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あたしがサイテーな選択をしてから、すぐに以前のような生活に戻った。 学校ではエリカたちクラスメイトと仲良くやって、放課後はウチに帰って肌の手入れや流行なんかの情報収集をした。 服部も、以前と同じように・・・・・ いつもひとりでいた。 もしかしたら、ギターの練習をやめるって言っただけだから、教室では今まで通り話し掛けてくるかも知れない・・・ と心配していたんだけど、服部は全然あたしに話し掛けてこなかった。 休み時間にはひとりでどこかに行ってしまう。 ・・・多分屋上だろうけど。 どうせ教室にいても誰にも相手にされないし、されても男子からはからかわれるとか、女子からはキモがられるとかそんなんだから。 「あ〜、今日オレ約束あんだった。 服部、掃除当番代わってくれよ!」 と、服部の都合なんかお構いなしに用事を押し付けられたり、 「なんか、チョー見られてる気がすんですけど! キモいっ!!」 とか、どう考えても自意識過剰なだけでしょ?ってことを言われていたり。 服部は全然気にしていないのか、それとも言いたくても言えないのか、そんなクラスメイトの勝手な言い分にも殆ど反応していなかった。 そんなことも前と何も変わりはないのに・・・・・ なんでだろう・・・ そんな服部を見ていると、胸が、痛い・・・・・ そんな服部を見ているのがイヤで、休み時間なのに服部が教室にいるときは、あたしの方が教室から逃げ出していた。 屋上に上がり、遠くに流れる川を見下ろす。 季節はすっかり梅雨に入っていて、今日も雨こそ降っていなかったけれど、あたしに纏わりつく風が湿気を含んで重くなっているのが分かる。 まるで、今のあたしの心を象徴しているみたいだ。 ・・・・・あたしはなんて自分勝手な人間なんだろう。 嫌がる服部を無理矢理ギターの先生にしたくせに、自分の都合が悪くなったらそれを一方的にやめたりして・・・ あたしが今ここにいるのだって、服部が嫌な目に遭っているのをあたしが見ていられないからだ。 そんな服部を見て、自分が苦しくなるのが嫌だから・・・ だから教室から逃げ出した・・・ 激しい自己嫌悪に襲われる―――・・・・・ 「・・・桃子?」 暗い気持ちのままフェンスから眼下を見下ろしていたら、屋上にエリカがやってきた。 いつもみたいに無理にテンションを上げることが出来なくて、ちょっとだけエリカに笑顔を向けた後、あたしはまた視線をフェンスの向こうに戻した。 「なんかさー・・・ 桃子、もしかして悩みとか、ない?」 あたしの隣にエリカが並んだ。 「ん、何もないよ・・・」 「ホント? なんか隠してたり・・・しない?」 「してないよ。 ・・・エリカに隠すことなんて」 って、エリカだけに限らず、あたしはみんなに対して隠し事ばかりだ。 本音なんか話したことない。 エリカは一瞬だけ黙ったあと、 「なんか悩みあるんじゃないかなーって思ってたんだ。 ・・・・・例えば、服部のこととか?」 心臓がドキリとする。 「・・・服部?」 「うん。 ホラ、ちょっと前、桃子服部と親しかったじゃん?」 「・・・そー、だっけ・・・ よく、覚えてない・・・・・」 心臓がキュ、と小さくなる。 「そーだよ! なんであんなキモオタと〜!?ってみんな心配してたんだから!」 「そんな、心配なんて・・・・・」 喉の奥が絡まって、上手く言葉が続かない。 エリカはそんなあたしには全く気付かず、 「服部も何カン違いしてたんだか知んないけど、やっと諦めた・・・っつーか、やっと自分と桃子とじゃ釣り合わないって気付いたか。 でもさぁ、あのキモオタ、なんて言って桃子に近づいたワケ?」 何にも・・・ 服部は何にも言ってない・・・・・ あたしが、ギター教えてって無理矢理頼み込んで、服部がなんでも素直にあたしの言うこと聞くからって好き勝手やって・・・ それで、あたしの過去がバレそうになったからって、勝手に関係を切った・・・・・ ただ、それだけだ。 