チェリッシュxxx 第7章
F 雪
「……結衣、やっぱりお父さんに送ってもらったら?」 お母さんが窓の外を眺めながら心配そうな声を出す。 あたしはトーストをかじりながら、 「電車で行くからいい」 「でも、結構降ってるわよ?」 「早めに出るから。 だから平気」 あたしがそう言ったら、 「今日は朝イチで職員会議だ」 と向かいの席でお父さんが言った。 「えっ!?」 お母さんが慌てる。「入試の日だから、午前中はお休みにしてもらってって言ったじゃない」 「急に決まったんだ。 仕方ないだろう。 いくら担任じゃないとはいえ、こっちにだって受験生がいるんだ」 「そうだけど…… でも、自分の娘の入試の日ぐらい……」 「ごちそうさまっ!」 2人の会話を無視して席を立った。 部屋に戻って出掛ける準備をする。 今日は2月17日。 本命の試験日だ。 「昨日は晴れてたのに……」 窓の外を眺める。 細かい雪が音もなく降っていた。 でも、この程度の雪なら電車は動いているはず。 ニュースでも電車の遅れや運休は今のところないって言ってたし。 降り始めたのも明け方みたいで、積もってるっていうより道路の端の方がうっすらと白くなっている程度。 |
試験開始は9時だから8時半頃着けば十分だけど、念のため8時前には着くように……そろそろ家を出た方がいいかもしれない。 「あんまり早く行き過ぎても余計に緊張するだけだから、開始30分前でいい」 って担任の木下先生には言われてるけど…… 遅れるよりはマシだよね。 受験票や筆記用具を確認して荷物をまとめ、コートにマフラーを巻いて部屋を出た。 そのまま黙って出掛けちゃっても良かったんだけど、一応リビングに顔を出す。 「……じゃ、行ってくるから」 一言だけ言ってさっさと出掛けようとしたら、 「結衣」 とお父さんに呼ばれた。 一瞬迷ってから無言で振り返った。 「……持って行きなさい」 「……え」 目の前にケータイ電話が差し出される。 お父さんに取り上げられたあたしのケータイだ。 「これ…… 返してくれるの?」 お父さんは自分のカバンをつかんで、 「緊急連絡用だ。 当然だが、それ以外には使用禁止だ。 …行ってくる」 とお母さんに声をかけて、あたしより先に家を出て行ってしまった。 まさか返してもらえるなんて思わなかった…… 「もう、お父さんってば…… せめて駅まで乗せて行ってくれればいいのに……」 お母さんが不服そうな顔をする。 「平気だって言ってるでしょ。 じゃ、行ってきます」 「……頑張ってね?」 無言で肯いて家を出た。 「試験日じゃなければ嬉しいのにな……」 と空を見上げる。 雪が降っているっていうのに、空が明るい。 もしかして、すぐに止んじゃうのかな…… あたしたちが住んでいるところは千葉県内でも東京寄りの方で、滅多に雪は降らない。 だからかな。 もう高校生だっていうのに、いまだに雪が降ると嬉しくなってしまう。 でも今日は…… 「滑らないようにしないとね」 慎重に歩を進めた。 受験生が入試日に滑るとか……最悪だ。 いつもの登校時間より早いせいか静かな気がする。 それとも、雪が周りの音を吸い込んでくれているのかな? 周りに音がないせいで、意識が自分の内側に向いてくる。 結局、あの日から陸とは連絡を取らないままこの日が来てしまった。 すごく辛かったけど、でも陸があたしのためを思ってそうしてるんだって思ったから…… 辛かったけど我慢した。 「お父さんと仲直りしてよ」 っても言われてたけど…… それについては、陸の言う通りに出来なかった。 かといって、あのロースカツの日以来、特にケンカもしていない。 あたしがお父さんを避けていたっていうのもあるけど、お父さんだって積極的にあたしに話しかけようとしたわけじゃないからお互い様だ。 