パーフェ☆ラ 第3章

D 狂わされた計画


「で? 誰だって?」
涼が興味津々といった感じで恭子に尋ねる。
「・・・言いたくない。 っていうか、真由の許可もないのにそんなの言えないよ」
恭子はさっきから困った顔をしている。
ある日の部活の帰り。 オレは涼と恭子と一緒に駅に向かっているところだった。
「んじゃクラスだけでも教えて? 真由には言わないからっ!」
「ウソッ! それでまた真由のことからかう気でしょ? ・・・それに、あたしだってハッキリ聞いたわけじゃないから、よく分からないし・・・」
涼はさっきから真由の好きな男のコトを恭子から聞き出そうとしている。
先日、ちょっとした事がきっかけで 涼は、真由に好きな男がいる、ということを知ってしまった。
涼は真由をオモチャのように扱っていて、よくからかったりしているから、コレをネタにまた真由をいじるつもりなんだろう。
涼が真由をからかったりするのを、オレは面白くない気持ちで見ていたけど、涼には完全に恋愛感情がないって分かっているから、仕方なく黙認している。
って言うか、高校ではオレと真由の関係は全く知られていないんだから、そんなことでオレがムキになったら変に思われるだけなんだけど。
真由は、
「なんで他人のフリしてるの? 幼なじみだってことすら隠してる・・・」
って口を尖らしている。
別に無理して隠してるつもりはないんだけど。
それに、同じクラスになってちょっとずつ話すようになったときに、最初に、
「千葉くん」
って苗字で呼んできたのは真由の方だ。
5年の時に絶交したままだし、幼なじみだってコト知られたくないのかと思ったから、オレも苗字で呼んでやった。
でもその後は、仲直りできたし真由もオレの事を好きだって分かったから、本当はオレだって名前で呼び合いたいとは思っている。
けど・・・ なんか今さらって感じで、照れくさいんだよな。
真由は2人きりの時は、
「メグ」
って呼んでくれてるのに、オレが真由の事を名前で呼んだ事はほとんどない。
「おい」
とか、
「お前さぁ」
とか呼びかけている。
名前で呼んだのは、真由と気持ちが通じ合った・・・ あの・・・ 初めてキスしたときだけ・・・か?
自分でも分かってるんだけど、どうも素直になれないんだよな・・・
オレが素直にならないせいで、真由は、
「メグ、あたしのことどー思ってるの? 気持ち知りたい」
って思っているみたいだ。
言った方がいいよな・・・ いいんだろうけど・・・
「もうっ! ハッキリ言ってくれないんだからっ!! そんなことしてたら、あたし他に好きな人とか出来ちゃうかもしれないよっ!?」
他に好きな人って・・・
それって、今はオレのことが好きだって言ってるのと同じだろ?
真由がオレの気持ちを確認しようとするたび、
「あたしはメグのことが好きなのにっ!」
って言ってるようなもんだから・・・
オレは何回もそれが聞きたくて、わざとハッキリしない態度をとったりしていた。
6年も真由から離れていた反動なのか? それともオレ、S気ある?
―――どっちにしろ真由はオレのコト好きなんだし、クラスは一緒だし、家は隣だし、焦ることないよな。
もうちょっとこの状況を楽しみたい・・・
なんて思っていたら、そんな悠長なことを言っていられない状況になってきた。
小学校卒業と同時にオレ達と離れていたあの矢嶋が、真由と再会するはめになってしまった。
きっかけは矢嶋がオレの学校に練習試合に来た事だった。
矢嶋は中学からバスケを始めていた。
矢嶋が試合でオレ達の学校に来たのはそのときが初めてじゃなかったんだけど、それまでは真由が試合を見に来るなんてことなかったから、2人が鉢合わせする事はなかった。
なのに、あの日に限って、
「応援行ってあげる」
なんて真由が言い出したから焦ってしまった。
来るなって言ったのに、真由は試合を見にきていたようだ。
試合の最中は全然気がつかなかったけど、どこで見ていたんだろう・・・?
試合の後、そばにいた女の子が、
「さっきの市川さんだよね?」
と話しているのを聞いた時には本当に驚いた。
真由が来てる・・・のか?
