チェリッシュxxx 第4章

G 7月7日、晴れ。


「終わった―――ッ!!」
テスト最終日。3限目の古文が終わると、そこここで溜息とも嘆きともつかないざわめきが上がった。
あたしは昨日・・・日付は変わって今日になっていたけど・・・とてもテスト勉強するどころじゃなくて、帰るなりベッドに倒れこんでしまった。
どんな結果が返ってくるか・・・ 怖いんですけど・・・
でも、古文はあたしの好きな伊勢物語だったから、ちょっとは期待出来るかも・・・
「ねぇ、村上さん。良かったら今日、打ち上げ行かない? テストの」
帰り支度をしていたらクラスメイトの泉さんが声をかけてきた。
「これから?」
「うん。みんなでお好み焼き屋さん行って、それからボーリング!」
「みんなって・・・結構行くの?」
「うーん・・・ 半分くらいかな?」
そんなにっ!?
「村上さん、行かないの?」
五十嵐くんが声をかけてきた。「・・・どうせ謹慎中で会えないんだから、いーじゃない?」
「何? 謹慎中って?」
泉さんが不思議そうな顔をする。
「なんでもないっ。 じゃ、行くよ!」
「そう? じゃ、支度が出来たら駅前のお好み亭に集合ね!?」
泉さんはまた別なクラスメイトのところへ移動して行った。
「五十嵐くん、行くの?」
「うん」
そんな会話をしていたら、麻美がやってきた。
「結衣! 一緒に帰らない? パーッとお好み焼でも食べて帰ろうよ!」
すごい偶然なんですけど?
「じゃ、麻美も一緒に行こうよ! いいよね? 五十嵐くん」
「いいんじゃない?」
「え? どこに?」
A組のメンバーと麻美も一緒に駅前のお好み焼き屋さんへ。
「そう言えば、この前のガラの悪い商業科の連中だけど・・・ その後大丈夫なの?」
お好み焼を焼きながら、麻美が心配そうに言った。
「うん。解決したって言うか・・・」
あたしがなんて説明していいのか困っていると、
「あいつが病院送りにしたから、もう大丈夫だよ」
五十嵐くんがなんでもない事のように言う。「命が惜しかったら、もう二度と村上さんの前に現れないんじゃない?」
「なに・・・? なんかあったの?」
あたしたちは3人で端のテーブルに着いていた。
「まー・・・ 色々と?」
何から説明していいのか分からなくて曖昧に答えていたら、泉さんがあたしたちのテーブルにやってきた。
「はい。これに名前書いて」
と手の平サイズの紙を3枚置いて行く。
「なに、これ?」
「次のボーリングのチーム分けに使うの。コンピュータにも打ち込むから、その名前。 あ、名字以外でね?」
「名字以外? なんで?」
五十嵐くんが眉を潜める。
「その方が盛り上がるから! いいじゃん、なんでも〜! ったく、いちいちうるさいなぁ、五十嵐は!」
いいからさっさと書きなさいよ、と言いながら、泉さんは次のテーブルに移動して行く。
「麻美、何にする?」
「ん〜・・・」
と麻美が考え込んでいると、五十嵐くんが、
「渡辺って名字の人って、大抵 ナベちゃんって呼ばれるよね?」
「じゃ、ナベちゃんにする?」
「絶対イヤッ! 中学のときそう呼ばれてて、すっごくイヤだったのよね。ってか、五十嵐こそ何にするのよ? じゃ、あんたはイガちゃん?」
「・・・なんか、江頭2:50みたいで、イヤだな・・・」
五十嵐くんはちょっと眉を寄せて、「僕は下の名前、そのままでいいや」
「え? 五十嵐くん、五十嵐ナニっていうの?」
「・・・隼人」
「へ〜・・・五十嵐隼人・・・ うん、ぽいっ! 五十嵐くんっぽいよ!」
「そお?」
「うん! ねぇ?麻美!」
「・・・そうね」
途中、五十嵐くんが洗面所に立ったとき、
「ちょっと! 結衣っ!! 余計なこと言わないでよねっ!?」
「え? 余計なことって?」
麻美は顔を赤くしながら、
「ホラ・・・ さっきの、名前のこととか・・・いちいちあたしに五十嵐の話振らなくていいからっ!」
「なんで〜? ・・・いたっ」
あたしがいたずらっぽく麻美を見返したら、頭を叩かれた。
「ホントに止めてね? そういうことっ! ―――言ったでしょ? どうこうなりたい訳じゃないって・・・ それに、あいつ、好きな子いるんだから・・・」
・・・そーだった。
このまえ、その「誰か」が自分なんじゃないかって、恥ずかしい勘違いをしちゃったんだけど・・・
って、あれは完全に、あのシチュエーションを作った五十嵐くんのせいだけどっ!
