チェリッシュxxx 第4章

A 化学室の恐怖


驚いて振り向くと、ウチの制服を着た男の子が2人立っていた。
「は・・・あの・・・?」
多分、普通科の子じゃ・・・ない。
2人ともたくさんピアスを付けていて、やりすぎじゃ・・・?って言いたくなるぐらいに下げて腰履きにしているズボンは、普通科じゃ見かけたことがない。
シャツの胸ポケットからは、隠す気もないのか、タバコの箱が丸見えだった。
あ・・・ 陸が吸ってるのと、色違いだ。
あたしが男の子のポケットの辺りを見ていると、
「あんた? ユイって?」
と長髪にターバンをしている男の子の方が、あたしを見下ろす。
「あ・・・」
「なんか用?」
あたしが返事をする前に五十嵐くんがあたしと2人の間に立ち、冷たく言い放った。
「なんだよ? てめえにゃ聞いてねーよ」
ターバンの男の子が、肩を怒らせながら五十嵐くんに近づく。五十嵐くんは、黙ったまま男の子を睨みつけていた。
な、なに? この人たち・・・
あたしが五十嵐くんの後ろでビクビクしていると、
「なぁ。2年の今野のオンナって、お前だろ?」
ともう一人の、首からIDタグをぶら下げている男の子が、五十嵐くんの肩越しにあたしに声をかけてきた。あたしは慌てて目をそらした。
―――今野って・・・ 陸のコトだよね?
やっぱりこの子たち、商業科だったんだ。
・・・それにしても、この人たち、陸とどういう関係だろ?
て言うか、陸のコト、名字で呼ぶ人初めて見た・・・
もしかして、3年生?
「違うよ。・・・―――行こ」
五十嵐くんが、あたしを促して駅に向かって歩き出す。
「う、うん」
あたしは二人と目を合わせないようにしながら、横を通り過ぎようとした。
「じゃ、あっちか。―――ま、今野のオンナにしちゃ、地味だしな。おまえ」
IDタグの男の子があたしを流し見る。
な、何よっ!? 
ちょっと、失礼じゃないっ!?
あたしが文句を言ってやろうと振り向きかけると、
「何やってんの? 早く行くよ?」
と五十嵐くんがあたしの腕を引っ張った。
そのまま二人が見えない場所まで移動する。
「なにっ!? あの人たちっ!」
五十嵐くんがあたしの手を離して歩くスピードを緩めたとき、あたしはガマンしていたものを吐き出した。「ちょっと失礼じゃないっ!?」
「・・・商業科の連中だろ?」
五十嵐くんは眉間にしわを寄せている。
そりゃ普通科の子に比べたら、口が悪い子も多いのかもしれないけど・・・
それにしたって、初対面で、女の子に、
「地味だしな、お前」
なんて言うっ!?
あたしがプリプリ怒っていると、五十嵐くんが、
「村上さん、気を付けなね?」
「え? 何が?」
「何がって、あいつら村上さんのこと探してたじゃない・・・ ああいう時、返事しちゃ駄目だよ?」
そ、そっか・・・
五十嵐くんがいなかったら、返事しちゃってたよね・・・ きっと。
それにしても、あの人たち、あたしに何の用だったんだろ?
陸のコト、知ってるみたいだったけど・・・
一抹の不安が胸をよぎった。

翌日の休み時間。
麻美がA組に飛び込んできた。
「結衣っ! ちょっとあんた、大丈夫?」
次の3限目は選択授業で、化学を選択しているあたしは化学室に向かう準備をしているところだった。
「あ、麻美!」
大丈夫?・・・って・・・
なんで倒れたコト知ってるの?
―――あ、また五十嵐くんが麻美に電話した?
あたしがダイエットなんかしてて、倒れたよ・・・って?
前にも、陸と付き合い始めたとき、
「商業科なんかと付き合うなんて・・・」
と麻美に告げ口の電話かけてたもんね、五十嵐くん。
止めて欲しいなぁ。 また麻美に心配かけちゃったじゃない!
