パーフェ☆ラ 第4章

F 真由の努力


「え? レディコミ貸してくれッ!?」
ミドリが目を見開く。
「あはははっ! 真由もそんなの読みたいんだ〜?」
チハルは笑いながらあたしの脇腹を突付いてきた。 あたしは、
「ちっ、違うよっ!! そーじゃなくてっ!」
大慌てで手を振って、「ちょっと、勉強したいというか・・・」
と手元に目を落とした。
あたしはトイレで男子の会話を立ち聞きした後、慌ててミドリの家にやってきた。
あたし、今まで男の子と付き合ったことないし、そ、そっち系の情報も皆無に近いから、メグに呆れられる前に勉強しておかなくちゃだよっ!
でも、どうやって?
って考えたとき、ミドリの家にレディコミがあったの思い出したんだよね・・・
「レディコミなんかでどんな勉強すんだよ? 貸すのはいいけど、理由を聞いてから」
「え・・・っ!?」
「そうそう! なんか面白そうだし、教えてよ!」
ミドリとチハルがあたしに迫る。
ど、どーしよう・・・・・
メグとのことは内緒だし・・・・・
でも、レディコミは借りたい。 恥ずかしくて自分じゃ買えないから・・・・・
―――仕方ない。 メグの名前は出さないで話すか・・・
あたしがあのときの事・・・せっかく勇気出して誘ったのに、メグに断られたときの事をかいつまんで話したら、
「えっ!?」
と二人は固まった。
「真由・・・・・ 彼氏いたのかよ・・・」
「・・・意外・・・ ってゆーか・・・ 悔しいっ!」
なんであたしたちにいないのに真由に・・・ッ!と二人はひとしきり愚痴ったあと、
「ま、まぁ、いーか。 どうせロクでもない男に決まってるし。 津田沼あたりだろ?」
とミドリがちょっと馬鹿にしたような目線をあたしに向けた。 チハルも、
「ああ! あの真由と仲いいメガネくんか。 だったら許す」
許すって・・・
「あのね? 津田沼、2人が思ってるほど悪いヤツじゃないから! ケッコー心広いし、いい写真撮るし・・・ っていうか津田沼じゃないからっ!」
あたしが否定しようとしても、2人は全然聞く耳を持たず、
「あ〜、いい、いい! あたしたちも津田沼には興味ないから!」
「でも、真由には協力するよ。 面白そうだし♪」
2人はあたしの彼氏が津田沼だとカン違いしたまま、あたしに協力してくれた。
「とりあえず、エッチの方はこれ貸すから、それで勉強しな」
ミドリはあたしの前にコミックを山積みにして、「S系、M系、鬼畜、オレ様・・・・・イロイロあるぞ? あ、オフィスものも読む?」
「いや・・・・・ もっと普通のでいいんだけど・・・」
そんなんじゃ参考にならないよ・・・ どれもメグと違うし・・・・・
あ、でもちょっとオレ様かも・・・・・
とりあえず、ミドリが出してきたコミックの中から数冊借りることに。
でも・・・
なんか表紙からスゴイんだけど・・・  絶対お母さんに見つからないようにしなきゃ・・・
「ねぇ・・・ ミドリ? マグロって、なに? お刺身のことじゃ・・・ないよね?」
「はっ!?」
トイレで立ち聞きした中で、それだけ何のことか分かんなかったんだよね。
な、なんか、前後の会話から・・・エ、エッチに関することだろうとは思ったんだけど・・・
それも、知らなかったらいざというとき恥かくってことだったら困るし・・・ ミドリに教えてもらお。
とあたしが考えていたら、ミドリがお腹を抱えて笑い出した。
「な、なんだよっ!? 津田沼にそんなコトまで言われたのかよっ!?」
だから津田沼が彼氏じゃないって!
