D 素直になれない
「そーゆーワケで、ちゃんと謝ってよねっ!!」 「なぁ・・・ またそのノリなわけ?」 その日の夜。8時過ぎから部屋でスタンバイしていたあたしに、メグが声をかけてきた。 時計を見たら、8時半・・・ は、早いじゃん? 部活は8時までだから、移動時間を考えたら早くても8時45分くらいだろうと思っていたのに・・・ なんか・・・ もしかして、あたしのために早く帰って来てくれた? ・・・って、そう考えると、なんか嬉しいんだけど・・・ |
イヤイヤッ! ちゃんと怒るべきところ怒っとかないとねっ!? 「・・・そういう話がしたかったの? お前」 メグがうんざりした声を出す。「・・・オレ、風呂入ってきていい?」 「そ、それだけじゃないけど〜っ! なんであたしだけのせいにしたのかなって・・・」 あ・・・ まただ。 いつもこっちが問いただしてやろうと思ってるのに、いつの間にかあたしの方が言い訳させられてる・・・ 「・・・風呂行く」 「あっ! ちょっと待ってよっ!! ・・・じゃ、もういい・・・ この話は・・・」 ・・・まぁ、あたしだって、何が何でもしたいって話じゃないからさ。 それよりもっとしたい話・・・ あるもんね。 ・・・聞かせてくれるんだよね? メグの気持ち・・・ ハッキリ・・・ あっ! あたしこれが、まともに告られんの初めてなんだよね・・・ 一言一句聞き漏らさないように、よ〜っく聞いとかなくっちゃ! あたしはメグのセリフを待っていた。 ―――待っていたのに・・・ 仕切りの向こう側はいつまでたっても静かなままだった。 ・・・ん? なんでメグ、黙ったままなの・・・? あ・・・ もしかして、今、いいセリフ考えてるところ? だったら、待ってなくっちゃ♪ あたしとしては、聞いてるこっちがテレるようなロマンチックなヤツに憧れるんだけど・・・ ・・・そうだっ! メグに内緒で、録音しちゃおうかな? きっと、何回も聞きたくなるし・・・ そうしよっ! あたしは慌てて充電器に乗せてあったケータイを取りに戻った。 この間、約1.5秒。 早ッ!! スタンバイOK! いいよっ! メグいつでもッ!! ・・・・・ ・・・・・・・・ ちょっと・・・ 考える時間、長すぎない? そりゃ、ロマンチックなヤツに憧れてはいるけどさ・・・ メグの言葉だったら、なんでもいいんだよ? って・・・まさか・・・ お風呂行っちゃったっ? 「メ、メグッ!?」 「・・・ん?」 ・・・良かった・・・ いた。 って、いつになったら、聞かせてくれんの? メグの気持ちっ!! あんまりジラすと、すごいもの期待しちゃうから、サラッと言った方がいいよ? 「・・・早くしろよ」 え・・・っ!? 一瞬、自分が言ったのかと思うようなタイミングだった。 「え・・・ なに?」 「早くしてくれって言ったんだよ。 ・・・オレ早く風呂入りたい」 「は・・・? ちょ・・・メグが気持ち聞かせてくれるんじゃないの?」 「お前が話したかったんだろ? お前から話せよ」 そ、そりゃ話したかったのは山々だけどさ・・・ それはメグの気持ちが聞きたいってコトで・・・ ・・・って言うか、風呂ってなによっ? 風呂ってっ!! あたしとの話より、お風呂に入るほうが大事だって言うのっ!? 「メグから言ってよっ! っていうか、お風呂の方が大事なわけ? さっきから、風呂風呂って・・・」 「だって、部活で汗かいてんだから・・・ んじゃ、続きは明日ってことに・・・」 「ま、待ってよっ!!」 メグがそのまま中に引っ込んで行きそうなことを言うから、慌てて引き止めた。 ・・・なんか、またムカついてきた。 いつもあたしの方がメグのこと追いかけてる感じがする・・・ こうやって引き止めるのもあたしだし・・・ メグがあたしのコト考える時間よりも、あたしがメグのコト考えてる時間の方が絶対長い気がする・・・・・・ なんか、悔しいッ!! 「―――そんな意地悪いコトばっかしてたら、あたしどーなっちゃうか分かんないからねっ!?」 「・・・どーなっちゃうの?」 逆にメグに聞かれてしまった。 