F 球技大会
「はぁ〜… やっぱりメグはすごいよ! めちゃくちゃカッコ良かった〜!」 「オレ、チョードキドキしたよ」 「でしょ―――っ!」 「ジャンプするたびシャツの裾から脇腹が見えてさ…… 超セクシーだった〜…」 「ちょっとあんた―――ッ!!」 うっとりと目を閉じるトキワに間髪入れずに突っ込んでやる。「そういう目でメグのこと見ないでよっ!」 「しょうがないだろ! つか、さっき千葉先輩はカッコいいんだから男女カンケーなくモテるんだって言ったのそっちじゃん!」 「い、言ったけど――…」 |
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あのあとトキワと二人で体育館に飛び込んでいったらちょうどメグの試合が始まったところで、体育館は想像以上の人で埋め尽くされていた。 決勝戦だからっていうのもあるけど、対戦したのがメグがいる3年1組と、学内一モテる涼がいる我が3年7組だったから。 応援は圧倒的に女子が多くて、それぞれメグ派と涼派に分かれてたんだけど、殆どの子が勝つのは7組だと思ってたみたい。 そんな予想の中…… 「それにしても、まさか船橋先輩に勝つとはなー… やっぱパーフェクトだわ、あの人」 と、なんとメグたち1組が接戦の末優勝してしまった! まさか自分たちのクラスが優勝するとは欠片も思ってなかった1組の子たちも飛び上がって喜んでいる。 ホントはすぐメグにおめでとうって言いたかったんだけど、エースアタッカーはクラスメイトに囲まれてて全然近付けなかった。 仕方がないから、騒ぎが収まるまでこうやって体育館のすみでトキワと今の試合話に花を咲かせている。 「帰りになんかお祝いしてあげよっ♪」 「ずりーよなぁ」 あたしのセリフにトキワは、「オレもせめて、おめでとうとか?言いてーけど…… 無理だな」 と視線を落とした。 「なんで? 言えばいーじゃん」 それぐらいなら許してあげるよ? 「だって殆どしゃべったことないし…… つか、オレ多分嫌われてるよ」 「え?」 殆どしゃべったことないのになんで? と聞こうとしたら、 「千葉先輩きっと、オレがあんたのこと好きだって勘違いしてるし。 そんなヤツからおめでとうとか、なんのイヤミかって思われんじゃん」 ……そうかもしれない。 確かにメグは、トキワがあたしに好意を持っていると勘違いしている。 あたしはさっきトキワから話を聞いてその勘違いに気付いたけど、メグはまだなんにも知らないんだもんね。 トキワの言うとおり、下手したら敵対視しててもおかしくないよ。 トキワの本当の気持ちも知らないで…… 好きな人に勘違いされて、それで嫌われたままなんて…… そんなの悲しすぎるよ! ……メグは絶対に譲れない。 相手が女でも男でも。 でも、3年も思い続けたトキワの気持ちも大事にしたい。 「……ねえ? 言っちゃったらどうかな? メグに自分の気持ち」 「はっ!?」 トキワが驚いてあたしを見下ろす。「……あんた、さっきのオレの話聞いてなかったの? もう二度とあんな地獄味わいたくないんだよ!」 あたしは首を振った。 「メグはあんたにヒドイことした奴らとは違うよっ! ……少なくとも、人に言いふらしたり絶対しない!」 「けど……」 「じゃないとずっと勘違いされたままだよ? 下手したら敵対視されてるかもしれないんだよ? それでもいいの?」 トキワは口をつぐんでしまった。 しばらくそうやって逡巡してから、 「……軽蔑されねーかな」 「なんで? どこに軽蔑されるようなことがあるわけ? あたし、そんなことで軽蔑するような人と付き合ったりしないけど!」 あたしがそう断言したら、トキワはフッと笑って、 「そうだよな。 あんたみたいなハチャメチャな人と付き合ってるくらいだもんな。 