C メグの気持ち
「ねぇ? 恵、晩ご飯は? 食べないの?」 母親がノックの後、オレの部屋のドアを半分だけ開けて顔を覗かせた。 「・・・いらない」 オレがそう答えたら、母親は眉を寄せて心配そうな声を上げた。 「どっか具合悪いの? 午後からずっと部屋にこもっちゃって・・・」 「そんなんじゃないよ。 ・・・中間近いから勉強してただけ」 一応机に向かっていたオレが、テキトーにそんなふうに言ったら、母親はそれを信じたようだ。 「そーなの? ・・・でも、あんまり根詰めると体に良くないわよ? 部活だってあるんだし・・・」 「ん。分かってるよ。 ・・・・・ご飯、後で食べるから」 それを聞いた母親は、ちょっとだけ笑顔を見せてドアを閉めた。 オレも再び教科書に視線を戻す。 ―――・・・戻したんだけど・・・ |
「ダメだ。 全然頭に入んねぇ・・・」 ヤバイよな・・・ 前回の期末は8位だったから、今回は絶対5位以内に入りたい。 パーフェクトを目指すオレが、万が一 10位以内にも入れなかったら・・・ クソッ・・・ ―――真由の事が心配で、テスト勉強どころじゃない。 今日は小学5、6年の時のクラス会だった。真由はそこで幹事をしているはずで・・・ やっぱ、無理やりにでも引き止めればよかった・・・ ・・・・・でも、なんて? 「行かないでくれ」 なんてカッコ悪いこと、口が裂けても絶対言えない・・・ オレは壁にかかっている時計を見上げた。 ・・・まだ6時半。 クラス会は4時からだって矢嶋は言ってたけど、何時までやるんだ? どうせ高校生に酒なんか出せないはずだから、そんなに長時間はやんないだろうけど・・・ ・・・ってか、早く帰ってこいよっ! オレが行かねーって言ってんだから、真由も行くのやめろよなっ!? そんなに5、6年の頃の話がしたいなら、オレがいくらでもしてやるよ! ・・・しかも よりによって、なんで矢嶋と幹事なんかやってんだよっ!? 「なんかね、この前会ったとき押し付けられちゃったんだ」 とか言ってたけど・・・ 断れよっ! 矢嶋 お前に気があんだぞ? 気付けよ、それぐらい!! ・・・・・ホントに、ムカつくぐらい鈍いよな。 真由のヤツ・・・ まぁ、あいつが鈍いのは今に始まった事じゃないけど・・・ 小さい頃から世話焼きで、人が困ってるとかそーゆー事にはよく気が付いていたけど、こと恋愛に関しては、真由は呆れるくらい鈍かった。 それに気付いたのは、5年になって初めて真由と同じクラスになってからだった。 真由とは父親同士が同じ会社で、社宅の隣どうしだった。 オレも真由も一人っ子だったから、まるで姉弟みたいに一緒に育った感じだ。 オレより5ヶ月先に生まれて、当時はオレよりも背が高かった真由は、いつも、 「メグ、行くよっ!」 とオレを連れまわしていた。 真由と一緒にいると楽しい事も多かったけど、怪我も多かった。 あるときなんか、巣から落ちたカラスのヒナを戻そうとして、捻挫させられたこともあった。 「あたしよりメグの方が軽いんだから、あたしの上に乗ってよ?」 当時のオレは、真由には絶対服従って感じだったから、言われるがまま真由の上に肩車をする感じに乗るしかなかった。 「ね、ねぇ・・・真由? 届かないんだけど・・・」 「〜〜〜が、頑張ってみてよぉ・・・」 ほんのちょっとだけオレの目線が上がった。 どうやら真由が背伸びをしたらしい。 でも、真由がどれだけ背伸びをしても、オレがどれだけ手を伸ばしても巣には届かなかった。 いくらオレの方が軽いからって、小学校低学年の女の子が長時間肩車なんか出来るわけがない。 オレはヒナを巣に戻す前に、ヒナと一緒に地面に転がり落ちた。 ・・・右腕を捻挫した。 別な日には川に停泊しているボートの上で遊んでいて、二人で川に落ちた事もあった。 その川は浅いから溺れる心配はなかったんだけど、夏だっていうのに風邪を引いた。 「今日は学校休みなさいね」 母親が体温計をしまいながら、「それにしても・・・ 真由ちゃんは丈夫よね?」 ・・・風邪を引いたのはオレだけだった。 真由といると本当に災難が多かった。