「まさか告られた? 上原さん、好きですって!?」 エリカは何がおかしいのか、おなかを抱えて笑っている。 何がおかしいの? 服部がおかしいの? ・・・・・服部は全然おかしくなんかない! 服部は、周りに流されないでちゃんと自分を持っている。 ギターだってすごく上手いのに、それを自慢したりしないで謙虚だし。 それに、すごく気を使ってくれるし・・・・・ なにより、優しい。 ―――――エリカに、服部の何が分かってるって言うんだろう? 「笑わないでよっ! 全然おかしくないっ!!」 思わずそう叫んでしまった。 「え・・・?」 エリカが驚いてこちらを見る。 「服部はね、エリカたちが思ってるような暗くてキモい男子なんかじゃないのよ!」 「え、あの・・・ 桃子?」 「話したこともないくせに! 服部がどんなに人に気を使うか、どんなに優しいか知らないくせにっ!!」 止められなかった。 あたしは何を言ってるんだろう・・・ 友達と揉めるのがイヤで、せっかく出来た友達が離れてしまうのがイヤで、今まで誰ともケンカなんかしたことなかった。 ケンカどころか、こんな強い口調でエリカにものを言うのすら初めてだ。 やめなくちゃ・・・ そして、謝らなくちゃ・・・・・ そう思うのに、一度こぼれ始めた言葉を止めることが出来なかった。 「服部の見た目だけでそう思ってるなら、すごくサイテーなことなんだからねっ!? 人を見た目で判断するなんてっ!!」 そう言い捨てると、あたしは逃げるように校舎の中に戻った。 あたし、本当におかしい・・・・・ あんなに欲しかった友達なのに・・・ この学校で一番最初に友達になってくれたエリカなのに・・・ そのエリカにあんなこと言うなんて・・・・・ 言ったそばから後悔が押し寄せてきた。 なんであんなこと言っちゃったんだろう・・・ 自分でも自分の行動がよく分からない。 ―――ただ・・・ ただ、服部のことを悪く言われてる、笑われてるって思ったら我慢出来なくなっちゃって・・・・・ あたし、いつの間にこんなに服部のことが気になるようになったんだろう。 ギターを教えてもらったから? 同じミナミファンだから? ・・・・・それはあるかもしれない。 でも、服部からギターがなくなっても、服部がミナミのことなんか全然好きじゃなかったとしても・・・・・ ―――やっぱり気になる気がする。 ――――――・・・まさか!? いやいやっ! そんなことあるわけがないっ! だって、中学のとき憧れていた三井くんは、あのときですでに今の服部よりも背は高かったし、勉強出来たし、ジャニーズ並みのルックスでサッカー部のエースで、人気者だった! ・・・・・・ただ、女の趣味は悪かったけど。 でもっ、あたしが惹かれる男の子のタイプはいつだってあんな感じだ。 それに比べて服部は、猫背のせいで小さく見えるし、勉強イマイチだし、ルックスは・・・・・見えないからよく分かんないけど・・・・・ でも、とにかくあたしの惹かれるタイプじゃないことだけは確かだ。 まぁ、確かにギターは上手いからそれを弾いてるときだけは、ちょっとカッコいいな・・・とか思うけど。 それから、いつでもあたし優先に考えてくれて、すごく優しいことは確かだけど。 でも、それだけだ。 そんなことでカン違いしちゃいけない。 これは絶対・・・・・ 恋なんかじゃない。 そんなことを考えていたら、その日はなんだか・・・・・ 頭が熱くなってしまって、なかなか寝付けなかった。 翌日、すっきりしない頭のまま登校した。 結局夕べは余計なことばっかり考えすぎて良く眠れなかった。 そのせいか、お肌も調子良くない気がする。 不眠は美容の大敵だっていうのに、何やってんだろ? あたし・・・・・ そんなことを考えながら教室に向かっていたら、自分の教室がいつになくざわついているのが廊下にまで聞こえてきた。 ??? どうしたんだろう・・・? 「おはよ・・・?」 不思議に思いながら教室に入ったら、 「桃子っ!?」 