| 「あ？ ヒカルちゃ～ん？ 今夜さ、ちょっと面白いパーティやるから、学校おいでよ。陸も来るからさ」 夏休みに入って１０日が過ぎた。 今年の梅雨はなんだか長引いていて、梅雨明けしたのは夏休みに入って、１週間以上もたってからだった。 そんなわけで、ずっと曇りや雨ばかりだったけど、ここ２～３日でやっと夏休みらしい天気になってきた。 夏休みとは言っても、あたしたち受験生はお盆の期間を除いて、夏期講習がびっしり入っているから、ほぼ毎日のように学校に来ているんだけど。 |
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 でも、商業科でまだ２年生の陸は夏期講習なんかないから（仮にあったとしても、絶対参加なんかしなさそう…）毎日のように学校には来ているのに、陸とはしばらく会えていない。しかも、陸、なんかバイトとか始めちゃってて、余計に会う時間なくなっちゃってるし！ 「結衣は夏期講習で忙しいだろうし、オレもちょっと遊ぶ金とか？欲しいし、バイトでもしようかと思って」 とか言ってたけど… 陸は、時給がいいって言って、夕方から夜のシフトばっかり入れてるから、講習が終わってから会うってことも出来なくなっちゃってる。 この前だって、神社の夏祭りに一緒に行こうねって言ってたのに、 「わりッ！ 今日遅番の人が急に休んじゃって、代わりに出てくれって言われちゃったんだよね。時給上乗せしてくれるって言うし… ゴメン！ いい？」 ダメなんて言えなくて、つい肯いてしまうあたし… あ～… 陸と一緒にお祭り行きたかったな… かわいい浴衣買ったのに… …なんて、会えなくて寂しいって思ってるの、あたしだけなのかな？ メールや電話は毎日してるけど、もう１週間以上会えてないのに、陸は寂しくないのかな… コンビニでバイトしてるって言ってたけど、どこのコンビニだろ？ 陸がいる時間を見計らって行ってみようと思ったら、 「ダメ！ 来ないで」 とか言って教えてくれなかったけど… なんで？ ……―――はッ！ まさか、陸… あたしに飽きた、とか…？ まさかまさか、コンビニでカワイイ子見つけたとか？ まさかまさか、まさかだけど、その子と もう付き合っちゃってるとかっ！？ やだ―――――ッ！！ そんなことを１人で考え込んでいる時に、陸のクラスメイトのさわやかクンから電話がかかってきた。 「え？ パーティってなんの？ 陸も来るの？」 「来る来る！ ヒカルちゃんが来るって言えば」 「あたしが行けば…って？」 さわやかクンの言い方にちょっと引っかかるところがあった。 「イヤ、こっちの話！ とにかく来てよ。花火とかもやるからさ！もし、女の子１人でイヤだったら、この前の合コンのメンバー誘ってきてもいいし」 なにがあるんだろ？ でも、陸も来るなら、行こうかな。 久しぶりに会いたいし… 夜７時に学校で、と約束をして通話を切った。 さわやかクンから連絡が来たあと、前にやった合コンメンバーの泉さんやマリちゃんに電話をしたら、 「面白そ―――！ 陸くんやジュンくんにも会いたいし、行く行く！」 と言ってくれた。麻美は都合がつかなくて来れなかった。 駅で泉さんたちと待ち合わせをして一緒に学校に来ると、すでに商業科の子たちが来ていて、なにやら校庭に準備をしている。 「ジュンくーん！ 陸くーん！」 久しぶり～、と言って泉さんたちが手を振る。 「あー！ イズミさんたちも来てくれたの？ もうすぐ準備できるから、ちょっと待ってて？」 さわやかクンや他の子たち（さわやかクン以外は、よく名前も顔も覚えていない…）がワイワイと準備する横に、陸が腕を組んで立っていた。 あ… さわやかクンが言ってたとおり、ちゃんと陸も来てる。 なんか、会うの久しぶりで、…ちょっと照れちゃうな… あたしが照れながら陸に近づくと、 「―――なんで、こんなのに来てんの？」 と不機嫌そうな顔を隠しもしないであたしを見下ろした。 …え？ なんか、怒ってる？ 「え… だって、さわやかクンが、陸も来るからおいでよって…」 あたしがそう言うと、陸は舌打ちをしてさわやかクンの方を睨んだ。 ―――なに？ あたしが来ちゃ、まずかった？ あたしは久しぶりに会えて、嬉しかったって言うのに、陸は違ったの？ 「…やっぱり、あたしには、もう飽きちゃった？」 とあたしが俯くと、 「はっ？」 陸が振り返る。「…何の話？」 「だってそうでしょっ？ 久しぶりに会ったていうのに、来るなみたいなこと言うし…」 「……あのさぁ。これがなんのパーティか、知ってて来たわけ？」 ―――え？ 知らないけど… なに？ 「ええっ！？ 肝だめしパーティ？？」 「そ！」 さわやかクンがマグライトを顔の下から当てて、「この商業科校舎が建つ前は、ここって病院だったでしょ？ 色々噂とかあんだよね。で、面白いから、肝だめしでもやろうかって！」 陸は腕組みをしたまま、 「…くだらねー。 ただの噂だろ？ ―――いるわけねんだよ、幽霊なんて」 とそっぽを向いている。「…オレはやんねーから」 さわやかクンたちがニヤニヤ笑いながら、陸を見ている。 |
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 ？ ―――もしかして…「陸…、怖いの？」 「なっ！？ なな、何言ってんだよっ！？ ん、んなわけねーだろっ！」 「どもってるよ？」 とあたしが顔を覗き込むと、陸はちょっとだけ顔を赤くして、慌てて口を押さえた。 ホントに？ 陸が、オバケとか…？ 怖がってる… うそっ！？ カワイイ―――ッ！！ 堪えきれなくて顔を背けて笑ったら、陸に頬をつねられた。 「じゃ、始めよ？ 終わったらココで宴会＆花火だから！」 クジを引いて男女がペアになる。あたしがクジを引こうとしたら、 「結衣はオレと行くに決まってるだろっ！」 と陸に腕を引っ張られた。 ジャンケンで順番を決めたら、あたしたちが一番最後。 みんなが順番に出て行く。一組が戻ってきてから、次が出発っていう感じに。 「そう、あの焼却炉もヤバいんだって。中絶した胎児を焼却するのに使ってたとかいって… 相手の男に無理やり中絶させられた女の幽霊が出るとか何とか…」 「うそ―――っ！ ジュンくん、守ってねっ！！」 と言って、泉さんがさわやかクンの腕に自分のそれを絡める。ふたりはそのまま商業科校舎の方に向かって出発して行った。 「―――結衣… 怖くないの？」 順番を待っている間、陸はふてくされたような、ちょっと恥ずかしそうな顔をしていた。 そりゃ、あたしも怖いけど… でも自分より先に、もっと怖がっている人がいると、それほどでもなくなってくるっていうか… 「大丈夫だよ！ あたしがついてる！ 先輩について来なさい！」 あたしが胸をそらしてそう言うと、 「センパーイ！！」 と陸があたしの胸に飛び込んできた。 なんか、いつもはあたしの方が陸に頼ってばっかりだから（年上なのに…）、こういう風に頼られるのって、ちょっと嬉しいかも… 捨てられた子犬を拾った気分… |
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 ―――って、……ん？「―――ッ！？ ちょ、ちょっと、陸っ！？」 気付いたら、陸があたしの胸を触ってる！！ 「な、何してるのっ！？」 「イヤ～。気を落ち着けようと…？」 そんな理由っ！？ 「ホラ、次、陸たちの番だぞ～」 さわやかクンと泉さんが戻ってきた。 「―――余裕じゃないっ！ もう陸なんか、置いてっちゃうからねっ！？」 あたしはさわやかクンからマグライトを受け取ると、さっさと商業科校舎の方に向かって歩き出した。 「うわっ！ 結衣、ゴメンっ！ ちょっ、待って？」 陸が慌ててあたしの後を追いかけてきた。 まず最初に、商業科校舎裏にある焼却炉。 ここに置いてある、缶ジュースを一つ持ってくるんだったよね？ でも、どこにあるんだろ？ この焼却炉は、国立病院時代から使っていたもの。 今は、校内で出たゴミを焼却するのに使ってるけど、病院時代って、何を焼却してたんだろ… 結構な大きさあるよね？ 普通科の方にも焼却炉あるけど、もっと小さいもん。 なんか、中に人ひとりくらい入れそうな… そんなことを考えていたら、 「うわ―――――っ！」 「ひゃあっ」 急に陸が大きな声を上げたから、ビックリしてしまった。