真由と一緒にいなければしなかった怪我も、捻挫だけじゃない。 けれど、真由と一緒にいたから経験できたってこともたくさんあった。 「四葉を見つけると、なんでも願い事が叶うんだって!」 と言いながら、一日中四つ葉探しに付き合わされたこともあった。 オレも話に聞いた事はあったけど、実際四葉のクローバーを見たことはまだなかった。 当然だけど、簡単には見つからなかった。 「真由・・・ もう帰ろ? 暗くなってきたし・・・」 「なんかね、この辺にありそうな気がするの!」 ・・・ってそのセリフ、もう10回以上聞いてるんだけど・・・ 真由は超能力者並みに、自分の力を過信しているところがある。 それでも、薄暗くなって手元がよく見えなくなってきた頃、やっと小さな四葉のクローバーを見つけることが出来た。 「あった―――ッ!!」 真由は歓喜の叫びを上げた。 オレも嬉しかった。 ・・・・・これでやっとウチに帰れる。 良かったね、と言いながらオレがウチに向かいかけたら、 |
「あげる!」 と真由が四葉をオレに寄越した。 「・・・なんで?」 せっかく真由が見つけたものなのに。 ・・・・・・暗くなるまで探すほど、欲しかったものなんでしょ? 「あたしはメグより背も高いし、算数だって出来るし、走るのだって速いし。別に願い事ないから!」 真由は、欲しいものはなんとしてでも欲しいって思う反面、自分が持っていて他人が持っていないというようなものは割と気前よく与える方だった。 「・・・ありがと」 とりあえず四葉を受け取る。 真由はオレの背中を叩きながら、 「メグも ひとつくらいあたしのコト追い越してみなよ? って、あたしも負けないけどねッ!!」 真由はいつだってオレを弟扱いする。 ―――オレは一度だって、真由を姉のように思った事はないっていうのに。 オレはこの頃から真由の事が好きだった。 真由はそんなこと全然気がついていなかったけど。 別に真由より背なんか高くならなくたっていい。 勉強だって運動だって、 「もう、ダメだなぁ! メグは!!」 って言われながら真由に教えてもらうんだって全然いいんだ。 だから、オレが四葉にする願い事はひとつだけだ。 ―――いつでも真由のとなりにいたい・・・ 風邪を引いて寝ていたオレに、学校から帰ってきた真由が声をかけてきた。 「メグ〜? 寝てる?」 オレと真由の部屋は隣り合っている。ベランダで繋がっているんだけど、間に仕切りがあるから行き来は出来ない。 けれど、その仕切りを挟んで話をする事はよくあった。 ベッドに起き上がる。 熱は下がったみたいだ。 そのままベランダに出る戸を開ける。 「・・・真由? もう学校終わったの?」 「うん。 だいじょぶ? 風邪」 一緒に川に落ちたっていうのに、真由は元気そのものといった声だ。 「熱は下がったみたいだけど・・・ あんまり食欲ないんだ」 オレがそう言ったら、 「そうっ?」 と真由が嬉しそうな声を上げた。 ・・・・・? 「そう思ってね、いいもの作ってあげたから!」 「・・・え?」 真由の行動はいつも予想がつかない。 意味が分からなくて戸惑っているうちに、仕切りの隙間から何か転がってきた。 タッパーだ。 半透明の容器から、うっすらと茶色い中身が窺える。 ―――・・・なんだろう? ものすごく嫌な予感がする・・・・・ 「コレ・・・ なに?」 とりあえず手にとってみる。水気があるみたいで重さがある。 「リンゴだよ!」 「リンゴ?」 言われて再びタッパーの中身を窺う。 ・・・とてもそうは思えない色だけど・・・ ・・・・・・新しい品種なのかな? 「あたしが風邪引いたとき、お母さんがよく作ってくれるんだけど。 リンゴすりおろしたヤツ!」 すりおろしたリンゴ・・・? 「1個するのに、30分もかかっちゃった」 タッパーの中身は、酸化したすりおろしリンゴだった。 「食べてね!」 ・・・これを? それでなくても食欲ないって言うのに、こんな酸化した生ぬるいリンゴなんか食べられない。 「・・・ありがと」 真由には悪いけど、食べたふりして流してしまおう・・・・・ 「恵ッ!? 