祐樹からは、 「ねえちゃんも父さんも頑固だからな〜。 ホント2人性格似てるよ」 と言われたけど…… 似てないでしょっ!? あたし、あんなに頑固でも分からず屋でもないもんっ!! それに…… お父さんに似てたら、もっと理数系出来てたよ。 お父さんは物理の教師だ。 ―――あたしは選択してないけど。 「大丈夫かな、数学……」 と不安になりかけて、 ……まあ、やるだけのことはやったんだから……今さら焦ったってしょうがないか。 それより、ちゃんと落ち着いて試験を受けられるようにしないと。 「少しの緊張はケアレスミスを防ぐためにも必要だが、焦りは禁物だ」 お父さんの口癖だ。 ……って、なんであたし、こんなときにお父さんの口癖なんか思い出してんだろう。 そんなことを考えながら歩いていたら、いつの間にか駅まで着いていた。 さっきまで明るかった空が薄暗くなり始め、雪も大粒になってきている。 すぐ止むと思ったけど…… カンが外れたみたいだ。 ラッシュの時間よりちょっと早いせいか、電車内は思ったほど混んではいなかった。 でも、座れるほど空いているわけじゃなく、あたしは乗降口のポールにつかまって立った。 そのまま目を閉じる。 なんとか今日のこの試験で合格したい。 一応この本命のあとにもう2校受けることになっている。 浪人は考えてないから、これがダメだったらそのどちらか…受かった方に行くしかない。 けれどその2校は、まだ漠然とも将来が見えていない時期に学力だけで決めた学校で、そこに行って何をしたいって決まっているわけじゃなかった。 でも、今は違う。 ちゃんとやりたいことが見つかった。 それにはこの本命の学校に行って、ちゃんと勉強して資格を取らないと……ダメだ。 このあと滑り止めがあるから……なんて気持ちで望んでいたら受かるものも受からない。 それに、一刻でも早く進学先を決めて陸と会いたいし! 本命に受かってお父さんを見返してやりたいし!! ……お父さん、本命に受かったら陸とのこと許してくれないかな…… ううん、せめて話だけでも聞いて欲しい。 陸がどれだけ優しくてしっかりしてるか……それが分かってもらえれば許してくれると思うんだけど…… でも、あたしたちすでにエッチしちゃったってバレちゃったし…… 聞く耳持ってくれないかも…… と思いかけて慌てて頭を振る。 これから試験だっていうのに、こんな落ち込むようなこと考えちゃいけないっ!! 今は試験のことだけ考えなくちゃ!! とあたしが顔を上げたら、 「マジかよ〜〜… 勘弁してくれよ」 とすぐ近くで嘆く声が聞こえた。 会社員らしいスーツ姿の人が、顔をしかめながらケータイをいじっている。 ん? どうかしたのかな? と思ったら、 「今日朝イチで会議があるのに…」 とか、 「間に合うかな……」 とか、そこここからぶつぶつと声が上がっているのに気が付いた。 みんな一様に顔をしかめている。 え…? なんかあったの? そのとき車内アナウンスが流れた。 『再びお知らせいたします。 この電車は雪のため一時停車しています。 発車まで少々お待ちください』 「えっ?」 言われて気が付いたけど、電車が駅じゃないところで止まっている! 窓の外を見たら、まだ雪は降っている。 雪の少ない地域でたまに雪が降ると、すぐに電車が止まる。 良かった。 早めに出てきて。 試験開始時間より1時間以上早く着く予定で出て来てるから、ここで多少電車が止まっても大丈夫なはずだ。 あたしが心配する間もなく、電車はすぐに動き始めた。 けれど、ちょっと動いてまたすぐに止まってしまう。 そんなことを一区間の間に2度も繰り返して、やっと次の駅に到着した。 あたしが立っている方とは逆側のドアが開く。 遅れたせいか、ドアが開くと同時に沢山の人が乗り込んできた。 あたしはたちまちドアに押し付けられた。 ぎゅうぎゅうに押されながら発車を待っていたら、 『お知らせいたします。 前の電車が遅れているため、この電車は当駅で少々停車いたします。お急ぎのところ大変申し訳ありませんが、ご了承ください』 とまた車内アナウンスが流れた。 「え〜〜〜っ!」 |