「麻美・・・ それが誰だか知ってるの?」
「―――・・・ 大体は・・・」
「いい感じなの? その・・・五十嵐くんとその子」
「ううん・・・ あんまり・・・」
「じゃ、チャンスあるじゃん!」
あたしがそう言うと、麻美はちょっとだけ困った顔をして首をかしげた。
・・・なんか、複雑なのかな? 麻美も・・・
あたしはそんなに恋愛経験ないからな〜・・・ 余計なアドバイスとかしないほうがいいのかも・・・
「え、と・・・ そだっ! 昨日はありがとねっ! 助かった!」
あたしは慌てて話題を変えた。
昨日は、テストが終わってからイロイロあって、まっすぐに帰らずに陸の家に行っていた。
そのとき・・・ まぁ、なんていうか、陸と・・・
・・・でっ! それを誤魔化すために、帰りに麻美の家に行ったことにしてもらっていた。
「いいけど・・・ テスト真っ最中だっていうのに、ナニやってんのよ、あんたたちは・・・」
麻美はちょっとだけ赤い顔をしてあたしを呆れたように睨んだ。
「だって・・・」
今日が誕生日だったんだけど、謹慎中で会えないから・・・
「子供っぽい顔して、ケッコーやることやってるわよね! ・・・そっか・・・商業科ってもしかしてロリ好み?」
「麻美っ!!」
変なこと言わないでっ!
「さっきのお返しよ〜?」
「何がお返しなの?」
五十嵐くんが戻ってきた。
「べ、別にっ! こっちの話! ね、麻美?」
「そ、女同士の話」
お好み焼き屋さんを出てボーリング場に向かおうとしたら、また雨が降ってきた。
朝は曇りだったから、カサを持ってこなかった子もいて、テキトーに合い傘をしたりしながらボーリング場へ向かう。
やっぱり、雨だよね・・・
なんで七夕と梅雨って同じ時期なんだろ? これじゃ織姫も彦星もデート出来ないじゃん。
って、空の上は、天気カンケーないのかな?
すごい偶然なんだけど、ボーリングでもあたしと麻美と五十嵐くんは同じチームだった。
「多分、あたしだけB組だから、気ぃ使って結衣と同じチームにしたんじゃない?」
そっか。
でも、五十嵐くんと同じチームなのは、ラッキーだったよね? 麻美!
「じゃ、最初〜 隼人・・・って誰〜?」
五十嵐くんが投げる。―――ストライク!
「よーっし! こりゃ優勝いただきだなっ!」
同じチームの男の子がこぶしを振り上げる。
チーム対抗で、優勝チームには賞金が出る! って言っても、1人100円ずつ徴収してるだけだから、2000円程度しかもらえないんだけど・・・ しかも1チーム4人もいるし。
でも、賞金が掛かってる、っていうこと自体にみんな燃えるから、誰も金額なんか気にしてないんだけど。
「ハイ次〜! ミッフィーちゃんって、誰〜?」
「あ、あたし」
ボールは左側に流れて・・・ 3本だけ倒れた。
「おいおいおい!」
2投目は右に流れて、今度は1本だけ倒れた。
「おいっ! 村上―――ッ!」
すごすごと椅子に戻る。
大体ボールが重過ぎるんだよ・・・ 8ポンドしか見つからなかったけど・・・
あの6ポンドのボール使っちゃダメかな? でも、子供用って書いてあるし・・・
「じゃ、次、麻美ちゃ〜ん」
麻美も五十嵐くんと一緒で、ファーストネームをそのまま使っていた。
ボールはまっすぐに転がって行き・・・ 8本!