大丈夫?」 その夜、オレは腹を下した。 「何か変なものでも食べたの?」 「別に・・・」 真由がオレのために用意してくれたものを、オレは捨てる事が出来なかった。 こんな感じでいつも真由に振り回されっぱなしだったけど・・・ それでかかってくる災難も多かったけど、それでもオレはいつも真由と一緒にいた。 4年までは一度も同じクラスになったことがなかったんだけど、5年になって初めて真由と一緒のクラスになった。 一緒のクラスになって、やっとオレは気が付いた。 「市川っておもしれーよな? ノリもいーし、しゃべりやすいし」 「なんだよ? お前市川のこと好きなの?」 「そ、そーじゃねーけどさー・・・ でも、ケッコー胸も出てるよな?」 「5年にしてはな!」 同じクラスになった男たちから、結構真由は人気があった。 当時の真由は背も大きい方で運動も出来て活発だったから、クラスでもかなり目立つ方だった。 クラスの男どもがそう言って騒いでいるのが面白くなかった。 ―――おいっ! 真由はボクのものだぞっ!? 「お前、市川んちの隣なんだろ? 今度遊びに行ってい?」 何人かの男にそう言われたけど、オレはテキトーな言い訳をして一度も友達をウチに呼ばなかった。 そんなある日、遠足で成田に行く事があった。 「うわ―――――ッ!! 矢嶋が吐いた―――ッ!!」 行きのバスの中の出来事だった。 矢嶋もクラスの男の中では目立つ方で、運動や勉強もそこそこ出来るけど、教師や学級委員から怒鳴られる事も多いガキ大将タイプだった。 オレの前の席に座っていたんだけど、特に親しくもなかったからオレは手を貸さなかった。 「臭っせー!」 すぐに、隣の席のヤツが立って別な席に移動して行った。 「矢嶋くんっ? 吐いたの?」 一番前の席に座っていた教師が背伸びをして、オレたちが座っている後部座席の方を窺ってきた。 「ちょっと待ってて?」 いくつか補助座席が出してあったから、教師はすぐに矢嶋の席に移動してくる事が出来なかった。 矢嶋は俯いているようだった。 気の毒だとは思ったけど、オレだって人が吐いた物の処理をするのは苦手だ。 ・・・・・・可哀想だけど、先生が来るのを待ってるしかないな・・・ オレがそんなことを考えていたら、 「ちょっと? 大丈夫?」 通路を挟んで隣に座っていた真由が、矢嶋の隣の席に移動していった。 「これ使いな?」 座席の隙間から見たら、真由が矢嶋にハンカチを差し出しているところだった。 |
あれは・・・ 真由のお気に入りのマイメロディのハンカチだ。 矢嶋は何も言わずにそれを受け取り口元を拭っている。 真由はティッシュで矢嶋の服を拭きながら、 「あんたたちっ! 吐きたくて吐いたんじゃないんだから、いつまでもからかうのやめなさいよっ!!」 と周りで騒いでいた奴らを諌めている。 確かに真由は小さい頃から世話焼きだった。 一緒に遊んでいてオレが転んだりすると飛んできて、 「メグッ!? 大丈夫っ?」 と水道で傷口を流してもらう・・・なんて事はしょっちゅうだったし。 そんな真由だから、バスで吐いてクラスのみんなにからかわれている矢嶋を放って置けないっていうのも分かる。 分かるんだけど・・・・・ ・・・・・・真由が世話を焼くのは、ボクだけにして欲しい・・・ そのとき、オレは生まれて初めて「嫉妬」という感情を知った。 その数日後、オレは矢嶋から、 「・・・なぁ? お前と市川って何?」 と聞かれた。 クラスの何人かはオレと真由が隣同士の幼なじみだって知っていたけど、5年になって初めて同じクラスになった矢嶋はそれを知らなかったみたいだ。 「・・・幼なじみだけど?」 「そんだけ?」 それだけだったらなんだって言うんだ? 幼なじみってだけで、十分特別じゃないかっ! 一緒にお風呂に入ったこともあるんだからなっ!? 羨ましいだろ? ―――2年生までだけど。 「・・・だったらいーけどさ」 矢嶋はちょっとだけオレを睨みつけた後、すぐに踵を返した。 ・・・・・・もしかして、あいつ・・・ 真由のこと好きなのかな? 