パーフェ☆ラ 第1章

D 体育館でのトラブル


「・・・なんだよ?」
社宅の階段を下りて来たところで、メグは眉を寄せてあたしを見下ろした。
「送ってってあげるよ」
あたしは自転車にまたがったまま、「駅まで」
と言って、後ろの荷台を指差した。
「・・・なんで?」
「足、痛いんでしょ? あたしが巻き込んじゃったせいだし・・・」
メグがあたしを見つめる。 またあたしは慌てて、
「別にっ、深い意味ないからっ! 罪滅ぼし? そ、それだけだよっ!!」
とメグから顔を背けて前を向いた。「乗るのっ? 乗らないのっ?」
って、あたしのこの言い方・・・
一昨日川原で、仲直りしようとか一瞬でも思ったのに・・・ 溜息。
「・・・じゃ、乗ってやるよ」
乗ってやる?
ちょっとムカついたけど、あたしのせいで怪我させたんだから・・・とガマンする。
メグはカゴにカバンを押し込むと、あたしの後ろにまたがって、
「・・・じゃ、ヨロシク」
とあたしの腰に腕を回してきた!
「ちょっ、ちょっとっ!?」
「あ?」
とメグは一瞬眉を寄せ、「・・・ああ。 だって、他にどこ掴まんだよ?」
と両手を広げた。
「さ、サドルとかっ?」
あたしが焦りながらそう言うと、
「サドル? ・・・いいけど・・・」
とメグが視線を下げる。「ここだと、ケツ? 触っちゃうだろ?」
「なっ!?」
―――い、今、ケツって言った・・・?
あの、メグが・・・?
「あ、明日、タンクトップとか、着てきた方がいいかもねっ」
って言うだけでも精一杯だった、あのメグがっ!?
なんとか動揺を押し隠し、
「〜〜〜いいよっ! 立ち漕ぎしてくからっ!!」
とハンドルを握って立ち上がり、駅に向かって漕ぎ始める。
漕ぎ始めて間もなく、
「おいっ! やっぱ、どこにも触んねーから、立ち漕ぎやめろっ!」
とメグが慌てたように声をかけてきた。
「は? なんで?」
立ち漕ぎの姿勢のまま、ちょっとだけ振り返る。
「なんでもいいからっ! 今すぐやめろっ!!」
メグはちょっと赤くした顔を、あたしから背けている。
? どうしたの?
「・・・掴まんないと、危ないじゃん」
「バランスぐらい取れる! ・・・とにかくやめてくれ!」
「? ・・・分かったよ」
言われた通り、座って普通に漕ぎだす。
変なメグ。
駅までの道は歩いて15分ぐらいで、自転車だったら5分ぐらいで着く。
5分なんて、あっという間だからって何も考えてなかったけど・・・
どうするっ? この沈黙っ!!
「え〜と・・・」
ペダルを回転させながら、必死に頭も回転させる。
「? なんか言ったか?」
・・・ヤバ・・・
中途半端に話し始めたから、メグも聞く体勢になっちゃってるよ!
「え〜・・・っと、あの・・・ そだっ! 今日の撮影、ヨロシクねっ!」
ナイストピック!
「ああ・・・ 放課後か?」
「うん」
あたしは勇気を出して、「・・・部長なんて、すごいじゃん」
「頼みやすかっただけだろ」
「でも、恭子が言ってたよ? 涼よりバスケセンスあるって」
「そーかねぇ・・・」
そんな話をしているうちに、駅が見えてきた。
なんか、昔みたいに話せそうな雰囲気だったから、駅に着いちゃったのがちょっと残念なような気が・・・
「ちゃんと駐輪場に止めてけよな。 放置してくなよ?」
「分かってるよっ!」
駅前でメグを降ろして、高架下の駐輪場に行こうとしたら、
「じゃあな」
とメグが改札に向かおうとする。
「え?」
ちょっと? 先に行くわけ? ・・・同じ学校なのに?
