チェリッシュxxx 夏休みの章
B 海でヤキモチ 編(後編)
「ちょっと? 陸くん? どっち向いてんの?」 アヤカに顎をつかまれ、顔を戻される。 「あ… すんません」 と言いつつ、視線は結衣の方へ… ―――誰だよ、あの男。 夏休み最後の週末、オレたちは沖縄に来ていた。 オレは結衣と旅行がしたくて、夏休みに入るとすぐにコンビニでバイトを始めた。 時給がいいそのコンビニは、家からはちょっと離れた、工業大学のとなりにあった。 |
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店の利用者のほとんどは、ムサい男子大学生たちだ。 「あー… 見えねーなぁ」 「じゃ、買えよっ! んで、貸してくれ」 「やだよ。ってか、金ねーもん」 今日も雑誌コーナーにたむろって、もう30分以上も立ち読み…じゃなくて座り読みをしている。 ヤツラの愛読書は、エロ本だ。 別にいいんだけどさ。オレだって見るし。 オレは溜息をつきながらヤツラの背後に近づいた。 「あの〜… 破らないでもらえます?」 「あ?」 ニキビだらけの油が浮いた顔をオレに向ける。「なんだよ?」 「だから、それ売りモンだから。袋とじ見たいなら、買ってよ?」 「なんだ? 客に向かって、コラッ! まだ破ってねーだろっ!?」 「でもあんたら、昨日も来て破ってったじゃん。見てたんだよね」 「…んだと、コラァ!」 ニキビが立ち上がる。オレより、10センチ以上背が低そうだ。 オレが黙って見下ろしたら、 「…ナメたこと言ってんじゃねーぞっ?」 と一緒にいたデブを引き連れて店を出て行った。 このドーテーがッ! ゴム代やホテル代がかかんねーんだから、エロ本ぐらい買えよっ! オレは腹の中で突っ込みを入れながら、雑誌のコーナーを整理していて、 「…やっぱ、破ってんじゃねーか」 ヤツラが破いていった雑誌を見つけた。 通常こういった週刊誌は、最新号が出ると前号の売れ残りを出版社が引き取ってくれる。 でも、破損があったもの…まして、袋とじを故意に破ったものは引き取ってもらえないから、店側のマイナスになってしまう。 「この店、時給いいだろ? それだけの働きはしてもらうからな? 万引きや商品の破損とかのマイナスは、店とお前らの給料と、半々で相殺させてもらうから。そのつもりで気合入れて働けよ?」 ―――あの、ドケチおやじめ・・・ オレは雑誌を裏返して価格を確認した。560円。 くそっ… 280円のマイナスだ。 金は取られるが、雑誌はもらえない。でも、あとでまとめて処分する事を知っているオレは、ある程度同じような雑誌がたまってきたところで、その中の何冊かをこっそり失敬していた。 どうせ処分するものだし、半分はオレたちのバイト代から出てんだから、いいだろ? オレはその雑誌をジュンやヒデに横流ししていた。定価の半額で。 つまり、それでオレのバイト代が元に戻るってわけだ。 まぁ、これも結衣と旅行に行くためだから仕方がない。 決まった小遣いはもらってるけど、それだけじゃ全然足りなかったから始めたバイトだった。 ウチは母子家庭だから、 「旅行に行きたいから、金くれよ」 とは言えない。 まあ、母親が1回飲みに行くのをやめただけでも、オレのバイトの何時間分だよ?って話なんだけど… 「あたしが自分で稼いだ金よ? 飲みに行ってどこが悪いの?」 という母親の言い分に反対はしない。 オレだって、自分で遊ぶ金くらい、自分で稼いでやるよ。 オレはあんまり混雑していない時間を見計らって、棚を整理するフリをしながら旅行雑誌をチェックしていた。 やっぱ、海だろ? 夏だし… どうせなら、沖縄とか? 行きてーよなぁ。 青い海に、どこまでも続く白い砂浜。そんで結衣が、 「コレ、塗ってくれる?」 とオレに日焼け止めを渡す。で、ちょっと恥ずかしそうにオレに背中を向けて… 絶対、水着はビキニだ! いんじゃね? かなり… 「今野くん、どっか行くの?」 オレが楽しい妄想にふけっていたら、いっしょに働いている大学生が声をかけてきた。 よくシフトが一緒になるこの大学生は、見かけはオレと同じ高校生くらいにしか見えないけど、実は大学、それも4年だ。 しかも、あの、赤門! ―――東大生だった。 もう就職先の内定ももらっていて(聞いてないけど、絶対超一流企業に決まってる)時間が余っているから始めたバイトだとか言っていた。 こんな、バイトででも一緒にならなければ、一生縁のない人種だな。 それは向こうも同じだったみたいで、はじめのころは、 「ねぇ、今野くんの頭って、地毛?」 とか、結衣並にボケた質問を受けていた。 こんなオレンジ色の頭した日本人、いないだろ? 「あ、オレ、ハーフなんスよね。母親が、アイルランド系カナダ人で…」 と以前川北にしたウソ話をそのまましたら、 「そーなんだぁ。そう言えば、カナダ人っぽい顔してるよね」 …マジかよ? オレは、東大生全員が利口ではないことを、このとき初めて知った。 「旅行って、彼女と行くの?」 「はぁ…」 見ていた雑誌を片付け、レジカウンターに戻る。 「いいなぁ、彼女いるんだ。 今野くん、モテそうだもんね。 ハーフだし」 「……」 あんま、相手すんのよそう… 「沖縄行くの?」 