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「やあ、高弥。今日はもう帰ったのかと思ってたよ」 急いで生徒会室に戻ると中谷さんがパソコンの前に座っていた。 この人が仕事らしい事をしているとそれだけでビックリしてしまう。 「会長こそ珍しいですね」 俺は一瞬失礼な事を口走りそうになりながら、慌てて、「何か資料でも作ってるんですか?」 と会長のそばに歩み寄った。 「例の学園ウルトラクイズよ」 中谷さんのとなりに椅子を並べている和歌子さんが答える。 「そうなんだよ。あと2週間で学園祭だろ? 問題作りをしてるんだ!」 ―――そうだ。クイズのことをすっかり忘れていた! 「なんか高弥も忙しそうだし、僕がいろいろ問題作っといたから」 中谷さんが意気揚揚と言う。 「ありがとうございます」 俺は肯くように礼を言い、「あの……ところで、まだパソコン使いますか?」 と尋ねた。 生徒会室にはパソコンが2台設置されている。が、インターネットに繋がるのはそのうち1台で、今中谷さんが向かっている方のマシンなのだ。 「うん? もうちょっと問題作りやろうと思ってたんだけど……、何か調べ物?」 と言いながら中谷さんは開いているアプリケーションを閉じ始めた。 「すみません、会長」 俺は頭を下げると、中谷さんと席を替わってもらった。 俺が慌てた様子でパソコンに向かっていると、中谷さんと和歌子さんが興味深げに覗き込んできた。 「なに調べるんだい?」 「あら? それ卒業アルバムじゃない」 和歌子さんは、俺が資料室から持ってきたアルバムの表紙を見て、「5年前のものね。これがどうしたの?」 と聞いてきた。 5年前といえば俺はまだ小学6年生で、世の中の事をまったく知らない子供だった。ニュースよりポケモンが見たいなどとほざいていた頃だ。 だが、和歌子さんたちは中学生になっている。小学生と中学生では精神的には大きな違いがあるはずだ。もしかしたら、俺が知らなかったこの事件のことも何かしら知っているかもしれない。 「和歌子さん。この事件のこと何か覚えています?」 俺はアルバムのニュースが載っているページを指差して尋ねた。 和歌子さんはアルバムに視線を落としながら、 「宝石店強盗……うん、そういえばそんな事もあったわね」 と、となりに立っている中谷さんに確認するように肯きかけた。 「たしか宝石が見つからなかったのよね」 「その宝石って、今もまだ見つかってないんですよね、きっと……」 俺と和歌子さんがそんなことを話していたら、横から、 「今もまだ見つかってないよ」 と中谷さんが。 「え?」 そのやけにハッキリした言い方に驚き、中谷さんを見上げた。 「犯人は2人組みだったろ? 警察を撒くために二手に分かれて逃亡したんだよ。で、宝石を持った方の男がそれをどこかに隠したらしいんだけど、そのあと2人が宝石の取り分でもめて相棒を……その隠した方のヤツを殺しちゃったんだよ。殺されたあとにその男の部屋を調べたら、宝石店強盗の犯人で仲間と揉めているらしいことが分かったんだ。宝石の隠し場所が分かったら自分は殺されるとかなんとか、そういうメールを誰かに送っていたらしいよ。その誰かも仲間なんだろうけど、メールを着信したケータイがプリペイド式で結局分からず終いなんだ。殺した方は以前逃亡中らしいけどね……ん? 高弥、どうかした?」 俺はあっけにとられて中谷さんを見つめた。多分、アホみたいにぽかんと口も開いていただろう。 う、上手く言葉が選べない。 |