「な、なにっ！？」 「あ、あそこに、なんかいたっ！」 陸が指差す方を見てみても… 何もいない。 「―――何もいないよ？」 「マ、マジで？」 あたしの背後で陸が震える。 やっぱり…… カワイイ―――ッ！！ 結局、缶ジュースは見つからなかったから、そのまま商業科校舎内へ。 「…ま、ここは、普段使ってるとこだからな…。見慣れてるし…」 陸が気を取り直したように呟き、あたしの前に出る。 その背後に向かって、 「わっ☆」 と大声を出したら、 「うわっ！」 と、また陸が飛び上がる。 「……結～衣～？」 陸が振り返る。「ちょっと、ホントにやめてね？ もう、結衣のこと、置いてっちゃうよ？」 え？ 置いていかれて困るのは、陸の方でしょ？ あたしが笑いを噛み殺していたら、また顔を赤くして、 「―――さっさと、行こっ！」 と陸は足を早めた。 ―――あたしの手を取るのを忘れずに。 あんまり陸が怖がるから、ついつい意地悪したくなっちゃって、あたしはそのあとも何回か陸を驚かせていた。 陸は、ちょっと息を荒くして、 「もう、マジでやめて？ 今度やったら、オレにだって考えあるから」 「え？ なに？ あたしのこと置いて、一人で行っちゃう？」 あたしがいたずらっぽく顔を覗き込んだら、 「……コレ終わったら、絶対仕返ししてやる…」 た、楽し―――ッ♪ 校舎の４階に上がり、廊下の窓から校庭を見下ろしたら、先に終わっているみんなが見えた。 見えたとは言っても、そこにいるっていうのは分かるけど、誰が誰だか顔の判別はつかない状態なんだけど。 あ、あれ、さわやかクン…かな？ さわやかクンって、ちょっとオシャレだよね。いつもカッコいいアクセとかしてるし。 あたしたちはマグライトを持って歩いているから、外からだとその明かりであたしたちがどの辺にいるのか分かるみたいだった。 みんながこっちに向かって手を振っている。あたしも手を振り返した。 「―――あれ？」 今日って、何人いたっけ？ 女の子は、泉さんと、マリちゃんと、夏木さんとあたしの４人。 商業科の子たちも、陸を入れて４人だったような気がするんだけど… だとしたら、今、校庭にいるのって、６人だよね？ あたしは校庭にいる人数を数えた。 ―――なんか、７人、いるんですけど…？ 「ね、ねぇ、陸？ 今日、商業科の子たちって、何人来てた？」 あたしの肩に手をかけて、目を瞑っていた陸が、 「え？ なに？」 「商業科の子たち！ 今日何人来てた？」 「は？ …オレとジュンとアツシと、あとヒデ。４人だけど？」 やっぱり、４人だよねっ！？ 「ね、ねぇ陸っ！！ 校庭に、７人いるんだけど…」 「え？」 「１人、多いよ？」 「―――ん、んなわけ、ねーだろっ！」 「ホントだよっ！ いいから校庭見てみてよっ！」 「え？ いいよ、別に。６人に決まってるだろ！」 嫌がる陸を、無理矢理窓辺に押しやる。陸が薄目を開けるようにして窓の外を見る。 「―――・・・結衣～？」 「あれ？」 陸と一緒に校庭を見下ろしたら… ６人しかいない。 「だって、確かにさっきは… あれ？」 おっかしいな～ あたし、視力、両目とも1.5だから、見間違うことはないと思うんだけど… 首を捻りながら次のポイントに向かう。 「あ、ここにはちゃんと缶ジュース置いてあったよ」 それを持って、校庭に戻ろうと廊下を歩いていたら、すぐ横の教室から物音が聞こえた。 表示を見たら、２年B組。 陸のクラス、だよね？ 「ね、ねぇ？ 今、この教室からなんか、物音聞こえたよ？」 |
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 「また？ もうその手には乗らないんだけど？」「ホントだってば！ 何か聞こえたよ？ ちょっと、見てみてよ～！」 と陸の背中を押す。 「え、え～… マジかよ…」 腰が引けてる陸の背中を押すようにして、教室の戸を開ける。 中に人影があった！ 「キャ―――――ッ！！」 「うわ―――――ッ！！」 「ぎゃ―――――ッ！！」 あたしたちが驚いて教室を飛び出そうとしたら、その人影も驚いて悲鳴をあげた。 陸があたしからマグライトを奪って、その人影に明かりを当てる。 