・・・・・・あんだけ、来んな!っつったのに・・・
「あ、8番と話してたのでしょ!? やっぱりそうだよね? 知り合いなのかな?」
8番っ!? って、矢嶋だろっ!?
オレは着替えもしないで走り出した。 体育館のトイレの前で話している二人を発見した。
「お前ら付き合ってないんだったら問題ないよな?」
と矢嶋は真由の事を連れて行こうとしている。
確かにオレ達の関係はハッキリしていない。唯一ハッキリしてるのは、オレ達が幼なじみだということだけだ。
でも、オレは真由が好きだし、真由だってオレのことが好きだ。
いやそれ以前に、真由はオレのものだ。
誰であっても、真由を連れて行くことは許さない。
「行くな」
って言えば、きっと真由は行かないに決まってる。けれど、そんなことしたらヤキモチ焼いてるみたいでカッコ悪い。
・・・そんなカッコ悪いところを真由の前で見せたくない。
真由の前ではいつでもクールでパーフェクトな男でいたい。
・・・・・そのくせ、真由と矢嶋がその後どうしたのか気になって気になってしょうがないっていうんだから・・・
ホントに、何やってんだかな・・・
パーフェクトが聞いて呆れる・・・
そのあと、ちょっといい感じになったところをまた矢嶋からの電話に邪魔されて、ムカついたオレは真由の携帯を投げ捨ててしまった。
後で冷静になってみると、やりすぎたか・・・って分かるんだけど、あの時はカッとなってセーブきかなかったんだよな・・・
―――オレはどうも真由のことになると冷静でいられなくなるみたいだ。
その前は真由を助けるために2階のベランダから飛び降りたりして、あとで涼に、
「また試合前に怪我でもしたらどーすんだよっ!?」
と怒られたこともあったし―――
オレがそんなことを考えていたら、
「・・・それに、今は・・・ちょっと言いづらいよ・・・」
「なんで?」
涼と恭子はまだ真由の好きな男は誰か、という話をしていたらしい。
「だって・・・」
と言って、恭子がチラリとオレを見上げる。
―――え・・・? まさか、真由・・・言ったのか? 恭子に・・・
さっきから、
「真由の好きな男は誰か」
という話が出ていてもオレが余裕でいられたのは、きっと真由がハッキリとは恭子に伝えてないからだろうと思っていた。
けど・・・
「あたし、メグが好きなの」
って?
オレの名前言ったのか? ・・・うそだろ?
だって、この前廊下でくっついてるところ恭子に見られそうになって、焦って離れたのは真由の方だろ?
えっ? ちょっと待て? ・・・オレ、こいつらの前でどういう態度取ればいいんだ?
オレが焦っていたら、
「こいつなら大丈夫! 口堅いし! なっ!?」
涼がオレの肩に手をかける。
いや、恭子がオレを見たのはそーゆー意味じゃないだろ?
本人がいる前で話しづらいとか・・・ そういうコトだろ?
でも、涼のその言葉を聞いて恭子も逡巡するしぐさを見せた。
おいッ! 涼に乗せられて変なこと言うなよッ!?
・・・って、言っていーのか? 真由は言って欲しいのか?
どっちだ・・・? よく分かんね・・・
「でも・・・ 言ってもどうせわかんないと思うよ? 別な学校の人みたいだし・・・」
―――はっ?
「なーんだ。 そんじゃ聞いても仕方ねーかぁ・・・」
涼が途端に興味を失ったような声を上げる。
別な学校・・・?
涼とは逆に、オレの方が恭子のセリフに食いついた。
「さっきの話だけどさ・・・」
涼は上り方向の電車でオレと恭子は下り方向の電車だった。2人になってから改めて聞いてみる。
「ん?」
「えーと・・・ オレがいたから誤魔化してたんだろ?」
ホントは真由から聞いてるんだよな? オレの事・・・
「何の話?」
恭子は何の話だか分からなかったみたいだ。
「えーと・・・ だから・・・」
恭子が首をかしげてオレを見上げる。「・・・市川さんの好きな男の話だよ」
言ったあと視線を逸らす。
「やだー! なに他人行儀な呼び方してるの? 2人、幼なじみなんでしょ?」
って言われるな。 きっと・・・
しかし、恭子の反応はオレの予想を反していた。
「もう・・・ 千葉くんまでそんなこと言ってるの?」
「・・・・・・え?」
「どうせ聞いたって分からない人だよ? あんな名前の人、ウチの学校にいないもん」
「名前・・・ 聞いたの?」
「うん」
恭子が肯く。
・・・なんだなんだ・・・・・? どうなってんだ?