「なんだよ?」
とメグが振り返る。そして、何か思い付いたように、「ああ! ・・・じゃ、これな」
メグがあたしに100円渡してきた。
ちょっとあったかい。 ・・・ポケットにでも入ってたのかな・・・
「何これ・・・」
「乗車賃」
それだけ言うと、今度こそ改札に向かって行ってしまった。
乗車賃・・・?
渡された100円を見つめる。
―――なめないでよっ! そんなのが欲しくてやったわけじゃないよっ!!
それに、足っ!! 平気なんじゃないのっ!?
やっぱり、ムカつくっ! あいつっ!!
ムカつきながら駐輪場へ向かう。
あたしも普段は歩いて駅まで行くから、この駐輪場を使うのは初めてだった。
まず入り口がどこなのか迷ってしまった。
これ・・・ 入り口どこなわけ?
駐輪場に張られているフェンスに沿って、ぐるりと一周したところで、やっと入り口を見つけた。
もう〜 早くしないと、遅刻しちゃうよ。
慌てて駐輪場に入ろうとしたら、
「ちょっと!お金っ!!」
と作業着のような制服を着たおじさんに呼び止められた。
「は?」
「それ、契約してない自転車でしょ? シール貼ってない」
おじさんはあたしの自転車を指差して、「契約してない自転車は、1回100円だから」
「え―――っ!?」
そんなの知らなかったよっ!
もうっ! 急いでるのにっっ!!
とカバンからお財布を取ろうとして、手の中のコインの存在を思い出す。
「あ・・・・・・ はい・・・」
あたしはそれをそのままおじさんに渡した。 おじさんは自転車に緑色の短冊みたいなものを巻くと、
「じゃ、空いてるとこに止めていいから」
とあたしを中に入れてくれた。 手近な所に自転車を止める。
―――メグ・・・ もしかして、それで100円くれたの?
そう言えば、100円玉・・・ ちょっとあったかかった。
・・・もしかして、自転車の後ろに乗ってるときから、用意してくれてたとか・・・?
・・・・・・ウソッ!? ホントにっ!?
5年生の頃のような、メグの気遣いの断片が見えたみたいで、あたしは嬉しくなってしまった。

「市川さん? なんか、機嫌良さそうだね?」
放課後。カメラ片手に、津田沼と体育館に向かった。
「え? そ、そんなこと、ないよっ?」
やっぱり教室では知らん振りをしているメグだけど、あたしは朝の一件のせいか、そんな態度のメグにもなんだか今日は腹が立たなかった。
「そんなことない、って・・・」
津田沼が眉をひそめて、「だって、ニヤニヤしてるよ? 市川さん」
とあたしの顔を覗き込んだ。
「えぇっ! マジでっ!?」
慌てて顔を引き締める。
・・・ヤバイヤバイ。
うっかり、ニヤケ顔をメグに見せるとこだった。
津田沼、忠告ありがとう。
体育館に入ったら、すぐに恭子が気付いてあたしたちの方にやってきた。
「すぐ始める? あたしの方はいつでもいいけど・・・」
恭子は津田沼にではなく、あたしに向かって話かけた。
「うん・・・」
あたしが返事をしながらもう一面のコートの方に目を向けたら、
「ああ・・・ 男子はまだミーティング中」
と恭子。「昨日の練習試合のことで、ちょっと・・・」
「練習試合?」
「うん。・・・昨日、桜台高と練習試合があったんだけどね。 いつもは勝てる相手なのに、昨日は・・・千葉くんが・・・」
「えっ? メグが何っ!?」
思わず、メグって呼んじゃったけど、恭子は気がつかなかったみたいだ。
「体調悪かったみたいで、全然走れないの。スピードが千葉くんのウリなのに・・・」
それで顧問の先生からイロイロあるみたい、と恭子は教えてくれた。
え・・・ それって・・・
あたしは信じられない気持ちで恭子の話を聞いていた。
「じゃ、稲毛さん・・・女子の方だけ先に撮りますね」
津田沼がいそいそと撮影の準備を始める。
あたしは二人のそばに立ったまま、進められていく撮影をただ眺めていた。
・・・昨日、メグ、練習試合あったの? 全然知らなかったけど・・・
走れなかったって・・・・・・ あたしのせいだよね?
