チェリッシュxxx 第5章
E 告白
翌朝、ドキドキしながら教室に入ると、五十嵐くんはまだ来ていないみたいだった。 ちょっとだけ安心して席についたあと、再び肩を落とす。 ―――もう、何がなんだか分かんない。 陸と成瀬先生のことも、五十嵐くんのことも・・・ ・・・昨日は、結局 どうやって陸と別れたんだっけ・・・ それもよく覚えてないくらい興奮していたみたい・・・ ただ、あたしは色んなことでいっぱいいっぱいになっちゃってて、今まで悶々と考え込んでた成瀬先生のこととか、五十嵐くんとのこととかを一方的に陸に話したことだけしか覚えてなくて・・・ ・・・そのあとは、怖くてケータイの電源も切っちゃったままだし・・・ ホントに・・・ どうしよう・・・ もう、あたし1人じゃ、どうしていいのか分かんないよ。 こういうとき、いつもだったら、1番に麻美に相談するんだけど・・・ それも出来ないし・・・ 大体、麻美になんて言う? ・・・五十嵐くんとの、キ、キスのコト・・・ あたしにとっては事故みたいなもんだし・・・・・・・・・言わなくても大丈夫かな? 五十嵐くんが何も言わなきゃ、大丈夫だとは思うけど・・・ ・・・でもあたし、普通に話せるかな? 麻美と・・・ なんでこんなことになっちゃったんだろ・・・ 2週間前の、平和な時期に戻りたい・・・ なんてことを考えていたら、当の麻美が教室に飛び込んで来た。 「結衣っ!? 来てる? 結衣!!」 「な、なな、なにっ!?」 思わず声が裏返ってしまった。 麻美はズカズカと教室に入ってくると、 「ちょっと来てっ!!」 とあたしの手を取った。 ・・・もしかして、バレたっ!? 昨日のコト・・・っ!! 「ど、どーしたの?」 麻美はあたしの手を引っ張って、走るように廊下を進みながら、 「中庭ッ!」 「え・・・? 中庭?」 そこで話つけようって・・・いうの? 麻美は前を向いたまま、 「商業科と五十嵐が・・・」 「えっ!? ・・・陸と五十嵐くんが・・・なに?」 「いいから、来てっ!」 あたしは麻美に手を引っ張られるまま、転がり落ちるようにして階段を駆け下りていった。 |
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―――中庭では、陸と五十嵐くんが息を荒くして掴み合っていた。 「・・・テメェッ! ヒトの女に手ぇ出してんじゃねーよっ!!」 「お前にそんなこと言う権利あんのかッ!?」 「・・・んだと?」 「昔の女と切れないくせに、エラソーなこと言うなって言ってんだよ!」 「うるせぇっ! テメーにゃカンケーねー事だろーがっ!!」 「あるね! ・・・そのせいで彼女が泣いてる」 陸がちょっと顔を歪めて笑う。 「・・・本音が出たな? テメーやっぱ結衣が好きなんだろっ!?」 思わず麻美を振り返った。 麻美はちょっとだけ眉間にしわを寄せて、心配そうに二人を見ている。 お、驚かないの? ショック受けるかと思ったのに・・・ ―――まさか、知ってた? 五十嵐くんの好きな人が・・・ あたしだって? ・・・そう言えば、前に、五十嵐くんの好きな人が誰だか、大体見当がついてるって言ってたけど・・・・ どうしよう・・・ あたし・・・ そんなこと知らなかったから、麻美のコト、すごい傷つけて来ちゃったよ・・・ 五十嵐くんが陸の襟首を掴み上げる。 「だったら、どーしたっ?」 「やめてっ!!」 あたしは大声を出した。二人が驚いて振り返る。「ちょっと・・・ ホントに、やめて」 「結衣?」 「村上さん・・・」 お互い掴み合ったまま、動きを止める。 あたしは一歩だけ二人に近づいて、 「・・・行こ。五十嵐くん。もうすぐSHRが始まるよ?」 「結衣っ!」 陸が鋭く叫ぶ。五十嵐くんは陸を一瞥したあと、乱暴に手を離した。 「麻美も・・・ ゴメンね。SHR始まっちゃってるかも・・・」 「ううん・・・ それはいいんだけど・・・」 と言って陸を振り返る。「・・・いいの?」 あたしも陸を振り返って、 「・・・あとで、電話する。 陸も教室戻りなよ」 「結衣っ!!」 陸にも、麻美にも、五十嵐くんにも話さなきゃいけないことがあるのに、どれからどう話していいのか分からない・・・ あたしは陸を置いて、五十嵐くんと麻美と3人で普通科校舎に向かった。 