あんたに比べたらオレなんか大したことないよな」 とまた嫌味なことを言ってきた。 「ちょっと! せっかく人が親身になって言ってやってるのにっ!!」 あたしが腕を振り上げてトキワを叩こうとしたら、 「うおっ! 危ねぇっ!! つか、なんでまだそんなの持ってんだよっ!?」 トキワは慌てて頭を庇いながらあたしの手元を指差してきた。 「え?」 そう言われて自分の手元を眺め…… まださっきの金槌を持っていることに気が付いた。 「……忘れてた」 あたしはトキワに金槌を差し出して、「あげる。 あたし次試合だから邪魔だし」 「って、オレだっていらねーよっ!」 「遠慮しないで!」 「いらねーって!!」 お互いぐいぐいと金槌を押し付けあう。 体育館の隅でトキワとそんなことをしていたら、 「真由っ!」 とやっとクラスメイトから解放されたらしいメグが小走りにやってきた。 途端にトキワが緊張で顔を赤くする。 ……ある意味こいつは、恭子並みに乙女かもしれない。 あたしが拍手をしながらメグに、 「メグ、優勝おめでとう! さっすがメグだよね! バレーやらせてもパーフェクト!!」 とお祝いの言葉を言ったけど、メグはそれをスルーして、 「何やってんの? つか、今までどこ行ってた?」 と怖い顔であたしとトキワを見下ろした。「……もしかして、ずっとこいつと一緒だったのか?」 「えーと……」 メグが今怖い顔をしているのは、トキワのことを誤解しているからだ。 だからトキワに対するメグの誤解を解かないといけない。 けれど、どれをどう話していいのか…… とりあえず、今あたしたちが一緒にいるところから説明した方がいいよね? それからトキワの気持ちや、なんでトキワがあたしに近づいてたのか順番に話して…… 「実はね……」 と、きたろうに閉じ込められたところから話そうとしたら、 「市川さ〜ん! アップ始めるから来て〜?」 とチームメイトに呼ばれてしまった。「シュート練するよ!」 「え、あ…っ えっと……」 どうしようっ! 今まで一本もシュートが決まってないあたしがシュート練習に出ないわけにはいかない。 でも、メグに話もしなきゃならないし…… でもでも、これ以上チームメイトに迷惑かけるわけにもいかないし…… あたしがコートの方とメグとを交互に振り返っていたら、メグは眉を寄せたまま、 「……いいよ、行けよ」 とコートの方に顎をしゃくった。 バスケ部の部長をしているメグは、チームプレイの大事さをよく分かっている。 「うん…… ごめん」 とあたしはコートの方に向かいかけて、「メグっ!」 とメグを振り返った。 「あのね、トキワが話があるって!」 「は?」 メグが訝しげな顔をする。 「すごく大事な話なの! だから……ちゃんと聞いてあげて?」 「大事な話って……?」 「お、おいっ!」 メグの顔がますます訝しげになり、その後ろでトキワが慌てる。 「なんだよ? 話って……」 「それは本人から聞いて。 ……ちゃんと話すんだよ?」 あたしはトキワに肯いてみせた。 「市川さんっ!」 チームメイトが焦れたようにあたしの名前を呼ぶ。 「じゃ、メグっ! シュート決めたらご褒美! 忘れないでよっ!!」 あたしはコートに向かって走り出した。 |
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「市川さん、ちゃんと集中して!」 「ご、ごめん!」 アップをしながらもメグたちの方が気になってしまい、よそ見をしていたらチームメイトに注意されてしまった。 トキワ、上手く話せてるかな…… あたしの勝手な判断であんなこと言ってきちゃったけど…… メグも…トキワが昔言われたようなヒドイことを言ったりはしないだろうけど、絶対驚くに決まってる。 でも、驚かれても……やっぱりちゃんと気持ち伝えた方がいいと思うんだよね。 