Secret Love affair  #2 委員会



「村上さん」
「な、なに・・・?」
昼休み。 屋上で昼食をとっている彼女の所へ行って声をかけたら、彼女が怯えた目をして僕を見上げた。
・・・どうしてそんな目をするの?
―――こんな所で何もしやしないよ。
「・・・今日の放課後、臨時委員会だって」
僕は事務的に必要な事だけを伝えた。
「そ、そーなんだ・・・」
彼女はちょっとホッとしたような、それでいて後ろめたいような顔をして俯いた。
「なんだぁ。 じゃ、今日一緒に帰れないの?」
彼女と一緒に昼食をとっていた渡辺さんがつまらなさそうな声を出す。「せっかく塾ない日だったから、帰りにお茶して行こうかと思ってたのに・・・」
「ゴメン・・・・・」
ますます彼女が俯く。
「ん? なにそんなにオチてんの? 結衣のせいじゃないんだからしょうがないでしょ?」
「そ、だけど・・・」
「・・・なんか顔色悪くない? 大丈夫?」
「え? 平気だよ・・・?」
渡辺さんが彼女の顔を覗き込んで、
「委員会なんか出て、大丈夫? 体調悪いんなら帰っ・・・」
「じゃ、視聴覚室だから」
渡辺さんの話を遮るようにそう言い残すと、僕は振り向きもしないで屋上を後にした。
―――今ごろ彼女はどんな顔をしているんだろうか。
恋人がありながら、他の男と情事を重ねている(まぁ、彼女が望んだ事ではないけれど)という事にも後ろめたいだろうけど、それが親友の好きな人だということでますます彼女は罪の意識に苛まれているようだった。
・・・彼女の親友 渡辺さんは、僕のことが好きだった。
ハッキリ言われた事はないけれど、僕に接する態度で気が付いた。
けれど、僕はそれに気付かないフリをしていた。
渡辺さんのことは嫌いじゃないけど、好きでもない。 ・・・というか、彼女以外の女性はみんな同じに見える。
気持ちに応えられないのに、僕が渡辺さんの気持ちに気付いていると分かったら渡辺さんだってイヤだろう。
・・・それに、渡辺さんはなぜだか僕の気持ちに気が付いているみたいだった。
僕が彼女の事を想っているということを。
・・・いつ知ったんだろう?
まぁ、僕たちの関係までは気付いていないだろうけど・・・

「え〜、そういうわけで、そろそろ2年生にも見回りをしてもらう事にした。いきなりは回れないだろうから、引継ぎ期間を設けてその間3年生に同行して回るように。それから・・・」
顧問の教師がホワイトボードに何か書き込みながら大声を張り上げている。
・・・・・引継ぎ? 2年も一緒に・・・ 見回りを・・・?
僕が彼女に触れるのはいつも校内だった。 大抵、風紀の見回りのときが多い。
仮に風紀の見回りがない日だって、僕は機会を探すけれど。
けれど・・・ これからいつも2年が一緒に回るなんてことになったら・・・ 邪魔だ。
「A組はA組、B組はB組で教えてやれよ」
隣に座って 顧問の話を聞きながら、一生懸命ホワイトボードの内容を写している彼女の横顔を流し見る。
・・・こんなに子供っぽい顔をしているのに、キミはもう男を知っている。
キミはそんな気ないだろうけど、男の欲情に火をつける表情をしたり、濡れた声を上げたりもする。
ちょっとトロくて慌て者の彼女は、クラスでも割と子供扱いされている方だっていうのに・・・
・・・そんな普段の彼女と、情事のときの彼女とのギャップが、余計に情欲を煽ってくる。
彼女の視線がノートとホワイトボードの間を行ったり来たりしている。
僕が見ていることなんか全く気が付いていないみたいだ。
真面目な風紀委員のキミ。
ま、僕も他の奴らから見たら、相当真面目に見られてると思うけど・・・・・
6限目のLHRが長引いたせいで、僕たちは委員会に少し遅れてしまい、みんなの一番後ろに座っていた。
視聴覚室の机は3人掛けで、英語の聞き取りテストも出来るように机からヘッドセットが伸びている特殊なものだった。 普通の机のように、足元が抜けていなくて囲われた状態になっている。
その3人掛けの机に、僕たち2人は着いていた。
ちょっとだけ椅子を彼女に寄せて、机の上に出ていた彼女の手を握る。
彼女が驚いて僕の方を見た。
僕は自分の唇に人差し指を当てた。
・・・・・騒いだら、キミも困るよ?