もう、とっくにSHRが始まってる時間だっていうのに、やけにゆっくりとした歩調であたしたちは廊下を進んだ。 気まずい沈黙が流れている。 教室に向かおうと階段を上がりかけたら、 「あたしちょっと、寄るとこあるから」 と麻美が廊下の方を指差した。「ゴメン。二人で先行ってて?」 「麻美!?」 麻美はあたしの手を握って、 「結衣? あたし気にしてないから・・・ とにかくさ、話しなきゃ。あたしとはその後でいつでも出来るし・・・ ね?」 と優しく笑う。あたしは肯くしかなかった。 やっぱり麻美は知ってたんだ・・・ 五十嵐くんの好きな人が誰だか・・・ |
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教室には向かわず、階段の横のちょっとしたスペースに二人で残った。 五十嵐くんは黙ったまま壁にもたれていた。 あたしもその横に立つ。 「五十嵐くん・・・ あの、これも何かの冗談?」 「これも、・・・って?」 五十嵐くんは目線だけあたしに寄越した。 「だって、前に・・・あたしが恥ずかしい勘違いしちゃったとき・・・ ホラ、1学期の期末テスト中の・・・ あの時に、違うって・・・」 五十嵐くんはちょっと笑って視線を戻した。 「あれは・・・ あのときは、商業科が村上さんに本気だと思ったから。・・・あいつら半殺しにするほど本気なんだと思ったから、譲ってやっただけだよ」 「そー・・・なの?」 そーなの、と言って五十嵐くんがまた笑う。 そんなこと言われたって・・・ いきなりで、どうしていいのか・・・ 分かんない・・・ 「あのっ、あたし・・・ こ、困る!」 「ん?」 五十嵐くんが顔を上げる。 「あたしは、陸が・・・ッ」 「あんな二股かけるような男の、どこがいいワケ?」 言葉に詰まる。 そーなんだけど・・・ でも・・・ それだけじゃないの! 麻美は五十嵐くんのことが好きなんだよ!? あたし、麻美のコト裏切れないし・・・ ・・・でも、そんなこと五十嵐くんに言えない。 「と、とにかく、ホントに困るからっ!」 あたしがそう繰り返していたら、 「・・・渡辺さんに悪いから?」 と五十嵐くんが呟くように言った。驚いて五十嵐くんを見上げる。 な、なんで・・・ 五十嵐くんもあたしをチラリと見て、 「なんで知ってるの?・・・って、思ってる?」 エ、エスパー? ―――なんで、あたしの周りって、エスパーばっかりなんだろ・・・ また五十嵐くんは笑いながら、 「村上さんって、ホントに鈍いよ。 僕の気持ちも、渡辺さんの気持ちも全然知らないで、花火大会の時なんか変な気ぃ回しちゃってさ」 ―――あの猿芝居・・・、五十嵐くんにもバレてたんだ・・・・・・ 「・・・ゴメン」 あたしは俯いた。 あたしって、ホントに無神経だよね・・・ 消えたい・・・ 「まぁ、僕も渡辺さんから見たら、鈍い男ってことになってるんだろーけど・・・」 「え?」 「・・・気持ちに応えられないんだから、気付いてないフリしてあげた方が、渡辺さんのためじゃない」 そ、そーだけど・・・ 「それに、渡辺さん。僕が誰を好きか、知ってるみたいだし・・・」 ―――なんで麻美も五十嵐くんも、・・・陸だって五十嵐くんの好きな人があたしだって知ってたし・・・ なんでみんな、相手や周りの気持ちが分かるんだろう・・・ いつからそんなふうに分かるようになったの? あたし全然分かんなかったよ・・・ あたしだけ何にも分からなくて、それでみんなを傷つけて・・・ 「なに落ち込んでんの?」 あたしが俯いていたら、五十嵐くんが顔を覗きこんできた。 「だって・・・ あたしだけ、何にも分からなくて・・・ それで、みんなを傷つけてた・・・から・・・」 「・・・ホントに鈍いよ。村上さんは」 そう言って、五十嵐くんがあたしの頭をポンポンと叩いた。 「・・・ゴメン、ね」 「いいよ、別に・・・」 と言いながら、頭に置かれていた五十嵐くんの手が頬に滑ってきて、顎にかけられる。 |