一昨日のバーベキューのときにあたしが怪我させた・・・から・・・・・・
バストアップを何枚かと、ランニングシュートの写真を何枚か撮って、恭子の撮影が終わった。
ちょうど男子のミーティングも終わったみたいで、顧問の先生が体育館を出て行き、今まで固まっていた輪がざわざわと崩れだす。
「じゃ、男子の方も撮っちゃおうか」
と津田沼が促してきた。
「う、うん・・・」
曖昧に肯きながら、津田沼と一緒に男子部が練習しているコートに近づく。
メグより先に、
「ああ・・・ 写真部の撮影ね」
とマネージャーらしき女の子があたしたちに気付いた。「さっさと撮っちゃってくれる? 今日はミーティングが長引いちゃって、それでなくても練習時間押してるんだから」
マネージャーは不機嫌さを隠しもしないでそう言った。そして、あたしの隣りに立っている津田沼に、あからさまな嫌悪の目線を向ける。
「あ・・・じゃボク、あっちで待ってるね?」
津田沼はマネージャーの視線を敏感にキャッチし、1人ステージの方に移動して行った。
なに、こいつ・・・ 感じ悪〜・・・
「そのカメラで撮るの?」
感じ悪い女子マネが、あたしが持っているケースに入ったカメラを指差す。
「そうだけど?」
「また、古そうなカメラね〜。 そんなんでいい写真撮れるの?」
あたしはムッとして、
「これね、ケースが傷んでるだけだから! それだけ使い込んでるってことなのっ!!」
とケースからカメラを取り出して見せた。
「へぇ! 一応一眼レフなんじゃない」
・・・一眼レフだってことは分かるんだ?
とあたしが軽く驚いていると、
「ちょっと、試しにあたしのコト撮ってよ」
「は?」
「んで、現像できたらチョーダイ」
とエッグポーズを取る。
・・・・・・冗談でしょ? フィルムがもったいない。
「ゴメン。 フィルム残り少ないから・・・」
とテキトー言ってお茶を濁す。
メグ・・・ 早く来ないかな・・・
メグは涼や他の部員と話し込んでいて、こっちに全く気付いていなかった。
あたしがメグの方を気にしていたら、
「なにケチくさいこと言ってんのよ? ちょっと貸してっ!!」
と女子マネがあたしの手からカメラを奪い取った。
「ちょ、ちょっとっ!?」
女子マネは左手を伸ばしてカメラを持ち、右手で顔の横にピースサインをくっ付け、バカみたいに舌を出して自分の顔を撮ろうとしている。
そんなの撮らないでっ! レンズが腐るっっ!!
あたしがカメラを奪い返そうとしたら、
「ん? なんかこれ、レンズ汚れてない?」
とバカ女子マネが、指でレンズを擦ろうとした。
「直接レンズ触っちゃダメっ!」
思わずバカ女子マネの手を払いのけてしまった。「あ・・・ 油分が付くから・・・」
女子マネの形相が見る見るうちに変わって行く。
「・・・たかがカメラじゃないっ! 何ムキになってんのよっ! オタク部がっ!!」
「たかが・・・?」
―――たかがカメラって言った? あんた?
そりゃ確かに、あたしが普段使ってるのはバカチョンに毛が生えたようなカメラだよっ!
ヨドバシカメラで9800円だよっ!
でも、そのカメラは津田沼がずっと貯金してやっと買った、大事なカメラなのっ!!
それに、オタクだっていい写真撮るんだからねっ!!