「・・・千葉くん?」
真由がテキトーなこと言ったのか? 恭子を誤魔化すために?
でも、なんでそんなことまでする必要ある?
「千葉くん?」
もしかして、幼なじみだって事・・・っていうか、好きな相手がオレだって知られたくないのか? ・・・・・・オレじゃ恥ずかしいとか?
それとも・・・ 本当に他の学校に好きなヤツが・・・・・?
・・・まさか、まさかだけど・・・・・ それって・・・
「・・・・・千葉くん、真由のこと・・・好きなの?」
「えっ!?」
急に恭子がオレの顔を覗き込んできた。「・・・な、なに?」
驚いて聞き返す。
「すごく真由のこと気にしてるみたいだけど・・・ もしかして、好きなの?」
「そんなんじゃないっ!」
慌てて否定する。「・・・オレの友達が好きなだけ。 その・・・市川さんのこと」
慌てすぎてウソをついてしまった。
「そーなんだ・・・」
恭子はオレの態度になんの疑いも持っていないようだ。ホッと胸をなで下ろす。
「・・・だから教えて?」
「ん―――・・・」
「お願いっ!」
真由が恭子にどういう話をしたのか知りたい。
「でも・・・」
「・・・・・恭子と涼が上手く行ったのって、誰のお陰だっけ?」
恭子と涼はちょっと前から付き合いはじめていた。
お互い好きなくせになかなかくっ付かないから、オレが背中を押したやったんだけど・・・
・・・って、オレもヒトの事言えないよな。
涼が恭子に告白するところを真由と一緒に窺っていたら、オレもちょっと・・・ 涼たちが羨ましくなってきた。
いい加減 意地張ってないで、オレも真由にちゃんと言うか・・・ と思ってた矢先に、あの携帯の一件でまたケンカだし・・・
「えっ!? う〜・・・」
恭子が上目遣いにオレを睨む。「千葉くんのイジワル・・・」
真由のためなら、いくらだって卑怯な手を使う。
オレが拝み倒したら、恭子もやっと折れてくれた。 
「・・・・・あたしが言ったって、絶対内緒だよ?」
「うん」
「・・・えっと、名前はね・・・・・ メグ夫くんって言ってた」
「メグ・・・・・お?」
「ちょっと変わった名前だよね? そんな名前の子、ウチにいないもん」
「・・・・・だね」
―――おい、真由・・・ なんて名前になってんだよ、オレは・・・
「そのメグ夫くんと真由、両想いみたいなんだけど・・・ まだ付き合うまではいってないみたい―――っていうか、真由が鈍感すぎて、メグ夫くんヤキモチ焼かされてるみたい」
なっ!?
「妬いてねぇよっ!!」
「え?」
思わず怒鳴ってしまった。
「・・・千葉くん?」
・・・ヤベぇ・・・ さすがに気付かれたか・・・?
