チェリッシュxxx 第3章
C 麻美と陸が・・・付き合ってる!?
「ねえ、村上さん・・・」 月曜日の朝。 教室に入るなり、泉さんが声をかけてきた。 「あ・・・、おはよう。なんか、土曜日大変だったんだって?」 「もう、大変なんてもんじゃなかったよ! 村上さん爆睡しちゃってて知らないだろーけど・・・」 「ねぇ、一体何があったの?」 土曜日の帰り、麻美に大体の事は聞いたんだけど、麻美も原因が良く分からないみたいで困った顔をしていた。 陸に電話しても、 「あの程度のコト、しょっちゅうやってるよ。なんでもないよ」 とか言ってるし・・・。 「・・・・・なんか、商業科の子たちで、ケンカ始まっちゃったって聞いたけど・・・」 「そう! もうね、凄かったんだから〜! ヒデくんは陸くんに馬乗りになって殴りかかるし、マリは泣き出しちゃうしで・・・」 「何が原因だったの?」 麻美もそれは分からないと言っている。 泉さんは周りを見渡して、ちょっと声を潜めた。 |
「・・・多分なんだけどぉ」 「うん」 「・・・原因は、渡辺さん」 えっ!? 麻美が!? どういうこと? 「あたし、あのとき、少しだけ会話が聞こえちゃったんだけどぉ。なんかね、陸くんとヒデくん、席代われとかなんとか、そんなことでケンカ始まっちゃたんだよね〜」 「そー・・・なんだ。・・・でも、それと麻美とどーいう・・・?」 「これも多分なんだけどぉ・・・」 と泉さんはさらに声を潜めた。「渡辺さん、陸くんと付き合ってるよ」 「・・え? ええ―――ッ!?」 「って、やっぱり村上さんも知らなかったの?」 ・・・ちょっと、待って? どーゆー話になっちゃってるの? 「あたし、隣に座ってたんだけど、なーんかあの二人知り合いっぽそうだったんだよね。はじめ陸くんに聞いたらしらばっくれてたけど。後から結局、彼女だって」 泉さんは、彼女がいるのに合コンなんか参加しないでよね〜、と文句を付け足した。 「え?・・・直接聞いたの?」 「うん。陸くん、あたしにそう言ったよ。誰も知らないから、内緒にしておいてくれって」 ・・・・なに? 何がなんだか分かんない。 「で、ヒデくんが席代われって言ったときに、やだって事になったんじゃないかな?男の子たち、結構酔ってたでしょ?心配だったんじゃん?彼女に何かされそうで」 ・・・絶対、なにかの間違いだよ。 ・・・・・泉さん勘違いしてない・・・? 「って、村上さんも危なかったんだよ〜! あそこでケンカ始まってなかったら、絶対ジュンくんに連れてかれてたよ?」 麻美と陸が・・・? 絶対、ありえないっ! 「でも、ジュンくんもさわやか系で結構イケてたよね〜」 大体麻美、陸のこと良く思ってなかったよ? 陸だって・・・ 二人、犬猿っぽかったもん・・・ 「陸くん狙いで行ったんだけどさぁ。でも、ジュンくんもいいよね?」 やっぱり、本人に聞いてみよ。 「もし村上さんジュンくん狙いじゃないなら、あたし行ってもいい? 陸くんは・・・渡辺さん相手じゃ諦めるしかないから〜。マリも陸くんが良かったみたいなんだけど、諦めるって。悔しいけど、あの人綺麗だし、お似合いだもんね。陸くんと」 「はぁ?」 陸は素っ頓狂な声を上げた。「なにそれ?」 「・・・泉さんの話では、そういうことになってるよ?」 昼休み。 メールではやり取りし切れなくて、あたしは体育館の裏に陸を呼び出していた。 「オレと、あの人が付き合ってるって?」 「・・・うん。ケンカの原因もそれだって・・・」 陸は困惑した顔をしながら、なんでそんな事になってんだ?と呟いた。 「―――陸が直接言ったんでしょ? 泉さんに」 「は?」 「オレは麻美と付き合ってるって・・・」 「へっ!?」 |
