チェリッシュxxx 第2章

D Romanticが止まらない


驚いた陸の目線が、あたしの顔の下に向けられている。
・・・・・・バレた。
「・・・な、なんで?」
「違うの違うのっ! 今日休みだったからなんだけど!それでちょっと油断?してたらっ、急に麻美が強引に連れ出すからっ!気付く余裕もなくて、で、先輩に言われて気が付いてっ!そ、それで先輩がパーカーくれたのっ! 以上! 説明終わりっっ!!」
あとで考えるとずいぶんメチャクチャな説明だったけど、そのときのあたしには順序だてて説明する余裕なんかなくて。
でも、なんとなく陸には伝わってたみたいだった。
「だ、だからパーカー脱げなかったのっ!もうっ!!」
恥ずかしさから、つい怒ったような口調になってしまう。
「・・・ゴメン」
陸が顔を伏せる。
「・・・だから、デートは無理なの」
「ゴメン」
「・・・分かってくれれば、いいよ」
そんなに謝ってくれなくても・・・
陸はまだ顔を伏せたまま、
「ゴメン」
と謝っている。
「もういいってば!」
「ホントにゴメンね?」
陸が前髪の隙間から上目遣いにあたしを見た。「もう、ガマン、出来ないかも」
猫がネズミを狙うような、鋭い目で言う。
「・・・え? !? ちょ、まさか―――っ!?ンンッ!」
あっと思う間もなく、陸が強く唇を合わせてきた。
何度も噛みつくように唇を食むと、歯列を割って陸の舌が入ってくる。
ちょ、ちょ、ちょっと!
待って待って待って!?
やっと、陸のこと好きだって気が付いたばっかりで、まだそんなとこまで・・・
―――陸の舌が歯列の裏や上顎をくすぐってきて。
こ、心の準・・・備、が・・・・・・出来て・・・・・・・・な・・・
だ、ダメだよ・・・
―――あたしの舌を絡めとってきて。
そのキス・・・ 反則・・・だよ・・・
―――やっぱり別な生き物みたいで。
なにも、考えられなく・・・なっちゃう、・・・・・・て、・・・言ったじゃな・・・
「ま、まって・・・」
陸の唇が、あたしの唇から耳の方に移ったとき、声を振り絞って抗う。「ね・・・待って、り、陸?」
「・・・何を待つの?」
耳たぶを甘噛みされ、思わず声が漏れる。
「―――ッぁんっ」
な、何?
今の、あたしの声?
「ちょっ、待ってってば!」
あたしの抗議もむなしく、陸の唇は首筋から鎖骨へ。
気付いたら、あたしの両手は陸の右手だけで掴まれていた。左手はあたしの頬から首筋に移って、肩のラインへ滑っていく。
「・・・んっ・・・ね? ま、待って・・・?」
「待てないよ」
陸はTシャツの上から、あたしの胸に頬を当てた。「すごい、ドキドキいってる。怖いのかな? キンチョーしてる?」
・・・キンチョーしてる?
じゃ、ないよ―――っ!!
そう思うんだったら、やめてよ―――!!
「・・・でも、ここは待ってるみたいだよ?オレのこと」
「―――っ! あんッ」
シャツの上から、胸に唇を落とされて。抵抗しなきゃ、というあたしの思いとは全く別な反応をしちゃってるそのすぐ横に、陸が軽く噛みつく。
「いや・・・んっ!ぁ・・・はっ」
「結衣・・・、色っぽい」
わ―――☆ 待って待って待って―――ッ!!
陸の左手が、いつの間にか反対側の胸にっ!
「触ります」
「・・・だ、ダメっ!―――やんっ! あっ」
陸がすくうように胸に触る。
「・・・ダメじゃないでしょ? 気持ち良くしてあげるよ」
シャツの上から、胸の輪郭をなぞるように陸の指が動く。くすぐったいような、肌が粟立つような、そんな感覚が身体を走る。
あたしの呼吸は、知らず浅く早いものに変わっていた。
触れるか触れないかの距離で輪郭をなぞっている指が、ときどき胸の先端を掠める。
「あ・・・っ、あんっ」
「・・・いい声」
「な、何・・・言って・・・」
「もっと聞かせて?」
と言うなり、すでに痛いぐらい硬くなってしまっているそれに唇を落とす。「どうせ休みで誰も来ないから、声出したって平気だよ」
「そん・・・な、・・・はあっ、ンッ!」
シャツ越しに、生暖かい陸の舌の感覚が伝わってきた。ゆっくりと舐め上げたあと、軽く歯を立ててきて。
「あっ!あんっ・・・ や、やだ・・・ やめっ・・・あっ」
「・・・やだ? ホントに?」
頭は痺れたようにボーっとしてて。身体の奥がじわじわと熱くなっていって。抵抗しなきゃって思うのに、身体は言うこと聞いてくれなくて。
気付くと陸は膝まづいていて、抱き寄せるようにあたしの腰に腕を回していた。