驚いて東大の顔を見返す。 なんで、分かんだよ? 「いつも雑誌見てたじゃない? 沖縄の…」 とオレに笑顔を向ける。「ボクも行きたいなぁ。一緒に行っちゃおうかな?」 「ははっ。いいッスよ?」 「本当っ?」 東大が顔を輝かせる。 おいっ! ・・・マジでついて来る気かよ? 「いや… 冗談なんスけど…」 途端に肩を落とす東大。 「…だよね」 あんまり気落ちして見えたから、オレは思わず、 「…あの、お土産買ってきますから…」 その場しのぎにそんなことを言ってしまった。 「本当っ!?」 再び顔を輝かせる東大。 …こいつは、社交辞令って言葉を知らないのか? オレは曖昧に頷きながら、 ―――ま、いいか。テキトーに珊瑚の欠片でも拾って、それ渡せば… 「嬉しいなぁ。ボク沖縄行ったことないんだ」 「じゃ、沖縄らしいものを」 珊瑚の欠片、決定。 「・・・なんて、珊瑚拾ってきて、それお土産とか言われたりして…」 ―――やっぱ、頭いいのか? こいつ… 東大生って、よく分かんね… そんな、ワケのわからないバイト仲間や、ドケチな店長や、ムカツク客の相手をしながら、オレはせっせとバイトに勤しんでいた。 そんな思いをしてやっと金を貯め、沖縄に来たって言うのに… オレたちは、着いた早々、つまらないコトでケンカをしていた。 理由はよく分からないけど、結衣は水着の上にパーカーを着たまま海に入ろうとしない。 青い海に、白い砂浜。そこにいる結衣が、水着じゃなかったら… あの、苦しいバイトは何のためだったんだよっ!? いつもだったら、なだめすかして結衣の服を脱がせるのなんか簡単なことなのに… オレ、バイトで疲れてたのかもな… 昨夜も2時までシフト入れてたし… あんまり結衣がグズグズしてるから、オレもキレちゃって結衣を置いて、一人で海に入ってしまった。 海に入ってから、チラリと結衣の方を振り返ったら、結衣は砂浜の上に座り込んで顔を伏せていた。 まさか、泣いてる? ―――なんか、こんなトコまで来て、何やってんだよ。オレは… よく考えてみたら、なんか、結衣、ちょっと変だったよな? 態度。 なんか、理由があったのか? パーカー脱げない… ……まさか、アキヒコにパーカー借りてたときみたいに、ノーブラだとか? いや、まさか、そんなことはありえないだろっ!? ・・・イヤイヤ、でも、あの結衣のことだからな。 「み、水着持ってくるの、忘れちゃったの…」 とか…あるかもな。 そんなことを色々考えていたら、心配になってきた。 オレが急いでビーチに上がろうとしたら、 「ちょっと、キミ…」 と声をかけられた。「もうどこかに所属してる?」 「は?」 Tシャツにジーパンで、足元はスニーカー。およそビーチには似つかわしくない格好の男だった。 「モデル事務所とか」 「イヤ…?」 |
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何の話か、わからない。 「よかった!どこにも入ってないんなら話簡単だ! あのさ、キミ、モデルやってくれない?」 「モデル?」 「そう! 予定してた男の子が急にダメになっちゃってさ… ちゃんとギャラも出すよ?」 波打ち際でそんなことをやっていたら、 「どうしたの?」 と結衣がやって来た。 事情を話すと、 「やれば?」 と結衣は平気な顔をしている。 おい!? せっかく2人で沖縄まで来たっていうのに、結衣はそれでいいのかよ? 2泊しかしないんだから、もっと2人でイチャイチャしたいのに… しかも、オレ1人の写真じゃないぞ? 別な女と一緒に撮るんだぞ? オレはグラビアアイドルのアヤカの相手としてモデルをさせられようとしていた。 アヤカと言えば、先日のバイト先で、ニキビとデブが勝手に雑誌の袋とじを破いて見ていたモデルだ。 オレは、別にアヤカに興味はなかったんだけど、今朝の機内でちょっと面白い発見をしていた。 機内で借りた雑誌にアヤカのグラビアが載っていた。それがケッコーキワドイ格好で、太ももの上のほうまで見えてたんだけど… …この女、結衣と同じ場所に、ホクロがある。 絶対、本人には見れない場所だから、結衣は気付いてないだろうけど… そうだ。今夜結衣に教えてやろ… ベッドの中で… なんてことを楽しみにしていたのに… なんなんだよ? この展開は!? 着いた早々結衣とはケンカになるし、オレは結衣との時間を邪魔されたくないから断ろうとしたモデルの話まで、結衣は引き受けろ言うし… アヤカと一緒って知ったら、絶対ヤキモチ焼くと思ったのに… 結衣は、どういうつもりなんだろ? 撮影の合間にチラリと結衣のほうを窺ったら、結衣のそばに男がしゃがみこんでいた! 誰だ…!? 「ホラッ! 陸くん? 続き始めるよ?」 「あ、はい…」 本当は今すぐ結衣のところに行きたいのに、仕方なく言われたとおりのポーズをとるオレ。 ああ… でも、気になる。 なんだ? あの男… まさかナンパとか? 結衣がそんなのについていくとは思えないけど… あいつ、そーゆー経験値低いからな… なんか、騙されたりとか? するんじゃねーか? 「…ちょっと、陸くん? ちゃんと言われたとおりにやってよ? さっきみたいに…」 「…ああ、はい…」 と返事をしたけど、結衣の方が気になって撮影に集中できない・・・ 何度も取り直しをさせられてやっと終わったときには、 「陸くん。ご苦労様〜。おかげで助かったよ! 今夜軽く打ち上げやるんだけどさ、良かったら陸くんも・・・」 「お疲れっした! 悪いけど、これで失礼します!」 と、声をかけてきた風間の話を遮って、オレは結衣の方へ急いだ。 結衣は、まださっきの男と何か話している。 「誰? こいつ・・・」 オレは結衣の肩をつかむと、グイと自分の方に引き寄せた。 どうやら男は撮影スタッフの1人らしく、結衣にメイクをしていたようだった。 「ど、どうかな?」 と結衣がオレを見上げる。 |