陸の動きが一瞬止まる。それから、「言ってない言ってないっ!」 と慌てて手を振る。 「でも・・・」 「勘違いしてるよ、彼女」 あたしが目で問いかけると、陸はちょっと困ったような表情で話し出した。 「イヤ・・・、実はさ。色々あって、イズミさんに迫られてたの、オレ」 「迫られてた?」 「うん。キスしてくれって」 「っ!? したのっ!?」 「するわけないだろ? 彼女がいるから出来ないって断ったの」 「それが・・・麻美ってコトになったの?」 「みたいだね。完全に勘違いだよ」 なんだ・・・そっか。 そうだよね! 麻美と陸があたしに内緒でそんなコトするわけないもん・・・ でも・・・ 「あれ? 勘違いだって分かったのに、なんかまだオチてる?」 と陸が顔を覗きこんできた。 「・・・泉さんが、麻美は綺麗だし、陸とお似合いだって」 「はぁ?」 と陸は眉をひそめて、「似合ってないでしょ? ってか、超気ぃ合わねーし、あの人と!」 「でも・・・みんなからは、そう見えるの!」 とあたしがまだブツブツ言っていると、 「別に、気にしなきゃいいじゃん。―――それとも宣言しちゃう?オレたち付き合ってるって」 そんなコト言ったら笑われそうでイヤだよ。 ・・・似合ってないって。 「・・・何? 商業科と付き合ってるって知られるの、まだイヤ?」 あたしが黙っていたら、陸が窺うように聞いてきた。 「違う違う!」 あたしは慌てて首を振って、「学科なんか気にしてない!・・・そんなことじゃないよ」 「じゃ、何?」 「・・・陸、結構人気あるんだよ?普通科でも・・・ だから、釣り合ってないって思われそうで・・・ あたしすっごく普通だし・・・子供っぽいし?」 商業科が引っ越してきて2ヶ月。最初の頃こそ、商業科を一くくりにして嫌っていた普通科の生徒も、中にはそんなに荒れてない子もいると気付き始めていた。 特に女の子は、 「普通科にはいないタイプよね♪」 と商業科でもオシャレでカッコいい男の子に目を付けたりしていた。 そんな女の子たちの話の中で、陸の名前をときどき聞くこともある。 陸は黙ってあたしの話を聞いていた。 「麻美は背も高いし、スラッとしてて美人で、陸とお似合いとか言われてるけど、・・・実は付き合ってるのがあたしだったなんてみんなが知ったら、なんて思うか・・・」 言いながら、本当に陸はあたしなんかのどこがいいんだろう、と疑問に思ってしまった。 「・・・バッカじゃねーの、お前」 ふと気付くと、陸が怒った顔をしていた。 な、なんで? お、怒ってる・・・ |
・・・くだらないヤキモチだって思った? ・・・あたしもそう思うよ。でも〜・・・ と俯いたら、陸があたしの顎をつかんで乱暴に上に向かせた。 「っ!? ゴ、ゴメン―――ッ ンッ!」 怒られるんだと思ってとっさに謝ったら、陸が強く唇を合わせてきた。 んっ・・・・・く、苦し・・・っ 息、出来な、いよっ! 陸は唇を合わせたまま、あたしを背後の壁に押し付けた。 怒ったように、陸があたしの口内をかき乱す。かすかにタバコの味がした。 「―――んっ、・・・ふっ り、陸・・・?」 ど、どうしちゃったの? 普段のキスも決して優しいキスじゃないけど、今日のは特に激しすぎてあたしは立っていられなくなってしまった。 も、ダメ―――・・・ 足が震えて、しゃがみ込みそうになったとき、陸があたしの膝を割って自分の足を入れてきた。 頭も抱え込むようにされていて、陸から身体を離すことが出来ない・・・っ 抵抗しようにも、陸の激しいキスのせいでその力も出せなかった。 ・・・た、立ってられないよ――― 陸、あ、足、どかしてよ・・・っ! 腰に回されていた陸の手が、スカートの裾の方に下りてきた! ま、まさか、この前の続き、しようとしてるっ!? こんなところでっ!? ウソでしょ!? ちょっと、待って! あたしが焦りまくっていると、突然、昼休み終了の予鈴が鳴った。 ちょうど頭上にスピーカーがあって、予想以上の音量に陸が驚いて唇を離した。 「・・・り、陸・・・?」 肩で呼吸をしながら、陸を窺う。陸の顔がもの凄く至近距離にあった。 「―――今度、そんなつまんないコト言ったら、学校だろーと、どこだろーと、今以上のコトするからな?」 陸は真面目な顔で囁くように言って、それからやっと笑ってくれた。 「・・・う、うん」 「それにしても・・・」 陸はスピーカーを見上げ、「なんで、いつもいいとこで、ジャマが入るんかね?」 と舌打ちしながら身体を離してくれた。 た、助かった・・・ 陸と付き合い始めた頃、あたしは自分に自信がなくて、 「こんなあたしと、陸が本気で付き合いたいなんて思うわけない」 と陸の気持ちを疑っていたことがあった。 それを陸に話したら、 「自信なんかいらないよ。オレは結衣が好きなの。結衣だから付き合いたいの! ―――これ以上そんなコト言われたら、そんなにオレの気持ち信じられないのかとか思っちゃうよ」 と怒られたことがあった。 怒られたけど・・・ 嬉しかった。 それ以来、陸の前で、 「あたしなんかのどこがいいの? 本気なの?」 的な話はしちゃいけないことになっていた。 校舎の方に戻る途中で、 「そう言えばさ、あの人、好きな人いるんだってね」 と陸が思い出したように言った。 「え? あの人って・・・もしかして麻美?」 なぜか麻美も陸も、お互いのこと名前で呼ばないんだよね。あの人、とか、商業科、とか呼び合ってる。陸は、五十嵐くんのことなんか、テコンドーって呼んでるし・・・ 「うん」 「うそぉ!」 「ホント。この前の合コンのときにそー言ってたよ」 「・・・誰って?」 「さぁ? それは聞いてない」 うそ・・・? 麻美に、好きな人が? ・・・・・全然聞いてないよ。あたし・・・ この前、彼氏作んないの?って聞いたときも、面倒くさいとかなんとか言ってたのに・・・ なんで話してくれなかったんだろ・・・ 思わず足が止まってしまった。 「? 結衣?」 あたしじゃ、話し相手にならない? 相談されても、することは出来ないのかな? あたし、頼りない? ―――いや、自分でも頼りがいあるとは思ってないけど・・・ ―――なんで、陸には話したんだろ? 「どうしたの? 5限目始まっちゃうよ?」 陸が振り返る。 「あ・・・うん」 胸の中に、もやもやとしたものが広がっていくのを感じた・・・ 「五十嵐くん。友達、いる?」 放課後。あたしは風紀の見回りで、普通科校舎の南側にある中庭を五十嵐くんと一緒に歩いていた。 「・・・村上さん。それって、かなり失礼な質問だよね?」 五十嵐くんが眉間にしわを寄せて、ちょっとだけあたしの方を向いた。 「じゃ、いるんだ」 五十嵐くんはちょっと間を開けて、 「それがどうかしたの?」 とまた前を向いて歩き出した。あたしも五十嵐くんと並んで歩きながら、 「じゃあさ、五十嵐くん。好きな人、いる?」 とまた質問した。 五十嵐くんはまたあたしの方を向いた。今度は眉間にしわは寄っていなかった。 ちょっと驚いたように、少しだけ目を見開いていた。 いつも、感情が読めないくらいポーカーフェイスの五十嵐くんの表情がちょっとだけ変わった。 