D Romanticが止まらない
驚いた陸の目線があたしの顔の下に向けられている。 ……バレた。 「…な、なんで?」 「違うの違うのっ! 今日休みだったからなんだけど!それでちょっと油断?してたらっ、急に麻美が強引に連れ出すからっ!気付く余裕もなくてっ! で先輩に言われて気が付いてっ! そ、それで先輩がパーカーくれたのっ! 以上! 説明終わりっっ!!」 あとで考えるとずいぶんメチャクチャな説明だったけど、そのときのあたしには順序だてて説明する余裕なんかなくて。 でも、なんとなく陸には伝わったみたいだ。 「だ、だからパーカー脱げなかったのっ!もうっ!!」 恥ずかしさから、つい怒ったような口調になってしまう。 「…ゴメン」 事情を知らなかった陸が顔を伏せる。 「だから……デートは無理なの」 「ゴメン」 強引にパーカーを脱がせようとしたことを反省してくれる陸。 「……分かってくれれば、いいよ」 そんなに謝ってくれなくても……もう謝罪の気持ちは十分伝わったから。 けれど陸はまだ顔を伏せたまま、 「ゴメン」 と謝っている。 「もういいってば!」 「ホントにゴメンね?」 と言いながら陸が前髪の隙間から上目遣いにあたしを見る。「ちょっと…ガマン出来ないかも」 陸の目がいつの間にか猫がネズミを狙うような鋭い目に変わっている。 「…え? ちょ、まさか―――っ!?ンンッ!」 あっと思う間もなく陸が強く唇を合わせてきた。 何度も噛みつくように唇を食んだあと、歯列を割って陸の舌が入ってくる。 ちょ…ちょっと! 待って待って待って!? 陸のこの勢い……まさかでしょ!? やっと陸のこと好きだって気が付いたばっかりで、まだそんなとこまで……無理…… 陸の舌が歯列の裏や上顎をくすぐってくる。 こ、心の準…備、が……出来て、な…… ダメだよ…… そのキス… 反則…だよ…… 陸の舌があたしの舌を絡めとる。やっぱり別な生き物みたいな動きをしていて…… なにも、考えられなく…なっちゃう…… 「ま、まって…」 陸の唇があたしの唇から耳の方に移ったとき、声を振り絞って抗った。「ね…待って陸」 |
「……何を待つの?」 耳たぶを甘噛みされ思わず声が漏れる。 「―――ッぁんっ」 な、何? ……今の、あたしの声? 「ちょっ、待ってってば…っ」 あたしの抗議もむなしく、陸の唇は首筋から鎖骨へ。 いつの間にかあたしの両手は陸の右手だけで掴まれていた。左手はあたしの頬から首筋に移って、肩のラインへ滑っていく。 「陸…っ ほんと、ちょっと…待って」 「待てないよ」 と言いながら陸はTシャツの上からあたしの胸に頬を当てた。「すごいドキドキいってる。怖いのかな? キンチョーしてる?」 ……キンチョーしてる? じゃないよっ!! そう思うんだったらやめてよ―――!! 「……でも、ここは待ってるみたいだよ? オレのこと」 「あんッ」 シャツの上から胸に唇を落とされた。 「やだ…んっ!…はっ」 「結衣……色っぽい」 わ―――! 待って待って待って―――ッ!! 陸の左手がいつの間にか反対側の胸にっ! 「触ります」 「ダ、ダメっ!―――やんっ! あっ」 陸がすくうように胸に触る。 「ダメじゃないでしょ? ……気持ち良くしてあげるよ」 シャツの上から胸の輪郭をなぞるように陸の指が動く。くすぐったいような肌が粟立つような…そんな感覚が身体を走る。 呼吸がどんどん早くなっていくのが自分でも分かる。 触れるか触れないかの距離で輪郭をなぞっている指がときどき胸の先端を掠める。 「あ…っ、あんっ」 「いい声…」 「な、何…言って…んっ」 「もっと聞かせて?」 と言いながら、すでに痛いぐらい硬くなってしまっているそれに唇を落とす。「どうせ休みで誰も来ないから、声出したって平気だよ」 「そん…な、…はあっ、ンッ!」 シャツ越しに、生暖かい陸の舌の感覚が伝わってきた。ゆっくりと舐め上げたあと甘く歯を立ててきて。 「あっ!あんっ …や、やだっ やめっ…あっ」 「やだ? ホントに?」 頭は痺れたようにボーっとしてて。身体の奥がじわじわと熱くなっていって。抵抗しなきゃって思うのに、身体は言うこと聞いてくれなくて。 抵抗したくても…… もう力が入らない…… いつの間にか陸は膝まづいていて、抱き寄せるようにあたしの腰に腕を回していた。 シャツの裾から陸の手が差し入れられる。脇腹のあたりにひんやりした手が触れ、ビクッと身体が震えた。思わず陸の肩に手をつく。 |