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薄付きのファンデーションとチークが、普段は子供っぽい顔をいきなり大人の女のように変えている。 ビューラーでカールされたまつ毛が瞳を縁取っている。パールが入っているのか、まぶたの辺りに光が当たるとかすかに輝いていた。 そして、いつもオレが吸い付きたくてたまらない唇は、いつもよりほんの少しだけ色付き、さらにグロスのせいで妖しいほどの輝きを放っていた。 オレは息を呑んで結衣の顔を見つめていた。 ―――この男・・・ メイクの腕だけは、認めてやる・・・ でも、口が裂けてもそんなことを言いたくなかったオレが、 「・・・べ、別に、フツー?」 と答えると、結衣が途端に不機嫌になった。 これでメイクしたのが、女だったり、もっと年が離れた男だったら、オレだってもっと素直に喜べていたに違いない。 ―――要は、くだらないヤキモチだった。 けど、そんなオレの気持ちなんか全く知らない結衣は、いかに男が親切で、真剣にメイクの仕事に取り組んでいるか、というようなことを延々とオレに説明している。 とうとう我慢出来なくなったオレは、 「それ、落とせよっ! 似合ってねーよ!!」 ホテルに帰り着くなり、嫌がる結衣を無理矢理バスルームに連れて行った。 「な、何するのっ? せっかくワタルさんがやってくれたのに・・・」 ―――まだ言うのか? その名前・・・ それとも、わざと言ってんのか? オレを妬かせたいのかよっ!? しかも、さっきその男にはパーカー脱いで、水着見せてたよな? 撮影の合間に見てたんだからなっ!? どうにも気持ちが押さえられなくなったオレが、嫌がる結衣に何度も口付けていたら、 「・・・り、陸・・・ もしかして、ヤキモチ焼いてるの?」 と結衣にバレてしまった。 しかも、 「陸・・・ かわいいっ!」 まで言われてしまって・・・ いつも、そういう風にからかうのはオレの方だったから・・・ ちょっと、マジで恥ずかしーんだけど? 結衣は、かわいいを連発して、オレの胸に抱き付いてきた。 バスルームでちょっと水に濡れたけど、まだ全然メイクの落ちていない顔で結衣がオレを見上げる。 キラキラ光る目元と、グロスを塗られて妖しいくらいに艶めいている唇がオレを誘う。 「―――・・・今、スゲー抱きたいんだけど、結衣のコト・・・」 もう、メチャクチャに抱きしめたくてたまらないっ! 結衣がちょっと顔を赤くして、黙って肯く。 オレがはやる気持ちを押さえながら、でもソッコーでベッドに結衣を連れて行くと、 「ちょ、ちょっと待ってっ!?」 と結衣がオレを制する。 は? ・・・なんだよ、今さら・・・ 今、うんって肯いたじゃねーか。 結衣はパーカーの前を握り締めてモジモジしている。 ・・・やっぱり、またノーブラなのか? だったら、好都合だよな? 逆に・・・ そんな事を考えていたら、 「・・・あたしね、ふ、太っちゃったの・・・」 と結衣が俯いた。 「は? 太った?」 って、・・・・・どこが? 全然変わってねーように見えるんだけど? 「ゴメンね? だからさっき、ビーチでもパーカー脱げなかったの、恥ずかしくて・・・ ホントは陸と海に来れて、すっごく嬉しかったんだよ?」 なんだよ・・・ そんな理由だったのかよ。 って言うか、ホントにどこ太った? 分かんねんだけど・・・ とりあえず、そのパーカー脱いで? 「やっ! ちょ、ちょっと待ってッ!?」 オレは無理矢理結衣のパーカーを脱がして、一瞬息が止まった。 結衣は、オレの希望通り、ビキニを着ていた。―――それはいいんだけど・・・ |
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おいっ!? サイズ、間違ってねーかっ!? かなり、肌・・・ってか、胸が露出してるように見えんだけど? しかも、結衣が恥ずかしがって肩を縮こめているから・・・ かなり色っぽい谷間が出来てんぞっ!? ま、待て? 落ち着けよ? オレ・・・ もしかして・・・ オレは結衣の胸に手を当ててみた。 「やんっ! な、何っ!? は、話まだ終わってない・・・ ンッ」 抵抗する結衣を無視して、角度を変えて何度も触る。 「・・・ンッ! やだっ」 やっぱり―――ッ!! 「結衣、胸おっきくなってるよ・・・」 「え・・・? う、うそぉっ!?」 オレ以上に結衣の方が驚いているみたいだった。 ・・・やっぱり、全然気が付いてなかったのか・・・ オレは巨乳好みじゃないし(かといって貧乳がスキってわけじゃない)別に、結衣のだったら、なんでもいいんだけど・・・ 結衣ははっきり言ったことはないけど、どうも自分では胸が小さいと思っているみたいで、多少なりとも、それを気にしているようなところがあったんだけど・・・ 「結衣? 太ったんじゃなくて、胸が大きくなったんだよ・・・」 なのに、こんな小さいサイズの三角ビキニなんか着ちゃって・・・ オレは嬉しいけど、ビーチに出たら他の男もいるんだぞ? 「・・・あ、だからさっき、ワタルさんびっくりしてたんだ・・・」 ―――って、もう他の男に見られてんじゃねーかっ!? くそっ・・・ 「あんっ!? り、陸っ? やっ・・・ はっ・・・ンンッ い、痛っ」 オレは噛み付くように、結衣の首筋や肩口に口付けた。 結衣はオレのものだって、身体中にシルシを落とす。 ビキニの紐を解くとき、ちょっと・・・いや、かなりコーフンしてしまった。 いつも思うんだけど、紐ビキニって、絶対男のためのものだよな・・・ 瞬時に取り払い、ベッドのすみの方に投げ捨てる。 「やんっ」 結衣が腕を前で組むようにして胸を隠す。・・・隠れきってないけど。 そんなに極端にデカくなったわけじゃない。 けど、やっぱり少しだけ大きくなってる。 やっぱり、触られるとデカくなるってのは本当らしい。 結衣の胸を生で見るのは、オレの誕生日以来だ。 本当は花火大会の日に、って思ってたんだけど、ちょうど結衣が生理中だったからオレの夢、浴衣姿の結衣と・・・ってのは叶わなかった。 ふざけて触ったり、迫ったけど結衣に抵抗されたりで、セックスまでは行かなくてもその手前までって言うのは何回もあったけど・・・ 結衣は夏期講習で、オレはバイトが忙しかったから、・・・こんなじっくりと結衣の胸を見るのはホントに2ヶ月近くぶり? だよな・・・ まさか、久しぶりに見た結衣の生乳が、こんな嬉しいことになっていようとは―――ッ!! 「・・・り、陸?」 オレが1人、腹ん中で歓喜の叫びを上げていると、結衣がオレの顔を覗きこんできた。 「・・・なに?」 ヤベ・・・ あまりの嬉しさに、結衣をほったらかしにしてしまった。 「・・・なにって・・・」 結衣は、別になんでもない、と言って俯いた。顔が赤くなっている。 ―――まさか、オレが歓喜の雄叫びをあげている間、ずっと待ってたとか・・・? いや、あの結衣が? ありえねーだろ? 「・・・結衣? 触って欲しいって顔してるよ?」 オレがからかうつもりでそう言ったら、 「なっ!? そ、そそ、そんなこと、ないもんっ!!」 結衣はさらに顔を赤くして、オレから顔を背けた。 え・・・? なに、その反応・・・ まさか、マジでっ!? オレは様子を窺いながら、結衣の胸の先に唇を近づけた。それを潤んだ瞳で見下ろしている結衣。 唇が肌に触れる直前、 「・・・やっ あ、はぁ・・・」 と結衣は溜息を漏らし、身体を震わせた。 「・・・? まだ、触ってないよ?」 オレがそう言うと、 「ッ! イ、イジワルッ!!」 と結衣はトマトのような顔をしてオレを睨んだ。 やっぱり触って欲しかったんじゃねーかっ!! 結衣からオレを求めることなんて、ゼッテーありえねーと思ってたから・・・ あまりの嬉しさに、オレはちょっと暴走してしまった。 「触って欲しいんでしょ? じゃ、言ってよ?」 「い、言わないっ」 「っそ。・・・いいよ? 意地でも言わせてやるから」 結衣の背中をオレの胸にくっつけるようにして、結衣を膝の上に座らせた。 「・・・な、なに、するの・・・?」 結衣がちょっとだけ首を捻って、不安げにオレを振り返る。 結衣から触ってって言うまで、オレも触ってあげないよ? オレは背後から手を回し、結衣の胸をすくうように持ち上げ、うなじのあたりに唇を這わせた。 「あ・・・ はぁ・・・」 結衣が吐息を漏らす。 そのまま胸を絞るように揉んだり、輪郭を指でなぞるようにした。 ―――肝心の、胸の先には触れないようにしながら。 「早く言いなよ?」 溜息と一緒に、そう耳元で囁きかけても、 「あっ ・・・ぅんッ い、言わないもんッ はんッ」 と身体を震わせながら、まだ否定している。 いつもだったら、我慢出来なくて結衣の胸に飛びついてるオレだけど、どうしても結衣から、 「陸、触って?」 って聞きたかったら、オレも頑張った。 肩越しに結衣の表情を窺おうとしたら、前よりちょっとだけ大きくなった胸を、オレの手が揉み上げているのが見えて・・・ 興奮度MAX!! あ―――――ッ! 結衣ッ!! 早く言ってくれよっ!! 結衣だって絶対触って欲しいはずなのに、なにガマンしてんだよっ!? ・・・ってか、なんでオレたち、沖縄まで来て、ガマン大会なんかやってんだよ―――っ!? 気を紛らわそうと、いつもは攻めないようなところまで舌を這わせたら、 「あ、ああんっ!」 と、結衣の意外な性感ポイントを発見してしまった。何度もそこに舌を這わせた。 「あっ はっ・・・イヤッ あん・・・」 と結衣が濡れた声をあげながら、背をそらせる。 結衣の濡れた声は、媚薬だ。オレの小さな理性なんか、簡単に飲み込まれそうだ。 ・・・いや、もう飲み込まれてんのかも・・・ 普段、こんな風に結衣を攻めたりしないのに・・・ 今日のオレ、ちっとだけS入ってる? 