「イヤ・・・ なんでもない・・・」
「変な千葉くん」
恭子は首をかしげている。 ―――恭子が真由並みに鈍感で助かった。
「・・・で?」
先を促す。「なに? ヤキモチって?」
「なんかね、真由とメグ夫くんが・・・ その・・・」
恭子はちょっと言いにくそうにした後、「ラ、ラブな雰囲気になったとき、真由のケータイが鳴って、メグ夫くん怒っちゃったんだって」
―――・・・・・
「でも真由は、メグ夫くんがなんで怒り出したのか全然分かんないって言うの! 鈍感でしょ?」
・・・いや、恭子もヒトのこと言えないと思うけど・・・
「だから、教えてあげたの。 ・・・それはキスの邪魔されたから怒ったんだよって」
―――・・・・・
「―――したら市川さんなんて言ってた?」
「ありがとって。 ニヤニヤしてたよ? 早速今夜仲直りしてみるって」
「・・・もしかしてそれって、今日の話?」
「うん」
腕時計を見たら9時を過ぎている。今日は夏合宿の話をしていたせいで帰るのが遅くなってしまった。
オレが携帯を放り投げたせいで真由はものすごく怒っていた。 ・・・まぁ、当たり前と言えば当たり前なんだけど・・・
恭子は微妙に勘違いしているけど、オレが真由の携帯を投げ捨てたのは、キスの邪魔をされたからじゃない。
あの電話が、例えば真由の友達・・・佐倉や成田だったらオレだってムカついたりしなかった。
あの電話が矢嶋だったから・・・ だから・・・
―――なんで矢嶋に携帯の番号なんか教えてんだよッ!?
オレの知らないところで矢嶋と連絡取りあうなよッ!!
そんな思いもあって、オレは素直に謝ることが出来ないでいた。
でも・・・
「仲直りしてみるよ!」
って言ってたのか? 真由が?
だったら・・・ もし今夜真由が話しかけてきたら、オレも少しは素直に謝ろう。
いつまでも真由とケンカしているのは精神的によくない・・・
ゴメンな? 悪かったな? ―――こんな感じか?
そんなことを考えながらソッコーでウチに帰って部屋でスタンバイしていたんだけど、いつまでたっても真由からの呼びかけがない。
・・・・・何やってんだ? もしかして、もう寝てる?
我慢できなくなったオレが、ベランダの窓を開けて様子を窺おうとしたら、
「恵、電話」
と母親がやって来た。
「電話? ・・・誰?」
慌てて窓を閉める。
「小学校の時のクラスメイトだって。 矢嶋くん?」
「矢嶋・・・?」
・・・・・なんの用だ?
矢嶋はバスケ以外では全く接触がない。試合なんかで会ったときですらろくに口もきかない仲だ。 あっちは話しかけてくるけど。
渡された子機を一瞬眺めてから、
「・・・もしもし?」
『あ、千葉? この前はどーもな』
この前? ・・・一体どのことを言ってるんだ?
試合の事か? ・・・・・それとも、真由を連れてった事か?
「ああ・・・・・ 何?」
とりあえず先を促す。
『なんだよ? 相変わらずツレないな〜』
「さっさと話せよ」
矢嶋と世間話をするつもりはない。
まいっか、と言って矢嶋は話し始めた。
『今度の土曜日、6年4組のクラス会やるから』
「クラス会?」
『あれ? 市川から聞いてない?』
・・・・・聞いてない。
『おかしーなー。 クラス会やろうって、この前会ったとき話してたんだけどな〜。 言ってなかった?千葉に?』
矢嶋が楽しそうな声を出す。
「・・・うるせぇな。 さっさと話せよ」
オレがムッとして言い返したら、さらに矢嶋は楽しそうに、
『土曜日、4時にダイエー地下の城木屋だから。3500円』
「居酒屋じゃねーか」
『そこ窪田のオジサンの店だから大丈夫なんだよ。 来んだろ?』
「行かねーよ」
間髪空けずにそう返す。
『ふ〜ん・・・』
矢嶋は一瞬だけ黙った後、『ま、いいけどね』
「そんだけ?」
『ん?』
「じゃーな」
矢嶋の返事を待たずに一方的に切ってやった。
誰が行くか。クラス会なんか。 5、6年の頃にいい思い出なんかひとつもない。
―――真由は行くつもりなんだろうか?
出来れば・・・・・行かせたくない・・・
っていうか、あの当時のクラスの男どもに真由を会わせたくない。
・・・でも、どーやって?
そんなことを考えながら、子機を充電器に戻そうとしてリビングに行ったら、
「・・・そうなのよ。今週末行くんですって」
「市川さんも単身赴任なんか初めてだから、そろそろ参ってるころだし・・・ ちょうど良かったんじゃないか?」
父親と母親がなにやら話していた。
・・・真由んちがなんだって?