「なんで〜? 1番ピンに当たってたよね?」
麻美が悔しそうに振り向いた。
「でも、8本でしょ? あたしの倍 倒れてるんだから、いいよ〜」
「あれは完全なスプリットだから、スペアは無理ね・・・」
と麻美が、投げたボールが戻ってくるのを待っていると、
「イヤ、10番ピンか7番ピンの外側に薄く当てれば、行けるよ」
と五十嵐くんが麻美にアドバイスする。
「それ、プロのワザでしょ? 狙ったって絶対ガターになるに決まってるわよ」
「そうかな・・・」
五十嵐くんは一瞬考えた後、「じゃ、僕が投げてあげようか?」
麻美は言葉に詰まったようにして、目を見開いている。
「そーしてもらいなよ〜!」
「結衣っ!!」
麻美があたしに怒鳴っている間に、五十嵐くんがボールを持ってアプローチに立つ。麻美を振り返って、
「投げていい?」
麻美は一瞬だけ迷った後、黙って肯いた。
五十嵐くんがアドレスから綺麗なフォームでボールを投げる。最初まっすぐに転がっていたボールが、半分を越えたところあたりから、左にそれる。
あ、落ちる・・・
と思ったら、落ちる直前7番ピンをはじいて、10番ピンに当たった。
「ひゅ―――っ! スペアー!!」
スコアモニタの前に座っていた男の子と五十嵐くんがゲンコツを合わせている。
そのまま椅子の方に戻ってきて、両の手の平を麻美に向けた。
「な、何?」
「スペア取ったんだけど・・・?」
五十嵐くんが眉を寄せている。
「ホラ〜! アレだよ! ストライクやスペアの後にやる、イエ〜イ!・・・ってヤツ!」
麻美があんまりボヤッとしてるから、あたしが横から口を出した。
「あ、ああ・・・ アレね」
やっと麻美も気付いたみたいで、五十嵐くんと手を合わせる。
あたしは麻美に気付かれないように、顔を背けて笑った。
あ、麻美・・・ カワイ―――ッ!!
「・・・なぁ。誰かのケータイ、鳴ってね?」
「え?」
そこにいたみんなが、それぞれポケットやカバンを探る。
「あ、あたしだった!」
あたしはカバンからケータイを取り出した。表示を見たら、家。
「もしもし?」
『―――・・・・ッ!?』
「もしもーし? 聞こえないんだけど?」
ボーリング場の音がうるさくて、全く聞こえなかった。
「ちょっと、外行ってくる」
あたしは麻美にそう言うと、ケータイ片手にボーリング場の外に出た。
『結衣? 何やってるの? 連絡も寄こさないで・・・』
お母さんだった。
「え? ボーリング。麻美たちと・・・」
『また麻美ちゃんと? ならいいけど・・・ 連絡ぐらい寄こしなさいよ。夕飯どうするの?』
「え? もうそんな時間?」
『8時になるわよ?』
あたしは、とりあえず晩ご飯はいらない、と答えて通話を切った。
こんな時間になってたんだ・・・
そう言えば、すっかり暗くなってる。ボーリング場に窓がないから、全然気が付かなかった・・・
あたしはまわりを見渡してハッとした。
雨がやんでる。
空を見上げたら、・・・星が出ていた!
「麻美っ! あたし、帰るっ!!」
あたしは慌ててボーリング場内に戻ると、荷物をまとめてボールを片付け始めた。
「な、何よ? どうしたの? 急に・・・」
麻美が驚いて振り返る。「次、結衣の番だよ?」
「ほ、星が出てるのっ!」
「星ィ?」
「約束なのっ! 今日、7月7日に晴れたら、星見に行こうって!」
早くしないと、また雨が降ってきちゃうかもしれないっ!
麻美がちょっと困った顔をして、
「そんな・・・ A組ばっかりで、あたし1人なんて・・・」
「五十嵐くんっ!」
あたしは出口に向かいながら、「麻美のコト、よろしくねっ!」
「え?」
「あと、帰り!遅くなったら危ないから、送ってってあげて?」
「結衣っ!!」
麻美が慌てる。
「いいけど・・・?」
五十嵐くんはちょっと戸惑いながら返事をした。「それはいいんだけど・・・ 村上さん? 靴・・・履きかえて行きなね?」
足元を見たら、ボーリング用のシューズのままだった。
慌てて靴を履きかえ、それをカウンターに返却をすると、今度こそ出口に向かって走り出した。

朝日ヶ丘駅に着いてから、陸のケータイに電話をする。
しばらく呼び出し音が鳴った後、ようやく繋がった。
『はいはーい? どちら様〜?』
女の人の声だった。
「あ、あの・・・」
あたしが戸惑っていると、
『あ! もしかして・・・結衣ちゃん?』
「は、はあ」
『あたし陸の母親! 昨日はありがとね〜』
「いえ・・・ あの、り、陸・・・くんは・・・」