繋いだ彼女の手を、机の下に下ろした。 指先で彼女の手の平をなでる。
「・・・い、五十嵐くん・・・?」
「ん?」
「・・・くすぐったい・・・んだけど・・・」
「うん」
彼女のセリフを聞き流して、彼女の手の柔らかさを堪能する。
男の骨っぽい手とは全く違う、温かく柔らかい手。
「・・・ね、ねぇ・・・ 五十嵐くん・・・ 黒板、写せないから・・・」
「いいよ。写さなくても」
「だ、ダメだよっ! 色々書いてあるよ? 引継ぎの事とか・・・」
「もう覚えたから、大丈夫だよ」
本当はホワイトボードじゃなくてキミばかり見ていたから、全然覚えてなんかいないんだけど。
「五十嵐くんはそれで大丈夫かもしれないけど、あたしは写さないと忘れちゃうからっ!」
「じゃ、あとでB組に見せてもらえば?」
「そ、そんな・・・」
僕たちが小声でそんなことをやっていたら、
「コラッ! そこっ!! ちゃんと聞いてるかっ!?」
と顧問が大声を上げてきた。
「すみませんっ!」
彼女が慌てて頭を下げた。 それも、何回も。
「ったく・・・ ちゃんと聞いてろよ?」
また顧問はホワイトボードに向き直って、何か書き込みながら話し始めた。
「もうっ! 五十嵐くんのせいで怒られちゃったよっ!?」
さっきよりももっと小さい声でそう言って、彼女は僕を睨んできた。
僕はクックッと笑いながら、
「村上さん、スゴイ勢いで頭下げてたね? 壊れたロボットみたいだった」
「面白がってるでしょ?」
彼女は頬を膨らまして手を振り解いた。 そして、再び前に向き直る。
僕はさらに椅子を彼女の方に寄せた。
「・・・・・何?」
彼女は、また手を繋がれるのかと警戒している。 両手とノートを僕とは反対側に寄せてチラリと僕を見たあと、またホワイトボードを写しはじめた。
―――もう手なんか繋がないよ。
僕はそっと彼女の腿に手の甲を当てた。
再び彼女が驚いて僕を見上げる。
僕はそれを無視して、制服のスカートの上から彼女の腿をそっと撫でた。
彼女が慌てる。
「い、五十嵐くんっ?」
「前」
腿を撫で続けながら、「・・・向いてないと、また怒られちゃうよ?」
彼女は慌てて前を向いた後、再び僕の方を見た。
僕はちょっとだけ微笑んで、
「怒られないように、前 向いてなね?」
と言いながら、指先でスカートをたくし上げた。 今度は直接腿に触れ、撫でる。
やっぱり男とは違う柔らかくて滑らかな肌に感動。
そのまま手を腿の内側に移動させる。
「んっ・・・ ちょ、ちょっと・・・」
やめて、と言いながら、彼女が僕の手を押さえた。
「離して?」
「五十嵐くんこそっ! 離してよっ」
「おいっ! またそこっ!!」
また顧問が大声を上げてこちらを指差す。「無駄話するな!」
「すっ、すみませんっ!」
また壊れたロボット。
彼女が頭を下げている間に、腿を撫でるのを再開。
「・・・静かにしようね?」
そう言いながら手を下肢の付け根辺りに移動させる。
スカートがたくし上げられて寒いからか、それともこれからされることを想像したからか、彼女が震えた。
「・・・んっ」
そっとその部分に触れたら、彼女は身を竦めた。
そのままそこをゆっくり撫でる。
「ん・・・ ん・・・っ」
声を押し殺して、不自然なほど俯いている彼女。 一見、真面目にノートを取っているように見えるかもしれない。
「それから、見回りするポイントだが・・・」