「だから真由ちゃんのことヨロシクって」
「ん? なんだ。連れて行かないのか?」
「今回は奥様だけ行くみたい」
「へぇ・・・」
「・・・・・何の話?」
テレビの前のソファに座りながら、さり気なく聞いてみる。
「ん? ああ・・・ お隣さん。今週末ご主人の所に行くの。 真由ちゃん一人になるから、何かあったらヨロシクって言われたのよ」
「ふーん・・・」
興味ないフリをして、テレビ画面を見つめる。 父親と母親は、そのまま会社の話をし始めた。
へぇ・・・ 真由は行かないのか。
真由の父親は真由の事を溺愛してるから、
「絶対連れて来い」
なんてことになりそうなのに・・・
・・・ああ。 もうすぐ中間テストが近いから・・・・・・それでかも・・・
・・・って、―――これ、使えるんじゃないか?
「勉強、見てやろうか?」
って言えば、
「メグが? いいのっ!?」
「オレ部活とかあるし、・・・今度の土曜日とか?だったら、なんにも用事ないからフルで出来んじゃね?」
「あ! ちょうどその日ウチに誰もいないの! じゃ、ウチでやろっ!」
・・・・・なんて言って、あいつクラス会行かないでくれるかも・・・
しかも、真由んちで2人っきり・・・・・ って、かなりいーよな?
「ま〜た間違えやがった。ちゃんと聞いてんのか?」
「聞いてるよぉ〜」
「じゃ、今度間違ったらお仕置きな」
「お、お仕置きってっ!?」
「ん〜〜〜・・・ キスとか?」
「え、ええ―――っ!?」
んで、絶対真由、間違えるだろ―――・・・
―――・・・って、なに考えてんだオレはっ!?
慌てて自分の妄想を打ち消す。 でも―――まぁ・・・ その辺は流れ次第ということで・・・
あとは・・・・・どうやって切り出す?
学校じゃなかなか話せないから、ベランダで話すしかないよな・・・
そう言えば、結局真由 声かけてこなかったな・・・ せっかく謝ってやろうと思ってたのに。
おかしいな・・・ それとも恭子、なんか勘違いしてただけなのか・・・?
なんてことを考えながら翌朝学校に行こうとしたら、
「メグ、おはよ」
と真由が玄関の前でオレのことを待っていた。
―――・・・いきなりで驚いた。
「お、おう・・・」
夕べは声かけてこなかったけど、やっぱ話したかったのか?
オレも土曜日は一緒にテスト勉強しようって話したかったから、ちょうどいい。
・・・とりあえず真由の話を聞いてからにしよ。
「この前は・・・」
「ああ・・・ オレも悪かったよ」
「メグっ!」
「お詫びっつーか・・・ 土曜日、一緒にテスト勉強しね? みてやるよ」
「ありがとっ! メグ、大好きっ!!」
・・・なんて流れになったら、話しやすいしな。
そんなことをシュミレーションしながら、
「・・・なに?」
真由の話を促す。
「えっとね。今度の土曜日クラス会あるんだ」
と真由が切り出した。
・・・・・・クラス会?
・・・そうだ。 昨日矢嶋から電話があったんだった。
「土曜は真由と2人で勉強会」
って、そっちばっか考えてたけど、本来はクラス会に行かせないための手段に過ぎないはずだった。
・・・・・すっかり忘れてた。
「城木屋なんだって。駅前のダイエー地下の。そこで4時から・・・」
「オレ行かないよ?」
話の途中でそう言ったら、
「えっ!? なんでっ?」
と真由が驚いた。「・・・みんなメグに会いたがってるよ?」
・・・・・どうだかな。
矢嶋なんか、オレが行かない方が都合いいだろ?
それに、5、6年の頃のクラスメイトで一番会いたいヤツは、いつでも隣にいるし。
「別に・・・ 会いたいヤツには会ってるし」
そう言って真由を流し見たら、
「えっ!? そ、そーなのっ!? 誰っ?」
途端に真由が焦り始める。
その焦りよう・・・ もしかして、オレが他の女子と会ってると思ってる?
・・・・・もしかしてヤキモチ焼いてる?
ホントに真由って分かりやすいよな。 そこがいーんだけど。
「別に誰でもいいじゃん」
もっと妬いて?