でも、―――ちょっと良かったかも?
五十嵐くんが(内容はともかく)麻美に電話してくれるのは・・・
麻美だって嬉しいよね?
あたしは、クスッと笑いながら、
「五十嵐くんから、電話行ったんでしょ〜?」
と麻美の二の腕をつついた。「あたしのダイエットも、無駄じゃなかったでしょ?」
「はあ? 何言ってんの?」
麻美は大げさに顔をしかめた。「誰が、ダイエットの話なんかしてるのよ!?」
「あれ? 違うの?」
「さっき、あたしのクラスにガラの悪い二人組が来たのよ」
「二人組?」
「あたしのコト、結衣だと勘違いしてたみたい。相当しつこかったわよ? 違うって分かったら、やっと出て行ってくれたけど・・」
麻美は眉をひそめて、「なんなの? あいつら・・・」
「・・・それって、昨日のヤツらじゃないの?」
五十嵐くんがやってきた。「今度は、渡辺さんのところに行ったんだ?」
「―――何? 昨日のヤツらって・・・」
「あ、昨日ね・・・」
とあたしが麻美に説明しようとしたとき、
「村上さん! 早く行こっ! 今日、あたしたち準備当番だよ?」
とマリちゃんが声をかけてきた。「遅れたら、次回もやらされちゃうから、早くして?」
「あ! そうだった! ゴメン、今行くねっ!」
あたしは教科書を手に席を立ち上がった。
「ちょっと、結衣―――?」
麻美が慌てて声をかけてくる。
「ゴメン! 化学当番うるさいんだよね、あの先生。五十嵐くんが知ってるから、聞いといて?」
あたしはちょっとだけ気を利かせてそう言うと、マリちゃんの後を追って教室を飛び出した。

「はぁ〜。なんで化学って、実験ないのに化学室でやるんだろうね?」
「しかも、先生は実験やんないのに白衣着てるし?」
「そうそうっ! アレってなんで?」
準備当番は片付け当番もやらなければいけなくて、あたしとマリちゃんはみんなが化学室を出た後、OHPや模型を片付けたりしていた。
「そう言えば、数学の八木センも白衣着てるよね?」
「あ、そう言えば・・・」
なんて話をしながら化学室を出ようとしたとき、誰かが化学室に入ってきた。
あたしは、驚きに息が止まりそうだった。
「昨日はどーも」
昨日の帰りに会った、二人の男の子たちだった。「なんで、ウソついたのかなぁ?」
「あ、あの・・・っ」
マリちゃんが怯えた顔をして後ずさる。
「あ、キミには用ないから。出てっていいよ?」
ターバンの男の子がマリちゃんに笑顔を向ける。
「え、あ・・・、でも・・・」
マリちゃんは躊躇うようにあたしの方を見ている。
「それとも、オレたちと一緒に遊びたい?」
マリちゃんは、今にも泣き出しそうだった。
「―――マリちゃん、戻っていいよ」
「・・・でも・・・」
いいから、早く行って、誰か呼んできて!?
あたしがマリちゃんに肯いて見せると、
「言っとくけど、誰か呼んできたら承知しないよ? キミの顔覚えたから。マリちゃん・・・だっけ?」
IDタグの男の子の方がマリちゃんを睨み付ける。
「はいはい! 出てってね〜」
マリちゃんはターバンの子に背中を押されるようにして、化学室から追い出された。
あたしは教科書を胸の前に抱きしめるように持って、少しずつ後ずさった。
「な、何の用ですか・・・?」
声が震える。
「やっぱり、お前がユイか。なんで昨日教えてくんなかったのかね〜」
「おかげで余計な手間、かかっちゃったじゃん」
「それにしても、あの女、イイ女だったな」
「ああ、アサミちゃんね」
・・・やっぱり。麻美のところに行ったガラの悪い二人組って、この人たちの事だったんだ・・・
「・・・・・用がないなら、帰ります」
と出口に向かいかけると、
「そんなに急いで逃げなくたっていいだろ?」
「そうだよ、傷つくなぁ。まだ何もしてないじゃん?」
二人が、あたしを挟むように左右に立つ。
な、なにっ!?