明かりの中に浮かび上がった人は… ―――え？ …この人、誰？ 「―――スネ男？」 陸が呟く。 スネ男…？ って、誰？ 「…なんで、テメーがこんなとこにいんだよっ！！ 驚かしやがってっ！！！」 陸が半ギレになって怒鳴る。 「忘れ物捜してたんだよ～！」 陸があまりの剣幕で怒っているから、その男の子は殴られるとでも思ったのか、頭を抱えながら言い訳をした。 その男の子・・・スネ男クンは、陸のクラスの学級委員で、なくなったボールペンを探しに来てたみたいだった。 「たかがボールペンごときで、テメーは…」 「たかがじゃないよっ！ クロスのボールペンなんだよ！？」 スネ男クンがムキになって反論する。 「もしかして、さっき、焼却炉の方にいなかったか？」 「あ… 行った。 掃除のときにでも捨てられたのかと思って…」 スネ男クンの手に、缶ジュースがある。・・・もしかして、それ、あたしたちが探してたやつ・・・？ 陸がスネ男クンの頭を叩く。 「でも、見つからなくて… 校庭の方に行ったら、ジュンキチたちがいて、校舎内で肝だめしやってるって言うから…」 あ、それで、さっき、７人だったわけ？ また陸がスネ男クンの頭を叩く。 「陸… そんなに叩いちゃダメだよ」 「校舎開いてないと思ったから、焼却炉とかばっかり探してたんだけど、開いてるんだったら教室も探そうと思って… そしたら、急に陸たちが入ってくるからビックリしたよ～」 って、こっちがビックリしたんですけど… またまた陸がスネ男クンの頭を叩く。 「ゴメンゴメン。なんか、驚かしちゃったみたいで。ジュンキチたちに聞いたんだけど… なに？陸ってオバケとか、怖いんだって？ ……うわっ」 陸がスネ男クンの襟首をつかみ上げる。 「…もっとぶっ飛ばされてぇ？」 スネ男クンは慌てて謝ると、転がるように教室を出て行った。 「でも、スネ男クンでよかったね。陸の教室にオバケが出たなんていったら、陸、２学期から学校来れないもんね？」 陸が大きな溜息をついて机に腰掛ける。あたしも近くの椅子を引いて座った。 陸は、さっきのポイントから持ってきた缶ジュースのタブを開けながら、 「…結衣が、こんなんに参加なんかすっからだろ」 オレは来たくなかったのに…とブツブツ言っている。 「でも、ケッコー楽しかったよね？」 陸の教室も見れたし。 ここが陸の教室か… やっぱり、新設したばっかりなだけあって、キレイだな～ あ、クーラー付いてる！ ズルイッ！ 普通科にはないのに… あたしが教室内を見回していると、 「全然楽しくねーよっ！ 大体、オレ今日、バイト入ってたのに！」 「…え？」 「ドタキャンすると、あの店長うるさいんだよ。何かあるとすぐ、クビクビ言うし」 陸はふてくされたように頬杖をついている。 あ・・・ 今日もバイトだったんだ。 ・・・っていうか・・・ ―――そんなに、バイトの方が大事だった？ そりゃ、お仕事なんだから、いきなり休むっていうのは良くないことだけど… それでもあたしは、久しぶりに陸に会えて嬉しかったのに… 陸は違うんだ？ 今日、会ってからずっと、怒ってるか、ふて腐れてるか、文句言ってるかしかしてない… 「―――じゃ、バイト行けばよかったじゃん！」 あたしもそっぽを向いて、「誰も来てくれなんて、頼んでないっ！」 「…結衣」 「何よっ！ 陸、さっきから怒ってばっかりで… あたしは久しぶりに会えて嬉しかったって言うのに…… 陸は違うんだっ！？」 「ッ！？ 結衣！ ゴメンッ！！」 陸が慌ててあたしの前にしゃがみ込む。 「夏休みに入ってから、あたしは夏期講習で陸はバイトで全然会えないし… 夏祭りだって、一緒に行きたかったのに… そのために浴衣、買ったのに…」 思わず涙が浮かんでくる。 こんなことで泣いてるなんて思われたくない！ 慌てて顔を背けたら、陸の両手があたしの頬を包み込んだ。そのまま、顔を陸の方に向かされる。 「―――ゴメンね？」 廊下の外に所々点いている誘導灯の明かりが、陸のアーモンド形の瞳に反射している。 吸い込まれそうな瞳が、あたしの瞳を捕らえて放さない。 |