顧問がホワイトボードの方を向いている間に、空いていた右手で彼女の顎をつかみ口付けた。
「ンンッ!?」
でも、いつ顧問が振り向くか分からないから、・・・名残惜しいけど一瞬で離れる。
「ん、はぁっ」
彼女が大きく息を吸い込む。
また顧問がボードの方を向く。 ―――またキス。
その間も、左手は彼女の敏感な部分を撫で続けた。
そんなことを繰り返していたら、
「・・・お前ら、何やってんの?」
と前に座っているB組の委員が振り返った。「さっきから・・・」
僕たちは静かにしていたつもりだったけど、多少の物音はしていたらしい。
「・・・別に? 何も?」
キスしてるときじゃなくて助かった。
「視力悪くて見えづらいから、彼女にボードの内容聞いてただけだけど?」
B組の委員はチッと舌打ちして、
「川北怒ると長げーから、あんましゃべってんなよ? 早く帰りてーんだから・・・」
「悪い」
僕が謝ったら、そいつは眉間にしわを寄せながら前を向いた。
「ヤバかった」
そう言って彼女を見たら、
「・・・んっ も、もう・・・ やめて、よっ」
彼女が腰を捻る。
「お願い・・・ 手、離して・・・」
「気持ち良くない?」
「・・・んっ 良く、ないっ」
「ウソ・・・」
下着の上からそこに指を立てた。「濡れてるよ?」
「ち、違・・・っ!」
彼女は顔を真っ赤にして首を振った。
「違うの?」
今度は首を縦に振る。
僕は下着の中に指を滑り込ませた。
「あっ!」
驚いて彼女が声を上げた。 B組が振り向く。
「ん?」
と僕が首を傾げて見せたら、そのままB組は前を向いた。
「ちょ・・・ 声出すと、ホントにヤバいよ・・・」
彼女の耳元に唇を寄せて、「我慢して・・・」
「〜〜〜じゃ、やめてよ・・・ はっ あんっ」
直接そこに触れ、雫を絡ませて また撫でる。
「やっ! あ、はっ ・・・あぁっ ンンッ」
彼女が前屈みになる。
「足・・・ 開いて?」
「・・・ん、やだっ・・・」
「狭いよ・・・」
触りづらいんだけど・・・
しょうがないから、挿れるのは諦めて その手前の方にある芽を刺激した。
「ハッ ああんっ!」
ちょっと大きな声だったから焦ってしまった。
ちょうど顧問も大きな声で説明しながらボードに向かっていた時だから、顧問には見つからなかったけど、また目の前に座っているB組が振り返った。
「おい・・・」
と言いかけて、「・・・大丈夫か?」
不自然に机にうつ伏している彼女を見てB組がちょっと驚いた。
「・・・ああ」
「具合悪いのか? 川北に言って、帰らしてもらえば?」
「・・・もう少しで終わりそうだし、大丈夫だよ。 ねぇ? 村上さん?」
彼女は否定も肯定もしなかった。 ・・・というか、出来なかったのかも知れない。
「だったらいーけどさ・・・」
B組はまだ彼女を見ている。
―――いいから、さっさと前向けよ!
僕の念が届いたのか、B組はまた前を向いてくれた。
「・・・本当にヤバい・・・」
と僕は言いながら・・・・・でも、指はそこから離さない。
彼女は浅い呼吸を繰り返して、僕が与える刺激を逃そうとしている。
―――限界かな?
もともと、こんなところでイカせる気はなかったし、もうすぐ委員会も終わりそうだし、そろそろやめるか・・・
刺激を与えたままそんなことを考えていたら、
「はっ はぁっ はぁっ はぁっ!」
と彼女の呼吸がいっそう速くなり、足に力が入ってきた。
「・・・村上さん?」
・・・え? ―――まさかだよな?
