チェリッシュxxx 第3章
B 陸のキモチ
正直、かなり驚いていた。 まさか、こんなところで結衣と会うなんて。 だって、これ合コンだぞ? なんで結衣が来るんだよっ!? オレも驚いたけど、結衣も相当驚いているみたいだった。 ってか、驚いていたのは最初の方だけで、段々その顔は怒りに変わって行ったんだけど・・・ ヤベーな・・・ オレの名前は今野陸。桜台高商業科の2年。 今野って名前はイマイチ好きになれない。 ま、今ココでそんな話しても長くなるだけだから省くことにする。 1ヶ月ちょっと前から、オレは同じ高校で普通科3年の結衣と付き合っている。 結衣は・・・もう、チョー可愛いっ! いつでもイチャイチャしたいし、キスしたい! 結衣は恥ずかしがってなかなかさせてくれないけど、オレは無理やりにでもキスしたりしてる。 もう、今すぐ食べちゃいたいくらい! ―――って、実はまだ食ってないんだよね・・・結衣の事は・・・ オレは、結衣と付き合う前までは、ケッコー遊んでいる方だった。 自分で言うのもナンだけど、オレは割と女ウケするタイプみたいで、こっちがわざわざ声かけなくても、女に不自由する事はなかった。 女との付き合いで、モラルやコモンセンスなんか気にしたこともないオレは、相手に男がいようがいまいが、誘われれば簡単にセックスだってしていた。 もちろん、そこに愛なんかない。お互い快楽を求めるだけのカンケーだ。 何人か特定の彼女を作ったこともあったけど、持って2ヶ月だった。 男女の付き合いなんて、オレにとってはゲームと一緒だった。 腹の内を探り、探られ、恋の駆け引きを楽しむ。 だから付き合う前が一番楽しい、と言った方がいいかも知れない。 実際に、彼氏彼女のカンケーになってしまうと、途端に興味をなくしてしまう事が殆どだった。 大抵の女がそうだけど・・・、付き合うようになると、なんで全部脱いじゃうのかな? いや、服の事だけじゃなくてさ。 なんつーか・・・あけっぴろげすぎるっつーか? 隠さなさすぎ? こっちとしては、もうちょっと謎の部分が欲しいわけ。見せないでって。 よく女は、 「付き合う前は、色々してくれたのに〜。彼氏になってからは、なーんもしてくれない」 とかって言うけど、オレたち男に言わせりゃ、そりゃ、お前たち女の方だろうよっ!と言いたい。 ファッションやメイクに気合を入れてるのはいいんだけど、それは見えないところでやって欲しいんだよな。 付き合う前はリップ直すだけでも洗面所に行ってたくせに、目の前でメイクすんなよ。 それに、一緒にいるときに、ずーっと鏡見てたりされると、 「オレの顔より、テメーの顔かよっ!?」 と突っ込みたくもなる。 別にね、いいんだよ。そんな派手なメイクしなくっても。ガングロパンダメイクするぐらいなら、何もしない方がまだいい。 シャワー浴びて出てきたときに、 「だ、誰だよ?」 って言いたくなるぐらいのメイクは、本当に止めて欲しいし。 あとね、タバコ! これも嫌だね。 オレも吸うけど、彼女には絶対吸って欲しくない! 付き合う前は気を使って吸わなかったんだろうけど、彼女になった途端、スッパーとやられると・・・もう、最悪。 抱きあった後に、オレのタバコから、 「1本ちょうだい」 なんて言われると、ドン引きだよ。 あ、隠れて吸ってても分かるからね。 キスしたときなんかバレバレだし、いくらブレスケアとかしても髪や洋服に付いた匂いで分かっちゃう。 それでも、ちょっとつまみ食いするぐらいの相手だったら、別にそんな事気にしないんだけどさ・・・。 まあ、オレが遊び人に見えるからか(実際遊んでるけど)、オレの周りには、得てしてそういう女が寄って来ることが多かった。 そんな感じで、彼女はいないけどセフレだったらたくさんいるって状態のときに、結衣と出会った。 結衣は、とにかく、何もかもが新鮮だった。 オレが知ってる女とは全く違うタイプ。 きっと、男と女の駆け引きなんてしたことないだろうな。 だから作ったところが全然なかった。天然だった。 オレたちは最悪な状況で出会った。 なんと、オレが体育用具室で別な女とヤッてるとき、そこに結衣がいたんだ。 イヤ、知らなかったんだけどね。終わるまで。 オレ人前でヤルとか、そっちの趣味はないから。 まー、見られちゃったもんはしょうがないと思ってたら、見られたこっち以上に結衣が真っ赤になっちゃってて・・・ まるで完熟トマト状態。 