ちゃんと話せてるといいんだけど…… と背伸びをしてメグたちの方を窺おうとしたら、 「市川さん、集中してッ!」 とまた注意されてしまった…… 「とにかく落ち着いて。 ボール貰ったらゴールを見て、よく狙ってね!?」 とチームメイトがあたしの肩に手をかけた。 それに緊張で肯くしか出来ないあたし。 短いアップ時間のあと、いよいよあたしたちの決勝戦が始まった。 これが最後。 メグに教えてもらったことを無駄にしない最後のチャンス。 だから絶対に決めるっ!! ふとコートの外を見るとメグが他のギャラリーに交じってこっちを見ていた。 その隣りには遠慮がちにトキワもいる。 あたしと目が合ったメグが微かに肯いた。 その眉間が心なしか寄っている気がする。 メグ…… トキワから話聞いたのかな…… トキワが横にいるってことは、トキワが傷付くような反応はしなかったってことだろうけど…… と二人の方を気に仕掛けて、 今はそんなこと考えてる場合じゃない! 試合に集中しなくちゃ!! と、気合を入れるため両手で頬を叩いた。 「それでは、ただ今より女子バスケの決勝を行います!」 両チームとも一番背の高い子がセンターサークルに入る。 審判の上げたボールに二人が飛び上がり、どっちが弾いたんだか分からないボールが…… 「うわっ!」 いきなりあたしの目の前に落ちてきた! 慌ててそれをキャッチしドリブルを始める。 奇跡的にまだディフェンスにつかれていない! 自分の足で蹴飛ばさないように注意しながら、ドリブルでゴール下まで近づいた。 「市川さんっ!」 「市川さん、ゴールッ!!」 というチームメイトの呼びかけに交じって、 「真由っ!!!」 とメグがあたしを応援する声がはっきり聞こえた。 振り向く余裕はなかった。 大丈夫、メグ! あたしちゃんと決めるから!! メグに教えてもらったこと無駄にしないから!! カッコよくシュート決めるから…… だからよく見ててねっ!!! 本当は立ち止まってシュートしたかったけど、そんなことしてたらいつ敵に追いつかれるか分からない。 このままレイアップでいくしかない! |
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メグに教わったとおり。 力を抜いて、ボールを置いてくる感じで、ふわっと。 「真由っ!!」 ボールが手から離れる直前、またメグの声が聞こえた。 あたしの手から離れたボールは、一度ボードに当たり、そのあとリングに2度ほど当たり…… コロンとネットの中に落ちてくれた。 ……き、決まった―――っ!! 「やったっ!!」 思わずガッツポーズをする。 これが最後のチャンスだし絶対決めてやるって思ってたけど。 だけどまさかこんなにすぐ決められるとは思わなかった。 ボールがあたしの前に転がってきたのもラッキーだったし、ディフェンスにつかなれかったのはもう奇跡としか言いようがない。 しかも先取点!! 今まで何も出来なかったあたしだけど、これでやっとチームメイトに今までの恩返しが出来たよ! みんなも喜んでくれるよね!? と思っていたら…… なんだか館内がシーンとしている。 ……どうしたの? シュート決めたんだよ? しかも始まって5秒で! それとも声が出ないくらい驚いちゃった? 素人が5秒でって…… メグ…… メグはっ!? メグは喜んでくれたでしょっ!? そう思ってメグの方を振り返ったら……… メグもなんだか複雑そうな顔をしている。 え……? な、なんで…… とみんなの反応に戸惑っていたら、 「……市川さん、それ味方のゴールだから」 「え?」 チームメイトの言葉に戸惑う。 「あたしたちが狙うゴールはあっち! 今の自殺点だから!」 一瞬、何を言われているのか分からなかった。 自殺点って…… 相手の得点になっちゃったってこと? あたしの決めたシュートが…… ―――自殺点だったってこと? 