でも、否定すると、
「じゃ、誰?」
と聞かれそうだから、この場は津田沼の名前を借りたままにする。
「・・・え? なになに?」
涙を流しながら笑い転げているミドリから、やっと・・・・・・マグロの意味を教えてもらった・・・
―――そ、そーゆー意味だったんだ・・・
「それから、格好ももっと変えた方がいいよね?」
と今度はチハルがあたしの全身を眺める。
「え? ダメ? これじゃ・・・」
「ダメじゃないけど、もっとアピールする格好の方がメガネくん飛びついてくると思うけど」
立って、とチハルに言われるまま立ち上がる。
「まず、スカートはもっと折ろう」
チハルがウエスト部分をくるくると巻き上げる。
「ちょ、ちょっと!? これじゃ短すぎるんじゃないのっ!?」
とあたしが慌てたら、
「気になるんならスパッツ穿けば? でも、勢いでエッチになったときメガネくんが嫌がるかも」
軽く流された。
「それからシャツ。ベストは脱いで、もうひとつボタン外そ。 真由意外と胸あるし、それ強調しないと損だよ」
「う、ウソ・・・ あたしそんなにないよ?」
「あるよ・・・ 少なくともあたしよりは」
チハルはちょっと面白くなさそうな顔をした。
ウ・・・ウソ? 自分じゃ全然気が付かなかったけど・・・・・
「メイクはしなくてもいいか。嫌いなコもいるし。 あ、グロスだけはたっぷりつけなね?」
チハルはあたしを見上げて、「これで来週の誕生日は・・・♪だね!」
「は? 誕生日って?」
とあたしが聞いたらチハルはちょっと驚いた顔をした。
「真由、自分の誕生日忘れちゃったの?」
「え? ・・・あっ!」
そうだ! チハルに言われて思い出したけど・・・
来週の月曜日16日は、あたしの17歳の誕生日だった!
「なんだ。 それで頑張ってんだと思ったのに。違ったの?」
「え・・・? あ、まぁ・・・ そんな感じ?」
最近、追試のこととか、メグのこととか気にすることが多かったから、すっかり忘れてた!
17歳かぁ・・・
チハルが言うとおり、いい感じの誕生日になるといいなぁ・・・ メグと・・・♪
あたし、生まれて初めてだもんね。 「彼氏」と過ごす誕生日!
うわ―――っ! 嬉し〜・・・・・―――って・・・
胸に一瞬不安がよぎる。
・・・・・メグ、あたしの誕生日忘れてないよね?
いや? あたし自身が忘れてたくらいだから、メグだって・・・ってこと、十分ありえるかも・・・
大丈夫だよね? メグ、覚えてるよね? 小さい頃、お互いの誕生会とか何回もやったし・・・
別に何して欲しいってワケじゃないけど、
「おめでとう」
って言ってくれるだけでもいいんだ。
で・・・・・ キ、キスとか? してくれれば・・・
あ、でも・・・
「17って言えば、もう大人だな」
とかメグ言っちゃって、
「ついでに、身体も大人にしとくか」
とかとか・・・・・ 言っちゃう―――――ッ!? ぎゃ―――ッ!!
「ま、真由?」
ミドリとチハルが驚いたような顔をあたしに向けた。 あたしは深呼吸しながら、
「あのさ、ミドリ? やっぱりもうちょっと・・・・・ コミック貸して?」

翌朝。 ドキドキしながら教室へ。
ミドリに借りたコミックを読んでいたせいで、ちょっと寝不足・・・ っていうか、内容がハード過ぎて、寝付けなかったっていうか・・・
でも、今日は早く登校したかったから、気合いで早起き!
いつもより早かったおかげでメグはまだ来ていなかった。
ホッと溜息をつく。
メグに見せる前に、やっぱりチハルたちに確認してもらいたい。
「お! 早速だね」
チハルとミドリが登校してきた。
「ちょっと・・・ 変じゃない?」
昨日と同じようにしてきたつもりだけど、やっぱり1人じゃ自信がない。
「変じゃないよ〜。 5組には行ったの?」
「は? 5組? なんで?」
「だってメガネくん5組でしょ?」
・・・・・そうだった。 2人はあたしの彼氏が津田沼だって誤解したままなんだった。
「ま、まだ・・・」
早く行けば?という二人のことをなんとか誤魔化して、メグが登校してくるのを待つ。
間もなくメグがやってきた。
き、来た―――――ッ!!
メグは肩にカバンをかけたまま、こっちを見ていた。
ど、どう? 魅力感じる? ちゃんとメグにアピール出来てる?
とメグの様子を窺ったら・・・・・
―――あ、あれ?
メグは上目遣いにあたしを見ていた。 ・・・というか、睨んでる?