矢嶋は分かりやすかった。 その翌日から、何かと言いがかりをつけてはオレにちょっかいを出すようになってきた。 オレが真由と幼なじみだっていうのにも面白くなかったんだろうけど、オレを苛めると、 「ちょっと、矢嶋―――ッ!!」 って真由が追いかけるから、矢嶋はそれを楽しんでいるようだった。 別に矢嶋にからかわれたりするのは平気だったけど、それで矢嶋と真由がやりあうのは耐え難いものがある。 クラスの何人かは矢嶋が真由のことを好きだって気付いていたけど、真由は全然だった。 あんなあからさまなのに、なんで気付かないかな? ・・・いや、気付かれてどうにかなったら困るけど・・・・・ そんなある日事件が起こった。 「おっぱーい丸見え―――ッ!!」 休み時間に教室にいたら、廊下からそんな怒鳴り声が聞こえた。 おっ・・・っ!? ―――・・・今、なんて・・・? ちょっとドキドキしながら廊下に出たら、そこには窪田や青島たちクラスの男が数人と、そのすぐそばに女の子が1人しゃがみ込んでいた。 見慣れた真由の背中だった。 学校指定の夏服のシャツが水で濡れていて、肩甲骨が透けて見える・・・ オレは一瞬で状況を把握した。 「・・・ッてめーらっ! ふざけんなよっ!!」 いつもだったら、揉めるのがイヤでバカな奴らには向かっていかないんだけど、気が付いたらオレは窪田たちに殴りかかっていた。 ―――よくもボクの真由の・・・ッ 勝手に見たなッ!! 当時のオレは140そこそこしか身長がなかったから、すぐに窪田たちにやり返されてしまった。 それでもオレが窪田たちとやり合っていたら、すぐに誰か飛び込んできた。 矢嶋だった。 矢嶋は窪田たちのリーダーだ。 こいつまで一緒になって殴りかかってきたら・・・ |
とオレが心配していたら、矢嶋は、 「お前らっ! 何やってんだよっ!!」 とオレではなく窪田や青島たちに殴りかかった。 矢嶋が殴りかかったことで、一瞬だけ窪田たちも驚いた顔をしていたけど、そのまま矢嶋と2人で窪田や青島たちをボコボコにした。 ・・・・・・殆んど矢嶋が1人でやっつけたようなもんだけど。 すぐに教師が飛んできた。 「・・・何が原因だ?」 教師がオレ達を一列に並ばせ、順番に睨みつけた。 けれど、全員黙っている。 「千葉?」 いつもは大人しいオレが騒ぎの中にいたのが不思議だったのと、オレだったら口を割るだろうという考えから、教師はオレに問い掛けてきた。 けど・・・ 言いたくない。 「話すまで教室には帰さないぞ?」 さらに教師がドスを利かせた声で凄む。 「実は・・・」 教師の圧力に耐えられなくなった窪田が口を割ろうとした。 おい―――ッ!! オレが止めるより前に、矢嶋が窪田の足を蹴った。それで窪田も口をつぐむ。 結局、教師が根負けする形になり、オレ達は次の授業開始のチャイムとともに解放された。 教室に戻ったら真由の姿がなかった。カバンもなくなっている。 「真由? 早退したよ?」 当然といえば当然なんだけど・・・・・ でも、いつも男と対等にやりあっている真由が早退するくらいだから、相当ショックを受けているに違いない。 本当はオレも授業なんか放っぽって帰りたかったんだけど、そうもいかない。 やきもきしながらその後の授業を受け、やっと放課後になった。 ソッコーで帰り支度をして教室を出ようとしたら、 「・・・一緒に帰ってもいいか?」 と矢嶋が声をかけてきた。 「・・・・・なんで?」 「なんだっていいだろ!」 矢嶋は答えなかったけど理由は分かっている。 真由んちがオレんちの隣だからだ。 矢嶋は真由んちを知らなかった。 一緒に帰るとは言っても、お互い一言も口をきかないまま社宅の前までやって来た。 「じゃ・・・ ウチここだから」 「おう」 オレは振り返らずに一気に自分ちまで階段を駆け上がった。ドアを閉めた後、魚眼レンズを覗く。 ちょっと時間を空けて矢嶋がやって来た。 真由んちのドアの前に立っている。 ―――あいつ・・・ 何する気なんだろ・・・ もしかして、真由に会いにきたのかな・・・ オレが息を潜めてヤジマの様子を窺っていたら、急に矢嶋がオレの方を向いた。 