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五十嵐くんの親指があたしの唇を優しくなぞる。 そして、そのままちょっとだけ顔を傾けてあたしに近づいてきた! 「ま、待ってっ!!」 五十嵐くんの胸を押しやる。「あたしっ、まだ、陸が好きっ!!」 あたしがそう言うと、五十嵐くんは眉間にしわを寄せ、あたしから離れた。 「成瀬先生とのことがあったとしても・・・ やっぱり、キライになれない・・・」 ・・・そうだよ。 あたしまだ、陸の口から、ハッキリ話聞いてない! 昨日は、陸の不意をつくかたちで、あたしが言いたいこと言っちゃっただけだし・・・ 五十嵐くんを見上げる。 「だから、ちゃんと陸と話してくる! ・・・もしかしたら、フラれるかも知れないけど・・・」 「そのときは教えてよ」 「え?」 「・・・ちゃんと告白したいから」 メガネの奥の瞳をまっすぐあたしに向ける五十嵐くん。 「・・・五十嵐くんは、あたしなんかにはもったいないよ」 あたしがそう言うと、五十嵐くんは視線をそらしてほんのちょっとだけ笑った。 「・・・そのセリフ、もうフラれたのと同じだよ」 「え?」 「いや、なんでもない」 そこへ、 「あら〜? 二人で仲よくサボり?」 成瀬先生がやってきた。「もう1限目、始まっちゃうわよ? それとも木下先生に言っておこうか? 仲良くサボりですって?」 先生はちょっとからかうように、あたしと五十嵐くんの顔を交互に見た。 あたしは先生を見上げた。 「はい。・・・サボります」 成瀬先生と五十嵐くんが、驚いてあたしを見つめる。「ただし、一緒にサボるのは五十嵐くんじゃない。成瀬先生・・・ 先生とです!」 先生は一瞬目を見開いたあと、フッと笑って、 「いいわよ?」 「ゴメン、五十嵐くん・・・」 とあたしが五十嵐くんに視線を送ったら、 「うん。分かってる」 と五十嵐くんは肯いて階段を上りかけた。すると成瀬先生が、 「あ〜? アイコンタクトなんかしちゃって♪ ラ〜ブラブ〜♪」 とあたしたちを冷やかした。 五十嵐くんはちょっとだけ先生を睨んだあと、階段を上って行った。 あたしたちは屋上へやってきた。10月末の冷たい風が吹いている。 |
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先生は風で乱れた髪を耳にかけながら、「早くして? 寒いんだけど?」 「・・・陸のコト、返してください」 あたしも髪を手で押さえながらそう言った。 「・・・村上さん。何か勘違いしてない? あたしの方が先に陸と付き合ってたんだけど?」 「先とか後とか、関係ありません! ・・・そんなの、単に出会った順番です!」 あたしがキッパリそう言うと、先生は眉間にしわを寄せた。そのまま黙ってあたしを睨み付けている先生。 ・・・美人は、怒った顔も美人なんだ・・・ 場違いにもそんなことを考えていたら、先生はフッと表情を緩めて、 「出会った順番、か・・・ いいわね」 と呟くように言った。 「何がですか?」 「出会った順番なんて、今付き合えてれば、全然関係ないじゃない?」 先生が首をかしげる。「でもね、生まれた順番・・・まして5年も先に生まれたのって、大きいんだから」 「先生・・・?」 先生はあたしに背を向けて、フェンスの向こう側を見下ろした。 「あの・・・?」 「あたしだって同じ年だったら・・・」 「え?」 風のせいでよく聞こえない。 「せめて村上さんみたいに1年くらいの差だったら、好きって、大好きって言えたわよ! 他の子のところになんか行かないで、あたしだけ見てって言えたわよっ!!」 先生の肩が震えている。 寒いからじゃないことはすぐに分かった。 「でも、そんなこと、カッコ悪くて言えなかった。・・・陸は遊びだったろうし、言ったら絶対離れて行くと思ったから・・・ でも、大きくなる気持ちは押さえられなくて、本気になるのが辛くて・・・ だから、あたしから別れてあげたの」 ・・・そー・・・だったんだ。 あたし、なんとなく、もっと軽い気持ちで付き合ってたんだと、勝手に思っちゃってた・・・ だって、先生は大人だし・・・ もっとカッコよく恋愛してるって思ってた。 けど、先生も本気で陸のこと、好きだったんだ。 本気だから、辛くて・・・ だから別れたんだ。 5年の年の差って、あたしには想像つかないけど・・・ ・・・あたしが、中学1年生と付き合うようなもの? た、確かに気後れするかも・・・ ・・・やっぱり、話してみないと、人の気持ちって分からない。 