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「―――なんでそんなこと正臣が知ってるのよ?」 和歌子さんが俺の聞きたいことを代弁してくれた。彼女も心底驚いた顔をしている。 「あれ、話したことなかったっけ? ウチのホテル芸能人が記者会見なんかに利用したりするんだけど、そのときよく出入りしてるプレスの人と父さんが仲良くて、よくウチにも遊びにきてたんだよ。その人から聞いたの」 中谷さんは俺たちの驚きをよそに、まるで明日の天気を教えてくれているような気軽さで話を続ける。 ウチのホテル、とは、中谷さんの父親が会長を務める老舗高級ホテルである。全国主要都市はもちろんハワイにまであり、最近は比較的若者でも手が出せそうな、宿泊価格の安いシティホテルにまで手を広げている。 そこに出入りしているプレスの人間から聞いたというのだ。 金持ちの力を垣間見せてもらった気がした…… 「そうなんだ。びっくりしちゃったわよ」 と和歌子さんもまだ驚きが覚めやらぬ感じだ。 「それにしても……5年も前のことでしょう? 会長よく覚えてましたね」 俺もやっと口がきけるようになった。中谷さんは首を振りながら、 「ううん、僕も5年前はそんな事件があったことすら知らなかったよ。聞いたのは最近だから覚えてたんだ」 「どうして今ごろ―――?」 「うん、そのプレスの人はちょっとしたことからそのときの事件を追いかけ直してるんだ。ああいう人たちも大変らしいね。やっとトクダネ取ったと思ったら、自分達の雑誌よりも先に発表されたりしてさ。いかに相手を出し抜けるかって、毎日戦いだって言ってたよ。その人も取材するネタするネタ先取りされて、クビが危ういって嘆いていたよ。嘱託社員なんだって。嘱託っていえばウチのホテルでも定年後に嘱託で……」 「あの、そのプレスの人がどうして今ごろ?」 中谷さんの話が脱線しそうになり、俺は慌てて本筋に戻した。 「ああ、そうだそうだ。クビが危ういその人は、なんとか新しいネタを探そうと躍起になってたんだけど、なかなか見つからなかったんだって。それで目先を変えたんだって」 中谷さんの話はこうだった。 なかなかスクープが取れないそのプレスは、過去にあった未解決の事件を洗い直し、その真相に迫る方向でネタを探していた。 そして、5年前の宝石店強盗の事件を調べているということだった。 「なんでも、新しい事実が浮かび上がってきそうなんだってさ。興奮して教えてくれたよ。はっきりは言わなかったけど、多分プリペイドケータイを持っていた人物が誰だったか見当ついたって感じだった」 「あの、そのプレスの人は宝石のありかについては何か知ってるんですかね?」 俺ははやる気持ちを押さえながら聞いた。 「それはまだ分かってないみたいだったけど……高弥、なんでそんなにこの事件のこと気にしてるんだい?」 「いえ、ちょっと……」 中谷さんの質問は曖昧に流し、「それより、もし出来るならそのプレスの人紹介してくれませんか?」 俺は驚いた顔をしている中谷さんに、なんとかプレスの人を紹介してもらうことが出来た。 早速俺は、そのプレスの人間、風間和明という人と会う約束を取り付けた。 風間さんは30を少し出たくらいか、革ジャンにブーツという格好で待ち合わせの喫茶店に現れた。 「どうもすみません。お忙しいところ……」 俺は頭を下げながら挨拶をした。 「いいよ。正臣君のお友達なんだろ」 風間さんは椅子に座るなりタバコに火をつけ、「で? 何か聞きたいことがあるんだって? あ、ブレンド」 注文を取りに来たウェイターに、タバコを挟んだままの腕を軽く上げてオーダーをした。 「はい。風間さんは、5年前に起きた隣町の宝石店強盗の事件について調べてらっしゃるとか……」 「ああ」 「それについて少しお伺いしたいんですが……」 俺は手帳を広げてメモをしようとした。「当時僕はまだ小学生でしたので、事件の概要というか……そういうのを殆ど知らないんです」 風間さんはうんうんと肯きながら、 「まぁね。大人でも5年も経てば忘れちまうぐらいだからな」 と言って5年前の事件のことを教えてくれた。 強盗にあったのは隣町の岸田ジュエリー。クリスマス前の日曜日のことであった。 程よく客の入っている岸田ジュエリーに、突然強盗が押し入った。 