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 ―――ズルイ… その目。そんな目で見つめられたら、なんだって許しちゃうよ。 陸が、あたしの頬に手をあてたまま、ちょっとだけ顔を傾けて唇を近づけてくる。 あたし、ホントは怒ってるんだからねっ！？ 「……ンッ…」 陸の形のいい唇が、あたしの唇を優しく食む。何度も角度を変えて、啄ばむようにキスをしてくる。 「…ンッ」 はじめ優しかったキスが、だんだん激しくなってきて…… 息苦しいっ！！ 「ちょっ、陸… う、ンッ！」 陸の胸を押す。「ンン…く、苦し…よ」 強く陸を押しのけたら、やっと唇を離してくれた。 息が上がってしまった。 当然だけど、窓は全部閉まってて換気がされてないから、教室の中は昼間の熱気がまだ残っていて、ものすごく暑い！ 陸の首筋に汗が光っているのが分かる。 「な、なんか、ノド乾いちゃったね。すっごく暑いし…」 陸が、さっきタブを開けた缶ジュースに口をつける。 あたしも飲みたい、と思って陸に手を差し出したら、陸はその缶を机の上に戻した。 …あれ？ ―――ま、いっか。 自分で缶ジュースを取ろうとしたら、その腕をつかまれた。 「え？ なに…… ンンッ」 また陸にキスされた…… ―――って、…えっ！？ 陸の口から何か注ぎこまれる。 な、なになに…っ！？ もしかして… ジュース？ 「―――う…んっ」 あたしの頭を抱え込むようにしたまま、陸が唇を離す。 「―――飲ませてあげる・・・」 と言って、再びジュースを口に含む。 え、ええっ！？ やっとジュースを飲み込めたと思ったら、またすぐに陸が口付けてくる。 「やっ…… ンッ」 何度も注ぎ込まれる、生暖かい、甘い液体。 「り、陸… もう、いいっ！ やめ、て…」 「…なくなっちゃった…」 と言って、今度は首筋に唇を這わせてきた。 陸の手が、あたしの腰をなでる。 な、なにする気？ …まさか、―――エ、エッチしようとしてるっ！？ 「ま、待って！ ここ、教室だよっ！！」 「いいよ。オレのクラスだし」 と言いながら、机にあたしを押し付ける。「それにココ、オレの席だし…」 ダ、ダメ―――ッ！！ 「こ、こんなところで、ダメっ」 「なんで？」 なんでって…… 「そ、そうだっ！ オバケとか？ 出るかもよ～？」 こう言えば、怖がってやめてくれるよねっ！？ 「―――アレ、スネ男だったじゃん」 「ち、違うよっ！ さっきの、さわやかクンの話、聞いてなかったの？」 「……どんな話？ オレ、覚えてな～い」 えーと、えーと… どんな話だっけ？ あたしが必死にさわやかクンの話を思い出そうとすると、 「…怖い話しないでね？」 陸があたしのシャツの裾から手を差し入れて、「怖い話なんかされたら、オレ、激しいコトしちゃいそう…」 やだ―――――っ！！ ど、どうする？ どうするっ！？ 「や… ダ、ダメッ… あんッ！」 ブラのホックを外され、その隙間から陸の手が滑り込んできて、あたしの胸を包む。 や、やだ……っ 「…ンッ あ、はぁ…」 「ダメじゃないじゃん」 陸があたしの耳に唇を寄せて、「すごく、反応してるんだけど？」 と息を吹きかけてくる。 「…ッ あんッ！」 「……こっちの反応も、確かめてみよ♪」 とスカートの裾に手をかける陸。 「やんっ！ …もうっ だから、ダメだってばっ！！」 「いいでしょ？ ちょっとだけ」 陸が「ちょっと」で終わるワケないでしょっ！！ 「ダメ―――ッ！！」 あたしが必死に抵抗していたら、 「―――あ…」 と呟いて、陸が動きを止める。「…今日、持ってくるの忘れちゃった」 ？ なにを？ 視線で問い返したら、 「ゴム」 |