「あ!? いるんだ〜?」 あたしは五十嵐くんに、いつも注意されるか呆れられるか、そのどっちかだったから、彼のそんな表情を見つけて嬉しくなって、ちょっとからかうように顔を覗きこんだ。 「―――だったら、どうなの?」 と、何事もなかったかのように、また前を向く。「さっさと回らないと、遅くなっちゃうよ」 「ね? 誰? クラスの子? 誰にも言わないから教えて!?」 「冗談でしょ? やだよ」 スタスタと早足で歩いていく五十嵐くんの後を、小走りに追いかける。 「冗談じゃないよ! 協力出来るかも知れないよ? ね、相談に乗ってあげる!」 急に五十嵐くんが立ち止まった。すぐ後ろを追いかけていたあたしは、勢いで五十嵐くんの背中に手を付いた。 |
五十嵐くんが素早く振り返って、そのままの勢いであたしに顔を近づけた。 「・・・無理」 20センチも離れていない距離まで近づいて五十嵐くんは言った。 び、ビックリした〜。 一瞬、キスされるのかと思っちゃったよ・・・ 「な、なんで?」 五十嵐くんはさらに顔を近づけた。息がかかる。 「・・・村上さんに話しても、絶対協力なんかしてもらえないから」 と言って睨むようにあたしを見つめた後、五十嵐くんは顔を離した。「そんなことより、早く回っちゃおうよ」 五十嵐くんがまた歩き出す。 絶対協力してもらえない・・・か。 やっぱり、あたしって、頼りないのかな・・・ 麻美もそう思ってる? 「・・・じゃ、質問していい?」 「―――何? さっきから・・・。 なんかあったの?」 再び足を止めて、あたしを振り返る。 「五十嵐くん、好きな子いるんでしょ?」 「・・・またその話?」 「で、友達もいるんだよね?」 「・・・失礼だね。 いるよ」 「その友達って、色々相談したり、されたりする仲?」 「―――まあね。するんじゃない?」 五十嵐くんは中庭に設置されているベンチに腰掛けた。話を聞いてくれるみたい。あたしも並んで腰掛ける。 「色々相談したりしてたのに、急に話してくれなくなっちゃうのって、どーゆーことだろ?」 「? どういう意味?」 五十嵐くんが首をかしげる。 あんまりハッキリ言ったら、あたしと麻美のコトだって、バレちゃうよね。 「・・・お、弟の話なんだけどっ! 弟の友達には好きな人がいるはずなのに、いないって言われたんだって! なんか、それで悩んでるみたいで・・・?」 「あ、そういうこと・・・」 五十嵐くんは、村上さん 弟いたんだ、と呟いたあと、考え込むような顔つきになった。 ・・・よかった。弟の話だって、信じてる・・・ |
しばらくそうしたあと、五十嵐くんはあたしの方を向いて、 「これ、僕の勝手な考えだからね?」 と前置きをした。 「うん!」 「・・・考えられるコトとしては、その友達が弟さんと同じ人を好きだとか? もしくは、弟さんの恋人を好きだとか? そんなところじゃない」 ―――え? この場合、弟って、あたしのことだよね? あたしと同じ人を好き・・・って? あたしの恋人・・・って? 「ちょ、ちょっと待って? ―――麻美が陸を? まさかっ!!」 「・・・え?」 「だって、あの二人、仲悪いよね? そんな・・・っ!? ええっ?」 「あのさ、村上さん? これは僕の勝手な考えだって今・・・・。 っていうか、―――えっ? 弟の話じゃないの?」 五十嵐くんは絶句した後、「・・・何? 村上さんたち、どうなっちゃってんの?」 と眉間にしわを寄せた。 |
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