「んん・・・ あぁ・・・」 結衣が身体を震わせながら、膝をこすり合わせようとした。オレはそれを自分の足を間に入れることで阻んだ。 「や・・・り、陸・・・?」 「言ったろ? 言ってくれるまで許さないって・・・」 っていうか・・・ 早く言ってくれよっ? そんで、オレのことも解放してくれよ―――っ!? オレから言い出したコトなのに、オレからやめらんねーよ!! と思っていたら、いきなり結衣がオレの手を強くつかんだ。 「あ・・・ り、陸・・・ もう、許して・・・」 ・・・か、勝った―――――っ!! 「・・・じゃ、言って?」 「ど、どうしても?」 オレは肯いた。 「どうしても・・・ 聞きたい。 結衣がオレを求めるとこ・・・」 結衣がまた俯く。 おいっ!? 試合再開かっ!? オレはまた結衣を焦らすように指や唇を這わせた。 「早く降参しなさい・・・」 言いながら、結衣の胸の先のすぐ横を指でなぞる。 「あぁ・・・ッ こ、降参・・・するからッ」 「・・・するから?」 その先だよっ! 早く言ってくれよっっ!! 結衣が顔を真っ赤にする。 「―――さ、・・・触って・・・」 小さな声でそう言ったあと、「・・・って、もう、やだぁっ!!」 恥ずかしくなったのか、結衣がオレに殴りかかってきた。 オレはその手を避けて、 「よく出来ました・・・ じゃ、ご褒美あげるね?」 と言って、結衣の胸を包むようにして優しく揉みほぐした。 「あ、ああんっ! ぃやんッ あ、はぁッ」 散々焦らしたせいか、結衣はいつもより感じているみたいだった。 すぐに固くなる、かわいい結衣の胸。それを指の腹でちょっと押し潰すようにしながら、 「あ・・・ 乳首立ってきたよ?」 と結衣の耳元に囁いたら、 「バッ、バカッ!! 変なコト、言わないでっっ!!」 そ、その顔――― ・・・最高だっ! もっと見せて? 「恥ずかしがってる結衣の顔・・・ チョーそそられるよ・・・? それとも、誘ってんの?」 |
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と言いながら結衣をベッドに仰向けに寝かせる。 「な、なに言ってんのっ!! そんなコトあるわけ・・・ッ!? あ、ああんっ」 オレがちょっとイジワルなことを言うと、結衣は余計に感じるみたいだ。 やっぱり今日のオレ・・・ ちょっとS入ってんな。 固く立ち上がった胸の先に唇を落とす。そのまま軽く歯を立てたら、 「やッ! ああッ あんっ」 と背をそらして結衣は身体をはねさせた。泡立ちはじめるオレの脳ミソ。 オレは結衣の胸の先を咥えながら、手を脇腹から腰へと滑らせていった。 指先が腰紐に触れ、オレの頭はさらにスパーク寸前に膨れ上がる。 ・・・やっぱり紐ビキニは最高だ―――っ!! すぐに解きたかったけど、ガマンして水着の上からそこに指を這わせる。 「あんっ はっ あぁ」 結衣が呼吸を早くする。 下着と違って水着は分かりづらいけど、それでも結衣が濡れているのが分かった。 「結衣・・・ もう、すごく濡れてるよ・・・」 「や、あん・・・ そーゆーコト・・・っ」 結衣が切なそうに眉を寄せて首を振る。 「この腰紐も・・・ かなりヤラシくね? やっぱ、こうなること想定して買ってきたわけ?」 「ち、違うよぉッ! あ、ああんっ」 S絶好調! ・・・って、これクセになりそーで、ヤベーな・・・ オレは慌てて腰紐を解いた。 2枚の三角を付けたような小さな布切れが、緊張を失ってハラリとベッドの上に落ちる。 ・・・結衣の誕プレ、紐パンに決定! そっと下肢の付け根に触れる。結衣のそこは、まるで海に入ったみたいに濡れていた。 「あっ!! いやんっ!」 「すごく、濡れてる・・・」 ああっ! 今すぐこの海に飛び込みたいっ! 例のおかしなガマン大会のせいで、オレの性欲メーターは振り切られていた。 「ゆ、結衣・・・ いい?」 と言いながら結衣の胸に吸い付く。 「あんっ・・・ な、なに、がっ あはっ」 下肢の付け根に這わせていた指を滑らせ、固くなった敏感な芽をはじく。 「ひゃッ! いやぁッ あ、あぁ―――っ!」 「入りたい・・・ 結衣の中・・・ いい?」 そこを攻めながら結衣の耳元で囁く。 「あ、はん! や、ん・・・ あ、ンンッ・・・」 結衣は全くオレの声が聞こえていないみたいだった。 って、聞こえなくなるようにしてんだけど。 オレは指の動きを止めずに、サイドテーブルの上に置いてあったウォレットからゴムを取り出した。マッハのスピードで装着。いつもながら惚れ惚れするような早ワザ。 オレが結衣の中に入ろうとしたら、結衣がビクッと身体を震わせてオレを見上げた。 そっか・・・ セックスするの、2ヶ月近くぶりだもんな・・・ オレは結衣にキスを落として、 「大丈夫だよ? 痛かったら止めるし・・・」 「ほ、ホント・・・?」 「うん・・・ ってか、結衣? 前ヤッたとき、イッちゃったじゃん? 気持ち良かったんでしょ?」 オレがそう言うと、結衣は顔を真っ赤にして、 「もうっ! 今日の陸、イジワルなコトばっかり言うから、イヤっ!!」 と顔を背けた。 