シャツの裾から、陸の手が差し入れられる。脇腹のあたりにひんやりした手が触れ、ビクッと身体が震えた。思わず陸の肩に手をつく。
陸の手はそのままゆっくりと這い上がってくる。
「・・・や・・・」
「直接・・・触っても、いい?」
目を瞑ったまま首を振る。
「じゃ、見るだけ」
と言いながら、耳の付け根に口付けてくる。陸の前髪が耳に入ってきて、それだけでもまた肌が粟立ってしまって。
「ね? いいでしょ? 見るだけだから・・・ 何もしないよ」
「っ!ひゃっ」
耳の中に陸が舌を入れてきた。
もう、頭バクハツ寸前っ!
「・・・み、見るだけだ、よ・・?」
Tシャツの上からでもイロイロされてて、それ脱いだら、陸が見てるだけなんてありえないって、よく考えれば分かりそうなものなのに、この時のあたしにはそんなこと考える余裕は全くなかった。
陸は器用にあたしからシャツを剥ぎ取ると、ほんの少しだけ身体を離してあたしのことを眺めた。
背後の壁は冷たかったけれど、陸の視線から少しでも離れようと、あたしは壁に背中をピタリとつけていた。
「―――――・・・」
陸があたしの腰に手を添えたまま、黙ってあたしを見上げている。
な、なに?
なんか、言ってよ!?
はっ!
・・・・・・もしかして、あたし・・・胸大きくないから・・・ショック受けてた・・・り?
「・・・り、陸?」
「・・・綺麗だ・・・」
陸が呟くように言って、あたしと目を合わせる。「すっごく綺麗だよ。結衣」
「う、うそっ・・・あんっ!」
陸が鎖骨の下あたりを強く吸い上げた。
「・・・キスマーク、つけちゃった」
「ええっ!?」
ビックリして見下ろすと、陸と目が合った。
アーモンド形の瞳を細め、口の端を少しだけ上げて笑う。
「オレのものって、シルシ」
そう言って、あたしと目を合わせたまま唇は胸の方へ。
「み、見るだけ・・・なんだよね?」
「・・・そうだっけ?」
「り、陸・・・そう言った、よ?」
陸が視線を胸の方に戻す。唇の端から陸の舌先が見えて、あたしは僅かに身じろいだ。
肌に唇を落とす直前、陸が再びあたしと目を合わせる。
「・・・・・そんな顔しないで?」
だ、だって―――
「・・・気持ちいいコトじゃなくて、ヒドイこと教えたくなる・・・」
そう言って唇を落としかけたとき、
「誰かいるのか―――っ!?」
と体育館の方から大きな声が聞こえた。
はじかれたように顔を上げる陸とあたし。
「閉めるぞ―――?」
あ、あの声は・・・風紀顧問の川北先生!?
外から閉められたら出られなくなっちゃう!
「・・・大丈夫。外に出られるとこなんていくらでもあるから」
陸が唇に人差し指を当てて言う。
あたしたちが息を殺して川北先生がいなくなるのを待っていると、
「どこにいるんだ? 聞こえないのかなあ」
と言いながら、先生が体育館の中に入ってくる気配がする。
「・・・なんで、出てかねーんだろ?」
あっ!?
「・・・あたしのせいかも」
ん? と陸が視線で問い返す。「あたし、サンダル、体育館の入り口のところに脱いできたから・・・それで、誰かいるって思ってるのかも・・・」
「マジで?」
陸はちょっと考え込む顔つきになった。
こうしている間にも川北先生は、体育館内を歩き回ってサンダルの持ち主を探している。
いずれこの体育用具室も覗きに来るに違いない!
「コレ着な」
陸は自分のシャツをあたしに手渡すと、体育用具室の出入り口とは反対側の壁にある小さな窓に近づいた。
明り取りのためなのか、換気のためなのか、その窓は壁の高い位置についていて、しかも防犯用の鉄格子がつけられている。
そんなところから出られないよ?
陸は飛び上がってその窓の縁に手をかけると、鍵を開けて鉄格子に顔を近づけた。そして、
「センセ〜! 川北センセ〜! クラブハウスの方から煙が上がってますけど〜。あれってタバコじゃないですかねぇ〜!?」
とファルセットのような声を出した。
「なにっ? タバコ?」
ドアの向こうの体育館の方で、川北先生が唸るのが聞こえた。そして、「どこですって? クラブハウス―――!?」
荒い足音とともに先生の大声が遠ざかっていく。どうやら出て行ってくれたみたい。
た、助かったぁ〜。
陸がヒョイと窓から飛び降りてくる。
「すごいね。先生騙されて行っちゃった」
「でもすぐ戻ってくるよ。もったいないけど、急ごう」
とチュッと軽くキスしてきた。「続きは近日中に!」