それでからかったら、殴られた。最低とか低俗とか罵られもした。 ま、普通科の真面目な女の子の反応か、とか思ってたら、どうやら結衣はその普通科の中でも、さらにお子様だったようだ。 オレより年上のくせに経験値が低いから、簡単にエンコーオヤジに引っかかったりもしていた。 それをオレが助けたせいなのかどうかは知らないけど、今度は結衣がオレをかばってくれた。 あの時は衝撃的だった。 今までオレは女にかばってもらった事なんか、1回もなかったから。いや、男にだって・・・ないな。 オレは商業科ってせいで、テコンドーに無実の罪を着せられそうになってたんだけど、そのテコンドーに結衣がたてついてくれた。 実はオレたち商業科は、どうしようもない、ロクでもないと言われ続けていた。教師もオレたちに何かあると、 「これだから商業科は・・・」 ってぼやくことが多かった。 あのタバコの1件のときだって、ギャラリーにいたのが普通科のヤツだったら、テコンドーだって疑っていなかったに違いない。 学科カンケーねーだろうよっ!? 個人を見ろよって言いたいけど・・・・・、まぁ・・・個人を見てもらったって大した事してないんだけどな。 でも、結衣は違った。 ちゃんとオレを個人として見てくれた。 もうね、なんか、その時点ですでにオレ舞い上がっちゃってたのかも。 半ば強引にオレの彼女にしちゃった。 で、いつものオレだったら、即食いなんだけど、なんか結衣にはなかなか手が出せなかった。 いや、冗談にして襲うフリとかはした事あるけど、なんだか・・・抱いたら壊しそうで怖かった。 1回だけ、マジでヤバかった時があった。 ノーブラの結衣と、体育用具室で2人きりになったときだ。 なんでノーブラだったのか、結衣は必死になって言い訳していたけど、今となってはその理由はよく覚えていない。ってか、そのときのオレに、理由を聞いてる余裕なんてなかった。 ちょうど、結衣の元カレの問題だとかが解決した後で、結衣に、 「あたしが好きなのは、陸だからっ!」 と言われた直後だったから・・・余計に・・・ 湧き上がる欲情を押さえ切れなくて、体育用具室だっていうのに結衣に襲い掛かってしまった。 (なんか、体育用具室でばっかヤッてるように思われそうだな・・・) 最後までする気はなかった。 ただ、結衣の身体を見てみたかった。 少しでも触ってみたかった。 ほんの少しだけ(いや、オレにしてみれば少しだけなんだけど。シャツの上からだったし。でも、結衣にしたら大変なことだったみたいだ)結衣の身体に触ったら、驚くほど敏感に反応して、オレの脳を揺さぶった。 結衣の吐息を聞いたら、理性のタガは簡単に外れてしまった。 怯える結衣をなだめすかして、上半身を裸にした。 恥ずかしさと、恐怖からか、結衣はほんのりと身体を上気させ、身を竦めていた。 オレは言葉を失って、しばらく結衣の身体に見惚れていた。 うっすらと血管を浮き上がらせた、日に焼けてない白い肌。 オレの視線から逃れるように顔を背けていたせいで、余計に色っぽく見える、首筋から鎖骨のライン。 その下には、オレの手にすっぽりと収まりそうな、小振りだけど形のいい2つの丸い膨らみ。 その膨らみの頂点で、桃色に色づき震える小さな蕾。 ・・・なんなんだよ・・・ こんなの見たコトねーよ・・・ あの時は、本当に、頭がイカレてしまいそうだった。 脳ミソは沸騰直前で、もう結衣が泣いても喚いてもこのまま押し倒してしまおうか、という状態にまでオレは追い詰められていた。 あの時、風紀の川北が来なかったら、本当にどうなっていたか・・・ 結衣を抱きたいとは思うけど、やっぱり初めてが体育用具室ってのは・・・・いただけないだろ? どうも、結衣は元カレのアキヒコと、そこまでの関係じゃなかったみたいだ。 だとしたら・・・・・ 全くの初めてなわけで。 オレがあの結衣の身体を開拓するのかと思うと、もう叫び出したいくらいの衝動が襲ってくる。 結衣と付き合い始めてからも、何人かの女に声をかけられたが、テキトーに流して相手をしなくなった。 基本的に、モラルやコモンセンスなんて、というスタイルに変わりはないけど、とにかく結衣を泣かせるようなコトだけはしたくなかった。 付き合い始めた頃の結衣は、オレが他の女とも遊んでるんじゃないかと疑っていたようだ。 まぁ、カレシ持ちの女と、体育用具室でヤッてるところ見られてんだから、そう思われても仕方ないけど・・・ |