「そ、そりゃ、そーだけど・・・」
真由が不安そうな顔をして俯き、そのまま黙り込む。
・・・あれ? マジで落ち込んじゃった?
いつもこんな感じで真由の事ジラしてると、気付いたらケンカになってんだよな。
・・・ダメだ。こんなことしてたら、オレの土曜日のスペシャルプランが・・・ッ!
「・・・お前も行くのやめれば?」
―――うっかりストレートに切り出してしまった。
「え?」
真由がオレを見上げる。 オレは真由と視線を合わせないようにして、
「も、もうすぐ中間なのに、そんなの行ってて大丈夫かよ」
「・・・あっ」
真由が小さく呟く。 この顔・・・ テストの事忘れてたな?
テストの結果は上位30位までしか貼り出されない。真由がそこに載ったことは1度もなかったから、成績がどのくらいなのかハッキリは分からないんだけど・・・
上位30位には かすりもしていないだろうって事は分かる。
教えてやるよ。 オレが成績上げてやる。
だから―――・・・クラス会なんか行くのやめな?
・・・って、どうやって言えばいいんだ?
オレが言葉を探していたら、
「だ、大丈夫だよっ! なんとか今の位置、キープするし!」
と真由が拳を握る。
―――おい・・・ お前、キープするような順位じゃないだろ?
って言うか、オレのサタデープランがっ!!
仲直りの話はどーしたんだよ?
それしたくてオレのコト待ってたんじゃないのか?
「・・・なぁ? 話ってそれだけ?」
「え? うん」
マジでそれだけなのかよっ!?
昨日の恭子の話はなんだったんだよ・・・
「・・・で? 結局行くワケ?」
もう一度確認してみる。
オレは行かないんだから、お前も行くな!
ってストレートに言えたらラクなんだけどな・・・ まぁ、そう素直になれてたら、今ごろこんな状況になってないか・・・
「うん。幹事だからね」
・・・・・・はぁ? 幹事?
また予想外の方向に話が流れ出した。
「・・・なんだよ、それ?」
「この前矢嶋に会ったとき、一緒にやってくれって頼まれたの」
矢嶋が?
あいつ・・・ 夕べの電話で、そんなこと一言も言ってなかったぞ・・・
「でも、お店予約したり金額交渉とか集金とか?そーゆーのは全部矢嶋がやってくれるって。だから連絡くらいしかないんだ。やること」
・・・だろうよ。
別に矢嶋は 真由に幹事の仕事を手伝って欲しくて頼んだわけじゃない。幹事をやらせることで、しょっちゅう連絡も取り合えるし、当日だって一緒にいられる。 だから頼んだだけだ。
「そんな程度でも幹事っていうのかな? それとももっと手伝った方がいい?」
真由は、矢嶋の下心には全然気が付いていないみたいだ。 オレは溜息をつきながら、
「お前さ・・・ なんで矢嶋が自分に幹事なんか頼んだのか、分かんねーの?」
「え? 女子の連絡係が欲しかっただけでしょ?」
のん気にそんなことを言う真由の横顔を見ていたら、無性に腹が立ってきた!
「―――バカッ!! お前、ホントに頭悪りぃな?」
「は?」
突然怒り出したオレに、真由が戸惑った顔を向けた。
「ってか、ニブ過ぎなんだよっ!! ムカつくよ、ホントにっ!!」
気付けよッ! 矢嶋の下心にもオレの気持ちにもッ!!
オレがイライラしていたら、真由はムッとした顔をして、
「・・・中間テストの勉強もしないで幹事なんかやって、バカだって言いたいの?」
「はぁっ!?」
誰が今 中間テストの話なんかしてんだよっ!?
「それはメグにはカンケーない話だからっ! 心配してくれなくていーよっ!!」
―――ッ!?
「・・・もう知んねぇ・・・ 勝手にしろッ!!」
・・・・・やっぱり最後はケンカになった。
そしてケンカしたまま週末になり、オレはウチで進まないテスト勉強を、真由は城木屋で矢嶋と幹事を―――・・・ッ!