え? まだS入ってた? そんなつもりないんだけど・・・ 「とにかく、さ・・・ 挿れるよ?」 「う、うん・・・ はぁ〜・・・」 オレが挿れようとしたら、結衣が目を閉じて息を吐いた。 ―――それ、初めて結衣を抱いたときに、オレがやれって言ったことだよな・・・? ・・・覚えてたのか? ―――ああ、もう・・・ 結衣っ! 大好きだよっっ!! なるべく痛みを感じさせないように、ゆっくりゆっくり挿入する。結衣はちょっとだけ眉を寄せていたけど、それほど痛みは感じていないようだった。 はぁ―――・・・ 2ヶ月ぶりのパラダイス♪ 完全に入ったところで、少しずつ腰を動かす。 「ンンッ・・・ あ、はぁ・・・」 結衣が目を閉じたままシーツを握り締める。 痛いわけじゃ・・・ないよな? ちょっと心配になり、 「結衣・・・? もしかして、痛い?」 と聞くと、結衣は眉を寄せたまま首を振った。 「・・・じゃ、気持ちいい?」 「やッ!」 う、うおぅっ!? ―――なんだ・・・今の? 急に、結衣の中が締まったんだけど・・・ 「そ・・・ そ、ゆこと、聞かないで・・・ は、恥ずかしい・・・」 結衣は両手で顔を覆った。 「恥ずかしがってる結衣の顔・・・かわいい」 「だ、だからっ! そーゆーコト・・・ッ」 また、結衣の中が締まる。 ・・・どうやら、結衣は恥ずかしがったときに、中が締まるみたいだった。 スゲー嬉しい発見をしてしまった! オレは結衣の両の胸を寄せるように掴んで、 |
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「ホントに、おっきくなってるよね・・・ たまんないよ・・・」 と早速試してみる。 「ンッ や・・・だぁ・・・あん」 うっ! ―――ああ・・・ 最高・・・ 「・・・揉まれると大きくなるって言うから・・・ もっと揉んどくね?」 「や、やんっ! いいっ!そ、そんなコト、しなくて・・・あ、あんっ」 また、結衣がオレを締め付けてきた。 そんなコトを繰り返して結衣のことを攻めていたら・・・ いつの間にかオレの方が追い詰められる破目に・・・ ―――や、やべ・・・ イキそう・・・ ダメだ。もうちょっと我慢しないと・・・ 言葉で攻めるのをやめて、ちょっとだけ腰の動きを緩める。 結衣にももっと気持ち良くなってもらお。 オレたち男とは違って、女はセックスのたびにイクってわけじゃない。だから、この前イッたからって、結衣が今回もイクとは限らないんだけど・・・ 結衣は目を閉じて、ほんの少しだけ眉を寄せていた。 「・・・結衣・・・」 「・・・え? あ、はぁ・・・」 わずかに目を開け、オレと目を合わせる結衣。 オレは結衣と目を合わせたまま、唇をゆっくりと結衣の胸の先に移動させた。 オレに表情を窺われているのと、これからすることが分かりさらに顔を紅潮させる結衣。 「や・・・ は、あ・・・」 触れる前から結衣が溜息を漏らす。結衣の身体がオレを待ってると思ったら嬉しくなってきた。 わざと音を立てて、結衣の胸に吸い付いた。 「ああんっ! や、・・・アッ」 結衣がオレの頭を抱きかかえる。 あ・・・ また締まった。しかも、さっきより締めがキツい気が・・・ ちょっ? マジでヤベーぞ・・・ オレ・・・ ―――また1人で、先イッちゃうのか・・・? とオレが心配していたら、 「は・・・あ、ん・・・陸・・・ な、なんかっ ・・・あたし、ヘン・・・ ンンッ」 「・・・え? へ、ヘンって・・・?」 息を切らせながらそう聞くと、結衣は黙ったまま潤んだ瞳でオレを見上げた。 も、もしかして・・・ 「結衣・・・? イきそう、なの?」 オレがそう聞くと、結衣は顔を真っ赤にして、 「や、やだっ! そーゆーコト、聞かないでっ!」 うっ! ・・・また締まった・・・ ・・・・・・結衣―――――ッ!! 一緒にイこ? セーブしていた腰の動きを元に戻す。ニュートラルからドライブにシフトチェンジ!! |
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「やっ はっ、は、あ、あんっ」 オレの律動に合わせて、短く喘ぐ結衣。 「っ! ・・・マジ最高だよッ! 結衣ッ!」 「あ、はぁ、あんっ」 ベッドの軋む音と、結衣の濡れた声と、ちょっとだけ大きくなって、オレの動きに合わせて揺れる結衣の胸が、オレの欲情を駆り立てる。 「あ・・・ り、陸・・・? あ、あたし・・・ あた、しっ・・・」 結衣がオレの腕に爪を立てた。 イクのか・・・? 「・・・いいよ。 オレも、もう、イキたい・・・」 両手で結衣の腰を引き寄せる。オレと結衣の境界線が分からなくなるぐらい、深く繋がる。そして上がるスピード。 「・・・結衣、・・・好きだ。愛してる・・・」 とオレが再び結衣の胸の先に唇を落とした瞬間、 「・・・ッ! あ、あ・・・ああんッ!!」 結衣の中が一層強く締まった。 ―――イ、イクっ!! 「―――んっ」 何度も結衣に想いをぶつける。 結衣も何度も収縮を繰り返した。 ―――力尽きて、結衣の上に覆いかぶさる。 空調が効いた部屋の中に、オレと結衣の荒い息遣いだけが響いていた。 「・・・一緒に、イケたね?」 