そこら辺にいたクラスメイトが、驚いたようにしてあたしを振り返った。 「え? な、なに・・・?」 思わず頬に手を当てて・・・・・ ―――はっ!! 自分でも調子良くないと思っていたけど、あたしの今日の顔ヒドイっ!? みんなが一目見て驚くほどっ? みんなが見てこんなに驚くんだから服部だって・・・・・ ―――って、服部のことなんかどうだっていいのよっ! 何考えてんのあたし?? もう、夕べからちょっとしたことがあると、すぐに服部のことばかり考えてしまって、困る。 軽く頬を叩きながら自分の席につこうとして、身体が凍りついた。 あたしの机の上に、中学のときの卒業アルバムが置いてある。 二度と見たくないからって、クローゼットの奥に封印したはずのアルバムが・・・・・ 醜かった頃の・・・ 誰も友達がいなかった頃のあたしが載っている卒業アルバムが置いてある。 ・・・・・なんで? なんでこれがこんなところに・・・・・ 「あたしのイトコが、北中出身なんだよね」 という声に振り返ったら、エリカが立っていた。 「すごい大変身だね? 桃子。 最初信じられなかったよ」 頭が真っ白になって、唇が震える。 なのに、脳が沸騰しているみたいに頭が熱い・・・・・ 「桃子、昨日あたしに、ヒトを見た目で判断するなんてサイテーだって言ってたけど、桃子こそ見た目をチョー気にしてんじゃん! だから、そんなに自分を飾ってんでしょっ!?」 「そ、そんなんじゃ…」 言い訳とか、誤魔化しとか…… そんなのが何も思いつかなかった。 「ホントのこと隠して、あたしたちを騙してたんでしょっ!?」 首を振った。 声が上手く出せない。 騙してなんかない。 確かにあたしは、中学のときの自分を捨てたかった。 だから高校に入ってからも、誰にも過去を知られないように必死になって隠してきた。 けど、それはみんなを騙そうとか、そういうんじゃない。 「なんだぁ! 言ってくれれば良かったのに〜」 「あたしにもそこまでキレイになれる秘訣教えて欲しいな〜、なんて」 「なんか今まで高嶺の花って感じだったけど、上原さんってそうだったんだ?」 女子も男子も、みんな楽しそうに笑っている。 醜かった頃のあたしを知って笑っている。 必死になって隠してたけど・・・ 自分にウソをついて頑張ってきたけど・・・・・ ―――それも全部無駄に終わった。 みんなに笑われて、バカにされて・・・・・ きっと、明日からまたあたしはひとりぼっちになるんだ。 はじめ唇だけだった震えが、全身に広がってきた。 これ以上ここにいたら・・・・・ もっとみっともない姿を晒すことになるかもしれない。 慌てて教室を飛び出そうとしたら、入り口のところに服部が立っていた。 服部は驚いた顔をしてこっちを見ている。 ―――服部にもバレた・・・・・ 死にたい。 本気でそう思った。 逃げるように教室を飛び出したら、 「上原さんっ!」 とすぐに服部が追いかけてきた。「待って!?」 と言われて待つほど、あたしはバカじゃない。 ・・・けれど運動音痴のあたしは、男子を振り切れるほど足が速いわけでもない。 結局、逃げ切れなくて昇降口のところでつかまってしまった。 「えー・・・っと・・・」 追いかけてきたはいいけど、どう声をかけていいのか分からないって感じの服部。 「あ、あんまり・・・ 気にしない方が、いいと思う・・・」 こんな・・・ 服部にまで気を使われるなんて・・・・・ なんてあたしは惨めでみっともないんだろう・・・・・ 「・・・・・気にしない方がいいって、何が」 あたしがそう切り返したら、 「何って、だから・・・ 昔は関係ないっていうか・・・・・」 と知ったようなことを言う。 「・・・・・関係ないから、捨てたかったの」 「や、そういう意味じゃなくて・・・ 昔のことなんか、そんなにみんな気にしてないよって・・・」 「するでしょ? するから笑われたんでしょ? あんな酷かったのを隠して、今じゃ何もしてませんって済ました顔して・・・・・ 笑われて当然よねっ!」 