テレビで見たんだけど、外国の・・・どこだったかな? ま、どこでもいいや。そのどっかで、火で焼いてヘアカットするって方法紹介してたんだよね〜?」 ・・・まさか、あんたそれあたしに・・・? 冗談でしょ・・・? なんとか逃げ出そうともう一度もがいたけど、やっぱり振り解けない。 「安心して? あたしまだ美容師の資格も持ってないし、カットモデルってことでタダでやってあげるから♪」 「ケッコーですっ! ・・・ってか、マジでやる気? 押さえつけてそんなことやるなんて、卑怯じゃんっ!!」 「・・・ケンカに卑怯は通用しないんでしょ?」 「―――・・・ッ!!」 言い返せなくて付けまつげを睨みつける。 「誰か―――・・・ッ ンッ!?」 助けを呼ぼうとしたら、口を押さえられた。 「・・・いい気味。 さっきまでの勢いはどこ行っちゃったワケ?」 付けまつ毛が楽しそうに笑っている。 ・・・もしかして、泣いて謝ったら許してくれるのかも知れない。 けど・・・・・・絶対こんな女に負けたくないっ! 死んだって涙なんか見せたくないっ!! そうだよっ! 焼けるもんなら焼いてみなっ!! ライター近づけてきたら、その腕に噛み付いてやるからっ!! ・・・どうせ髪なんてすぐ伸びてくるし・・・ ・・・髪が焦げたくらいで、あたしの何が変わるってもんじゃないし・・・? ・・・ただ・・・ お母さんがビックリするかも知れないな・・・ ・・・お父さんなんか、娘にヘンな夢持っちゃってるから(こんなあたしにでも)、焦げた髪見て、泣いちゃうかも・・・ ・・・・・・メグは・・・ ―――メグはどう思うだろ・・・? そんなことを考えながら付けまつ毛が持っているライターの火を眺めていたら、急に視界がぼやけてきた。 慌てて俯く。 「あれ? やっぱ、ビビッちゃってる?」 当たり前じゃんっ! ビビるに決まってんじゃんっ!! ・・・どうする? 謝っちゃう? あたしは顔を上げた。 「やりたきゃやれば? 悪いけど、そんなことされたって痛くも痒くもないからっ!」 「テメ・・・ッ!? ・・・じゃ、やってやるよっ!」 付けまつ毛が般若のような顔をしてあたしにライターを近づける。 「―――・・・ッ!!」 あたしは思わず目を閉じた。 |
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「やめろッ!!」 突然声が聞こえた。 驚いて目を開ける。 付けまつ毛たちも驚いて声の主の方を振り返る。 ・・・けれど、どこから声が聞こえたのか分からなかった。 周りには誰もいない。 ほんの一瞬あたしたちがキョロキョロしていたら、視界の端・・・上の方で何か動いた気がした。 見上げたら、・・・逆光でよく見えなかったんだけど、誰かが2階のベランダの手すりに足をかけているところだった。 え・・・ まさか・・・・・・? と驚いている間に、その誰かが2階のベランダから飛び降りてきた。
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