さっきよりさらに車内がざわつく。 「そんなに降ってねーじゃん! なんで発車しねーんだよっ!?」 「これかだら都会の電車は……」 みんなが口々に文句を言っている。 雪が降ってる日は早めに家を出なくちゃ! あたしみたいに! 周りで焦る人たちを余裕で見渡す。 でも、5分もそんな状態が続いて段々あたしも不安になってきた。 あんなにぎゅうぎゅうだったのに、少し車内が空いてきた。 「ダメだ! こんなんじゃ遅刻する!」 と言って電車から降りていく人がいるからだ。 多分バスかタクシーかで目的地に向かうんだと思う。 お父さんに返してもらったケータイの時計を確認した。 ……時間はまだたっぷりある。 ここで途中下車してバスやタクシーで向かうより、電車の方が早い。 タクシー乗り場は先に下りていった人たちでいっぱいだろうし、バスだと試験会場の大学まで……行き方が分からない。 だったらこの電車に乗っていく方が、結果早く着くと思う。 そんなことを考えていたらやっと電車が動き出した。 ほっと安堵の溜息をつく。 けれど…… またすぐに電車が止まってしまった。 『お急ぎのところ大変申し訳ありません―――……』 もう何度も聞いた車内アナウンスがまた流れる。 「いー加減にしろよっ! オレ、ここで降りる!」 「危ないだろうっ! 止めなさいっ!!」 大学生風の男の人が非常用コックを捻ろうとして、スーツ姿の人に止められている。 この路線は高架の上を走っている。 今ここで無理矢理ドアを開けて電車から出ても、地上には降りられない。 窓の外は、吹雪と言ってもいいくらいの雪が斜めに降りつけている。 車や家の屋根はすっかり真っ白になった。 やっぱりさっきの駅で降りればよかったかな…… 小さな不安が段々大きなものになっていく。 一体いつこの電車は動くんだろう…… っていうか、あれから何分たったんだろ? まだ余裕はあるはずだけど…… とケータイを開いて……驚いた。 いつもの待ち受け画面に見慣れない文字が表示されている。 『ただいま回線が混雑しております。しばらくお待ちください』 ……なにこれ? ケータイ使えないってこと? ウソでしょっ!? そう言えば、夏に行った江戸川の花火大会のときも同じような表示出てた…… 気が付いたら周りの人みんながケータイを使用している。 どうやら一ヶ所で沢山の人が同時にケータイを使おうとすると、回線がパンクしてしまうみたいだ。 特に誰に連絡しようと思っていたわけじゃない。 けれど、取りたくても取れない状況なんだと分かったら急激に不安が膨らんできた。 ……やっぱりさっきの駅で降りればよかった!! 激しく後悔したけど今さらもう遅い。 そのあとも何度か停車や徐行を繰り返しながら、やっと次の駅に止まった。 待ちかねたように、みんなが電車内から駆け下りていく。 反対側のドアに立っていたせいでみんなより出遅れた。 乗り継ぎ方が分からないし、バスは無理だ。 タクシーで行くしかない! とタクシー乗り場に走って…… 目眩がした。 ―――ありえない数の人が列を作っている。 「ごめんなさい、今日入試なんですっ! 譲って下さいっ!」 って割り込むことも一瞬考えたけど…… そんなこと言える勇気はあたしにはなかった。 みんな急いでいるのは一緒だ。 そんなことを考えながら、それでもタクシー乗り場の列の最後尾に並んでいたら、カバンの中のケータイが鳴った。 いつの間にか通じるようになっていたらしい。 『ああ、結衣っ! やっと繋がった!』 お母さんだった。 何度もかけていたらしい。 