まぁとにかく、身持ち固くなったワケ。オレ。 そんなオレに、同じクラスのジュンが、 「陸! 今度の土曜日、合コンな」 と声をかけてきた。「年上だからイケるかも知んねーぞ?」 「マジで?」 と条件反射のように返事をしてから、「あ〜・・・でも、やっぱ、止めとくわ」 「なんで?」 「彼女泣かしたくないから」 オレがそう言うと、ジュンは一瞬目を見開いたあと、笑い出した。 「何それ? 今の陸のセリフ? ホントに?」 「なぁ?」 オレも一緒になって笑う。「マジ、ウケるよなぁ?」 「ウケるウケる!」 ジュンは腹を抱えている。「 ―――ってか、いいから来いよ!」 「あー・・・」 オレが言いよどんでいると、 「お前入れろってご指名だからさ。1次会で帰っていいし。それまでになんとかするから」 なんとかするって・・・、1次会の最中でお持ち帰りすんのか。 「んじゃ、行くけどさ。ホントに1次会で帰るからな?」 「・・・ちょっと、マジでどうしちゃったわけ? 別に彼女いたっていいじゃん。バレなきゃ」 ジュンは、本当に不思議そうな顔をしてオレを見返した。 「・・・そーだな。じゃ、気に入った子がいたらな」 面倒だったから、テキトーにそんな風に答えておいた。 当然だけど、結衣には内緒だった。言えるわけがない。 前日の金曜日。もし、 「明日どこか行かない?」 と誘われたらどうしようと心配していたが、結衣は結衣で用事があったみたいだ。ホッと胸をなでおろす。 で、合コンに来てみたら・・・・・ 結衣がいた、と。 「なんだ。結衣の用事も合コン? 偶然だな〜」 ・・・・なんて、笑ってくれないかな? 結衣は合コンだとは知らずに参加したようだった。 はじめ結衣は、 「やっぱり他の女の子と・・・?」 と疑ってかかっていたけど、最後にはオレのことを信じてくれた。 このまま二人でバックレちゃっても良かったんだけど、なんか結衣の方の都合で、他人のフリをして1次会は出る事になった。 |
しかし、今日の結衣の格好・・・ マジ可愛くないか? スカート短けーよ。いや、長さは制服とあんま変わんないから、立ってれば全然平気なんだけど・・・ デニム生地だから、座ったときがヤバい状態だぞ? 正面のオレの席から見えてるし。他の男は誰も気付いてないから、いいけど。 思わずソファに浅く座り直して、背もたれにダラリといった感じに寄りかかる。 ・・・・・・・・白・・・ あ―――ッ! 結衣〜っ!! 早く開拓させてくれよ―――っ!! 「サイテーだね、あんた」 隣の席から声が降ってくる。「自分の彼女に、何してるワケ?」 結衣の親友だった。確か、麻美とかいう・・・ ―――ちょっと苦手なんだよな、この人。 慌てて座り直す。 「・・・どーも」 肯くように挨拶をして、「なんで、合コンなんか来てんスか?」 「別に」 「・・・あ! 知らなかったんだもんね?」 麻美は少し笑うと、 「本当に知らなかったのは結衣だけよ。あたしはなんとなく気付いてたし。だから結衣の付き添い兼・・・」 と言ってグラスの飲み物を一口飲む。「気晴らし、かな?」 「気晴らし? ―――ああ、受験勉強の?」 レモンをスクイザーで搾りながら聞く。 「―――違う」 「ん?」 「・・・好きな男に相手にされないから、その気晴らし」 スクイザーをグラスに傾けたまま、麻美の顔を見上げる。麻美は黙ってオレを見返してきた。 |
・・・なんだ? この人。 ケッコー飲んでんのか? 「・・・なんか、歌います?」 と、歌本を渡してみる。麻美はそれを無視して、 「聞けば?」 「はい?」 「あたしの好きな男の事」 「はぁ・・・」 なんだ? なんかメンドくせーことになって来たぞ? 結衣にヘルプしようと目線を走らせたけど、結衣はジュンに何か話しかけられていて、こっちに気付いていなかった。 ジュンが結衣の肩に手をかける。 おいっ! それは持ち帰り禁止だぞっ!? 「心配?」 麻美も結衣の方に目線を向ける。 「そりゃ、まぁ・・・」 曖昧に肯くと、 「あ〜あ。あたしも結衣みたいに小さく、可愛く、ボケて生まれて来たかったな〜」 「・・・どうしたんスか?」 とりあえず訊く。 オレは今までの経験から、女が話を聞いて欲しいときの雰囲気を察知することに長けていた。 