五十嵐くんのことも、麻美のことも・・・ 先生の気持ちだって、全然分からなかった・・・ ―――でも・・・ 「でも、陸は渡せません」 あたしがそう言うと、先生はちょっとだけ笑って、 「ふふ。 村上さんって、トロいって言うか、もっと子供っぽいと思ってたけど・・・ ケッコー芯があるんだ?」 ・・・どういう意味? もしかして・・・褒めてる? それとも、イヤミ? どっちか分からなくてジッと先生を見つめていたら、 「そんな怖い顔して睨まないでよ? 安心して?」 と先生が顔の前で手を振った。「もう今日で教生も終わりだから、学校にも来ないし!」 ・・・って、外で会うんじゃ・・・? 「それに、ハッキリ言われちゃったしね。陸に」 先生が肩をすくめる。 「え?」 「昨夜、焦ったように電話がかかってきて、・・・もう亜矢とは寝ない。彼女しか抱かないって」 え・・・? 「・・・って言ったって、再会してからだって、1回も抱いてもらってないけどね」 「・・・だって、キスしたって・・・」 この前、先生だってそう言ってたよね? あたしだって、スタバの前で二人がキスしてたの見たし・・・ あたしがそんなことを言うと、見てたんだ?と先生は言って、 「アレもね、あたしから無理矢理したようなもんだから」 先生はチラリとあたしを流し見て、「あんなに拒絶されるとは思わなかったな・・・」 そ・・・ そーだったの? 「ねぇ? どんなテクニック持ってるわけ?」 「え?」 なに? テクニックって・・・ なんの? 先生が一歩引いて、あたしの全身を眺める。 「こんな子供っぽい身体で、どうやって陸のコト繋ぎ止めてるの?」 「か、カラダ・・・って・・・!?」 テ、テクニックって・・・ そういう意味っ!? 「し、知りませんっ!! って言うか、テ、テテ、テクニックなんか・・・ 持ってないしっ!!」 先生はいたずらっぽく笑いながら、 「ウソ〜! ・・・あ、そう言えば、陸 こんなコトも言ってたわね」 先生はちょっとだけ声を低くして陸の口調を真似て、「だってスゲーんだよ、結衣のテク! 何度イカされたことか・・・ もう、離れらんねーよ・・・って!」 「うっ、うそですっ! そんなのっ!!」 あたしがムキになって否定したら、先生は楽しそうに笑っていた――― 「先生〜! 本当に今日で最後なの?」 「やだよ。もっといてよ?」 午後の授業を潰して、文化祭の前日準備が進められていた。 また男子たちが成瀬先生を囲んでワイワイやっている。 あたしはこの前作っていた髪飾りをもてあそびながら、その様子を見ていた。 相変わらず大人気だね、先生。 陸とのことはあったけど・・・ きっと、先生はまだ陸のトコ好きなんだと思う。・・・なのに、あんなにきっぱりと身を引けるなんて・・・ やっぱり先生はカッコいいよ。あたしの憧れだよ。 「大丈夫だったの?」 五十嵐くんが声をかけてきた。 「ん・・・多分・・・」 そう言えば五十嵐くんって、いつもこうして声かけてきてくれてる・・・ こんなことがあるまで全然気が付かなかったけど。 五十嵐くんも麻美も、結局は成瀬先生だって、自分の気持ちは押さえていつも相手のこと考えてるんだ。 あたしもそんな風になれるかな・・・ ・・・っていうか、なりたい!! 五十嵐くんはわざとらしく眉を寄せて、 「なんだ。 揉めたらラッキーと思ってたのに」 「五十嵐くん・・・?」 五十嵐くんを睨む。五十嵐くんはちょっとだけ笑って、自分の席の方に戻って行こうとした。その背中に、 「・・・放課後」 五十嵐くんが振り返る。「放課後・・・ 麻美と話しようと思ってる」 とあたしがそう言うと、五十嵐くんは、 「・・・僕は鈍感な男、ってコトで」 と言った。 ・・・やっぱり五十嵐くんって大人だ。 麻美、見る目あるよ。 放課後、麻美と一緒に駅までの道を歩く。 「さすがに10月も終わりになると、風が冷たくなってくるわね」 麻美が両手で自分の体を抱くようにして歩きながら空を見上げる。「でも、明日の天気は良さそう」 「ん・・・ そーだね・・・」 「ね、結衣は明日何時に店番入ってるの? 時間があったら一緒に回ろうよ」 昨日までとなんにも変わらない態度で、麻美はあたしに話かける。 