メグ・・・ もしかして、なんか・・・・・ 怒ってる?
な、なんでっ!?
「市川〜? どしたの? お前?」
メグの反応にあたしが戸惑っていたら、クラスの男子が声をかけてきた。
「え? え? やっぱ、変?」
「変じゃねーよ。 いーよ! かなり」
「ホントっ!?」
メグの視線でちょっと不安になったけど、他の男子もこう言ってるんだから・・・ 大丈夫なんだよね?
チハルたちにはあたしの彼氏は津田沼だと思われてるし、もともと学校じゃメグとは他人のフリしてるから、メグに直接感想聞くことも出来ないままその日の授業を受ける。
「あ、あたしトイレ行ってくる」
「じゃ、先行っていい席取っとくね〜」
5限目は視聴覚室で英語の授業だった。 チハルたちに先に行ってもらって、1人トイレに向かう。
やっぱ、スカート短すぎて緊張する・・・ なんかトイレも近くなるし・・・
とあたしが足早にトイレ向かったら、
「オイッ!」
と急に声をかけられた! ビックリして振り返ったら、メグが立っていた。
「あ・・・ メ、メグ・・・」
うっかりメグって呼んでしまった!
慌てて周りを見渡す。 ・・・・・誰も聞いていなかったみたい。 ホッと胸をなで下ろす。
「メグ、じゃねーよ」
メグはなんだか怒っているみたいだった。
「あ、そーだよね。 ごめんね、千葉くん」
とあたしが謝ったら、メグは余計に怒って、
「誰が呼び方の話なんかしてんだよ!」
「え?」
メグはあたしを一瞥して、
「・・・・・何考えてんだよ」
「は?」
「その格好だよ!」
・・・やっぱりメグも気付いてくれてたよね。
他の男子からは好評だったけど・・・・・
「ど、どうかな・・・?」
とドキドキしながら聞いたら、
「―――どうかな?」
メグはあたしのセリフを繰り返してから、「最悪だろっ!?」
と吐き捨てるように言った。
―――え? さ、最悪? ・・・って、どこが・・・?
戸惑うあたしに、さらにメグは、
「とにかく、そんな格好は今すぐやめろ」
「な、なんで・・・? あたし、メグが喜ぶと思って・・・」
「・・・学校にそんな格好してきて、喜ぶ男がいるかよ」
「・・・・・だって・・・ クラスの男子はいいって言ってくれたよ?」
あたしが小さい声でそう言ったらメグは、
「お前・・・・・ ホントに頭悪いな? 悪すぎてムカつくよ」
とあたしを睨んできた。
な、なにっ!? また頭悪いって・・・・・
どこがいけなかった? ハッキリ言ってよっ! メグが言うとおりあたし頭悪いんだからさっ!!
っていうか、こっちは恥ずかしいのを頑張ってやったってのに・・・・・っ!
他に言うことないわけっ!?
それとも、褒めるところがないほど最悪なのっ!?
「も、もういいよっ! 別に、メグのためだけにしたってワケじゃないからっ! ほっといて!!」
あたしはメグから顔を背けた。
「・・・・・止めねーってのか?」
だ、だって、せっかくチハルやミドリたちがやってくれたのに・・・ って、半分遊ばれてた気がしないでもないけど・・・
チラリとメグの顔を窺ったら、メグはもの凄く怖い顔をしている。 慌てて視線をそらす。
―――ホントは止めたっていい。
メグが喜んでくれるかもって考えてしたことだし、そのメグが止めろって言うんなら止めるよ?
・・・けど、最悪とか頭悪いとか、もっと他に言い方ないのっ?
そんな言い方するから、あたし素直になれないんだからねっ!?
あたしが意地になってそっぽを向いていたら、メグはますます怖い顔をして、
「・・・・・お前・・・ ホントに、オレ怒らせる天才だな?」
と言い捨てて、振り向きもしないで階段を上がっていってしまった。
な、なによ・・・・・
せっかくもっとメグと近づきたいと思って・・・ やったことなのに・・・・・
5限目が始まるチャイムが鳴る。 けれど、あたしはその場で俯いていた。
―――オレ怒らせる天才だな?
・・・・・・
あたしだって頭良くなりたいよ。 天才になりたいよっ!