「みんな、そんなんで笑ったんじゃないと思うよ? ・・・だって、友達じゃない」 そうよ、友達よ? 上辺のことしか話せない、本音は全然話せない・・・・・ そんな友達よ!? そんな友達に過去を知られたらどうなるか分からないから、必死で隠してたのに・・・・・ 「仮に、上原さんの言う意味で笑ってる人がいたとしたら・・・ そんな友達、いらなくない?」 「服部には分からないっ!!」 我慢出来なくなって服部を怒鳴りつけた。 あたしがどんなに寂しかったか・・・・・ 友達がいないのがどんなに寂しくて惨めだったか・・・ そんなあたしに、やっと友達が出来たときの嬉しさなんか・・・・・ きっと誰も分からない! 「服部には分かんないのよっ! 友達が離れていく怖さなんか・・・ 元々友達なんかいない服部には分かんないのよっ!!」 服部が目を見開いてあたしを見下ろす。 あたしも服部を睨みつけた。 ―――ひどいことを言ってしまった。 すぐにそう思った。 けれど、今言ったことを取り消すことも、服部を睨みつけるのをやめることも出来なかった。 服部はちょっとだけ目を伏せて、 「・・・・・ごめん」 とだけ言うと、教室の方に戻って行った。 「・・・・・はっ・・・」 思わず呼び止めそうになって、直前で声を飲み込んだ。 ―――友達がいない服部には分からない・・・ なんてことを言ってしまったんだろう・・・ あたしは・・・・・ 友達がいない辛さを知っているはずなのに、わざわざそんなことを言って服部を傷つけて・・・・・ 中学のときあたしをイジメていたクラスメイトよりも。 親切なフリをして、陰であたしを笑いものにしていた内藤佳代よりも。 わざわざ卒業アルバムを持って来たエリカよりも。 1番サイテーなのは、もしかしたら・・・ ううん、きっとあたしだ。 友達がいない人間に向かって、 「あんたには友達がいないから分かんない!」 なんて・・・・・ こんな傷つく言葉が他にあるだろうか・・・ 泣きそうになりながら、そのまま家に帰った。 食事もする気になれなくてそのまま部屋に閉じこもっていたら、夕方クラスメイトの友里からケータイに電話がかかってきた。 『桃子・・・ 今日は・・・ごめんね? 桃子があんなにショック受けるとは思わなくて・・・・・』 まさかクラスメイトからそんな電話がかかってくるとは思わなくて驚いた。 過去を知られてしまって、バカにされるか、笑われるか、そのどっちかだろうと思っていたのに・・・ きっと明日からは、またひとりぼっちになるんだろうと思っていたのに・・・・・ なのに、今、ごめんねって・・・・・ 『実はさ、クラスの何人かは桃子の昔のこと、知ってたんだよね』 「え・・・」 さらに意外なことを知らされて驚いた。 知ってたの? あたしが地味系女子でみんなからイジメられてたこと・・・ でも、今までそんな素振り全然なかった・・・・・ 『昔がどうだってカンケーないもんね。 つか、逆にそこまで頑張れる桃子はエライよ!』 「そ、そんなこと・・・ないけど・・・」 思ってもみない話に驚きの連続だった。 あたしが中学のときイジメられていたのを、何人かのクラスメイトは知っていた事。 けれど、あたしが頑張って変わったことを知っていたから、みんなもそのことにはあえて触れないでいてくれた事。 逆に、あたしから話してくれるのを待っていたらしい事。 ・・・・・そんなこと、全然気が付かなかった。 『エリカが一番そう思ってたんじゃないかなー』 「え・・・? だって・・・」 あのアルバムを持ってきたのはエリカなのに・・・? 『エリカね、いつも言ってたんだよ。 あたしは桃子と一番の友達のつもりでいるけど、桃子の方はそう思ってないかもしれないって。 全然心の中見せてくれないって・・・・・』 友里の話にショックを受けた。 エリカは気付いていたんだ。 ―――あたしが上辺だけでみんなと付き合っていたことを。 あたしはなんて浅はかな人間だったんだろう。 エリカたちには本当の自分を理解してもらうことは無理だって決め付けていた。 