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 と言って、親指と人差し指で輪を作った。「じゃ、ダメだねっ！」 あたしが安堵の溜息をつきながらそう言うと、 「ダメ…、だよね？」 と陸が上目遣いにあたしを見つめる。 …え？ ……どういう意味？ 「結衣…… 前の生理始まったの、いつ？」 「―――なっ！？」 なな、なにっ！？ セイリ…って、―――あの、生理のコトっ！？ そんなコト聞いて、どうするのっ！？ ―――っていうか、教えるの、恥ずかしい… でも、陸が、 「ねぇ、いつ？」 ってもう一度聞くから、あたしはちょっと考えて、 「さ、３週間くらい、前…」 と陸から視線をそらした。 それを聞いた陸が、 「―――じゃ、大丈夫だ」 と微笑んで、再びあたしのスカートをたくし上げようとする。 「なっ！ なな、なにが大丈夫なのっ！？ 全然大丈夫じゃないよっ！ ダメッ！！」 あたしは陸の手を押さえた。 「大丈夫だよ。ちょっとだけだから… 中出しはしないし……」 だ、ダメダメダメダメ―――――ッ！！ 陸が下着に手をかけたとき、 「止めなよっ！？」 と廊下から男の子の声が聞こえた。 驚いて振り向くあたしと陸。 「出来ちゃったらどうするのっ！ 望まない妊娠は、彼女の心も身体も傷つけるよ！？」 出入り口の戸の向こう側に、人の影がある。 「スネ男かよ…」 と陸が呟く。「覗いてんじゃねーよっ！」 「いくら中出ししなくたって、妊娠の可能性がなくなるわけじゃないんだよ？ 絶対ダメだよ」 陸は、ちょっとだけあたしを見つめると、 「―――わーかったよ！」 とあたしのスカートを直してくれた。ホッと胸をなでおろす。 「……前に、僕も同じコトしちゃって…、彼女妊娠させちゃったことがあるんだよね」 「ぇえっ！？ って、お前、彼女いたわけっ！？」 陸が驚いた声を上げる。スネ男クンは陸の言葉が聞こえていないかのように続ける。 「当時の僕に生活力なんかなかったから、当然お腹の子は… 堕ろしてもらった…」 今だってないだろ、と陸が突っ込む。 「堕胎後も彼女は、変わらず明るく振舞ってたから、僕は全然気が付かなかったんだ。彼女が自ら死を選びたくなるほど傷ついていたなんて…」 さすがに陸も黙り込む。 さっきスネ男クンに会った時は、当たり前だけど、そんなこと全然分からなかった。 って言うか、今聞いても、さっきのスネ男クンとイメージが重ならなくて… でも、辛い体験だったって言うのは、分かる。 あたしと陸は、黙って話を聞いていた。 「…だから、絶対、避妊だけはしてほしい」 黙って話を聞いていた陸があたしを見つめ、ゴメンね、と言ってキスしてくれる。 「それに、ホラ。今は物凄く薄くて丈夫なのが出来たって言うじゃない。まるで着けてないみたいな…」 「…ケッコー言うね。お前も」 陸は出入り口の方に歩いていって、「ま、でも、サンキューな。危うく結衣のこと傷つけてたかも知んねー…」 と出入り口の戸を開けた。 「アレ？ スネ男？」 陸が出入り口の戸に手をかけたまま、廊下を見渡している。 |
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 「どうしたの？」陸に近づく。「あれ？ スネ男クンは？」 今まで廊下にいたはずのスネ男クンの姿がなかった。 「おかしいね？ たった今までいたのに…」 「あいつ、ケッコー語ってたからな。こっぱずかしくなって逃げたのかも」 陸があたしの手を取る。「それにしても、あいつ彼女いたことあったんだ…？ 絶対ドーテーだと思ってたのに…」 「陸…？ かなり、失礼なこと、言ってるよ？」 「ま、人は見かけによらないってことかな」 と陸は呟いて、「ジュンたちんとこ、戻ろっか？」 「うん」 あたしも陸の手を握り返して、「…ねぇ？ さわやかクンの名前って、ジュンキチっていうの？」 陸はビックリした顔をして、 「なんで知ってんの！？」 「さっきスネ男クンが言ってたよ？」 「…それ、ジュンの前では言うなよ？ あいつ、キチって付けられると、スッゲー切れっから。スネ男はバカだから、よく忘れてそう呼んで、ジュンにボコられてんだよな…」 校庭に戻ると、すでにみんな飲んだり食べたりして、かなり盛り上がっていた。 そんな中、さわやかクンが、スネ男クンの首を絞めている。 「テッメーはいきなり乱入してきたくせに、余計なこと言いやがって―――ッ！」 「ゴメンゴメンッ！もう呼ばないからッ！ ちょっ、ホントに放してっ！ ジュンキチってば！ やめ…っ」 「―――このやろおぉっ！！」 さらにさわやかクンが、スネ男クンにプロレスの技のようなものをかける。 泉さんたちが手を叩いて笑い、男の子たちは、ヤレヤレ～！