メグのこと喜ばせる天才になりたいのに・・・・・
なんでいつもこうなっちゃうんだろ・・・・・

泣きたい気持ちのまま週があけた。
本当は週末 メグに謝りたかったのに、メグはどこかに出掛けてしまったみたいだった。
どこ行ったんだろ・・・ 予選も終わって部活もないはずなのに・・・・・
「え? 恵? なんか買い物行くとか言ってたけど・・・」
買い物っ!?
こっちは金曜日のこと気にして、メグに謝らなきゃ謝らなきゃ・・・って夜もロクに眠れなかったっていうのに・・・・・
自分は楽しく買い物っ?
もう、あのときのことなんか忘れちゃってるっていうのっ??
・・・・・っていうか、もうあたしのことなんかどーでもよくなっちゃったの?
―――――なんか・・・ 本当に泣きたくなってきた・・・
結局、好きなのはあたしの方なんだよね・・・
メグもあたしのこと好きって言ってくれたけど、好きの度合いで言ったら絶対あたしの方が上なんだ。
いつもいつも、あたしはメグのことばっかり考えてるけど、メグは勉強のこと考えて、部活のこと考えて、それからあたしのこと考えてって・・・その他色々のうちの1つなんだ。
ううん。 もう、その他色々にも入ってないかも…・・・・・
だって、
「オレ怒らせる天才だな?」
だもん。 あたし・・・
「・・・真由? なんか、元気ないね?」
落ち込んだまま学校に行ったら、チハルとミドリが声をかけてきた。
「あれ? あのセクシーダイナマイト止めたんだ?」
「ん・・・ あ、ミドリ、コレ」
あたしはミドリに紙袋を渡した。「借りてたコミック。 返すね」
「え? もう研究し終わったのか?」
「はは・・・」
研究できなかったよ・・・
いくらメグだって、あたしのこと縛ったりしないもん。 ミドリ、すごいの読んでるんだね?
・・・・・じゃなくて・・・
「もう、研究する必要、なくなったかも・・・」
「えっ!?」
ミドリとチハルが顔を見合わせる。「どーいう意味?」
「もう、終わりかも知んない・・・ あたしたち・・・」
「え? ちょっと、真由?」
・・・なんて、何も始まってないけどね。 あたしとメグ・・・
あたしたち付き合うようになってから、勉強しかしなかったし・・・
そう考えたら、この前の「再試合」も未遂で終わって良かったのかも知れない。
「ウゼェ」
とか思われる前に終わって良かったよ・・・
「真由?」
もうすぐ夏休みになるのはラッキーだったな〜・・・ 教室で顔合わせないですむもん。
・・・家が隣同士なのはしょうがないとして。
「真由っ!」
ミドリとチハルがあたしの肩をつかんで、「今日一緒に誕生日やろうっ! あたしたちが祝ってあげるから!!」
といつもらしくない真面目な顔をしている。
そう言えば、誕生日だったっけ・・・
「ありがと・・・ 心配かけてごめんね? 大丈夫だから・・・」
落ち込んだまま授業を受ける。
あたしは窓際の後ろの方の席で、メグは廊下側の真ん中あたりの席。
今までだってクラスでは他人の振りしてたけど・・・
今日は特にメグが遠く感じる・・・
会話するどころか、目だって合わないし・・・
メグ、今日あたしの誕生日だよ? 17歳になったんだよ?
やっぱり忘れてたの・・・? それともこの前のことでホントに呆れられちゃったのかな・・・
―――今日は、最悪な誕生日になるかもしれない・・・

「あれ〜っ!? なんで今日はスカート長いの?」
「ははは。 ちょっとね。 っていうか、こっちが普通だから!」
「オレ、あっちの方が良かったな〜♪」
放課後。 ミドリとチハルと、あとクラスの男子数名と一緒にカラオケボックスにやってきた。
「今日は真由の17歳の誕生日だから! みんな盛り上げてね〜! じゃ、カンパ〜イ!!」
チハルの掛け声で、みんながグラスを合わせる。
「市川・・・ってのも他人行儀だよな。じゃ、今日から真由、で!」
隣に座った男子が歌本をあたしに渡しながら、「何歌って欲しい? なんでもいーよ?」
・・・・・って、自分が歌いたいだけじゃん!