と結衣の顔を見つめたら、 「だ、だからッ! そーゆーコト言わないでって言ってるでしょッ!」 結衣は真っ赤な顔を背けた。 その顔を無理矢理オレの方に向かせ、何度もキスを落とす。 そのまま二人でベッドに横になっていたら、昨夜のバイトのせいもあったのか、急激な眠気に襲われた。 今日は色々邪魔が入って結衣と海に入れなかったけど、明日はたくさん結衣と海入ろ。 ・・・あ、日焼け止めも塗らしてもらお・・・ 夢だしな。 ・・・・・・そだ。水着買ってやんなきゃ。 あんな水着でビーチに出られたら、たまったもんじゃねぇからな・・・ ・・・・・・・・・あれは、夜の・・・プレイ用に、しよ・・・ オレは、楽しい妄想とともに眠りに落ちた―――・・・ 「お帰り、今野くん! どうだった?沖縄」 オレが冷蔵庫に入って、ダンボールからペットボトルを出していたら、東大が声をかけてきた。 「あぁ・・・ 楽しかったッスよ」 「海、キレイだったでしょ?」 「あ〜・・・ あんま入ってないんスよ、海」 「えっ? なんで? 沖縄行ったのに、海入ってないの?」 ―――って言うか、・・・入れなかったんだよな・・・ 「やだ―――っ!!」 沖縄に行った初日。結衣を抱いたあとベッドでウトウトしていたら、結衣の悲鳴に起こされた。 「ど、どうしたっ!?」 オレは慌てて飛び起きた。隣にいるはずの結衣の姿がない! 「信じられないっ!!」 バスルームから結衣の声が聞こえる。急いで向かうと、オレがさっき脱がせた水着を着て、結衣が鏡の前に立っていた。 「結衣・・・? どうしたの?」 オレが声をかけると、結衣が振り向いた。 「あっ! ちょっと、陸っ!! これ―――・・・ッ!? きゃぁあああっ」 結衣はオレに話しかけたかと思うと、さっき以上の悲鳴を上げた。 「なんだよ? どうした?」 結衣はオレから顔を背けている。 「どうした・・・じゃ、ないよっ! ・・・な、何か履いてきてよっ!!」 言われて自分の下半身を見下ろす。―――全裸だった。 さっきまで裸で抱き合ってたんだから、別にいいじゃん・・・とは思うんだけど、結衣はそうじゃないみたいだ。 手近にあったバスタオルを腰に巻く。 「・・・で? どうしたの?」 やっと落ち着いた結衣が、 「・・・もう・・・ あたし、海入れないよ」 とオレを睨む。「陸のせいだからねっ!?」 「え? なに・・・?」 話が全然分かんないんだけど? オレが戸惑っていると、結衣は自分の首を指差して、 「こ、コレっ!! こんなの付けるからっっ! 恥ずかしくて水着になれないよっ!!」 と顔を真っ赤にしている。 言われて見てみると、首筋に痣が付いている。 いや、さらによく見てみると、首筋だけじゃなく肩口や鎖骨、胸の谷間やアバラの辺りにもたくさんのキスマークが残っていた。 「えー・・・と・・・ オレ?」 当たり前でしょ、と言って結衣がオレの頭を叩く。 ―――後先を考えずに、吸い付きすぎたみたいだ・・・ もう、ビキニだからダメとかそういう範囲じゃなかったから、結衣は水着になることが出来なかった――― 「あ〜・・・イロイロありまして・・・」 面倒だし、説明する気もなかったからテキトーにあしらっておいた。 「ふうん」 東大はそう呟いたあと、まだオレの側に立っていた。 ・・・なんだよ? やっぱ土産欲しかったのか? オレは社交辞令が通じないこの東大生に、ポケットから取り出した封筒を渡した。 「あ、コレ、お土産」 「ウソォっ!! ホントに買って来てくれたの!?」 イヤ、買ってないから。 嬉しいなぁ、と言いながら東大が封筒を覗く。 「あ・・・・・・ 絵はがき、かぁ」 最近のホテルは、無料の絵はがきを用意しておいてくれるところが多い。 「沖縄らしい風景でしょ?」 とオレが言うと、 「―――そう、だね」 と東大は肩を落とした。 冷蔵庫から出て、事務所兼休憩室に置いてある雑誌・・・破られたりして廃棄処分になったものをチェックしていたら、来客を告げるチャイムがなった。 この時間は店長もいなく、オレと東大の二人だけでシフトに入っていた。 「客、来たみたいっスね?」 お前が行けよ?といった視線を東大に送ったら、ちょっとだけオレの顔を見つめたあと、黙って店に出て行った。 さすがの東大も、これで社交辞令を覚えるに違いない。て言うか、覚えろ? 東大に店を任せたまま雑誌のチェックを続ける。 ジュンに横流しする分の雑誌を選り分ける。ジュンはアヤカのファンだった。 オレがアヤカとモデルやったなんて知ったら、あいつゼッテー羨ましがるな・・・ そんなコトを考えながら、アヤカが載っている雑誌を眺めていたら、 「今野くん。お客さん来たんだけど・・・」 と、東大がまた戻ってきた。 なんだよ? レジ1台じゃ間に合わないくらい来たのか? 「たくさん?」 「イヤ、1人だけど・・・」 じゃ、お前1人で出来るだろ? オレはまた雑誌に目を戻して、 「じゃ、ちょっとしたら行くんで、少しだけお願いしちゃってていっスかね?」 と東大に言った。 「いいよ!」 意外にも東大は嬉しそうな声をあげた。「ちょっとカワイイ子なんだよね。中学生かな?」 いそいそと店内に戻って行く。 ―――おいおい・・・ 中学生って・・・ 東大行ってるからって、モテるわけじゃねーんだな。中学生に走るほど女に不自由してんのか・・・ 10分ほど雑誌をチェックしてから、店に戻る。 「すんません。今戻りました〜・・・ ―――えっ!?」 |