「う、うそでしょ―――っ!!!」 とあたしが頭をかきむしった直後、体育館が笑いに包まれた。 「いや、話に聞くことはあったけど、生で見たのオレ初めてだわ」 「ディフェンスも唖然としてたよな」 何やってんの、あたし…… どうりでディフェンスがつかなかったわけだよ…… っていうかディフェンス以前に、敵だって驚いてたよね、きっと…… これじゃみんなに恩返しどころか、余計に足引っ張っちゃってんじゃん! メグがさっきあたしの名前呼んだのも、応援じゃなくてゴールを間違えてること教えてくれようとしてたんだ…… 「いーよいーよ! 入っちゃったもんはしょうがない。 取り返してこ―――っ!!」 チームメイトが励ましてくれたけど、余計に申し訳なさが募ってくる。 結局その後、あたしはシュートが決まらず(ていうか、打つチャンスすらなかった)、我が3年7組は8点差で負けた。 「ゴメン…… あたしのせいで……」 息を弾ませながら、肩を落とすしかないあたし…… 「何言ってんの。 8点差だよ? 市川さんの自殺点がなくても結局負けてたんだから!」 気にすることないよ、って笑ってくれるチームメイト。 みんななんて優しいんだろう…… こんなあたしに…… もうホント、情けなさすぎて涙も出てこない……… 男子バスケの決勝に出る子たちが続々と集まってきて、あたしたちはコートの外に出た。 「のど渇いた〜! 自販機行こっ!」 というチームメイトに、あたしもとぼとぼとついていく。 自分のふがいなさからか足取りが他のみんなより重い。 そのせいでどんどんみんなが先に行ってしまう。 みんなからちょっと遅れて体育館を出ようとしたら、 「お疲れ!」 と肩をつかまれた。 振り返ったらメグだった。 ……今1番会いたくない人だ。 あたしはメグから視線を外して、 「……全然疲れてない。 疲れるほど活躍してない」 とボソリと吐き出した。 メグはソフトに笑いながら、 「いや、スティールされたときとか、お前がディフェンス戻んの1番早かったよ」 「でも止められなかった……」 「ちゃんとリバウンドも取りに行こうとしてたし」 「でも、ボールにかすりもしなかったし、味方の邪魔になっただけだった……」 せっかくメグが、ないに等しいあたしのいいところを無理矢理見つけて褒めてくれてるのに、ひねくれた答えしか出来ないあたし…… ホントかわいくない…… メグはそんなあたしに笑いかけながら、 「それにシュートもカッコ良かった」 と頭を撫でてくれた。 ―――そのシュートが1番問題なのにっ!! 撫でられた手をパシと払う。 「どこがっ! 自殺点だったんだよっ!? 相手の得点になっちゃったんだよっ!? そんなシュート意味ないじゃん!!」 あたしがそう怒鳴っても、メグはソフトに笑ったまま、 「でもオレには意味あった」 とあたしの肩に両手を置いた。「たまたまゴールが違ってただけだろ? オレはお前のカッコいいレイアップ見れてスゲー嬉しかったけど?」 そう言って優しくあたしの顔を覗き込んでくる。 「でも、相手の得点に……」 とあたしがまだウダウダ言おうとしたら、メグはあたしの唇に指を当てて、 「オレには意味あるし嬉しかったっていうのに、ケチつけんなっ! 怒るぞ」 と軽くあたしを睨んだ。 メグ、優しい……… 「……メグ〜〜〜っ!!」 とメグの胸に抱きつこうとしたところで、 |