あ〜あ・・・ あたし何やってんだろ? ホントに・・・
授業が終わって引きずられるようにミドリたちにここまで連れてこられたけど・・・・・
メグの様子窺うすきもなかった・・・・・って、部活行ってるに決まってるか。
モニターの前ではチハルが大塚愛を熱唱している。 その横で次長課長並みのタンバリンさばきを見せる男子。
あたし以外はみんな楽しそう・・・
「決まった?」
隣の男子―――名前は平井っていうんだけど―――があたしの耳元で大声を出す。
「あんまりカラオケって来ないんだよね」
それに、歌おうとしたヤツ全部チハルが歌っちゃってるし・・・ あたしとチハル、歌の好みがかぶってるみたい。
「んじゃ、ミスチルの“しるし”でいい?」
平井がさっさとリモコンで曲を入れる。
「決まった?」
って、あんたが歌う曲のことだったんかいっ!?
・・・・・でも、今日は突っ込む元気もない。
平井が熱唱する。
サビでいちいちこっちを流し見るの止めてくんないかなぁ・・・
ちゃんと聞いてるか確認されてるみたいで、鬱陶しいんだけど。
仕方がないから、手拍子をしてやる。
大体一巡したところで、
「じゃ、ここで真由にプレゼントでーす!」
「えっ!?」
みんなが可愛いストラップや、ラインストーンのシールをくれた。
「オレのはね〜。バースデーベア。 可愛いでしょ?」
平井が手のひらサイズの可愛いクマをくれる。
まさか、みんなからプレゼントもらえるなんて思ってなかった・・・・・ 落ち込んでいたせいもあって、余計に嬉しい。
「ホントだ〜! カワイイ♪ ありがとね!」
とあたしが早速ケータイにつけようとしたら、
「あとでお返しさせてね?」
と平井が耳打ちしてきた。
「え?」
再びカラオケが始まり、部屋の中が音楽で満たされる。
ちょっと良く聞こえなかったけど・・・
お返し・・・・・ させてねって言った?
こっちがお返しするんなら分かるけど・・・ どういう意味?
とあたしが首を傾げていたら、平井が、
「市川があんなに胸おっきいって知んなかったな〜。 つか、超オレ好み」
「は? ・・・・・はぁっ!?」
「いつでもいいけど、早い方がいいかな〜♪ 帰りとか?」
ちょ、ちょっと待ってっ!? 言ってる意味、全然分かんないっ!
「それとも2人で抜けちゃう?」
―――アオシマだ! こいつはクラス会で亜紀ちゃんを連れ出したアオシマと一緒だ!
慌てて離れる。
「何?」
また平井が寄ってくる。「もしかして、テレてる?」
誰がアオシマもどきにテレるか―――ッ!!
「テレてないっ! つか、離れてっ!!」
「何だよ〜。 やっぱテレてんじゃん」
と平井があたしの肩に手をかける。
こいつ・・・・・ッ!
歌本で殴ってやろうかと手を伸ばしかけたとき、部屋のドアが開いた。
店員がオーダーしたものを持ってきたんだと思って振り返りもしなかったら、目の前のテーブルに何か箱のようなものが放り投げられてきた。
ゴトンという音に、そこにいたみんなの視線がテーブルの上に集まる。
ピンクのペーパーでラッピングされてる箱。 赤いリボンがかかっている。
―――――なに、これ・・・・・?
箱を眺めたあと、みんながドアの所に立っている人物に目を向ける。 あたしも振り返って・・・・・ 驚いた。
「・・・えっ!? 千葉くんっ? なんでっ??」
チハルが驚いて口に手を当てる。
開け放したドアの前に立っていたのはメグだった!
なんでメグが・・・・・
あたしが驚きで口もきけずにいたら、
「・・・誕生日プレゼント」
とメグはあたしを見下ろした。
「え? え? なになに? なんで千葉くんが真由の誕生日知ってるの?」
チハルが眉間にしわを寄せる。
メグは黙って部屋に入ってくると、平井の肩をつかむようにしてソファから立ち上がらせ、そのまま横に押しのけた。
「行くぞ」
メグがあたしに顎をしゃくって見せる。
「え? いや・・・ あの、ちょっと・・・」
ちょ・・・ 待って?
あたしたち、クラスでは他人の振りしてるんじゃなかったっけ?
なのに、コレって・・・・・ どうなのっ!?