『さっきニュースで電車遅れてるって聞いて…… 今、どこにいるの? もしかしてもう会場?』 「……東船橋」 『えぇッ!?』 お母さんが驚いた声を出す。『まだそんなところなの?』 泣きそうになりながら肯いた。 「タクシー待ってるけど、すごい人で…… もう無理」 『入試だって言って割り込ませてもらいなさい!』 「無理だよ〜… あたしそんなこと言えないよ〜!」 半泣きになりながらそう言ったら、 『今すぐお父さんに連絡するから。 そこで待ってなさい!』 と言って通話が切られた。 お父さんに連絡って…… 無理だよ。 朝イチで職員会議あるって言ってたし…… 第一、 まだ仲直りしてないし…… 今朝だって、 「電車で平気!」 って言ったのはあたしの方だもん。 そんなことを考えていたら、またケータイが鳴った。 ―――表示を見たら……陸だった! 「陸っ!?」 『結衣? よかった、ケータイ返してもらってたんだ? ……ごめん、連絡しないって言ったのに。 今日入試の日でしょ? すごい雪だから気になって……』 「陸〜〜〜っ!!」 我慢出来ずに泣き声になった。「もう無理だよ〜… 落ちる…」 『結衣っ!? ちょ…落ち着いて?』 「雪で電車…動いてなくて…… 途中で降りたけど…すごい人で…タクシー…乗れ…ない…」 しゃくりあげながら説明した。「もう……間に、合わないかも……」 なんとかここまで頑張ってきたけど……もうダメだ。 試験すら受けられないかもしれない。 とあたしが諦めかけたら、 『すぐ行く』 そう言って陸は通話を切った。 すぐ行くって…… 無理だよ。 電車動いてないんだよ!? この前とは違うんだよっ!? それに今からこっちに来たら、絶対学校遅刻しちゃう! 陸、留年がかかってるからこれ以上授業休めないし…… もう、無理なんだよ…… 諦めるしかない…… 陸と連絡を絶ってまで頑張ってきたけど…… 受験が終わったら会えるんだからって、それを励みに頑張ってきたけど…… 「本命に受かったら、お父さん許してくれるかな?」 って淡い期待も持っていたけど…… ―――もう、全部ダメだ…… と諦めながらも列に並んでいたら、駅のロータリーにバイクが1台入ってきた。 「結衣っ!!」 陸だった。 |
「陸っ!!」 列から抜けて陸のところへ駆け寄る。「が、学校は? 陸、単位……」 「これ被って!」 陸はあたしの話を途中で遮って、あたしにヘルメットを被せた。 「試験何時から?」 「……9時」 一瞬陸の動きが止まる。 「……陸、もういいよ。 どうせ間に合わない…… それより学校行って? これ以上休んだら本当に……」 「留年したっていいよ」 「よくないよっ! これ以上陸に迷惑かけたくないし……」 「……とりあえず向かおう」 「陸っ!!」 そんなやり取りをしていたら、見慣れた車が入ってきた。 ―――お父さんだ。 「早く乗れ!」 助手席のドアが開いて、大声でそう言われた。 「で、でも……」 陸を振り返った。 陸は肯いて、 「車の方がいい。 早く行って!」 「だけど、せっかく陸が来てくれたのに……」 「いーから早くしろってっ!!」 陸に背中を押されて車の方に歩き出す。「時間がもったいない!」 陸のことを気にしながら車に乗り込もうとしたら、 「貴様もだ! 早くしろっ!」 とお父さんが陸に言った。 「……え」 陸が眉を寄せる。「……オレ?」 「早くしろっ! 結衣が試験に遅れてもいいのかっ!?」 なんで陸まで……? お父さんが何を考えているのか分からない。 でも、 「陸っ! 乗ってっ!!」 とあたしも陸を呼んだ。 陸は一瞬迷ったあと、バイクを端に止め直して後部座席に乗り込んできた。 すぐに車が動き出す。 「一応試験会場に電話を入れたが…… どうなるか分からない」 お父さんは前を見たまま、「時間的には…… 間に合わないかもしれないな」 「……お父さん、職員会議は?」 