「何かするのは、これからだよ?」
ターバンの子があたしの腕をつかんだ。
「―――やっ!」
慌てて振り払って後ろに飛びのいたら、両肩をつかまれた。IDタグの男の子が背後に立っている。
「はなしてっ!」
教科書を投げつけて、実験用のテーブルの向こう側に走る。
相手は二人。
左右に別れて来られたら、絶対つかまっちゃう・・・
あたしが焦っていると、4限目が始まるチャイムが鳴った。
た、助かった―――!
次の授業の子たちが来れば、逃げられる!
あたしが二人を睨みつけると、ターバンの子が笑い出した。
「かわいそーに。この子、助かった〜とかって、思っちゃってるよ?」
「―――ッ!?」
「・・・残念でした。4限目、化学室はどのクラスも使いませーん」
・・・ウソでしょ・・・
「きゃあっ」
腕を引っ張られ、勢いで抱きすくめられる。
「つーかまーえた♪」
「しかし、よく見れば見るほど、地味・・・つうか、ガキっぽい?」
「今野は、こんなののどこがいーんだかね?」
「いや、あのヤリチンの今野が付き合ってるぐらいだから、意外と脱いだらスゴイとか?」
「チョーすげーテク持ってるとか?」
あたしの頭上で、二人は笑っていた。
足が震えてしゃがみ込みそうになる。
「あれ? 震えちゃってるよ? こんな事ぐらいで?」
あたしを抱きすくめていたターバンの子が、乱暴に胸をつかんだ。
「やっ、やだ―――ッ!」
あたしは顔を伏せて、めちゃくちゃに暴れた。
「お!? なんだよ? たかが胸に触っただけで」
たかが、じゃないっ! ヘンタイっ!!
IDタグの男の子が、あたしの前にしゃがみ込んでまじまじとあたしの顔を覗きこむ。
「・・・なぁ。もしかして、お前―――・・・ 処女?」
ドキリとして動きが止まる。
「―――うっそ? マジで? あの今野がっ!?」
二人が大声で笑いだす。
「まだ手ぇ出してなかったんだ?」
「大事にしてるんだ、とか?」
二人はお腹を抱えて笑い続けている。
バカにしないでよっ! って言いたかったけど、口だけじゃなくて、身体全体が震えていて、立っているのがやっとだった。
IDタグの子が、あたしの顎をつかんだ。
「こいつのコトもらっちゃったら、あいつどんな顔すっかな?」
・・・なに?
「オレたちの気持ちが分かるんじゃね? って、それ、犯罪だろっ!?」
また二人は大笑いしている。
何する・・・気!?
「おっ!?」
あたしは一瞬の隙をついて男の子から離れ、出口に向かって走った。
実験用の机は6人がけの大きなもので、転びそうになりながらその間を縫うように走る。
もう少しで出入り口の戸に手が届くというとき、ピョンと机の上からターバンの子が飛び降りてきた。
「どこ行くんだよ」
男の子があたしの腕をつかむ。
あたしは思わず目を瞑った―――
そのとき、目の前の戸が勢いよく開いて、誰かが入ってきた。
「伏せてっ!!」
という声に思わず頭を下げる。
ちょっと衝撃があって、あたしの手をつかんでいた男の子がその手を離した。男の子は胸を押さえて、激しく咳き込んでいる。
―――え? 何・・・?
恐る恐る顔を上げて見てみると、入り口のところに五十嵐くんが立っていた。
え? じゃ、五十嵐くんが・・・?