あたしは曖昧に肯いたあと、 「あの・・・麻美?」 「ん?」 「あ・・・あたし、なんて言うか・・・ 今まで知らないで傷つけちゃって、ゴメンね・・・」 思い切ってそう言った。麻美はちょっと首をかしげて、 「別に・・・気にしてないって言ったでしょ? 前から知ってたし・・・ それに結衣のせいじゃないじゃん?」 「そ、そうかもしれないけど・・・ でも・・・ あいたたたっ!」 あたしが俯いたら、麻美があたしの頬をつねった。「あ、麻美?」 麻美は眉間にしわを寄せて、 「そうやって、気ぃ使われるのが1番傷つくの! 今までどおり! これが一番なんだからっ!!」 と言って、それから優しく笑ってくれた。 「・・・ん」 麻美も大人だな・・・ これ、あたしだったら、絶対落ち込んでたよ・・・ やっぱり五十嵐くんに合うのは、子供っぽいあたしなんかじゃなくて、麻美だよ。 五十嵐くん、早くそれに気付いてくれるといいんだけど・・・ 「商業科とは話したの?」 「まだ」 「大丈夫なの?」 「ん・・・ 分かんない」 成瀬先生から聞いた話が本当なら・・・ 確かに先生は初エッチの相手だけど、陸はもうなんとも思ってないってことになるんだけど。 「ケータイで話すことじゃないと思うし、 ・・・やっぱり直接会って話したいから・・・ 明日かな・・・」 ふうん、と麻美は呟いて、 「どうでもいいけど、ラブラブ仲良くやってよね。商業科と」 「え?」 麻美はちょっとだけ顔を赤くして、 |
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「・・・その方が、都合いいから。あたしにとって」 と呟いた。 「え・・・?」 驚いて麻美の顔を見上げる。 「あの・・・麻美? あたし、もし、陸とダメになったとしても、五十嵐くんとそういうふうになるなんて、考えたことないよ?」 麻美は赤い顔のまま黙っている。 心配してるんだと思って、 「え、と・・・ そだ! た、タイプじゃないし! 五十嵐くん」 と気を利かせてそう言ったら、麻美はムッとした顔をして、 「・・・結衣って、ホントに男見る目ないわよね? 商業科と五十嵐と、どっちがいいと思ってんの? ・・・って言うか、比べモノになんないしっ!!」 「ちょっと待って? それ失礼じゃない? 陸だって、いいとこあるよ?」 あたしもムキになって言い返した。「そりゃ、ちょっとエッチだけど・・・」 「エッチだけど?」 「エッチだけど・・・ えっと・・・」 ―――――って・・・ ・・・陸って、エッチ以外、なんか特徴あったっけ?? あたしが口ごもっていたら、 「ホラ! 商業科はエロしかない」 「麻美っ!!」 あたしは麻美の背中を叩きながら、 ・・・良かった・・・ 麻美が友達でいてくれて・・・ と泣きそうなくらい、嬉しくてたまらなかった。 翌日は、秋晴れの文化祭日和だった。 「じゃ、村上さんは9時から12時までお当番ヨロシクね?」 泉さんがタイムテーブルのようなものを持って教室をウロウロする。 「あ! 五十嵐! あんたどこ行ってたのよ!!」 「え? トイレだけど?」 「勝手に行かないでよっ! 五十嵐もね、最初だから、店番! 9時から12時!」 分かった?と言うと、泉さんは別な人に指示を出しに行った。 「・・・相変わらず、すごいパワーだよね? 泉さん」 五十嵐くんが眉をひそめる。「自由にトイレも行けやしない・・・」 「文化祭実行委員だからね。 それに、泉さんみたいな人がいると、ケッコークラスってまとまるよ?」 まとめてんのか、かき混ぜてんのか、と五十嵐くんは呟いた。 |
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「・・・かわいいね? 浴衣」 五十嵐くんがあたしを眺める。 「どうせ、浴衣だけ!とか言いたいんでしょ? いいよ、別に」 縁日をやるあたしたちA組の女子は、みんな浴衣を着ることになっていた。 五十嵐くんはイエスともノーとも言わずに、 「それで、いっぱいお客さん、呼び込んでよ」 と言うと、持ち場に移動して行った。 お昼頃が混むのかな、と思っていたら、予想に反して午前中からかなりの人が入っていた。 「ホラ、今年は商業科も一緒だから! だからお客さん多いんだよ!」 