あたしがそう聞いたら、お父さんは前を向いたまま、 「抜けてきた。 他人の受験より娘の受験だ」 とどうでもいいことのようにそう言った。 「そう……」 あたしは思い切って、「……ありがとう。 お父さん」 とお礼を言った。 お父さんはそれには返事をせずに、 「……何しに来たんだ、貴様は」 とバックミラー越しに陸に問いかけた。 「いや、あのっ」 「陸はあたしを心配してっ」 陸とあたしが同時に答えようとしたら、 「お前には聞いてない!」 とお父さんがあたしの方を振り向いた。 驚いて口をつぐむ。 |
「や、電車が止まったって聞いて……試験会場まで……」 陸がそこまで言ったところでお父さんが、 「こんな雪の中をバイクでか? しかも2人乗りで…… 事故でも起こしたらどうするつもりだったんだっ!?」 と吐き捨てた。 「……すみません」 陸が消え入りそうな声でそう謝る。 「考えなしにもほどがある! 大体……」 「お父さんっ! 陸は心配してわざわざ来てくれたんだよっ!?」 我慢出来なくなって割り込んだ。「単位が危ないからもう1日も休めないのに…… わざわざ来てくれたんだよっ!そんなこと言わないでっ!!」 「単位?」 お父さんが訝しげな声を出す。「なんだそれは? 進級出来ないのか?」 言ってから、しまった、と思った。 陸が出席日数が足りなくて留年しそうだということは、お父さんはもちろんお母さんだって知らない。 そんなことお父さんに知られたら、ますます陸の印象が悪くなってしまう! 自分の迂闊さを呪ったけど…… 今さら取り返しがつかない。 「でっ、でもそれ、あたしのせいだからっ! あたしがホームから線路に落ちそうになったところを陸が助けてくれて、それで陸が走ってる電車と接触して大怪我しちゃって……」 慌ててフォローしたら、 「線路に……? お前がかっ!?」 とお父さんが驚いた顔になる。 当たり前だけど、お父さんは陸の事故のことを知らない。 あたしを庇ってくれたことも。 それで大怪我して入院したことも。 「それで入院したせいで出席日数が足りなくなっちゃったの。 だから陸のせいじゃないから。あたしのせいだから!」 お父さんが黙り込む。 気まずい沈黙が続いたまま、試験会場の大学に到着した。 開始時間を30分も過ぎている。……久しぶりに降った都会の雪は、電車を止めただけじゃなく、道路まで渋滞させていた。 もうダメだ…… と思ったけどお父さんは、 「時間はとっくに過ぎているが…… とにかく行ってみなさい。 ちゃんと自分で事情話せるな?」 とあたしを送り出した。 あたしは黙って肯くしかなかった。 「……大丈夫だよ。頑張れ」 陸が後部座席から笑顔を見せる。 「ありがとう」 と陸の笑顔にあたしが笑顔を返したら、 「さっさと行け!」 とお父さんが忌々しそうな顔をする。 「お父さん」 「……なんだ」 「あたし、陸が好きなの。 大好きなの。 だからちゃんと話聞いて欲しいの! お願いっ!!」 あたしがそう懇願したら、お父さんは、 「……まずは試験だ。 そんな話はあとだ」 とそっぽを向いた。「早く行きなさい」 「おとぅ……っ」 と呼びかけて、「……行ってきます」 諦めて車外に出た。 今お父さんに何を言ったって聞いてもらえない。 それに、お父さんが言うとおり今は目の前の試験だ。 これが無事受けられなかったら、今までのことが全部無駄になってしまう。 陸だって、自分の留年のことを置いてあたしを心配してきてくれたんだし、お父さんだって職員会議抜けてわざわざ…… 雪はまだ降っている。 ―――あたしは走って試験会場に向かった。 |
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