陸の手はそのままゆっくりと這い上がってくる。 「……や、あ…」 「……直接触ってもいい?」 目を瞑ったまま首を振る。 「じゃ、見るだけ」 と言いながら耳元にキスされた。陸の前髪が耳に入ってきてそれだけでまた肌が粟立ってしまう。 「ね…いいでしょ? 見るだけだから。何もしないよ」 「っ!ひゃっ」 耳の中に陸が舌を入れてきた。 もう……頭バクハツしそうっ! 「…み、見るだけだ、よ」 Tシャツの上からでもイロイロされてて、それを脱いだら陸が見てるだけなんてありえないって…よく考えれば分かりそうなものなのに、この時のあたしにはそんなこと考える余裕は全くなかった。 陸は器用にあたしからシャツを剥ぎ取ると、ほんの少しだけ身体を離してあたしのことを眺めた。 背後の壁が冷たかったけれど、陸の視線から少しでも離れたくてあたしは壁に背中をピタリとつけていた。 「―――――…」 陸はあたしの腰に手を添えたまま黙ってあたしを見上げている。 な、なに…? なんか言ってよ!? ……はっ! もしかして…… あたし胸小さいし……ショック受けて…る? 「……り、陸?」 「……綺麗だ」 そう呟いた後、陸はあたしを見上げた。「すっごく綺麗だよ、結衣」 「う、うそっ…あんっ!」 陸が急に鎖骨の下あたりを強く吸い上げた。 「へへっ キスマーク付けちゃった」 「ええっ!?」 陸はアーモンド形の瞳を細め、口の端を少しだけ上げて笑った。 「オレのものってシルシ♪」 そう言いながらあたしと目を合わせたまま唇を胸の方へ移動させる陸。 |
「み、見るだけ…なんだよね?」 「……そうだっけ?」 「り、陸…そう言った、よ?」 陸が視線を胸の方に移す。その唇の端から舌先が見えて、あたしは僅かに震えた。 肌に唇を落とす直前、陸が再びあたしと目を合わせる。 「……そんな顔しないで?」 だ、だって……っ 「気持ちいいコトじゃなくて、ヒドイこと教えたくなる……」 と、陸の唇があたしの胸に触れる直前、 「誰かいるのか―――っ!?」 と大きな声が聞こえた。 はじかれたように顔を上げる陸とあたし。 「閉めるぞ―――?」 あ、あの声は……風紀顧問の川北先生!? 多分、体育館の入り口あたりから中に向かって怒鳴ってるんだと思うけど…… 大変! 外から閉められたら出られなくなっちゃう! 「え、ど、どうしよう…っ 早く行かないと閉じこめられちゃうっ」 「……大丈夫。外に出られるとこなんていくらでもあるから」 陸が唇に人差し指を当てる。 あたしたちが息を殺して川北先生がいなくなるのを待っていると、 「どこにいるんだ? 聞こえないのかあ」 と言いながら先生が体育館の中に入ってくる気配がした。 |
「……なんで出てかねーんだろ」 あっ!? 「あたしのせいかも……」 ん? と陸が視線で問い返してきた。 「あたし、サンダル体育館の入り口のところに脱いできたから……それで誰かいるって思ってるのかも」 「マジか」 陸はちょっと考え込む顔つきになった。 こうしている間にも川北先生は体育館内を歩き回ってサンダルの持ち主を探している。 いずれこの体育用具室も覗きに来るに決まってる! ど、どうしよう…っ 「コレ着な」 陸は自分のシャツをあたしに手渡してきた。そして自分は先輩のパーカーを羽織ると、体育用具室の出入り口とは反対側の壁にある小さな窓に近づいた。 明り取りのためなのか換気のためなのか…その窓は壁の高い位置についていて、しかも防犯用の鉄格子がつけられている。 そんなところから出られないよ…… あたしの心配をよそに陸は飛び上がってその窓の縁に手をかけると、窓を開けて鉄格子に顔を近づけた。そして、 「センセ〜! 川北センセ〜! 部室棟の方から煙が上がってますけど〜。あれってタバコじゃないですかねぇ〜!?」 と裏声のような声を出した。 「なにっ? タバコ?」 扉の向こうで川北先生が唸るのが聞こえた。そして、「どこですって? 部室棟?」 と荒い足音とともに先生の大声が遠ざかっていく。 ……どうやら出て行ってくれたみたい。 た、助かったぁ〜… 陸がヒョイと窓から飛び降りてくる。 「すごいね。先生騙されて行っちゃった」 「でもすぐ戻ってくるよ。もったいないけど急ごう」 陸はチュッと軽くあたしにキスをすると、「続きは近日中に!」 とアーモンド形の目を細めた。 GW明けの8時過ぎ。桜台高校の校門前は登校してきた生徒たちで溢れかえっていた。 「おい、何だコレは!」 川北先生が雑誌を取り上げる。「没収だ!」 そう言って背後にある大きなダンボールに雑誌を放り投げる。 「次! 勉強に必要のないものは全部没収するからな〜!?」 連休前に予定していた通り、校門前で抜き打ちの持ち物チェックが行われた。 「それにしても…すごいね」 五十嵐くんが段ボール箱の中を覗き込む。「ほとんど商業科のモノだけど」 箱の中には雑誌や化粧品、携帯型ゲーム機やタバコなど色々なものが山となっていた。 |
「オハヨーゴザイマス。センパイ?」 と言う声に振り向くと、陸があたしと五十嵐くんの前に立っていた。 「お、おはよ」 「……カバン開けて」 五十嵐くんは挨拶も返さずに陸のカバンを指差した。 「どうぞ〜♪」 陸はファスナーを開けてカバンごと五十嵐くんの前に突き出す。「なんかあるかなぁ」 五十嵐くんが陸のカバンを手にする。しばらく中をチェックしたあと、 「……村上さん」 とあたしを振り返る。「抜き打ちなんだけど」 五十嵐くんは、教えたろ?といった目線であたしを睨んだ。 「ボディチェックは? しないの? タバコとかあるかもよ〜?」 五十嵐くんは忌々しそうに陸を一瞥してから、次の生徒のチェックに移った。 陸は勝ち誇った顔で五十嵐くんを流し見ると、カバンを肩にかけなおした。そしてちょっとだけ声を小さくすると、 「帰り、校門とこで待ってる」 とあたしに耳打ちした。 あ、今日は……とあたしが言おうとしたら、 「村上さん! 放課後委員会あるの忘れないでね。没収した物の一覧表作るらしいから」 と五十嵐くんが別な生徒のカバンの中をチェックしながら言った。 「は、はいっ」 あたしは慌てて陸から一歩離れた。陸が眉間にしわを寄せて、 「地獄耳かよ。 ……つかテコンドーのヤツやっぱ……」 と呟いた。 「? やっぱりって何?」 「なんでもね」 「おはよ、結衣!」 続いて麻美がやってきた。そして、あたしのそばにいる陸に目線を向けると、「もしかしてキミがこの前の?」 陸は顎を突き出すように軽く麻美に頭を下げて、 「この前はどーもスミマセン。ちっと急いでたんで」 と笑いかける。 実はこの前、あたしと杉田先輩が体育館にいるときに陸が現れたのは偶然じゃなかった。 いや、途中までは偶然だったらしいんだけど…… あの日、あたしを乗せた先輩の車が信号待ちか何かしていたところを陸が偶然見かけたらしい。 声をかけようとしたらしいんだけど、陸がいたのはあたしたちの車とは反対側の歩道で、道幅も広く車の通りも激しかったからそれは叶わなかった。 そうこうしているうちに車は走り去ってしまって……で、慌ててあたしのケータイに電話を入れたら祐樹が出て、 「ねーちゃんなら未来の兄貴が連れてった」 と言った。 半ギレになった陸が祐樹に問いただしたところそれはどうも麻美が呼び出した男らしいと分かり、あたしのケータイのメモリから麻美の番号を祐樹に調べさせ、陸が麻美に電話した……ということらしかった。 麻美は先輩が書類を取りに学校に行くことを知っていた。 「間に合ったみたいで良かったわね。……ってあたしはべつに、キミじゃなくて杉田先輩で良かったんだけどね」 麻美がカバンを五十嵐くんに渡しながら言う。「結衣にハッキリさせてあげたかっただけだから」 「センパイ、いー性格してんね」 と陸は笑った。……けどその目は笑っていない。 「あ、あの…2人とも?」 麻美と陸の険悪な雰囲気にあたしが慌てていると、 「ホラそこっ! チェックが済んだ者はさっさと教室に入れ! あとがつかえてるんだから!」 と川北先生の怒声が飛んできた。 なんか幸先不安な感じだけど…… 上手くやっていけるよね! きっと…… |
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