入ってきたのは目出し帽をかぶった中肉中背の男1人だったが、あらかじめ客として店内に潜入していた仲間と2人で犯行におよんだ。 犯人達は銃を所持していたが、店員や客が大人しくしていれば危害を加えなさそうであったという。 しかし、客の1人が宝石を渡すまいとし、犯人に銃身で頭を強く殴られた。 その後、犯人達は逃走し、宝石のありかもわからずじまいであったが、その3日後男の変死体が上がり、調べてみるとそれが宝石強盗の片割れだと分かった。 それから、ケータイの履歴を調べてみると、誰かにメールを送った形跡があった。 内容は、 『アイツに殺されそうだ。宝石のありかは俺しか知らないが、宝石を差し出したら殺すつもりでいるのは間違いない。あんたの計画なんだから、なんとかしてくれ』 という、もう1人いる黒幕に送ったメールだった。 送った先のケータイはプリペイド式のもので持ち主が判明しなかった。 「岸田ジュエリーは盗難保険に入っていたからまだよかったんだけど、かわいそうなのは殴られた客でね。殴られた場所が悪くて翌日に亡くなったんだ。俺も病院に行ったんだけど、家族がかわいそうで見てられなかったな〜。奥さんは突然のことに呆然としていて泣く事も出来ない様子だったよ。小学生の子供抱えて、これからどうするのかって他人事ながら心配しちゃったな」 「盗まれた宝石はどうしたんでしょうかね。よほどの宝石好きっていうならまだしも……」 「横流しするのが普通だよな。でも、今のところ裏のマーケットにも流れていないって話だから、どこかに隠されたままなんだろうぜ」 風間さんは何本目かのタバコに火をつけながら肯いた。 「中谷さん……正臣さんの話では、そのプリペイドケータイの持ち主が分かったとか……」 俺が核心に迫った質問をすると、 「お。正臣君はそんな事まで話しちゃったのか〜」 と風間さんは困ったように頭を掻いた。 「あのときは俺も酔ってたからな〜。つい調子に乗って話しちゃったんだな」 まだ調べている途中だから、と渋る風間さんを拝み倒して教えてもらった。 風間さんはニヤニヤしながら条件をつけた。 「じゃ、今度おトモダチ紹介してよ。もちろん女の子だよ。キミの彼女を1日レンタルしてくれるっていうんでもいいけど」 |
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30男が! 女子高生相手に何しようっていうんだ。 俺は曖昧に肯くと、腹の中で毒づいた。もちろん紹介するつもりなど毛頭ない。 その後、俺はいくつかの興味深い話を聞き出して風間と別れた。 翌日の放課後、美紀が俺のクラスへやって来た。 「高弥。久しぶりに一緒に帰らない?」 「今日、か…… ちょっとやる事があるんだよな」 俺はカバンをまとめると美紀と一緒に教室を出た。 「あれ? 今日は練習ないのか?」 美紀はここのところ、学園祭でやるステージ劇の練習をする日が多かった。 「うん。今日は榎本くんがバイトのある日だからって先に帰ったの。相手役がいなかったら練習にならないでしょ。だからお休み」 「そうか、そりゃ好都合だぜ」 俺はそう呟くと生徒会室へ急いだ。美紀もついてくる。 生徒会室では中谷さんと洋子が学園祭の準備をしていた。 「あら、高弥。久しぶりじゃない。ここ2〜3日あんまり顔見せてなかったけど、何やってたのよ」 洋子はまたまたペーパーフラワーを作っている。 「あの夜以来じゃない?」 「―――あの夜、ってなによ?」 洋子のセリフに美紀が気色ばむ。 「なんでもないよ。それより洋子、ドライバーないか?」 俺は工具箱を漁りながら聞いた。 「なんでもないってなによっ! ちゃんと答えてよ!」 「おい、ないぞ? いつもここに入れてあるだろ!?」 面倒くさいし時間も惜しいからって美紀の質問に答えずにいると、 「本当になんでもないのよ。ただあたしが高弥に抱きついちゃっただけ」 と洋子がいらんことを言ってくれた。 「ね、高弥?」 「洋子っ!」 俺は洋子を睨みつけた。洋子は楽しそうに笑っている。 