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「んんっ」 と隣りから咳払いが聞こえた。 「あんまり見せ付けないで下さい」 振り返ったらトキワだった。 トキワはメグを見上げて、 「諦めはしますけど、ショックなことには変わりないんですから」 と眉間にしわを寄せた。 メグはちょっと困ったような笑顔をトキワに向けて、 「こういうわけだから…… まぁ、気持ちは……嬉しいけど、悪い、諦めてくれ」 とあたしの肩を抱き寄せた。「オレは真由しか好きになれない。 今までもこれからも」 メグのセリフにトキワは視線を落として、 「まぁ、覚悟はしてたんで……」 とちょっとだけ笑った。 そして、 「オレの話……笑わないで聞いてくれてありがとうございました。 やっぱり先輩は最高です!」 と頭を下げた。 さらに、 「市川先輩は……もっと千葉先輩に釣り合うようなイイ女になって下さい!」 と、ニッと笑って上目遣いにあたしを見た。 「は……はぁ―――っ!?」 「じゃ、またっ!」 トキワのセリフに反応出来ないうちに、さっさとトキワは走り去ってしまった。 「なんなのよ、あいつはっ!!」 最後まで失礼なやつなんだからっ! 今度会ったらただじゃおかないからねっ!! トキワが走り去った方に舌を出していたら、 「………ビビった」 とメグが。 「え?」 「お前、あいつの……その…… アレ、知ってたの?」 メグが言いにくそうにあたしに確認する。 「ああ……」 そう肯きながら2人で体育館裏の方に移動した。 別に悪いことじゃない、とは思ってるけど、やっぱりみんなに理解してもらうのは難しいし、またトキワがヒドイ目に遭わないとも限らないから、なるべく人目につかないところで話したい。 体育館ではすでに男子バスケの決勝が始まっていて、その歓声が外にまで漏れてくる。 「……今まで好きになったのがみんな男だったってことでしょ? さっき聞いた」 あたしがそう話し出したら、メグは驚いた顔をして、 「オレ、ずっとあいつは真由に気があるんだと思ってたよ。 バスケ部にオレ見に来たのだって、オレがお前の彼氏だからだって……」 「あたしもずっとそう思ってた。 でも逆だったんだよ。 写真部に来たのだってメグの彼女のあたしに興味があったからだってさ」 メグは、そーなんだ…と肯いたあと、さらに言いづらそうに、 「いや、そういう人間もいるって知ってるけど…… 実際会うとやっぱり驚くよな。 はじめ何の冗談かと思ったよ」 「聞いてどうだった? ……キモいとか寄るなとか思った?」 本人に言わなかっただけで、もし万が一でもメグがトキワのことをそんな風に思っていたとしたら…… トキワが浮かばれない! 言いたくないって言ってたトキワにけしかけたのあたしだし…… とあたしが心配していたら、メグはちょっと上の方に視線を向けて、 「キモい……とかは思わなかったな。 とにかく驚いた。 3年前?公園でオレがあいつを助けたとかなんとか言ってたけど、オレ覚えてないし…… なんでオレ?って思ったよ」 メグの反応にホッと胸をなで下ろす。 驚きはしたけど、トキワに対してマイナスの感情を抱いたみたいじゃなかったから安心した。 「メグにはそれぐらい魅力があるってことなの!」 あたしがそう言ったらメグが複雑そうな顔をする。 「まぁ良かったじゃん! 前にメグ、自分が男から嫌われるタイプかも…みたいなこと言ってたけどさ、メグのこと好きな人もいたよ?」 「それは意味が違うだろーがっ!!」 ソッコー突っ込まれた。 ……やっぱりそう? 「それにしてもきたろうにはムカつくよねっ! 勝手にメグのケータイいじってあたしにウソメールなんか寄こして……! あたしとメグのことあそこに閉じ込めるつもりだったんだよ!?」 「オレにも呼び出しあったけど2回目だったし無視したんだよな。 まさかお前まで呼び出されてるとは思わなかった」 「来なくてよかったよ! もし来ててバレーの決勝に間に合わなかったら最悪だったもん!」 「お前が無事だったから良かったけど……」 メグには旧体育倉庫でトキワに襲われそうになったことは話していない。 トキワにも言うなって言っておいた。 