だって、いつもより全然短いし・・・ 触ってる時間・・・
疑問に思いながら、それでも一応やめようと手を抜きかけたら、はじめに僕を阻んでいた時よりも彼女が足に力を入れていて、簡単に手を抜く事が出来ない。
「え・・・ あの・・・ 村上さん?」
もしかして、まだ触って欲しい?
イヤ、いつも、どんなに身体が欲しがっていても、頑なに僕を拒否しているキミがそんなこと思うわけがない。
「ねぇ・・・」
と彼女の顔を覗き込んで息を飲んだ。
彼女が瞳を潤ませながら、僕を見返している。
壮絶な色香を漂わせて、僕を見つめている。
この顔を僕は知っている。
いつも、拒否しながらも 結局は僕の腕の中で果ててしまう・・・ かわいくて愛しくて仕方がない・・・・・
―――そのときの顔。
「・・・んっ や、やめたいのに・・・っ」
ちょっと震えている声。「・・・ちか・・・力、抜けない・・・っ」
―――やっぱり・・・
でも、どうして? ホントにまだそんなに触ってないよ?
「あっ! はぁっ ・・・ンッ!」
小さな芽が震える。
僕はやっと気が付いた。
彼女は 足を閉じていたせいで、いつもより早くその時が来てしまったみたいだ。
・・・いいよ。 イカせてあげる。
僕が差し入れた手の角度を変えようと少し身体を捻ったら、
―――ガシャンッ!
という音を立てて、僕のペンケースが床に落ちた。
「A組―――――ッ!!」
顧問がまた僕たちの方を振り返った。
「―――すみません・・・」
自分の迂闊さを呪う・・・・・
「これから2年に引き継ぐからって、3年の仕事がなくなったわけじゃないんだぞっ」
「はい」
「ちゃんと聞いとけっ!!」
「すみません」
もう一度謝った。
やっと顧問が怒りを納めた頃には、彼女の足からも力が抜けていた。
「・・・ゴメン」
もう少しでイカせてあげられそうだったのに・・・・・
彼女はペンを持ち直して、ノートをとるのを再開させようとしている。
「もう・・・ ホントにやめて。 こういうこと」
「いやだ」
僕が懲りずにそう言ったら、
「・・・・・五十嵐くんなんか、嫌い。 ホントに!」
もう何回も聞いているそのセリフを、また言われた。
「今の続き・・・ 帰りにする」
「イヤ」
「する」
「走って帰るもん!」
・・・僕、リレーの選手に選ばれるくらいなんだけど?
「え〜・・・ 以上で説明は終わりなんだが・・・」
顧問が委員会が終わる事を告げた。
ああ・・・ もう彼女と一緒に出来る委員会の時間が終わってしまった。
週に1度ある見回りと、月に1回の委員会、それからこうしてときどき入る臨時の委員会だけが、僕たちが2人でいても誰にも何も言われない至福の時間だった。
また、来週の見回りの日まで待つのか・・・
まぁ、今まで2年以上も待ってきたんだから、待つことには慣れてるけど・・・
そう言えば、2年の同行っていつから始まるんだ? まさか、来週?
と僕がやっとホワイトボードを見る気になって前を向いたとき、顧問が暗幕を引いて部屋の電気を消した。
「それから今日は、他の学校で実施している風紀の取り締まり方に関するスライドを見る! 30分あるからしっかり見とけよ!」
え〜・・・? と、そこここから遠慮がちに抗議の声が上がる。
「30分くらいなんだっ! お前らのためにオレがせっかく借りてきたのに・・・」
と言いながら、顧問は映写機が置いてある隣の部屋に入って行った。
間もなく目の前のスクリーンに、どこかの学校が映しだされた。
・・・・・また来週まで待つものだと思っていたのに・・・
30分?
しかも、スライド上映のために部屋は殆んど真っ暗だ。
僕がゆっくり彼女の方を見たら、彼女も僕を見ていた。
暗闇の中で、困惑と怯えの色が浮かんだ瞳が僕を見ていた。
僕は再び彼女の手を取り、怯えた瞳のままの彼女に口付けた―――・・・


To be continued・・・