そんなこと勢いで言っただけのあたしは、慌てて考える。 「た、例えば〜・・・ べ、別に好きな人とか?・・・出来ちゃうかも」 「お前・・・ それ・・・」 と言った後、静かになる仕切りの向こう側。 どう? 焦った? 焦ったでしょ?? 一瞬、・・・メグ 焦ってる?・・・と嬉しくなったら、クックッ・・・と小さくメグが笑っているのが聞こえてきた。 「・・・なに笑ってんのよ?」 「えっ?」 あたしがムッとして問いただすと、メグは慌てて笑うのをやめた。 なによ? あたしなんかおかしいこと言った? 「・・・いや、なんでもない。 どうぞ続けて?」 「だ、だからぁっ! いいの? そんなことになっても?」 「オレ以上にパーフェクトな男なんか現れねぇだろ?」 「はッ!?」 な、なにっ!? コイツ・・・ すっごい自信家―――ッ!! メグって、こんなキャラだったっけ? いや、クラスでも控えめなほうだよね? どっちかというと・・・ でもあたしといるときは、いつも今みたいな感じだし・・・ 主従関係で言ったら、メグのほうが「主」っぽい・・・ ―――いかんっ!! 小学校の頃は、絶対あたしの方が「主」だったのにっ!! いつの間に形勢逆転されちゃったんだろ? 「・・・すごい余裕だねっ? じゃ、応援なんかなくたって勝てるよねっ!」 「は? ・・・なんだよ? 応援って」 「今度の日曜日。この前やって負けたところとまた試合するんでしょ? この前負けたのはあたしが怪我させたからだし・・・ 罪滅ぼしに、応援に行ってあげようと思ってたのっ!」 実は、この前あたしはちょっとしたことからメグに怪我をさせていた。 まさかその翌日に練習試合があるなんて知らなくて・・・ 結局メグの怪我せいで、その試合には負けてしまったみたいだった。 「・・・・・・日曜日の試合のこと、誰に聞いた?」 「え? ・・・涼だけど?」 とあたしが答えたら、仕切りの向こう側は静かになった。 「? なによ?」 「来んな」 「え?」 「応援なんかしてもらわなくたって勝てる相手だし・・・」 メグはちょっと早口になって、「ってか、来て欲しくない」 「はぁっ!?」 なにその言い草っ!? ヒトがせっかく応援に行ってやるって言ってんのにッ!! 「〜〜〜ぁあ―――っそ! 分かったよっ! 行かないよっ!!」 「・・・絶対来んなよ?」 ・・・そんなに、念押すほど来て欲しくないんかいっ! ムカムカムカムカ―――ッ!! 「もういいよっ! お風呂でもなんでも入ってくればっ!!」 あたしは立ち上がって、「そうだ、思い出したから言っとくけどさ! 仕切りっ! ホームセンターで管理人に言えとか言われたから、メグが言っといてよねっ?」 吐き捨てるようにそう言うと、挨拶もろくにしないでガラス戸を閉めた。 ―――・・・なんでいつもこうなっちゃうんだろ・・・ あたしも素直じゃないけど、メグのあの態度だってどうなのっ? あ〜〜〜っ! もうっ! ・・・と言いつつ、結局来てしまうあたし。 別にっ? メグの応援とかそんなんじゃないからっ!! ・・・罪滅ぼし? それっ! ・・・って、自分に言い訳すんのやめよ・・・ 疲れる。 週末の日曜日。 あたしはそろりそろりといった感じで体育館に近づいた。 「行かないよっ!!」 って言った手前、試合開始時間を聞けなかったんだけど、それも昨日メグと涼が話しているのをさり気に聞いて確認できた。 「・・・2時には始める予定だから、1時間前には来いよ?」 って涼に言ってたよね? メグ・・・ ケータイの時計を見たら1時35分。 ちょっと早めだけど、メグに見つからないで試合見れるところ探さなきゃなんないし、ちょうどいいよね? 適当な所で靴を脱いで体育館の扉を開けようとしたら、逆に内側から扉が開いた。 「やっぱり船橋センパイかっこいいよね〜♪」 「でも、稲毛センパイと付き合い始めたって・・・ 稲毛センパイ相手じゃ諦めるしかないよね」 |