余計な心配を掛けたくなかったっていうのもあるし、あたしとトキワの間でそれはもう謝罪・解決済みのことになってるから。 「やっぱあいつ、1回シメてやんねーとダメかな」 眉間にしわを寄せるメグは、きたろうへの怒りが治まらないみたいだ。 「あ、それはトキワに任せていーよ!」 「え?」 「あいつがなんとかするって」 倉庫から脱出して体育館に向かう間、メグときたろうの関係を話して聞かせたら、 「えっ!? あいつ千葉先輩にそんなことしてんのかよっ!?」 とトキワは眉を吊り上げた。 「うん。 陰湿で悪知恵が働くから証拠とか残さないんだって。 下手にかかわると面倒だしエスカレートしてくるから放っておけってメグには言われてるんだけど…… やっぱあたしがシメてやんないとダメだよね」 とあたしが腹を立てていたら、 「や、あんたが下手にかかわると余計に千葉先輩に迷惑がかかるかもしんないから、あんたは引っ込んでたほうがいい」 とトキワに言われた。 こいつは本当にメグ中心だ。 あたしがきたろうにかかわることで、あたしにまで被害が及ぶから……という心配をするんじゃなくて、メグに余計な心配や迷惑をかけるんじゃないか…とそっちを心配している。 まあ、いーんだけどさっ。 「でもあの妖怪はなんとかしないと! メグがかわいそうだよっ!」 どうしてやろう……と、きたろうをシメる方法を考えていたら、横でトキワが、 「……オレにいい考えがある」 と呟いた。 「いい考えって……なにするの? 下手したら今度はあんたにもなんか仕掛けてくるかもしれないよ?」 あたしが心配してそう聞いたら、 「要は、あいつが今後千葉先輩にちょっかい出さないようにすればいいだけだろ?」 「そうだけど……」 それが出来なくて今まで困ったことになってたんだよ? メグだって無視するしかないくらいだったのに…… トキワは肯きながら、 「大丈夫。 女にモテない不細工な男を扱うのには慣れてんだ。 プライドが高い分余計に扱いやすいかもしれない」 ―――なんてこと言ってたけど…… なにする気なんだろう? 「トキワはメグに迷惑かけてるきたろうが許せないんだって! だからなんとかしてくれるって!」 「なんとかって……」 「あいつに任せちゃって大丈夫だよ!」 ……って、あたしも本当はよく分からないけど。 でも、トキワのメグへの想いは相当なものだし、そのトキワがメグのために何とかするって言うんだから任せちゃって大丈夫な気がする。 「……トキワはさ、メグの役に立ちたいんだよ」 あたしのセリフにメグが一瞬黙る。 「やっぱりメグってモテるよね? 改めて思ったけど……」 「だから、それはもういーって…」 とメグは眉を寄せた。 「違う違う! 茶化してるとかじゃなくて! ……メグはやっぱり人間的に魅力があるんだよ。 女子にだけじゃなく男子にもそう映ってるってことなの!」 「あっそ……」 反論することに疲れたようにメグはそう呟いた。 「だからさ、あたしも頑張んなきゃって思ったよ!」 「何を」 「トキワにも言われたけどさ、もっとメグに釣り合うようなイイ女になれるように!」 あたしがそう言ったらメグがちょっと驚いた顔になった。 「新1年生女子とかでも、もうメグに目を付けてる子いるんだよ? そんな子たちに、なに〜?あの人が千葉先輩の彼女なの〜似合わな〜い…とか言われないようにさ。 そんな子たちにメグを取られないようにしないと!」 今はクラスも違っちゃってそばにいられないから、 「あたしが彼女です!」 ってアピール出来る場も少なくなっちゃったしね。 メグの部活のせいで帰りは別々だし、1年生なんか、 「千葉先輩ってもしかしてフリー?」 とか思っちゃってるかもしれない。 今年の1年ってケッコー可愛い子多かったけど…… 絶対負けないもんね! 