「いい加減にしろよ、お前は!」 俺は美紀に向き直ると、 「美紀、本気にすんなよ? 洋子のヤツこの前から俺のことからかってんだよ」 と言った。 「じゃ、抱きついたっていうのは嘘なのね」 「いや、嘘というか……」 「どっちなのよっ!」 俺が言いよどんでいると、洋子が横から、 「抱きついたっていうのは嘘じゃないわよ。でも、理由があったのよ。だって幽霊が出たんだもの。そりゃ誰だってビックリしてそばにいる人にしがみついたりもするわよ」 と肩をすくめて説明した。 「―――本当なの?」 「幽霊っていうか……」 「もしかしてクラブハウスに……?」 「そうだ」 途端に美紀が抗議の声を上げた。 「アレは業者だって言ったじゃない!」 「そのはずだったんだけど…… ま、今日はそれがらみでちょっとクラブハウスを調べようと思ってるんだ。―――ああ、あったあった」 俺はドライバーを引出しの中から見つけると、「そういうわけだけど、お前もついてくるか?」 と美紀に向かって言った。 「……それって本当に幽霊なの?」 と美紀は眉を寄せた。 「俺はちがうと思ってる」 俺が肯きながら答えると、美紀はちょっとの間考えてから、 「あたしも行くわ」 と言って俺の腕を取った。 「良かった。じゃ、これ持ってくれ」 俺は美紀にドライバーとマグライトを預け、物置からスコップを取り出した。そのまま2人で生徒会室を出ようとしたら、美紀が、 「……あなた、高弥のこと好きなんじゃないでしょうね」 と洋子を振り返った。 「まさか」 洋子は笑っていた。「あたし面食いだから!」 どういう意味だよ――… 洋子のセリフは聞かなかったことにして生徒会室を出た。 美紀が俺の後ろをついて階段を下りてくる。 「―――あのコ、高弥のこと好きなのよ、きっと」 さっきの話の続きらしい。声に不機嫌さが滲んでいた。 「そんなわけないだろ。ちがうって言ってたし」 俺は階段を下りながら、「どうしてそう思うんだよ」 と聞いた。 「女の感よ」 また、女の感、か。俺は苦笑した。 俺はクルリと後ろに向き直った。急に立ち止まったからか、美紀が俺にぶつかりそうになる。 「危ないじゃない!―――んっ」 俺はスコップを片手に持ち直すと、美紀の頭を抱えるようにしてキスした。 「妬いてるのか?」 「そうよ」 素直すぎて笑ってしまう。 「だからもっとキスして。あたしが安心するくらいに」 美紀がにじり寄ってくる。俺は美紀の唇に人差し指を当てると、 「今日はそんな時間ないんだ。やらなきゃいけないことがある」 と言ってクラブハウスへ急いだ。 クラブハウスは運動系のサークルや部が入っている、平屋建ての建物だ。 1部屋6畳ほどのスペースで、横に15の部屋が並んでいる。 部屋自体は地面より1メートルほど高い位置にあるため、クラブハウスの入り口で5段ほど階段を昇る。 階段を昇りきると、ずらりとドアが並んでいるのが見える。何人かの生徒の姿もあった。 「学園祭近いから全然人なんかいないと思ってたけど……結構いるじゃない」 美紀はほっとしたような声を上げた。 俺は各部室の前を通り過ぎると、反対側の階段を下りた。 「ちょっと、高弥。クラブハウスに用があるんじゃなかったの?」 俺は階段を下りると、すぐ右手に曲がった。クラブハウスの横壁面の前に立つ。 夕方で薄暗くなっていて視界が悪い。早速ライトをつける。 「やっぱり、な」 俺は上着を脱いで美紀に渡した。「ちょっと持っててくれ。それから、ここ照らしててくれるか?」 |