「あたし千葉センパイに乗り換えようかな?」 1年生らしき女子が、数人連れ立って出てきた。 ここ何日かであたしも気付いてたことだけど・・・ 涼と恭子が付き合い始めてから、涼のファンがメグに流れた気がする。 いや、相変わらず涼人気は高いんだけど。 涼は彼女が出来てもキャラ変わんないし、恭子もうるさく嫉妬とかするタイプじゃないから、他の女子も遠慮なくファンやってる感じで・・・ でも、やっぱりみんな恋愛対象からは外したみたい。 その分・・・ 「あ! 千葉センパイもいいよね〜っ! 優しいし〜っ!!」 「さっきだって練習のとき、ゴール下で船橋センパイ見てたら、・・・そこは選手やボールが突っ込んでくるから危ないよ・・・って!」 やっぱり、メグに流れてる・・・ ってか、メグってそんなに優しくないからねっ!? 1年女子の皆さん? あの人、ケッコー意地悪だよ? 「でも 今日の千葉センパイ、ちょっとすごくなかった? ファウルだって多かったし・・・」 「あ〜! あれでしょ? 相手チームの8番!」 ん・・・? 「いつも冷静な千葉センパイなのに、ちょっとムキになってたとこあった感じじゃない?」 「それは、ホラ! 前回負けてるから。さっきのチームに。 今日は勝てて良かったね〜!」 って・・・ ちょ、ちょっと待って? 今日は勝ててよかったね・・・って・・・ もしかして、もう 試合終わっちゃってんの―――ッ!? な、なんで? だって、まだ2時前・・・ 「真由っ!」 あたしが焦って体育館内に入っていったら、恭子がやってきた。 恭子はユニフォームじゃなくて制服を着ていた。 今日は女子の試合はないみたい。 「あ、恭子・・・」 「来てたんだ? 全然気付かなかった〜。 どの辺で見てたの?」 「・・・ねぇ、恭子? 今日試合って、何時からだったの?」 あたしの質問に、恭子はちょっとだけ眉を寄せて、 「12時からだけど・・・ 最初から見てたんじゃないんだ?」 ―――12時? 2時じゃないのっ!? あたしの聞き間違いっ?? 体育館では1年生と思しきバスケ部の男子が、モップがけをしているところだった。 あとは、応援に来ていたらしい女子が何人か・・・ ・・・何やってんだろ? あたし・・・ 最初からメグたちの会話を盗み聞きなんかしてないで、恭子に聞いとけばよかった・・・ 気落ちしているのを恭子に気付かれないように、 「うん・・・ でも、勝ったんでしょ? 良かったね・・・ 涼は? 喜んでた?」 「喜んでたけど・・・ 聞いてよっ! 真由! 涼ね、自分のファンが千葉くんに流れたって怒ってるのっ!! 信じられないでしょっ!」 「・・・そんなに?」 「うん。 いつもだったら涼のファンが残ってるんだけど、・・・ホラあの子達とか・・・」 と言って、体育館の隅のほうに固まっている女子を指差す。「みんな千葉くん目当てだよ?」 恭子が指差すほうに目を向ける。 ・・・また、綺麗系。 ・・・・・・いいね〜、メグ? モテモテじゃん!? ―――・・・帰ろ。 メグに見つかる前に。 絶対来るなとか言われてたのに、こんなとこ見られたらまた何言われるか・・・ しかも、試合時間間違えてたっていう 笑えないオチ付きだし? そそくさと恭子に別れを告げ、急いで体育館を出る。 |
体育館の内扉を開けたら、すぐ横にあるトイレから誰か出てきたところだった。 慌てていたせいで、その人物ともろにぶつかってしまった。 「ご、ごめんなさいっ!」 ぶつけた鼻を押さえながら謝る。 ・・・今日は厄日だ。 「いや、こっちこそ・・・ 大丈夫?」 ユニフォームの上にジャージを羽織っている。 総武のジャージじゃないから、今日の試合の相手か・・・ ユニフォームの左胸のあたりに8のナンバーが付いている。 ・・・あれ? さっきすれ違った1年女子が、相手チームの8番がどうのとか、言ってなかったっけ? 確か、メグがムキになってたとなかんとか・・・ そんなことを考えながら、あたしがその8番のユニフォームを眺めていたら、 「・・・もしかして、市川?」 と8番があたしの顔を覗きこんできた。 |
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