男の子は立ち上がれないみたいで、まだ咳き込んでいる。
「お前ら―――・・・ッ!!」
五十嵐くんが低く唸るように言って、もう1人の男の子に向かって行こうとする。
「ま、まだ、何もしてねーよっ!」
IDタグの男の子が、引きつったような笑みを浮かべながら、ベランダに出る戸の方に後ずさった。五十嵐くんが両肘を引くような格好に構えながら、男の子に近づく。
「―――死ね・・・」
「い、五十嵐くんっ!!」
あたしは怖くなって五十嵐くんの腕にしがみついた。「止めてっ!?」
その隙に、男の子はベランダから逃げて行った。気が付くと、咳き込んでいた男の子もいなくなっている。
「―――あ、ありがと・・・」
ホッと安心したら、今まで以上の震えがやってきて、あたしは机に手を付いてしゃがみ込んだ。
「・・・あ、あれ? 五十嵐くん、・・・4限目は? ま、まだ始まってないの?」
気が付くと、あたしはどうでもいいようなことを聞いていた。
けれど、五十嵐くんの返事はない。あたしに背を向けて、ちょっと俯き加減に立っているから、どんな顔をしているのか分からなかった。
「や、やっぱり、今のも、テ、テコンドー? スゴイね・・・」
あたしは懲りずに五十嵐くんに話し掛ける。黙っていると、さっきの恐怖を思い出しそうで、怖かった。
五十嵐くんも、何か話してよっ!?
「あ、あたしも、始めようかな? テコンドー・・・」
「―――何やってんだよ・・・」
五十嵐くんが吐き捨てるように呟く。顔を見なくても、もの凄く怒っているのが背中で分かった。
「・・・ゴメン、ね・・・」
また、迷惑かけちゃった―――
五十嵐くんが振り返る。
「だからっ、村上さんに言ってるんじゃないって! あいつだよっ! 今野ッ!!」
あいつのせいで・・・、と呟いて、五十嵐くんは化学室を出て行こうとする。
「五十嵐くんっ!? どこ行くのっ?」
き、教室に戻るんだよ、ね・・・?
「―――商業科」
「待ってっ!!」
あたしは慌てて五十嵐くんの腕を引っ張った。「陸には言わないでっ!?」
「はっ?」
五十嵐くんが信じられないものを見るような目つきで、あたしを振り返る。
陸に知られたら・・・ 陸、絶対あの人たち探し出して、殴りに行っちゃうよ。
今度ケンカしたら、停学なのに・・・!!
「・・・何言ってんの? だって、あいつのせいだろっ?」
「なんでもいいから、陸には絶対言わないでっ!」
あたしは五十嵐くんの腕をつかんだまま、「もし言ったら、五十嵐くんなんか、絶交だからねっ!?」
と睨みつけた。
五十嵐くんは、ちょっとだけあたしを見返したあと視線を逸らせた。
「―――ッなんで、あんな・・・ッ!!」
と顔を歪め、五十嵐くんをつかんでいたあたしの腕を、逆につかんで引き寄せてきた。
勢いで、五十嵐くんの方によろける。
「い、五十嵐くん?」
驚いて見上げようとしたら、そのまま抱きしめられた。
でも、それはほんの一瞬の事で、五十嵐くんはすぐにあたしから離れた。
「・・・あ、あの・・・?」
「―――ごめん。別に、深いイミはないから、気にしないで・・・」
もう五十嵐くんは、いつもの五十嵐くんだった。
「う、うん―――」
び、ビックリした―――。
一瞬、
五十嵐くんの好きな人って、・・・まさか、まさかだよねぇ?
なんて、図々しい事を考えてしまった。 ・・・ごめん、麻美。
あたしは話を変えようと、
「マリちゃんから聞いたの?」
あの子たちに襲われそうだって。
「三浦さん? 彼女は何も言ってないよ。って言うか、言えなかった」
「え?」
「教室に戻ってくるなり、机に突っ伏して泣き始めたから。周りがどうしたのって聞いても、泣いてて話が出来ないし」
五十嵐くんが舌打ちする。
「しょうがないの。マリちゃん、あの子たちに脅されてたから。顔覚えたぞって」
「で、4限目が始まってもまだ泣いてて、気付いたら村上さんが戻ってきてなかったから・・・」
それで心配して見に来てくれたの?