はいはい。話したいんでしょ? 聞きますよ。 「あー!? 今、面倒くさそうに訊いた!」 「ははは。バレちゃった?」 麻美と駆け引きを楽しむつもりはないから、早々に話を切り上げる。 「いい性格してんね、あんた」 「センパイもね」 「ちょっとぉ〜っ!陸くんっ!!」 反対隣に呼ばれる。振り向くと、オレの目の前にグレープフルーツとスクイザーを突き出してくる。 「搾って〜」 「はいはい」 って、オレはホストかよっ!? 搾っている間中、その女はオレに話しかけていた。 「ねぇ。陸くん、渡辺さんと知り合いなの?」 「ワタナベ?」 「渡辺さん」 と麻美を指差す。麻美は反対隣の男と何やら話している。 この人、ワタナベって言うのか・・・ 「・・・いや?」 「ふうん。親しそうだったから、知り合いかと思っちゃった」 それならいいんだ、とその女は言って、「ちょっとこっち来て?」 とオレを廊下に連れ出した。 ・・・? とりあえずついて行く。 自販機が並んでいる、エレベーターホールの前まで連れて来られる。 「陸くん、彼女いないよね? こんなのに参加してるんだから」 ・・・なんだ・・・。この人、オレに気があるのか。 メンドくさいから、 「いるよ」 と答える。 「ええっ!? うそぉっ!」 「ホント。チョー可愛い彼女が」 「・・・ジュンくんが、陸には彼女いないって言ってたのに〜」 ・・・テキトー言いやがったな。 「ゴメンね?」 女は俯いた。 おいおい、まさか、泣く? ・・・なわけないか。 オレも黙って女の出方を待っていると、 「・・・して」 「うん?」 小さくて聞こえなかった。「何?」 「・・・じゃ、キスだけして。それで諦めるから」 「・・・・・やっぱり、ケッコー飲んじゃったみたいだね?」 「飲んでるけど、酔っ払ってないよ? 真面目なのにっ」 と、また俯く。 なんだよなんだよ〜。勘弁してくれよ・・・ ケータイの液晶パネルを見る。そろそろお開きにしてもいい時間だった。 「部屋戻ろ? もうすぐ時間だし」 「やだっ! キスしてくれるまで帰らないっ!」 「イズミさ〜ん?」 「もうっ! 女から誘ってるのに! 恥かかさないでよっ!!」 ちょっと前のオレだったら、なんの躊躇いもなくキスしていただろうけど・・・ よりによって、結衣のクラスメイトとなんか出来ねーよ。 みんながいる部屋の方を振り返る。 「ホントにごめんね? 彼女もいるから・・・」 「えっ!?」 |
と女が鋭い声を上げる。「あの中にっ!?」 顔を近づけて、女の唇に人差し指を当てる。 「内緒にしておいてね?マジで。 オレとイズミさんの秘密」 女って、秘密とか共有するの好きなんだよな。 なんとなく納得してくれたようだったから、女の背中を押すようにして、早々に部屋に戻る。 ドアを開けたとき、一緒に来ていたヒデから声をかけられた。 「陸、席代わって」 「? なんで?」 あれ、とヒデが指差す。結衣が顔を真っ赤にして、なにやらジュンに説教しているところだった。 なんであんなに顔真っ赤なんだよ? もしかしてさっきから飲んでたのって、酒か? ヒデがオレに耳打ちする。 「かなり飲んでて気付いてないみたいなんだけどさ。あの子、多分パンツ見えてると思うんだよね」 思わず目を見開いてヒデを見返す。「だから代わって、席」 「・・・いや、見えねーよ」 「ホントかよ? ありゃ、ゼッテー見えてんべ?」 ヒデが肩を組んでくる。オレはそれをゆっくりと解くと、 「いや、マジ見えてねーって。オレ、試したもん」 と冗談のようにしてはぐらかす。「全然見えなかった」 ふうん、とヒデが興味を失ったような返事をしたからホッとしていると、 「でもさ、とりあえず自分でも試してみてーから、やっぱ代わって」 と結構しつこい事を言っている。 |
「しつこいね」 「いいから、代われって」 「やだよ」 「・・・あっ!?」 ヒデが、急に良い事を思いついたという目になる。 「・・・なんだよ」 「やっぱ、見えてんだ?」 と言って、オレの耳元に口を寄せてくる。「もしかして、それで今イッパツ抜いてきた? ズルイよ、オレにも・・・」 ヒデは最後まで言うことが出来なかった。 気付いたらオレは、ヒデの事を思い切り殴っていた。 |
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