テスト勉強に集中できなくてベッドに寝転んでいたら、また母親が入ってきた。
「恵? ちょっとお父さんとお母さん出かけるから」
「ん? どこ行くの?」
「高崎のおじいちゃんち。 なんか、体調崩して入院したらしいの」
高崎は母親の実家があるところだ。祖母は3年前に亡くなって祖父が一人で暮らしている。
祖父には小さい頃からかわいがられていて、オレも良く懐いていた。でも、中学に入って部活が忙しくなってからは、全然顔を出していない。
「えっ!? なんで?」
オレが慌てて起き上がったら、
「なんかね、風邪こじらせたみたいなの。大した事ないんだけど年も年だし、念のため入院するって」
なんだ・・・
「お母さん達も最近顔出してないし、ちょっと様子見てくるわね」
「もしかして、泊まってくんの?」
「時間も時間だからね。 恵、1人で大丈夫よね?」
時計を見たら7時半。
「大丈夫だよ」
2人は急いで荷物をまとめると、慌てて出て行った。
玄関で2人を見送った後、リビングのソファに座ってテレビをつけた。画面では最近人気が出てきたお笑い芸人が、激辛ラーメンを食べて涙を流している。
テキトーにザッピングした後、そのままリモコンでテレビを消す。
また時計を見上げる。 8時15分。 ・・・さっきから5分しかたってない。
真由はまだ帰っていないみたいだ。 ウチも静かだけど、真由んちもシンとしている。
―――まだクラス会やってんのかな・・・ って、もしかして2次会まで行ってる?
4時に始まってんだから、時間的にそう流れていてもおかしくないか・・・
ふて腐れたままソファに寝転がっていたら、電話が鳴った。
誰だ?
高崎に着いたら電話するって言ってたけど、まだ時間的に着いてないはずだし・・・
「もしもし?」
『あっ! メグちゃんッ!? あたし、市川だけど! 真由の母親ッ!!』
受話器から聞こえてきたのは、真由の母親の声だった。
「ああ・・・ どうしたんですか?」
『お、お父さんかお母さんいるッ?』
真由の母親はなんだか慌てている。
どうしたんだろう? 確か、郡山にいるはずじゃ・・・?
「2人とも、さっき高崎の祖父の家に行っちゃって留守なんですけど・・・?」
『ええっ!?』
電話の向こうで焦っている気配が窺えた。
「あの、どうかしたんですか?」
『どうしよう・・・ 私も今すぐそっちに向かいたいんだけど、電車の時間とかの関係で2時間以上はかかるし・・・』
「あの・・・?」
一体何があったんだ?
『もう、メグちゃんにお願いするしかないんだけど、いいかしらっ?』
「あの、だから・・・ 何を?」
全く要領を得ない。 ・・・・・やっぱり真由の母親だ。
『それがねっ、真由が川に落ちて病院に運ばれたらしいのよっ!!』
「えっ!?」
受話器を持つ手に力が入る。
それを先に言えよっ!!
『ケガの具合とか様態なんかは全然分からないんだけど・・・ 病院から電話がかかってきて、今すぐ来てくれって』
「どこっ!?」
『三橋病院なんだけど・・・』
叩きつけるようにして電話を切り、慌てて家を飛び出した。
鬼のような速さで自転車をとばし、救急指定の三橋病院へ向かう。
川に落ちて病院に運ばれたって・・・・・
なんでだよっ!? お前、クラス会行ってたんじゃないのかっ?
やっぱ、予想つかねーよっ! お前のやるコトッ!!
途中、信号無視して国道を渡ったらクラクションを鳴らされた。運転手らしい怒鳴り声を背後に聞きながらペダルを力いっぱい漕ぐ。
・・・こんなことになるなら、やっぱりあのときカッコなんかつけてないで、無理やりにでも引き止めればよかった・・・・・
もし真由になんかあったら・・・ オレは尋常でいられない。

今度元気な真由に会えたら、ちゃんと言うから。
素直になれなくてゴメンって言うから。
―――真由が好きなんだって、ちゃんと言うから・・・ だから・・・

ああ、神様! 生まれて初めてあんたに祈るよ。
―――どうか真由を無事でいさせて下さい・・・


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