オタクをバカにしないでよっ!!
「・・・返してよ」
これから撮影があるって言うのに、こんなところでバカマネと揉めてるどころじゃない・・・
あたしはなるべく感情を押さえて、バカマネに手を差し出した。
「何怒ってんのよ? 返すわよ」
バカマネがあたしにカメラを突き出す。―――あたしが受け取る前に、バカマネが手を放した。
鈍い音とともに、カメラが体育館の床に落ちた。
「あっ!!」
あたしが慌ててカメラを拾おうとしたら、
「あ〜あ! ちゃんと受け取らないから・・・」
とバカマネがあたしを見下ろした。「あたしのせいじゃないわよ」
あたしは中腰のまま、バカマネを睨みつけた。
「な、何よ? なに睨んでんのよ? たかがカメラでしょ? ・・・きゃぁッ」
カメラを拾おうとのばしかけた手で、バカマネの頬を思い切り叩いた。
バカマネが頬を押さえて、
「な・・・ なに、するのよ〜〜〜ッ!!」
と泣き出した。
泣きたいのはこっちだよっ! 津田沼の大事なカメラが・・・・・ッ!!
バカマネの大きな泣き声に、体育館内で部活動をしている子たちが、何事かと振り返る。
メグもあたしたちに気が付いた。 そして、足早に近寄ってくる。
「どうした? 早坂・・・」
バカマネの名前は早坂というらしい。
メグが早坂の肩に手をかけて様子を窺ったあと、あたしにも視線を向ける。
・・・なんて言う?
・・・何から話せばいい?
カメラ壊された事? ・・・ううん。それはあたしが受け取り損ねたからだけど・・・でも、早坂 わざと手放したっぽいし・・・ でも、こんなの言い訳・・・
違う違う! こんなこと話したいんじゃないっ!
昨日の練習試合、あたしがさせた怪我のせいで負けたの?
・・・そういえばあたし、怪我させた事、ちゃんと謝ってないよね・・・?
ああ、でも、撮影! それ先に済ませなくちゃ!!
貴重な練習時間 割かせてるんだからっ!
・・・でも、カメラが・・・っ!
あたしは色んなことが頭の中でグルグルしてしまって、結局俯くことしか出来なかった。
「ああ〜んっ! 千葉くぅんっ!!」
早坂がメグの腕にしがみつく。「サエなんにもしてないのに、この人がぶったの〜!」
おいっ! サエッ!!
バカ女子マネ 早坂サエを睨み付ける。
「今度は睨んだぁ! こわ〜いっ!!」
サエがますますメグにしがみつく。
このバカに、なにか言い返してやりたいっ!
・・・けど、喉の奥が痛くて、上手く声が出せそうもない・・・
って言うか、今声出したら、泣き声になりそうで・・・・・・
「市川さん? どうしたの?」
津田沼も騒ぎを聞き付けてやってきた。そして、床に落ちたままのカメラに目を向ける。
「・・・ゴメン。津田沼・・・ 落とし・・・」
最後まで言う前に、喉が詰まった。
津田沼は、ほんの一瞬だけ眉を寄せて、
「いいよいいよ。気にしないで? これもう使ってなかったし」
とあたしを許してくれた。
「ホントに、ごめ・・・」
「いいってば。 それより、撮影やっちゃおうよ。ボクのカメラで撮ればいいし。 もう撮影始めちゃっていいのかな? 男子の部長さん?」
津田沼はメグにそう話しかけながら、あたしの背中を押して体育館の出入り口の方に促した。
あたしはもう一度、ゴメン、と津田沼に謝って、足早に体育館を出て行こうとした。
一歩踏み出すごとに、下まぶたから涙が溢れてくる。
なんで泣いてるのか・・・自分でもコントロール出来ない。
色んなことで頭がいっぱいになっちゃって、思わず目から溢れ出てきた感じだ。
体育館の外に出た途端、あたしはしゃがみ込んだ。すぐに、
「真由? 大丈夫?」
とあたしたちの様子を見ていたらしい恭子がやってきた。
「・・・あの、バカマネ・・・ 早坂に、カメラ、壊された・・・ なのに、あたしが悪者になってる・・・」
あたしはしゃくり上げながら恭子に訴えた。
絶対、メグだってそう思ってる・・・
「ああ・・・ 早坂さんね」
恭子が溜息混じりに呟く。「なんで、千葉くんも、あんな子と付き合ってるんだろ?」
「え・・・ ええ―――ッ!?」
あまりの驚きに、一瞬涙が引っ込む。
め、メグ・・・ 彼女いたの?