とあたしが戸惑っていたら、
「なんだよ? 千葉もまざりてーなら入れてやるよ?」
と平井が引きつったような笑みを浮かべてメグの肩に手をかけた。
メグは平井を振り返りもしないであたしの腕をつかんだ。そして、
「なんでオレの女の誕生日祝うのに、テメーの許可がいんだよ?」
平井が絶句する。
ちょっとメグ?
教室でのキャラと違っちゃってるよ?
いつもだったら、
「許可いるの?」
でしょっ!?
っていうか・・・・・ 今、オレの女って・・・・・ 言った?
メグに引っ張られるようにしてあたしはソファから立ち上がった。
「カバン忘れんなよ」
「うん・・・」
あたしはテーブルの上のピンクの箱をつかんで、
「ミドリ、チハル、今日はありがとね? ごめん、あたし先帰る!」
唖然とするチハルたちを部屋に残したまま、あたしはメグと一緒に帰りの電車に乗った。
「メグ・・・ あたしの誕生日、覚えてたんだ?」
「・・・ああ」
ぶっきらぼうなメグの返事。 やっぱりちょっと怒ってるみたいな・・・
「お前、オレを怒らせる天才だな?」
って言われたし、もうダメだと思ってたのに・・・
誕生日プレゼントくれるなんて・・・・・
あたしはカバンを胸に抱えた。
―――まだ終わってないって思っていいの?
「え、と・・・ ありがとね。 大事にする」
って、中身がなんだかまだ見てないんだけど。
でも、メグがくれたものだったら、あたし一生大事にするよ?
あたしがそう言ったら、メグはあたしを流し見てちょっとだけ笑ってくれた!
―――メグッ!
帰宅ラッシュの時間にはちょっと早かったから、車内は適度に空いていた。 2人並んであいてる席に座る。
「え、と・・・ 金曜日はごめんね?」
「あ?」
「なんか・・・・・ メグが気に入らない格好して・・・」
「ああ・・・」
と言って、メグが視線を前に戻す。
「なんかっ? ミドリやチハルにどうやったら女っぽくなるか?教えてもらってて・・・ で、気が付いたらあんな格好に・・・」
メグは黙ってあたしの話を聞いている。
「ホントにごめんね? もうしないから・・・」
「・・・・・誰も、気に入らねーなんて言ってねーじゃん」
「え?」
だって・・・ 今すぐ止めろって怒ってたじゃん・・・
「学校には! ・・・あーゆー格好してくんなっつったの!」
え?
「・・・オレだけじゃねーだろ、男は。 あんな格好してっから、平井みたいなのが出てくんだよ」
メグはあたしと視線を合わせないまま、ちょっと早口でそう言った。
・・・・・それって・・・ もしかして・・・
他の男子に見られるのが嫌だったから、あんな格好するなって・・・・・ そういうことだったの?
「もう・・・ そういうことなら早く言ってよ。 メグが気に入らないんだと思ってあたし・・・」
「いや・・・ 普通分かんだろ? お前がニブすぎるだけ」
「まさかメグがヤキモチ焼いてくれるなんて・・・」
ありえなさすぎて、全然気が付かなかったよ。
あたしがそう言ったら、メグはムキになって、
「ヤッ!? ヤキモチとかそーゆーんじゃねーよっ!!」
いつも冷静でクールなメグが慌ててる・・・・・
―――かわいいっ!
「あたし、もうメグとはダメなんだと思ってた」
「なんで?」
「だって・・・ この前は、オレを怒らせる天才とか言われたし」
「実際そうだろ?」
とメグは笑って、「だからって、嫌いになるわけじゃねぇ」
とあたしを流し見た。
「それに・・・ この前は・・・ せっかく勇気出して・・・・・ なのに、断るしっ!」
「あ、あれは・・・」 
メグもちょっとだけ顔を赤くして、「お前が男ゴコロが分かってねーから・・・」
「男ゴコロ? って、なにそれ?」
「・・・・・自分で考えろ」
な、なんだろう? よく分かんない・・・・・ だってあたし、女だし・・・
とあたしがいつまでも「男ゴコロ」について考えていたら、
「お前の気持ちは分かったから・・・ つか、オレもう予選のこと気にしてねーし。 今はもう、次の試合のこと考えてるよ」
と話すメグの顔は、あの試合に負けた日みたいな悲壮感は全くなくて・・・
「そっかー」
やっぱりメグだ! さすが部長やってるだけはあるよっ!!