「メグに釣り合うにはまだまだかもしれないけど…… でも、ずっとメグに好きでいてもらえるように頑張るからね!!」 とあたしがこぶしを握ったら、さっきまで疲れたような顔をしていたメグが急に笑い出した。 「あっははは! やっぱお前最高だわ!」 「えっ?」 何、急に…… あたしそんなに笑えること言った? 「メグ……? ひゃっ」 メグが急に笑い出した理由が分からなくてメグの顔を覗き込もうとしたら、いきなり肩を抱き寄せられた。 メグは笑顔のままあたしに顔を近づけて、 「どっち先にしようか?」 「えっ? な、なにが?」 意味が分からなくて聞き返したあたしに、メグは、 「お前がシュート決めたご褒美か、オレが優勝したご褒美か」 「え? あんなシュートでもご褒美くれるのっ?」 「あげるよ」 メグが優しく微笑む。 え…… あたしがシュート決めたら「夏休みのお出かけ」だったよね? 夏休みにお出かけっていったら、旅行のことだよね!? うわ〜〜〜ッ! 修学旅行はみんな一緒だったし、いやそれどころか、ケンカしててロクに口も利かないまま終わっちゃったし。 去年のクリスマスに一泊で出かけたけど、あのときも色々あって2人きりになれなかったから…… ホント嬉しいっ!! え〜… どこにする? いくら夏休みだからって課外とかあるしあんまり長期は無理だよね。 せいぜい2〜3泊とか? それにお金もないからあんまり遠くには行けないし、メグと2人っきりになれるんならどこでもいいんだけどさ。 まあ、夏休みまでまだあるし、ゆっくり考えればいっか…… ―――って、あたしってば、自分が貰うことばっかり…… シュート決めたとはいえ自殺点のあたしなんかより、優勝したメグへのご褒美が先じゃんねぇ!? ……ってそういえば、メグが優勝したときのご褒美って……なんだっけ? とあたしが考えていたら、 「いや? やっぱお前の方が先か?」 とメグはちょっと考えるように視線を上げた。 「え? いいよいいよ! 優勝したメグの方が……」 先だよ、と言おうとしたらメグは、 「お前へのご褒美は『その先』まであるキスで、オレへのご褒美は『コツ』の続きだもんな。 やっぱ順番的にお前の方が先!」 とソフトに笑いかけてきた。 ……え? その先まであるキス……? コツの続き……? た、確かに、さっきあたしが落ち込んでそれでメグがキスしてくれたとき、別れ際にメグそんなこと言ってたけど…… あたしは、 「その先まであるキス」 なんて言った覚えないよっ!? 「な、なにそれ―――っ!? あたしそんなこと言ってないよっ!? っていうか、それってどっちも結局……ッ!!」 そこまで言って慌てて口をつぐんだ。 メグはやっぱりソフトに笑ったまま、 「結局……何?」 とあたしの顔を覗き込んでくる。 そんなメグを睨んで、 「……エロッ!!」 と言っても、 「え、何が? オレ何も言ってないけど? お前が勝手に想像しただけだろ? ……つか、ナニ想像したわけ?」 と意地悪な切り返しをしてくる。 〜〜〜またからかわれたっ!! 「もういいっ! ご褒美なんかいらないっ!!」 とメグから顔を背ける。 メグはそんなあたしを抱き寄せて、 「オレは欲しいんだけど、ご褒美」 と唇を近づけてきた。「……つか、真由が」 「え…… んっ!」 メグのセリフに驚く前に、あっという間にキスされる。 ……ずるい。 そんなこと言われて…… それでこんな蕩けそうなキスされたら…… あたしだって欲しいって言っちゃいそうだよ…… メグからのご褒美…… |
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「え? 夏休みのお出かけ? ……それにしたってすること一緒だろ?」 |
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