ビックリして一歩後ずさる。・・・後ずさった拍子に、母親のサンダルを蹴飛ばしてしまった。 カタンという音が鳴る。 マズイ・・・ 今の音、聞かれたかな・・・? 恐る恐る 再び魚眼レンズを覗いたら、やっぱりまだそこに矢嶋がいる。矢嶋はちょっとだけ眉を寄せてオレんちのドアを見ている。 ・・・覗いてんの、バレたかな・・・・・? とオレが焦っていたら、矢嶋はクルリと向きを変えてまた真由んちのドアの方を向いた。 矢嶋がインターフォンのボタンに指を伸ばす。 と同時に、オレの心臓が助走を始める。 ・・・けれど矢嶋は、押す直前でその動きを止め、そのまま腕を下ろした。 何をする気だったのか・・・ 真由を呼び出す気だったのか知らないけど、矢嶋が思いとどまってくれたみたいで、オレは安堵の溜息をついた。 矢嶋はもう一度チラリとオレんちのドアを見たあと、そのまま階段を下りていった。 オレも靴を脱いで自分の部屋に戻った。 ―――心臓がドキドキしていた。 言いようのない不安で頭がいっぱいになった。 いつも真由とケンカばかりしている矢嶋が、今日は真由を助けるために、いつもつるんでいる窪田たちの事を殴った。 結局は帰ったけど、真由のウチまで来もした。 ・・・・・もし、真由を矢嶋にとられるなんて事になったら、どうしよう・・・ 矢嶋はちょっとだけだけど真由より背も高い。勉強や運動は真由と同じくらいだ。 ・・・・・・それに比べてボクは全ての面において矢嶋より下・・・ 今まで真由の好みがどんな男かなんて考えた事もなかったけど・・・ ・・・・・・今のボクじゃ、真由の隣にいても全然似合ってないんじゃないかな・・・? もしかしたら・・・イヤ、確実に、まだ矢嶋の方が真由に合ってる気がする・・・ その夜オレは、不安でなかなか眠る事が出来なかった。 |
―――翌日、その不安が的中した。 「あたしは、背が高くて勉強もスポーツも出来る、パーフェクトな人としか付き合わないよっ!」 真由が顔を真っ赤にして怒鳴っている。 「メグも矢嶋も全然理想と違うから、どっちとも付き合わないっ!!」 メグハ リソウト ゼンゼンチガウ・・・ ・・・・・・やっぱりボクじゃダメなんだ。 耳鳴りがした。 その後も真由は何か叫んでいたみたいだけど、頭の中がハウリングを起こしたみたいになっていて、よく聞こえなかった。 オレと矢嶋以外のみんなが笑っていたけど、どうして笑っているのかも分からなかった。 ―――それからのオレは、真由の理想に近づこうと必死になって勉強した。 バスケをやると背が伸びると聞いて、バスケ部にも入った。練習はかなりきつかったけど、小学校を卒業する頃には 背の順はクラスで一番後ろになった。 オレは自分ではよく分からなかったんだけど、割と飲み込みが早い方だったみたいだ。 勉強も運動もやればやっただけ確実に伸びていった。 今までは、真由に教えてもらう方がいい、って全然やる気を起こしていなかったのがいけなかったみたいだ。 「・・・メグ? どうしたの?」 真由が不思議がっていた。 ・・・・・・もう真由には絶対頼らない。 逆に、頼られるような男になってやる。 それまでは真由から距離を置いた方がいい・・・ ―――今思うと、当時のオレはちょっと単純だったようにも思う。 真由の理想の男になってから真由の前に立つんだ!・・・なんて事を考えていたんだから。 当然真由にはその理由を話せなかった。 だから真由は戸惑って、それからムッとして、結局絶交するような形になってしまった。 そんな状態が6年も続いた後、この前やっと真由と仲直りする事が出来た。 しかも―――・・・ どうやら真由もオレの事を好きでいてくれたみたいだ! こんなうれしい事があるかっ!? いや、ないっ!! ないって言うのに・・・ オレ達は意地を張ってしまって、ハッキリお互いの気持ちを相手に伝えられないでいた。 ホントに何やってんだかな・・・ |
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