そうだね! 次の試合は絶対勝てるよ!
「そのときは絶対応援行くから! 頑張ってねっ!!」
あたしがこぶしを作ってそう言ったら、またメグが微笑んでくれた!
そんな話をしながら社宅の前まで帰ってきた。
「メグ。 今日は本当にありがとね」
「どっか出かけたかったけど、月曜日だしな。 週末とか出かけるか」
「ホントッ!? じゃ、あたしディズニーランド行きたいっ!」
メグはちょっとだけ眉間にしわを寄せて、
「マジで? ・・・・・オレ、ジェットコースター系乗んねーからな?」
「メグって、小さい頃からそっち系ダメだったよね」
とあたしが笑ったら、
「うるせぇ! 笑うなら別なトコにする!!」
「ヤダ! もう決めたもんねーッ!」
部屋の前まで上がってきたところで、
「ちょっと、オレんち寄ってかね?」
とメグがあたしを振り返った。
「え?」
「プレゼント。 開けたところ見たいから」
と言って、メグがちょっとだけ笑う。
「え? いいけど・・・ なに?」
プレゼントって・・・ 何くれたんだろ?
あたしは自分のカバンの中を窺った。 
メグは部屋のカギを開けながら、
「いいモノ♪ 部屋に追試合格したプレゼントもあるぞ」
「エ―――!? ふたつもっ!?」
なんだろ? 楽しみっ!
ワクワクしながらメグんちに入ったら、中は静かだった。
「あれ? おばさんは?」
「ん? ちょっと出かけてんじゃね?」
と言いながら冷蔵庫からお茶のペットボトルを持ってくるメグ。
買い物とかかな? ・・・ま、いっか。
「ねぇ? 開けていいの?」
リビングのソファに座ってカバンからピンクの箱を取り出す。
「いいよ」
またちょっとだけ笑ってるメグ。
なんかさっきからメグは、あたしがプレゼントを開けるのを楽しみにしてるみたいな感じ・・・
きっとあたしが喜ぶようなもの用意したから、メグも楽しみなんだ。
〜〜〜メグ、カワイイッ!!
大丈夫! あたしメグがくれるものだったらなんだって嬉しいんだからっ!!
ホントになんだろ?
リボンを外し、ピンクのラッピングペーパーを丁寧にはがす。
出てきた箱を見て・・・・・
「・・・・・なに? コレ・・・」
あたしは唖然としてしまった。
唖然としながらも一応箱の中身を出してみる。
あたしは、黒いメタリックなソレを見つめた。
メグが笑いながらあたしの手の上にあるものを取り上げる。
「お前、コレずっと欲しがってたじゃん」
「そ、そーだけど・・・」
「アレ? 喜んでくんねーの?」
メグはやっぱり笑いながら、「お前の番号教えて?」
と手に持った黒いケータイをいじっている。
―――メグがあたしにくれたものは、ケータイ電話だった。
戸惑ったままあたしのケー番を教えたら、すぐにあたしの着信音が鳴った。
「・・・・・も、もしもし・・・」
「もしもし? オレ」
メグの声が、ケータイを当てている右耳と、何も当ててない左耳の両方からステレオで聞こえる。
「これでラブトークしたかったんだろ? あと、ラブメールだっけ?」
「そ、そーだけど・・・」
・・・・・こういうのもプレゼントって言うのかなぁ・・・
だって、結局コレ メグのじゃん・・・・・
「んじゃ、とりあえずラブトークからしてみる?」
メグがソファの肘掛のところに腰掛けて、あたしに背を向ける。
なんだかなぁ・・・と思いつつ、あたしもメグに背中を向ける格好で座り直した。
「・・・・・どんな?」
「さぁ?」
さぁ・・・・・って・・・
「メ、メグが考えてよ!」
「なんでオレが」
「だって、今日はあたしの誕生日だよ!? メグが考えて!」
「ん―――・・・ じゃ、誕生日おめでとう」
「・・・・・ありがと」
「17歳になった感想は? オレまだ16だし、イロイロ教えてよ? センパイ」
えっ!? 感想? そんなのないよっ!!