中学のときのあたしを知ったら、絶対離れていくと思っていた。 けれどそれは、あたしの勝手な思い込みに過ぎなかった。 あたしが上辺だけの付き合いしか出来ていなかったのは、みんなに問題があったんじゃなく、臆病なあたしが勝手に作り上げた壁のせいだったんだ。 『でもさ最近桃子、服部と仲良かったでしょ? エリカあれにすごいショック受けてたみたい。 なんで服部みたいなのとって。 自分より服部の方が桃子に近い位置にいる気がして焦っちゃったんだよ、きっと。 だからあんな事しちゃって・・・・・』 「そー、なんだ・・・」 『桃子の噂は前から聞いてて知ってた。 でも、実際アルバムを見たのは今日が初めてだったから思わず笑っちゃったけど・・・・・ ホントにごめんね? バカにして笑ったとか、そういうんじゃないんだよ?』 「うん・・・ あたしの方こそ色々・・・ ごめんね」 いつまでも昔のことにこだわって、壁作っててごめん。 みんなとちゃんと向き合おうとしないで・・・ ごめんね。 『本当はエリカが一番に桃子に謝りたいはずだと思うよ? 桃子が教室出てっちゃったあと、メチャクチャ泣きそうな顔してたもん。 すっごい後悔してると思う。 すぐ謝ってくると思うよ? 許してあげて?』 「・・・・・ん」 心に凝り固まっていたものが、少しずつ解けていくのが分かる。 ―――今、初めてエリカたちクラスメイトが、本当の意味で友達になってくれた気がする。 早くあたしからもエリカに謝りたかった。 「電話してくれてありがとう。 本当に嬉しかった」 お礼を言って電話を切ろうとしたら、 『・・・って、実はさ。 こうやって電話しようって思えたのは、半分は服部のお陰でもあるんだよね』 と友里が。 「え?」 『あのあと服部が教室に戻ってきて、みんなに言ったんだよね。 ・・・天然でキレイなのも、努力してキレイになったのも、どっちもスゴイだろって。 逆に、ハンパない努力した桃子の方が、天然美人より何倍もエライしスゴイって』 服部が・・・・・? 『あの服部だよ? いつも何しゃべってるのか分かんないような服部がさ、みんなの前で。 大きな声出して、ハッキリとさ。 みんなめっちゃ驚いてたよ』 服部がみんなの前で・・・・・ あたしのことを庇ってくれた・・・・・ 『誰にでも知られたくない秘密があるんだって。 そんなことも分からないで、色々噂したり笑ったりするヤツは友達やめろって。 怒られた』 みんなの前で大声を出すことが苦手な服部が・・・ ううん、普通に話すことすら苦手な服部が、あたしのためにそんなことを言ってくれたなんて・・・・・ その姿を想像したら、胸が詰まった。 『あいつ、ただのキモオタだと思ってたけど、ケッコーいいヤツなんじゃんってみんなも・・・』 「ねぇっ、服部んちの電話番号知らないっ!?」 友里の話の途中で割り込んだ。 今すぐ服部と話がしたい! 『え? 知らないよ〜。 桃子が知らないんじゃ、誰も知らないんじゃん? つか、あいつ今日、早退してたよ?』 「え? なんで?」 『知らない』 じれったい思いでお礼を言い、友里との通話を切った。 友里との通話が切れるのを待っていたかのように、今度はエリカから電話がかかってきた。 お互い半泣きになりながら謝って、週明けには一緒に買い物に行く約束もして通話を切った。 身体が震えた。 今朝教室で震えたのとは全く違う・・・・・ みんなの暖かさや友達のありがたみが身体に染み入って、震えた。 ―――服部・・・ あたし、あんたにちゃんと謝りたい。 それから、ありがとうってお礼を言って・・・ あたしの気持ちを正直に伝えたい! 早退したって言ってたけど・・・・・ もしかして、具合悪くなっちゃった? 普段そんな大声出すなんてことないから、慣れない事して体調崩れちゃったとか・・・・・ ・・・・・ありうる。 そんなことを考えていたら、メチャクチャ心配になってきた。 早く服部と連絡を取りたい! ・・・・・でも、どうやって? 服部はケータイ持ってないし、家電も分からないし、直で尋ねて行くっていったってその家の場所自体分からない。 