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「高弥、何する気なの? まさか……」 地面から20センチほどの所に、50センチ四方くらいの通風孔があった。そのネジにドライバーを当てる。 俺の思ったとおり、ネジは軽く回しただけでスルスルと動いた。先客がいた証拠だ。 この前来た業者は、こんな所は見ていかないはずだった。 となると、やっぱりアイツもここに潜っていたに違いない。 「ねぇ、高弥。こんな所に潜り込んで何する気なの?」 「宝探し」 俺はそう言うと美紀からライトを受け取り、スコップ片手に中へと入って行った。 中は高さ1メートルもない。仕方がないから四つんばいの状態のままライトで中の様子を窺う。 3メートル置きぐらいに土台となる石柱が立っているが、ずっと端まで潜っていけそうだ。 もちろん今日はそこまでする気はない。 俺は更に近場に目を凝らした。蜘蛛の巣が手前右側だけなくなっていた。 地面を触るとやわらかかった。 俺はそこまで確認して外に出た。 「宝は見つかった?」 美紀が不機嫌そうな声を上げる。 それはそうだろう。人一倍好奇心の強い美紀が、何も教えてもらえず黙っているわけがない。 「いや、今日はそこまで上手くいくとは思ってなかったさ。なにしろ、アイツがいくら探しても見つからないんだからな」 「もう! またワケの分からないこと言って! アイツって誰よ!」 「榎本だよ」 美紀は一瞬目を見開いたあと、眉間にしわを寄せた。 「なんの話なの?」 「榎本くんとそんなことがあったの?」 帰り道、駅ビルのマックで美紀に詳細を話した。 「やたらクラブハウスのことを気にしているみたいだから、何があるんだろうと調べてみたってワケね」 美紀はうんうんと肯きながら話を聞いている。 「資料室で調べてて気が付いたんだけど、クラブハウスが出来上がる直前に隣町で宝石店強盗があったんだよな。宝石はいまだに見つかっていないんだ。それで俺は」 「その盗まれた宝石が、クラブハウスの下に隠されているんじゃないかって考えたのね」 美紀が俺のセリフを横取りする。 「もしかして、榎本くんが犯人……もしくは仲間だと思ってるの?」 「まさか。当時ヤツは俺たちと同じ小学6年だぜ。強盗の片棒なんて担げるわけがない」 俺は首を横に振った。 「そうよね」 「榎本は偶然宝石のありかを知って、それを掘り起こそうとしてるんだと思う」 俺はコーヒーを飲み干すと、「あいつは金のためならなんでもするんだ。……洋子から聞いたんだけど、榎本はやばいバイトもしているんだってな」 「やばいバイト?」 美紀が眉をひそめる。 「ああ、売春だよ」 俺は周りを気にしながら声を潜めた。「男の場合も売春……でいいのかな」 「そんなことどっちだっていいわよ!」 美紀が急に大声を出した。俺は慌てて美紀の口に手を当てた。 「なんだよ、急に」 「榎本くんはそんなバイトしてないわよ! 変なこと言わないでよ!」 「やけに庇うけどな、洋子の話ではそういう噂が……」 美紀の反応に戸惑いながら、なおも俺が話を続けようとしたら、 「あたしとあのコと……どっちの言うこと信じるの」 と切り返された。俺は一瞬たじろいだ。が、 「……そういう話じゃないだろ」 「そういう話よ! あのね、たしかに榎本くんにはいろんな噂があるけど、そんなバイトしてないわよっ! 彼がしているのは警備員のバイトよ!」 警備員? 俺は驚いて美紀の顔を見つめた。 「榎本くんのお母さんね、心臓が悪くて入院してるのよ。あたしはこの前偶然知っちゃたんだけど…… それですごくお金がかかるから……だからバイトしてるんだって」 「―――そうだったのか」 それは初耳だ。 「変なこと言って悪かった」 俺が素直に謝ると、美紀も、 「ううん。榎本くんがお金を必要としていることはたしかだし、偶然宝石のありかを知ってそれを欲しがるっていう高弥の話も分からなくはない。でもそんな……売春なんてことは絶対にしてないのよ」 美紀が必死に力得する。俺も、わかった、と肯いた。 「でも、盗んだ宝石だからって横取りしていいなんて法はないからな」 「わかってる。あたしもそれはしちゃいけないことだと思ってるわ」 「俺は榎本より先に宝石を見つけるつもりだ」 美紀は肯いた。 |
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