とあおっていた。 「村上さんたち、遅かったね～？ ナニやってたの～？」 泉さんとマリちゃんが、あたしの脇腹をつついてきた。そして、ハイ、と飲み物を渡してくれる。 「べ、べべ、別に、何もしてないよっ？」 あたしが焦りながらそう答えると、泉さんとマリちゃんは笑いながら、 「もうっ、村上さんって、分っかりやす～いっ！ そんでもって、陸くんイヤラシ～っ！！」 なんか… もしかして、酔ってる？ 渡された缶を眺める。 オレンジの絵がかいてあるけど…オレンジジュースじゃないのかな？ なんか、スクリュードライバーって書いてあるけど… 「結衣は飲んじゃダメ！」 陸があたしの手から缶を取り上げ、代わりにコーラの缶を渡してくれる。「飲むとすぐ寝るから」 「え？」 「ずっと前にやった合コンで、結衣メチャクチャ飲んで、ジュンに説教しながら寝ちゃったろ？忘れたの？」 そ、そーだっけ？ 「陸ぅ～！ 助けてよ～」 スネ男クンが陸の背中に抱きついてきた。「今日のジュンキチ、本気だよ。マジで殺されそう…」 「お前がバカだからだろ？ 何回も呼びやがって…」 「スネ男――――ッ！！」 さわやかクンが追いかけてきた。 「うわっ！ また来たっ！ 陸っ！！」 スネ男クンが陸の背中に張り付く。陸が二人の間に入って、 「もう、許してやれよ」 「イヤ、やる！ よりによって、女の前で…っ！」 怒るさわやかクンの耳元に、陸が何か囁きかけた。 「…マジで？」 さわやかクンが陸を見返す。 「おう。今度、店来いよ」 ん？ 何言ったんだろ？ さわやかクンは、陸の後ろに隠れているスネ男クンの頭を小突くと、 「今度呼んだら、マジで江戸川に沈めるからな？」 と言って、みんなの方に戻って行った。 「サンキュー、陸ぅ」 「学習しろよ、ホントに… 次は知らねーからな。―――まぁ、今回は、さっきのお礼っつーか…」 「？ お礼って？」 スネ男クンが怪訝そうな顔をする。「僕、なんかしたっけ？」 「さっき２Bの教室で、語ってくれたろ？ お前」 「え？ クロスのボールペンの事？」 「ちげーよっ！ …ホラ、その…前の彼女の話だよ」 「彼女？ って、僕の？？」 スネ男クンがさらに眉を寄せる。「なんの話？ …自慢じゃないけど、僕、年齢イコール彼女いない歴だけど…？」 今度は陸とあたしが眉を寄せた。 ―――さっきのって、スネ男クンじゃなかったの？ じゃ、誰？ 「うっそぉ―――っ！？」 さわやかクンを囲んで話を聞いていた女の子たちから声が上がった。 「イヤ、マジだって！ だから、夜の校舎内ではヤッちゃダメなの！」 「え？ なになに？」 あたしたちも話に加わる。 「ホラ、肝だめし始まる前のジュンくんの話。あれ続きがあったみたいなんだけど～」 あ、そう言えば、さわやかクン、なんか怖い話してたよね？ 「死んだ彼女の後を追って、結局男も自殺しちゃったんだけど。よっぽど懲りたんじゃね？ まだその男の霊がこの辺彷徨ってて、生でヤローとするカップル見つけては、コンドーム配って歩いてるって…」 「チョー親切な幽霊じゃん！」 泉さんたちがお腹を抱えて笑っている。 え…… まさか、さっきの… スネ男クンだと思ってた人影って… 「わっ！？ 陸？？ 大丈夫っ？？」 陸が地面にしゃがみ込んだ… 「大丈夫？」 みんなより一足先に学校を出たあたしたちは、二人で駅に向かって歩いていた。 「うん… ―――ってか、あれ、ホンモノ？ マジで？」 「さぁ… どうだろ？」 さわやかクンが言っていたものは、配ってなかったけど。 でも… 「―――なんていうか… 全然怖くなかったよね？」 陸は黙ったまま、前を向いている。 「ホンモノだったのかどうなのか分かんないけど… あの話はウソじゃないって気がする…」 驚かそうとしてした話じゃなかったもん。 「……オレ、もうゼッテー、生ではやんない！」 陸が呟く。あたしはちょっと笑いながら、 「やっぱり、怖かった？」 と陸の顔を覗き込んだ。 「違うよ。そうじゃなくて…」 陸があたしを見つめる。「…結衣のこと、傷つけたくないから……。さっきは、よく考えもしないであんなこと言っちゃって、ゴメンね？」 