そう言えば・・・ あたし、服部のこと全然知らない。 ギターが上手くて、同じミナミファンで・・・ってことくらいしか知らないんだ・・・ そんなことに今さら気付いて愕然とする。 あたしたちって、会ってるときは大抵ギターかミナミの話ばっかりしてたもんね・・・・・ まぁ、きっかけがミナミだったからしょうがないんだけど。 「・・・・・あっ!」 とそこまで考えて、今日がミナミのラジオがある日だということを思い出した。 雑誌やテレビには出ないミナミだけど、ラジオには出ている。隔週でレギュラーを持っていて(って言っても、30分だけなんだけど)、それが金曜日の夜・・・今夜だ。 慌ててラジカセのスイッチを入れた。 『・・・というわけで、今日は午後から明日のリハーサルやってたんだけど、9割完成って感じかなぁ。 あとの1割は、あしたみんなが来てくれてやっと埋まるって感じです』 良かった・・・ まだ始まったばっかりだ。 あたしは慌ててケータイでメールを打ち始めた。 他のラジオ番組でもやっているように、ミナミのラジオでもリスナーからのメールを受け付けている。 あたしも何回かミナミの番組へメールを送ったことがある。 ・・・・・一回も読まれたことはないんだけど。 でも、前に服部とミナミの話になったとき、確か服部もこの番組を聞いてるって言ってたし・・・ こんなメール読んでもらえないかもしれない。 けれど、他に今服部と連絡を取る方法が思いつかない。 焦って打ち込んでいるせいで、何度も打ち間違いをした。 あ〜〜〜っ!! ケータイでメール打つってこんなにじれったかったっけ? お父さんのパソコン借りようかな・・・ でも、アドレス入力する時間が惜しいし、もしかしたら、お父さん今パソコン使ってるかもしれないし・・・・・ そんなことを考えながら、鬼のような早さでメールを打った。 早くしないと今日の番組内に読んでもらえない。 見直す時間もなく送信! ホッと息をつき、ケータイを閉じた。 ・・・・・読まれないかもしれない。 もし読まれたとしても、その他大勢の人にも聞かれることになる。 読まれたときにそれがあたしだと服部に分からないと困るから、本名で送っちゃってるし・・・・・ かなり恥ずかしいわよね・・・・・ ―――なんて考えてもしょうがないか。 もう送信してしまったあとだ。 あとはなるようになるしかない。 誰かがリクエストした曲なんかを聞きながら、じっとラジカセの前で待つ。 『えーと、次はメールを・・・・・』 曲が終わりリスナーからのメールを読もうとしたミナミの声が、一瞬止まった。 ? 『―――・・・の?』 小さく、スタッフに何か確認しているミナミの声が聞こえる。 心臓が助走を始める。 『じゃぁ、次は・・・・・ 茨城県のモモコちゃんからのメール。 ・・・って、言っても、コレ僕宛じゃないんだよね』 ウソ・・・ 茨城県のモモコって・・・・・ あたしっ!? 『コレ完全にモモコちゃんの私信だよなぁ。 ま、いっか。 えーと・・・ ハットリへ。 今日はヒドイ事を言ってごめんなさい。 傷つけてごめんなさい。 カッコ悪くて恥ずかしくて、今まで隠していたけど、私は中学の頃イジメに遭っていました。 私はいつもひとりだったから、ずっと友達が欲しかった。 だから変わる努力をしました。 私は勘違いをしていました。 キレイになれば友達が出来ると勘違いしてしまいました。 そのせいで、あんなに欲しくてやっと出来た友達を逆に傷つけていました。 自分から壁を作って、その中に閉じこもっていたせいです。 けれど、今日その壁を崩す事が出来、やっとみんなと本当の友達になれた気がしました。 そのきっかけを作ってくれたのはハットリです。 本当に感謝してる。 どうもありがとう。 どうしても今すぐ気持ちを伝えたくて、でも他に方法が思いつかなくて、こんな形になってしまったことを許してください。 本当は直接話がしたい。 もしコレを聞いてくれていたら、電話を下さい。 