『たった今、屋上行っちゃったのよ。なんか、窓の外見て、雨がどうとか星がどうとか言って・・・』
「あ、分かりました。ありがとうございました」
とりあえず陸のウチの方へ向かう。途中何度か道を戻ったりしながら、なんとか陸んちのマンションに着いた。
エントランスの前から屋上を見上げたら、陸が柵にもたれているのが見えた。
「陸ッ!」
あたしが大声で陸を呼ぶと、陸は驚いて下を向いた。あたしが手を振ると、
「結衣ッ!?」
「今、そこ上がってくね?」
あたしはエレベーターで最上階まで行き、そこから階段を使って、屋上へと出た。
「陸っ!」
陸がビックリした顔で待っていた。
「晴れたよっ!」
「・・・なんで?」
「え・・・ それは・・・ あたし、天気予報士じゃないから分かんないけど・・・」
驚いた顔をしていた陸が、急に吹き出す。
「誰も、そんなコト聞かないよっ!」
「え?」
「どうして、ここに来たの?って、聞いたの!」
陸はお腹を抱えて笑っている。
「え・・・ 晴れたから・・・ 星、見る約束だったよね?」
陸はスッと笑うのを止めると、覚えてたんだ、と言って嬉しそうに微笑んだ。

「えーとね、・・・あのボヤ〜っとしたところの上にあるのがベガって言って織姫で、その右下の方・・・ボヤ〜っとしたところの下にあるのがアルタイルって言って彦星」
陸が、目線を合わせるために頬を寄せて、夜空を指差しながらあたしに説明してくれる。
「で、そのボヤ〜っとしたのが、天の川!」
「・・・すごい! 良く知ってるね?」
あたしが感心した声を上げると、
「オレ七夕生まれだから、小さい頃から親に聞かされててさ。星座の本とかなんだよ、誕プレが! ありえねーだろ?」
「そっかな・・・ 素敵だと思うけど・・・ ―――それより、ここ! すごく良く星が見えるね?」
「他に高い建物ないからな。余計な明かりに邪魔されないから、よく見えんのかも」
「・・・晴れて良かったね?」
「ん」
それから、しばらく二人で肩を並べて夜空を見上げていた。
あたしは、チラリと陸の横顔を見上げた。
・・・・・キス、したいな・・・
昨日散々したけど、肝心の今日、誕生日にはまだ何にもしてない・・・
でも、あたしから言うの、恥ずかしいな・・・
どうしよう・・・
あたしが陸の横顔を見つめながらそんな事を考えていたら、クックッと陸が笑い出した。
「―――もうダメ」
「え?」
「今、・・・あ〜、キスしたいな〜♪・・・って思ってたろ?」
「え・・・ええっ!?」
エ、エスパー・・・?
「お、思ってないよっ!!」
「だって、ずーっとオレの唇、見てたじゃん?」
・・・知ってて知らんぷりしてたのっ!?
「・・・意地悪っ!」
陸は笑いながら、
「まぁまぁ・・・怒らないで? いつ結衣から誘ってくれんのかな〜って思ってただけ」
「もう誘わないよっ・・・ う、ンッ」
陸が笑いながら唇を合わせてきた。
微かにする、タバコの味。
「ん・・・」
啄ばむようなキスを何回か繰り返したあと、差し入れられる陸の舌。
「・・・ぅ、ん・・・ ふッ」
陸が何度もあたしの髪を梳く。そしてその手が肩へ移動したかと思うと、いつの間にか胸の方へ・・・
「・・・ッ!? り、陸っ!?」
「・・・3回戦、in the スターライト」
こ、こんなところで? 冗談でしょっ??
キスはしたかったけど、そんなとこまで望んでないよっ!!
あたしが慌てて陸から離れようとすると、
「昨日は、あんなに積極的だったのに・・・ 今日が誕生日本番だよ?」
「だ、だからっ! それは、昨日・・・っ!」
それに・・・と言って、陸があたしの耳元に唇を寄せる。
「最初はオレが1人でイッちゃって、次は結衣が先にイッちゃったから・・・ 今度は一緒に・・・ね!?」
―――ッ!! そういうこと言わないでッ!! は、恥ずかしい・・・
「いいじゃん」
と言いながら、あたしのシャツをスカートから引っ張り出す。
「よくないっ!」
あたしは、慌ててそれを阻止する。「それにっ! こんなところじゃ、誰かに見られるかも知れないしっ!」
「・・・この近くに、ここより高い建物ないから、大丈夫だよ・・・」
シャツの裾から陸が手を差し入れてくる。「それとも、着たまま、する?」
あたしは顔を熱くしながら、陸の胸を叩いた。
そんなことを二人で繰り返していたら、
「―――・・・ちょっと、陸?」
と背後から声をかけられた。驚いて飛び上がる。
振り向くと、あたしのお母さんなんかより、ずっと若い感じの女の人が立っていた。
・・・もしかして、陸のお母さん?