泉さんがキャンディすくいのキャンディを補充しながら言う。 キャンディすくいって・・・ これ、成瀬先生の案なんだよね。 小さなビニールプールにキャンディやガム、ラムネなんかを入れて、ティースプーンですくうキャンディすくいには、1番行列が出来ていた。 先生の言う通り、大人気・・・ ・・・先生、どうしてるかな? 先生、プライド高そうだし、昨日もう陸には会わないようなこと言ってたから、大丈夫とは思うけど・・・ 陸とも早く話したい。 昨日の帰り、なんだか麻美と盛り上がってしまって、あのあと二人でお好み焼き屋さんに行って、さらにカラオケにまで行っちゃたんだよね。 ―――ケータイの電源切ったままなの忘れて。 陸は何回も電話をくれてたみたいなんだけど、それに気付いたの今朝なんだよね・・・ しかも昨夜遅かったせいで今朝は寝坊しちゃって、かけ直す余裕もなかったし・・・ ・・・陸、今日は1日忙しいのかな? ホストクラブやるとか言ってたけど・・・ 話す時間あるかな? 仲直りできたら、そのあと、一緒に回りたいな。 それとも、お客さんとして行っちゃう? さわやかクンにチケットももらってるし・・・ そんなことを考えながらキャンディすくいの店番を続けていたら、 「むーらかーみさん♪」 と誰かがビニールプールの前にしゃがみ込んだ。 え? と顔を上げると、そこにいたのは・・・ 「な、成瀬先生!?」 「ホラ、キャンディすくい、人気でしょ〜?」 教育実習に来ていた昨日までは殆どスーツで学校に来ていた先生が、今日は・・・ 「うっひょ〜♪ 成瀬先生じゃんっ!!」 「ナニナニ? わざわざ来てくれたの?」 クラスの男子が色めき立つ。 「うん! ホラ、あたしも少しだけど手伝ったしね。 どうしてるかなーって思って」 「チョー嬉しいよ〜っ!! ってか、今日の先生、チョーセクシーッ!!」 |
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先生は胸の開いたフェミニンなワンピースを着ていた。しかも、丈、超ミニ・・・・ あの・・・ 先生? 見えますよ? 「1回」 先生があたしに100円玉を差し出す。 あたしは黙ってスプーンを渡した。 小さな1分も持たない砂時計をひっくり返す。 「よーしっ! 100円分以上、取るわよ?」 先生はティースプーンをビニールプールに入れてキャンディをすくい始めた。 キレイな爪・・・ マニキュア塗ってるのかな? 薄いピンクに色ついてる・・・ そんなことを考えながら、先生の手元を眺めていたら、 「ビーナス」 と先生が言った。 「はい?」 「陸のクラス、ホストクラブやってるんでしょ? あたし、それ行くから♪」 と言ってあたしと目を合わす。「指名しちゃおっ♪」 「え・・・? ええっ!?」 「ああ〜ん! 終わっちゃったぁ! 残念!」 あたしが驚いた声を上げるのと、砂時計が落ちるのが同時だった。 一緒に店番をやっているマリちゃんが、先生がすくったキャンディをビニール袋に入れて渡す。 「お客として行ったら、陸だって追い返せないもんね! じゃ〜ね〜!」 先生はキャンディが入った袋を持って、教室を出ていった。 ・・・・・・なに? 今の・・・? え? だって・・・ 先生、陸のことあきらめたんじゃなかった・・・!? 指名しちゃお・・・って、・・・え? なに? 「ゴメン! マリちゃん、あたしちょっと抜けるっ!」 いても立ってもいられなくなったあたしが慌てて立ち上がると、マリちゃんはビックリして、 「えぇっ!? なに? 急に!? 困るよ、あたし1人じゃ・・・」 時計を見たら、あと15分で交代の時間だった。 ジリジリしながら代わりの子が来るのを待つ。 ホストクラブって・・・何やるんだろ? お酒は・・・当然だけど出せないから、ジュースとか? 出して・・・ ・・・で? あと何するの? 本物のホストクラブもよく分からないのに、文化祭のホストクラブなんて、余計に分かんないよ! ちょっとッ! 早く、交代してよ〜ッ!! 交代時間を5分過ぎた頃、やっと交代の子が来てくれた。 あたしは急いで商業科校舎の方に駆け出した。 |
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