・・・っていうか、あのバカマネとっ??
「っていう噂よ? バスケ部の中じゃ・・・」
メグっ!! あんた、女の趣味悪いよっ!!
あたしがポケットから出したハンカチで涙を拭っていたら、
「市川さん? 終わったよ?」
と出入り口のドアを開けて津田沼が出てきた。
「あ・・・ゴメンね。 ・・・・・・ありがと」
「ボク、先行ってるから」
と津田沼は言って、「あの、よろしくお願いします」
と恭子に頭を下げて足早にその場を去って行った。
津田沼・・・!! 今日のあんた、カッコいいよ!
少なくともメグより上行ってるよっ!?
―――女の趣味だけは・・・
「津田沼ってさ、超いいヤツなんだよねっ!」
売り込んどいてあげるからね! 恭子に、あんたのことっ!!
「そ、そーなんだ」
恭子が戸惑いながら肯く。
「壊したカメラって津田沼のやつなんだけどさ、すっごく大事にしてたカメラなんだよ。それを壊したっていうのに、あっさり許してくれちゃってさ・・・ すごい心広いよっ!」
「へ、へぇ・・・」
「もうさ、背が低いとか、スポーツ出来ないとか、顔がイマイチだとか、そんなのどうでもよくなっちゃうぐらい、いいヤツなんだよ! 津田沼は!!」
「あ・・・ 真由?」
「どう思う? 津田沼?」
あたしが恭子の肩に手をかけたら、恭子はあたしの背後に目を向けていた。
「あの、真由? ・・・なんか、千葉くんが・・・用あるみたいだけど・・・」
「えっ!?」
驚いて振り返ったら、メグが腕を組んで立っていた。
「・・・なんか、ウチのマネージャーと揉めてたみたいだから・・・ オレ一応部長だし、話聞くけど?」
とメグはあたしを見下ろしたあと、「あ、恭子。部員が呼んでたよ?」
と恭子に声をかけた。
・・・オレ一応部長だし?
オレ一応彼氏だし、の間違いじゃないのっ!?
「そう・・・?」
恭子はちょっとだけ振り返りながら体育館に入って行った。恭子が体育館に入って行ったのを見届けると、
「・・・で? どうしたの?」
とメグはあたしに向き直った。「・・・って、もう大丈夫みたいだな」
「は? 何が?」
「ウチのマネージャー、ちょっと感情的なとこあるから、ダメージ受けてんじゃないかと思ったんだけど・・・」
とメグはあたしを流し見た。「もう、ノロケ話出来るほど回復してたのか」
気ィ使って損した、と言いながらメグは体育館に戻ろうとする。
「はぁ? なによ、ノロケ話って」
メグの背中に怒鳴りつける。「ノロケてんのはどっちよっ? ベタベタしちゃってバカじゃないのっ!?」
メグが振り返る。
「は? ベタベタって・・・ 誰と誰が?」
「あんたとバカマネに決まってるでしょっ!」
あたしはメグを睨み付けて、「あんたの彼女にカメラ壊されたんだからねっ! あれ、津田沼のなんだからっ! あんたが津田沼に謝ってよっ!!」
メグは眉間にしわを寄せて、
「彼女って・・・なんだよ? 知らねーよっ!?」
ととぼけて、「っていうか、たかがカメラじゃねーか! 何ムキになってんだよっ!」
逆にあたしを怒鳴りつけてきた。
・・・あのバカマネとメグがおんなじこと言った!