そりゃ、一応今日から17歳だけどさ、昨日のあたしと今日のあたし同じだもん。
「・・・何にもない」
「なんだよ? 少しぐらいあるだろ? いつもお前に勉強教えてんだから、それぐらい教えろよ」
「え〜〜〜・・・」
「教えられなかったら、お仕置き!」
「え・・・えぇっ!?」
お、お仕置きって・・・ えっ!?
とあたしが焦ったら、メグはクックッと笑いながら、
「・・・・・デコピン3連発!」
「・・・はっ!? デコ・・・!?」
・・・・・お仕置きって・・・・・・ そ、そっち・・・?
あたしが戸惑っていたら、メグはますます笑って、
「ゴメンッ! また期待させちゃった?」
「〜〜〜きっ、期待なんかしてませんっ!!」
ムカつくムカつくムカつく〜〜〜ッ!
またメグに騙されたっ!
・・・ってゆーかっ!
「これ、全然ラブトークじゃないっ!」
「あ、そーなの?」
そーなのって・・・
またトボけてる! あたしのコトからかって遊んでるっ!
「待って! やっぱりあたしが考える!」
「どうぞ?」
反撃してやるからねっ!
えーと、えーと・・・・・
なんかいい話題ないかな? メグのこと困らせることが出来るような・・・
―――あっ!
・・・・・いいこと思いついちゃった!
ちょっと聞くの恥ずかしいけど、背中合わせで顔は見えないし、これだったらメグ困るだろうし、ちょっとラブトークっぽいし・・・
軽く咳払いをして、
「えっとね。 質問!」
「お」
「・・・・・メグは〜 あたしのどこが好きなのかなぁ、なんて・・・?」
聞いたあたしも恥ずかしいけど、メグだって相当困ってるはずだよね?
さぁメグ? どう答える?
なんて思っていたら、意外にもメグはあっさりと、
「オレの事ばっかり考えてるところ?」
と返してきた!
「えっ!?」
驚きと恥ずかしさで固まる・・・
―――やっぱりメグの方が一枚上手だ。
メグのこと困らせてやろうって思ってたのに、逆にこっちがテレるような切り返しをしてくるなんて・・・ッ!
いや、まだまだっ!
「ほっ、他にはっ!?」
「オレが他の女子と会ってんじゃねーかとか・・・ すぐヤキモチ焼くところ?」
「ッ!?」
た、確かにすぐそーゆーふうに思っちゃうときあるけど・・・
〜〜〜ダメだっ! やっぱりメグにやり込められちゃうっ!
「も、もういいっ! ラブトーク終わりっ!」
「なんで? やっとソレっぽくなってきたのに。 面白れーし、もうちょっと話そうよ?」
「ホントにもういいよっ!」
とあたしが通話を切ろうとしても、
「あとは〜・・・ そうだな・・・ 髪とか? ケッコー好き」
とメグはまだ続ける。
「・・・・・なにそれ」
とあたしが呆れたら、あたしの後ろの座面がギシという音を立てて沈んだ。
「え?」
と思って振り返ったら、メグがケータイを耳に当てたままあたしのすぐ後ろに移動してきた。
そのままあたしの髪を一束すくい、自分の鼻先に近づけるメグ。
「シャンプーの匂いとかして? いい」
「そ、そう・・・?」
「それから、手」
今度はあたしの手を握る。「小さくてカワイイ」
・・・・・なに? ・・・なになにっ!?
「それから・・・ 唇」
「えっ!?」
く、唇っ!?
とあたしが焦ってる間に、メグが顔を近づけてきた!
唇が触れ合う直前、
「食べたくなる」
とメグが囁き、やっぱり素早い動きでキスを落とされる。
「ンッ」
掬うように、何度も唇を食まれた。
溶けそうに甘いメグの唇が、顔の向きを何度も変えて甘い媚薬を注ぎ込んでくる。
あたしたちのキスが起こす水音が、ケータイの送話口を通って鼓膜に流れ込んでくる。
それだけであたしの身体は火照ってきてしまって・・・・・
「んっ あ・・・ メグ・・・」
メグがちょっとだけ唇を離した。
鼻先が触れ合いそうな超至近距離であたしを見つめるメグの瞳・・・
「オレの部屋・・・ おいで?」


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