あたしは慌てて陸から離れた。
「・・・こんなとこで、何やってんのよ、あんたは・・・」
「・・・なんだよ? 覗くなよ」
あたしはオロオロしながら、それでも一応なんとか頭を下げて挨拶をした。
「あ、あの・・・ さっきはすみませんでした。えと、村上です」
「あん、結衣ちゃんでしょ〜♪ やっぱり、あたしの若い頃そっくり」
似てねーよっ、と陸が突っ込む。陸のお母さんが陸の頭を叩いた。
「あたしこれから出かけるから。あとヨロシクっ!」
「・・・また飲み行くのかよ・・・」
「自分で稼いだ金で飲みに行くのよ! 文句ある?」
と陸のお母さんが凄むと、陸は肩をすくめた。
「だから、続きは中でやんなさい」
陸のお母さんが指を下に向ける。「マンションの人に見られたら、あたしが恥ずかしいのよ! 息子が青カンしてるなんて噂されたら・・・」
「おいっ!」
アオカン? ・・・ってなんだろ?
陸のお母さんはあたしに歩み寄ると、
「バカ息子だけど、ヨロシクね?」
「バカは余計だ!」
あたしは笑いながら肯いた。
「・・・ふう・・・ やっとウルセーのがいなくなった」
「若いお母さんだね。楽しいし。一緒に歩いてたら姉弟に間違われたりするんじゃない?」
「・・・それ聞いたら、絶対調子にのるな・・・」
と陸は呟いて、「それはともかく・・・ 続きはオレの部屋で・・・」
「えっ? ええっ!?」
あっという間に陸に抱きかかえられ、陸のウチへ。
「ホ、ホントに・・・また、するの?」
「する!」
ええ〜ッ!!
「だって、織姫と彦星だって、今夜は絶対ヤリまくりのはずだもん」
そ、そーかなぁっ!?
「しかも、雨で会えないと思ってたから、余計にハリきってるよ、きっと。オレと一緒!」
「ひ、彦星は、こんなにエッチじゃないと思うっ!」
「男はみんなエッチだよっ!」
と言って、陸があたしにダイブしてきた。
ちょ、ちょっと―――ッ!?
「・・・ンッ、あ、あん」
あっという間に陸に制服を脱がされる。
「ちょ、ちょっと待って! こんな連日じゃ、こ、壊れちゃうよっ」
「一緒に壊れよ?」
やだ―――ッ!!
あたしの必死の抵抗もむなしく、陸に懐柔されているとき、陸の家の電話が鳴った。
「ほ、ホラッ! 電話鳴ってるよっ!」
「シカトだよ」
「だ、ダメだよっ! なんか大事な電話かも・・・っ」
「だったら、またかけ直してくるよ・・・」
でも、いつまでたっても電話のベルは鳴り止まなかった。
「クソッ! 誰だよっ!? こんなときに・・・ッ」
陸が立ち上がって部屋のすみにある電話の受話器を上げる。
「はい、今野・・・」
電話に出た途端、陸が顔をしかめた。そして、あたしを振り返る。
「誰?」
あたしが小声で陸に問いかけると、陸は電話機のスピーカーボタンを押した。相手の声が聞こえてきた。
『・・・というわけで、お前の停学期間は3日間だ! 普通なら、もっと長くかかるんだぞ?あんな大怪我負わせたんだからな! でも、そこはアレだ! 俺の説得で校長も・・・』
陸がスピーカーにしたまま、こちらに戻ってくる。
「もしかして・・・ 川北先生?」
「あいつ、ゼッテーオレに恨みあるよ。じゃなきゃ、なんでこんなタイミングで・・・」
川北先生はまだしゃべり続けている。
『それに、保健の小池先生からも、お前の処分を軽くしてくれなんて頼まれてな。小池先生に頼まれたら・・・ イヤ、それはこっちの話だ・・・ って、おい? 聞いてるか?』

あたしたちと川北先生って、なんか、相性悪いのかな? いや、それともいいのかな?
いつもこんなタイミングに現れるなんて・・・
陸は頬杖を付いて、溜息をついていた。
拗ねてるの?
・・・かわいいじゃない!
あたしはクスッと笑うと、
「17歳おめでとう!」
と陸の頬にキスをした。

スピーカーからは、まだ川北先生の声が聞こえている―――・・・
おわり


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