あたしはメグを睨み付けて、
「サイッテーだね・・・ あのバカマネも、あんたもっ!」
と言い捨てると、体育館を走り去った。
引っ込んでた涙が、また流れてくる。
今朝、一瞬でもメグがあたしに気遣ってくれた・・・なんて浮かれてた自分がバカみたい・・・
やっぱりメグはサイテーだ! ついでに、女の趣味もサイテーだっ!!
5年のときのこととか、一昨日の足の怪我のこととか謝ろうと思ったけど、もうそんなの、どーだっていいっ!!
やっぱり絶交だよっ! メグなんかっ!!

「この前の写真、出来たよ〜」
チハルがポケットアルバムを持って、あのときのバーベキューメンバーを集めた。
「欲しい写真のページに名前書いてね。焼き増しするから」
「おっ! このオレカッコ良くね?」
「あ、あたしこの涼とのツーショット買っちゃお」
「千葉くんて、写真写りいいよね?」
「はは。それってなにげに、実物は良くないって言われてるみたいなんだけど?」
みんながページに名前を書き込みながらワイワイと騒ぐ。
あたしは1人自分の席に戻ろうとした。
「あれ? 真由は? いいの?」
「うん・・・」
係が一緒だったせいで、殆どメグと一緒に写ってるんだもん・・・
そんな写真、欲しくないしっ!
この前の体育館の一件以来、あたしはまたメグを避ける生活をしてきた。
クラス替えまで、あと11ヶ月・・・
11ヶ月ガマンすれば、また元の生活に戻れるんだ。
「ちょっと・・・ 真由?」
お母さんが眉間にしわを寄せる。「勉強だったら自分の部屋でやってよ?」
ダイニングテーブルの上で宿題をやっていたら、お母さんが茶碗洗いを終えてエプロンで手を拭きながらやってきた。
「いいじゃん、別に・・・」
「よくないわよ! 勉強机があるんだから、部屋でやんなさい。・・・お母さんたち、大事な話があるから」
とお母さんがお父さんの前に座った。今日は日曜日で、いつもだったら遅くまで寝ているお父さんが、珍しくリビングでテレビを見ていた。
「―――はいはいっ! 分かりましたよっ!!」
あたしのメグを避ける生活は徹底していた。自分の部屋には寝るとき以外近づいていない。
でも、どこで宿題やる? 図書館行くのもめんどくさいし・・・
そうだ。ミドリんちでも行こうかな? この宿題 結構難しいし、あたし1人じゃ何時間かかることやら・・・
そうと決まったら出かけよ。
あたしがお母さんに一声かけようとリビングのドアに手をかけたら、
「・・・でも、郡山って・・・」
とお母さんの困ったような声が聞こえた。
「うん・・・ 新幹線で1時間半くらいだけど・・・通うのは、ちょっと無理だな」
え? 何の話?
あたしはなんとなく声をかけるタイミングを逃してしまって、ドアの後ろに隠れるようにしてお母さんたちの話を聞いていた。
「真由だって、せっかく頑張って入った高校を、転校させるのは可哀想な気もするけど・・・」
え? 転校って・・・? あたしがっ!?
「仕方ないだろ? 急に辞令が出たんだから」
え? え? お父さん?
辞令って・・・ 転勤ってこと?
郡山って・・・ あの、東北の?
あたし、郡山の学校に転校するの・・・?
「とりあえず、あっちにも社宅があるし、一度見に行ってみないか?」
「そうねぇ・・・ あたしもどんな所か一度見ておかないとねぇ・・・」
郡山の社宅って・・・
―――きっと自分の部屋で宿題出来るよね・・・
・・・だって、となりに、メグいないもん・・・


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