もっと伝えたいことがあります。 モモコ ・・・・・だそうです。 ハットリさん?くんかな? もしこれ聞いてくれていたら電話してあげてくださーい。 それからモモコちゃんは相当慌ててたみたいで・・・誤字脱字はこっちでテキトー直しておきました。 感謝してください!』 ミナミはそう言って笑うと、次のメールを読み出した。 ・・・・・まだ心臓がドキドキいってる・・・ 読まれたいとは思っていたけど、まさか本当に読まれるなんて・・・・・ とにかく、あとは服部がちゃんと今の放送を聞いてくれて、あたしに電話してくれることを祈るだけだ。 ケータイを握り締めて服部からの連絡を待った。 電話がきたら、なんて言おう・・・ まず、今日の発言を取り消して謝ろう。 それから、みんなの前で庇ってくれたことのお礼も言って・・・・・ あ、友里やエリカから電話が来たことも教えた方がいいよね? 心配してるかもしれないし・・・・・ そうだ。 早退した理由も知りたいんだった 大きな声出して、知恵熱出しちゃったとか・・・。 それとも、あたしがヒドイこと言っちゃったのがショックで具合悪くなっちゃったとか・・・・・ 電話を待っている間いろいろ考えていたら、話したいことが多すぎて上手くまとめて伝えられるか自信がなくなってしまった。 ・・・電話がきたら会いに行こうかな。 どこかで待ち合わせて・・・・・ って、やっぱり無理かなぁ・・・ もう10時過ぎてるし。 こんな時間に出て行ったら、またお母さんに怒られちゃう・・・・・ なんて事を考えていたら、 『そろそろお別れの時間がやってきました』 とミナミのラジオが終わる時間がきてしまった。 さっきのメールを読まれてから10分くらい経過している。 服部があのメールを聞いて、しかもあたしに連絡をくれる気があったら、もうとっくに連絡が来てもいいはずだ。 それが、10分待っても来ないって事は・・・・・ あのメッセージを聞いていないか、それとも聞きはしたけど連絡する気がないのか・・・・・のどっちかだ。 どうか前者であって欲しい。 『じゃ、今日のおまけメール〜♪』 ミナミのラジオは、番組の一番最後に短いメールを読んでくれる。 『ポストを見て下さい。そこで会いましょう。ハットリ・・・って、これ、さっきのモモコちゃんからのメールへの返事じゃんっ! ってゆーか、この番組伝言板じゃないんだけどっ!? こーゆーことはメールでやってくれよな〜・・・ んじゃ、また再来週!』 いつものBGMが流れ、ミナミのラジオが終わった。 CMが流れている間、しばらくラジオの前で固まった。 ・・・・・今のって、服部からの返事っ!? ポストって言ってたけど・・・ 慌てて階段を駆け下り、玄関を飛び出した。 お父さんが趣味の日曜大工で作った飛行機の形のポストを探る。 中に封筒が入っている! 家に入るまで待てなくて、玄関の外灯の明かりで封筒の中身を確認した。 中からチケットが出てきた。 ―――ミナミのライブのチケットだ。 しかも、明日の! そう言えばずっと前、 「おれがチケット取るから、2枚」 って服部言ってくれてたっけ。 色々あって、ミナミのライブのことすっかり忘れてたけど(ミナミ、ごめんっ!) でも・・・ これだけ? 他に何か入ってないかと封筒の中を探ったけど、何も入っていなかった。 そのチケットにはメモが貼ってあって、メモには手書きで、 っていうか、いつ入れてったの? あのラジオ聞いた後・・・よね? 手元のチケットに視線を落とす。 『ポストを見て下さい。 そこで会いましょう』 って言ってたけど・・・ これってミナミのライブ会場で会おうってことよ、ね? チケット1は枚しか入ってないし、服部がもう1枚持ってて、会場で待ち合わせって・・・・・ そういうことよね? あたしはハッとして家の中に飛び込んだ。 「お、お母さんっ! お願いだから、お金貸してっ!!」 ライブ会場は東京だ。 |
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