「―――五十嵐くん。本当にありがとうね」
「・・・いいよ、別に」
と言いながら、教科書を拾ってくれる。「―――次、八木センの数学・・・もう始まってるね」
「あっ! ―――そうだ、よね?」
ヤバ・・・ッ
「あの先生、遅れてきた生徒、必ず当てるんだよね・・・ 村上さん、予習してきた?」
「・・・してない」
五十嵐くんはフッと鼻で笑うと、
「じゃ、その場で解くしかないね」
ええ―――っ!? 無理だよ、そんなの! すごい時間かかっちゃうよ〜っ!?
「五十嵐くんは? してきた?」
「当然」
「お願いっ! 見せて?」
「やだよ」
「なんで? ケチっ! いいじゃん!ちょっとくらい見せてくれたって」
「ケチでもいいよ。自分でやんなきゃ、意味ないでしょ?」
五十嵐くんは、さっさと教室の方に歩き出した。
五十嵐くんが普通にしてくれているのが、すごく嬉しかった。
―――それにしても、陸に何があったんだろう?
あの男の子たちは、陸に何か恨みでもあるみたいな口ぶりだった。
よほどの恨みでもなければ、あんな犯罪まがいの事しようとしないよね? しかも校内で・・・
最近、ケンカが多いのも、それと何か関係してるのかな・・・
何か心配になってきた。
放課後は一緒に帰れなかったから、夜 陸に電話をしようと思ったら、陸の方から電話がかかってきた。
「あ、陸! 今かけようとしてたんだよ?」
『・・・うん』
「今日―――」
そこまで言って言葉に詰まる。
今日の化学室の出来事をどう誤魔化して話すか考えていなかった。
絶対、陸には知られちゃいけない・・・ でも、どーやってあの人たちのこと聞き出す?
あたしがテキトーな言い訳を探していると、
『今日・・・・・何?』
と陸が聞いてきた。
「えーっと・・・ あ、陸こそどーしたの? なんか用事あった?」
『・・・イヤ? なんとなく、かけただけ』
「そう?」
なんか陸、元気ない?
・・・もしかして、またケンカとか・・・?
まさかだよね? 今度ケンカしたら停学だって、陸だって知ってるし・・・
『あのさ、結衣・・・』
「え? なに?」
あんまり小さい声でよく聞こえない。「ゴメン、よく・・・」
聞こえないんだけど、と言おうとしたら、
『しばらく会うの、止めねー?』
「え?」
・・・どういう意味?
あたしと陸が、会うの止めるってコト? な、なんで?
・・・はっ!
もしかして、明日からテスト期間だから?
明日の火曜日から金曜日までの4日間は期末テストだった。
普通科と商業科は期間こそ同じ4日間だけど、授業科目が違うから終了時間がそれぞれ違っていた。大体、普通科の方が早く終わる。
とは言っても、1時間くらいだから待っていられないことはないんだけど・・・
あたしが受験生だからって、気使ってる?
「陸、気使ってる?」
『は?』
「テスト期間中でしょ? 大丈夫だよ? 普通科の方が早いっていっても1時間くらいだし、勉強しながら待ってる」
『よせっ!』
急に大声を出す陸。でも、すぐにいつもの口調に戻って、『・・・先帰って?』
ケータイの向こうの緊張が伝わってきた。
「―――もしかして、テスト期間中だからってことじゃ・・・ないの?」
『・・・・・』
陸は黙っている。
「え? ・・・どうしたの? 全然分かんないんだけど? あたし何かした?」
『イヤ・・・ 結衣のせいじゃないから』
「じゃ、なんで? なんでそんなこと言うの?」
ケータイの向こうの陸は、そのあとあたしが何を言っても黙ったままだった。


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