8時を過ぎて、生徒たちが続々と登校して来た。
「ホラっ! 何だコレは!?」
川北先生が雑誌を取り上げる。「没収だ!」
そう言って、背後にある大きなダンボールに雑誌を放り投げる。
「次! 勉強に必要のないものは全部没収するからな〜!?」
GW明け。予定通り校門前で、抜き打ちの持ち物チェックが行われていた。
「それにしても、すごいね」
五十嵐くんが段ボール箱の中を覗きこんで言った。「殆ど、商業科のモノだけど」
箱の中には、雑誌や化粧品、携帯型ゲーム機やタバコなど、色々なものが山となっていた。
「オハヨーゴザイマス。センパイ?」
と言う声に振り向くと、陸があたしと五十嵐くんの前に立っていた。
「お、おはよ」
「カバン開けて」
五十嵐くんは挨拶もせずに、陸のカバンを指差した。
「どうぞ〜?」
ファスナーを開けて、カバンごと五十嵐くんの前に突き出す。「なんか、あるかなぁ?」
五十嵐くんが陸のカバンを手にする。しばらく中をチェックしたあと、
「・・・・村上さん」
「・・・はい?」
五十嵐くんがあたしを振り返る。「抜き打ちなんだけど?」
教えたろ? といった目線を投げかけてくる。
「ボディチェックは? しないの? タバコとかあるかもよ〜?」
五十嵐くんは陸を一瞥すると、次の生徒のチェックに移った。
陸は勝ち誇った顔で五十嵐くんを流し見ると、カバンをかけなおした。そして、ちょっとだけ声を小さくすると、
「帰り、校門とこで待ってる」
とあたしに耳打ちした。
あ、今日は・・・とあたしが言おうとしたら、
「村上さん! 放課後、委員会あるの忘れないでね。没収した物の一覧表作るって言うから」
と五十嵐くんが別な生徒のカバンの中をチェックしながら言った。
「は、はいっ」
あたしは慌てて陸から一歩離れた。陸が眉間にしわを寄せて、
「テコンドーのヤツ、やっぱり・・・」
と呟いた。
「? やっぱりって何?」
「なんでもね」
「おはよ、結衣!」
続いて麻美までやってきた。そして、あたしのそばにいる陸に目線を向けると、「もしかして、キミがこの前の・・・?」
陸は顎を突き出すように軽く麻美に頭を下げて、
「この前はどーもスミマセンね。ちっと急いでたもんで」
と笑いかける。
実はこの前、あたしと杉田先輩が体育館にいるときに陸が現れたのは偶然じゃなかった。
いや、途中までは偶然だったんだけど・・・
あの日、陸は自転車であたしんちに向かっていたという。
すると、途中で助手席にあたしを乗せた車と偶然すれ違った。
急いで追いかけたんだけど間に合わなくて、あたしのケータイに電話を入れたら祐樹が出て、
「ねーちゃんなら、未来の兄貴が連れてった」
と言った。
陸が半ギレになって祐樹に問いただすと、それはどうも麻美が呼び出した男らしいと分かり、あたしのケータイのメモリーから麻美の番号を祐樹に調べさせ、陸が麻美に電話した、と言うことだった。
麻美は先輩が書類を取りに学校に行くことを知っていた。
「間に合ったみたいで良かったわね。・・・って、あたしは別に、キミじゃなくて、杉田先輩でも良かったんだけどね」
麻美がカバンを五十嵐くんに渡しながら言う。「結衣にハッキリさせてあげたかっただけだから」
「ははは! かなりムカつきますねー、センパイ?」
「あ、あの、二人とも?」
麻美と陸の険悪な雰囲気にあたしが慌てていると、
「ホラそこっ! チェックが済んだ者はさっさと教室に入れ! あとがつかえてるんだから!」
と川北先生の怒声が飛んできた。

なんか、波乱含みのスタートって感じだけど、上手くやっていけるよね!?
きっと・・・
おわり


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