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レジカウンターの前に結衣が立っていた。手に紙袋を持っている。 「あ、今野くん! やっと戻ってきたぁ。 お客さん、待ってるよ?」 東大が結衣に笑顔を向ける。 ―――客って、買い物客じゃなくて、オレに来た客って意味かよっ!? おいっ、東大っ!! 東大に突っ込みたいのをガマンして、結衣に歩み寄る。 「ど、どうした? 急に・・・」 って言うか、なんでこの店だって分かった? バイトは全員男だし客もムサい大学生ばっかだったから、結衣に来て欲しくなくて、あえて教えてなかったのに・・・ 「・・・今日は夏期講習ないの。もう明日から2学期だし・・・」 「そーなんだ。 よく分かったね? この店」 まぁ、来ちゃったもんは仕方ない。あと20分くらいで休憩入れるし、店長もいないから、事務所で待たせるか・・・ 「さわやかクンに聞いたの。 ・・・・・・来ちゃいけなかった?」 「いや? いけなくはないけど・・・」 オレは結衣の顔を覗きこんだ。「・・・なんか、怒ってる?」 どうも結衣の様子がおかしい。結衣はちょっと俯いて、 「そりゃ、来ちゃダメだって言われてたのに、急に来たのはマズかったかもしれないけど・・・ ちょっとヒドいんじゃない?」 と言ったあと、オレを睨んだ。 「は? あの、結衣? 何の話?」 ワケが分からないからそう聞くと、 「仕事で待たされるなら分かるけど、雑誌・・・しかも、アヤカのグラビアを見てるから待ってろなんて・・・」 「え? ちょ、ちょっと待って?」 オレが慌てて結衣の肩に手をかけると、 「もういいっ! ―――はい、コレあげるっ!!」 結衣は持っていた紙袋をオレに押し付けるように渡して、「バイバイッ! 明日から学校だからねっ!? エッチな本ばっかり見てて、遅刻なんかしないようにねっ!!」 と言い捨てると、さっさと店を出て行った。 ―――な・・・ なんだ? オレがあっけに取られて結衣を見送っていると、 「ねぇ? 今の妹かなんか? 良かったら、紹介してくれないかなぁ。あ、それね、お弁当だって言ってたよ」 と東大が紙袋を指差す。 「―――おい。結衣に何言った?」 「あの子、結衣ちゃんって言うの?」 のん気にそんなことを言う東大の胸倉をつかみ上げる。 「何言ったのかって聞いてんだよっ!」 「・・・え? あ・・・ 今野くん呼んでくれって言われて・・・今野くんを呼びに行ったんだけど・・・」 東大はオドオドしながらなら、「事務所でアヤカのグラビアの袋とじ見てるから、待ってくれって言ってるよ、って・・・」 「てめぇっ!」 東大をつかんでいた腕に力を込める。東大が爪先立ちになった。 「うわっ! だって、ホントの事だよね? ボク、なんかいけないことした・・・?」 「うるせぇっ! この、バカがっ!!」 「コラッ! 何やってるっ!?」 オレが東大を締め上げていたら、店長が戻ってきた。「ケンカする元気があんなら、掃除でもやれッ!」 とホウキとバフィングマシンを取り出す。 「ちゃんと掃除しとけよ? オレは裏で帳簿つけやってるから。サボるなよ?」 店長はそう言って事務所に引っ込んだ。 「じゃ、ボクこっちやるね」 と東大がバフィングマシンを取る。 お前がそっちかよ? バフィングマシンは店内掃除、ホウキは店外掃除を意味する。 「おい―――っ!」 オレが東大に抗議をしようとすると、 「揉めんなよ―――?」 と奥から店長が怒鳴った。 仕方なくホウキを取り東大を睨みながら店の外に出る。途端に汗が吹き出した。今日の千葉の最高気温は33度だ。 もう辞めっかな・・・ このバイト。 とりあえず旅行にも行けたしな。 そうだ。外に出たついでに、結衣に電話しよ。 雑誌はジュンのものだって、説明しとかねーとな・・・ オレがポケットからケータイを取り出したとき、店内から派手な音がした。 驚いて振り向くと、東大が床に倒れている。 「何やってんだよ・・・ って、おいっ!?」 店内に戻り、驚きに目を見開く。陳列棚の商品が床に散乱している。 ・・・どうやら、東大がバフィングマシンでやらかしたようだった。 「コレ、結構扱いづらいよね?」 ―――テメー・・・ 自分でそっち取ったよな? 今の音を聞きつけて店長が出てきた。 「おい? なんだ、今の音は・・・ ―――オイッ!!」 店長は散乱した商品と、オレと東大の顔を交互に見比べて、「バイト代から相殺するからな」 「は? イヤ、オレは・・・」 オレが、関係ないと言う前に、 「さっさと片付けとけ!・・・あ、いらっしゃいませ〜」 店長はやってきた客の相手を始めた。 「・・・ゴメンね、今野くん。 なんか、巻き込んじゃって・・・」 東大をぶん殴りたい衝動を押さえながら、散らかった床を片付ける。割れた化粧水のビンを取り、価格を確認する。 2800円・・・ ゼッテー辞めてやる・・・ |
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