「陸…」 「もうちょっとオレが大人になって、そんで、子供が出来てもいいカンケーになったら… そんときは、生でしよ？」 な、なんか… それって… ―――将来の約束みたいじゃない？ 照れているあたしに、陸が唇を近づけてきた。あたしも、そっとまぶたを閉じる。 唇が触れる直前、陸のポケットのケータイが鳴った。 「……誰だよ…」 陸が舌打ちしながらケータイを取り出す。「…ヤベ、…店長だ」 って、陸がバイトしてるコンビニの？ 陸は顔をしかめながら、何やら店長の話を聞いている。 「―――はい。分かりました。…じゃ、今から行きますんで…」 通話が終わって、溜息をつきながらポケットにケータイをしまう陸。「ゴメン。送って行けなくなっちゃった」 「これからバイト？」 「うん。やっぱ、来いって」 ……仕方ないよね、お仕事なんだし… それに、本当は今日だってバイト入ってたのに、あたしが来るって聞いて無理矢理休んだんだもんね… ここであたしが沈んでたら、陸、バイト行きづらくなっちゃうよ… 「そ、そっか。大変だね！ でも、あんまり無理しちゃダメだよ？ 夏バテとか心配だし…」 「う～ん… でも、もうちょっと稼ぎたいんだよね」 「…そ…なんだ…」 「うん。今は、夕方から深夜までだけど、これからは昼くらいからシフト入れよーかと思って…」 ええっ！？ それって、今以上に、会えなくなるってコトじゃないのっ！？ 陸はそれでも平気なのっ！？ 「―――じゃ、ますます、会えなくなるね」 「…結衣？」 「夏祭りもダメだったけど、きっと今度の花火大会もダメだよねっ！？」 「え？ ちょっと待って？ 花火は…」 「別に、いいけどっ！ 麻美と行くからっ！ 陸は気にしないで、バイトしてればいーよっ！！」 …そうだよ。 最初から約束なんかしてなければ、あとでダメだったときショック受けないで済むもん。 「結衣っ！？ ちょっと待って？ 花火は行くつもりでいるよ？ オレ」 「いいよっ！ この前みたいになったら、イヤだし！」 あたしはそっぽを向いて、「どうせ、会えなくて寂しいなんて思ってるの、あたしだけなんだよね！ 陸は全然平気なんだよねっ！」 陸が目を見開いてあたしを見ている。 ―――きっと、困らせてる。 これが、逆の立場だったら… 例えばあたしの夏期講習のコトとかで、陸に、 「なんだよっ！ ベンキョーとオレとどっちが大事だよっ！？」 なんて言われてるのと、同じだよね… ―――もう… やだ… なんでこんなこと言っちゃってるんだろ… あたしが俯いていたら、 「結衣？ 夏期講習って、土日は休みでしょ？」 と陸が顔を覗き込んできた。 …え？ なに？ なんで急に、夏期講習の話になるの？ 「…ホントは、ちゃんとバイト料が出てから言うつもりだったんだけど…」 と陸が頭を掻いている。 「…なに？」 「夏休み中、結衣のベンキョーがない日に… どっか行かね？ 泊まりで…」 「え？」 「二人で遠出したことないじゃん？ オレ、結衣とどっか遊びに行きたい。海とか」 え？ ええ？ |
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 ―――じゃ、もしかして…「そのために、バイトしてくれてたの？」 そーだったの？ 「あ～、まぁ…」 陸は、ちょっと照れたようにして視線をそらした。 ―――陸っ！！ 嬉しくなって陸の胸に抱きついた。 陸があたしをぎゅっと抱きしめてきて、 「…花火、一緒に行こ？」 「うん」 「浴衣、着てきてくれる？」 「うん」 「花火のあと…、―――オレんち、来てくれる？」 「うん」 ……って、―――ん？ 「浴衣姿の結衣と…、ね？」 …ね？ じゃ、な―――いっ！！ なんでそう、エッチなのっ！？ 「もうっ！」 陸を置いて駅に向かって歩き出す。 「あ、あ、結衣ちゃんっ！？ 怒っちゃった？」 慌てて陸が追いかけてきた。 陸と･･･ 海･･････ ･･･ちょっと･･･ いや、かなり楽しみかも･･･ ―――そうだ！ 明日の夏期講習が終わったら、水着買いに行こ。 陸、どんな水着が好みかな･･････ |
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