チェリッシュxxx 第2章

A 終わった関係


「結衣さ・・・。最近、商業科の子と親しくしてるんだって?」
と急に振られた。
「―――え、ええっ!?」
あまりに急だったから、ポーカーフェイスもなにも出来なかった。
って、あたしあんまり器用な方じゃないから、余裕があってもそんな芸当出来たかどうか分かんないけど・・・
それはそうと・・・それって、陸のコト・・・だよね?
な、なんで知ってるのっ!?
「実は昨日、五十嵐から電話かかってきてさ・・・。結衣が商業科の子と親しくなったみたいだって」
麻美は溜息をつきながら言った。
え? 五十嵐くんが?
やっぱり、昨日、付き合ってるって思われたんだ・・・
でも、それでなんで麻美に電話したんだろう・・・
「どうしちゃったの、結衣? まさか、付き合ってるなんて言わないわよね?」
「いや、付き合ってるっていうか・・・」
言いながら、付き合ってるって言っていいのかな?と、いつもの考えがまたグルグルしてきた。
昨日はなんか、勢いでお弁当作ってきてあげるとか言っちゃったけど・・・
もしかして、他の女の子からも作ってもらった事あるんじゃないかな?いや、ないって事ないよね。
あたしとしてる程度の事、他の子ともしてる・・・よね、きっと。
って、あたしだって、杉田先輩の指輪まだ捨てられないでいるし・・・・・・
あ―――っ! また頭混乱して来た。結局あたしって、杉田先輩と陸と、どっちが好きなんだろ? 分かんない!!
杉田先輩のこと、まだ忘れられないのは確か。
でも、思い出す時間が減ってきてるのも確か。
そしてその分、陸のこと考えてる時間が増えてるのも確かで・・・
もしかして、やっぱり、陸に惹かれてってる? でも、陸は他の女の子とも仲良くしてるかも・・・っ!
自分の気持ちを疑い、陸の気持ちも疑ってるあたしって・・・・なにっ!?
なんか、急に何もかも半端な気がしてきた。
あたしが黙って俯いていると、
「・・・もしかして、無理やり付き合わされてるんじゃないでしょうね?」
「え?」
「あんた、イヤって言えないタイプだから、強引に付き合わされてるんじゃ・・・。まさか、脅されてるとか?」
麻美が眉間にしわを寄せながら言った。
「違う違うっ! 脅されてなんかないよっ!?」
あたしは慌てて首を振った。「陸はそんな子じゃないから!」
陸・・・って、と麻美が溜息混じりに呟いたとき、チャイムが鳴った。SHRが始まる時間だった。
麻美はまだ何か言いたそうだったけれど、フッとあたしから目をそらし、行こ、と小さく呟いた。
あたしは黙って肯くと、麻美の後をついて、教室に戻りはじめた。
麻美が本気で心配してくれているのが分かって、何もいえなかった。
せめてあたしと陸の関係が、もっと気持ちの上でハッキリとした確信が持てていたら、「学科なんかカンケーないよ!」って言えてたんだろうけど。
麻美はいつもあたしのことを心配してくれる。杉田先輩にフラれたときもそうだった。
あたしは何かあると、いつも真っ先に麻美に相談していた。麻美も、あたしの一番の相談相手は自分だと思っていると思う。
なのに今回は、麻美に内緒にするような格好で付き合っていたのがバレてしまった。
もっとハッキリしてから、自分から話したかったのに・・・・・・ 最悪。
「―――それにしても、五十嵐くん、なんで麻美に電話なんかしたんだろ?」
思わず声が尖ってしまった。
あたしの先に立って階段を下りていた麻美は、
「・・・心配してるんじゃない」
とちょっと振り返って言った。「結衣は、鈍感すぎるよ」

1限目の後の休み時間に、あたしは五十嵐くんを呼び出した。
休み時間は10分しかなく、屋上まで行っている時間がなくて、あたしたちは渡り廊下までやってきた。
「何?」
「何・・・って、こっちのセリフなんだけど!? なんで麻美に電話なんかしたの?」
あたしが下から睨みつけるようにして抗議しても、五十嵐くんは表情一つ変えなかった。「麻美に心配かけるようなこと、しないでよっ」
「・・・それこそ、僕のセリフなんだけど? 渡辺さんを心配させたのは、僕の電話のせいじゃなくて、村上さんのせいだよね?」
それは・・・・・・そうだけど・・・・・・
五十嵐くんはそこでいったん溜息をつくと、
「村上さんもさ、風紀の見回りやってたら、商業科がどんだけどうしようもない連中の集まりかって分かるでしょ?」
確かに、暴力沙汰を起こしたり、カツアゲをしたりと、普通科では考えられないようなことをしている子も中にはいる。
でも、みんながみんな、悪い子ばっかりじゃないんじゃない!?
とあたしは抗議したかったんだけど、五十嵐くんに口で勝てるとは到底思えず、黙って俯いていた。
「それに、僕たち今年受験だよ? あんなのと付き合ってて、いい影響受けるとは思えないな」
と、3階の渡り廊下から見下ろした先には、次が体育の時間なのか、グリーンのジャージを着ている子たちがわらわらと校庭に流れ出てきた。
グリーンは2年生の学年カラー。 その中に陸がいた。
陸は3階の渡り廊下にいるあたしには、当然だけど気付いていなかった。
何がおかしいのか、笑いながら一緒にいる友達の背中に飛び乗ったりしている。
やっぱり、子犬みたいで可愛い・・・ 表情なんかは猫っぽいところあるのに。
「・・・あんなのとか言わないで」
あたしは陸から目を離さずに、「麻美には心配かけちゃったけど・・・、悪いと思ってるけど・・・。でも、五十嵐くんにはカンケーないことだからっ!心配してくれなくていいからっ!」
と言った。
「それにさ・・・」
五十嵐くんはあたしの話を聞いていなかったかのように続ける。「村上さんはあいつだけかもしれないけど、あっちはどうなの? 他にも親しくしてる女の子とかいそうじゃない」
校庭では、グリーンのジャージを着た男の子がグラウンドの半分でサッカー、もう半分で女の子たちが高飛びをするための準備をしている。
準備をしているのは、商業科の中でも比較的真面目そうな子たちで、半分以上はふざけていたりして手伝ってはいなかった。当然陸もそっちのグループで。
女の子が二人、ゴールポストのところにいる陸のところに近寄って行った。何事か話し掛けている。女の子たちが笑い、陸も笑う。
―――なに話してるんだろう?
不意に陸が、女の子の肩をつかんで、ゴールポストに押し付けるようにした。
心臓が大きく飛び上がった。
目を逸らすことが出来なかった。
直後、陸はその女の子に頭を思い切り叩かれ、その場にしゃがみこんだ。周りにいた女の子や男の子たちが笑い転げる。
な、なんだ・・・ ふざけてただけか・・・
「よく、あんな簡単に女の子の身体に触ることが出来るよね」
隣に立っていた五十嵐くんが呆れたように言ったとき、2限目が始まるチャイムが鳴った。
教室に戻る道すがら、
「村上さんも、泣かされないようにね。・・・って、どうせ余計なお世話なんだろうけど」
と五十嵐くんがこちらを見もせず言った。

「結衣!」
普通科と商業科をつなぐ渡り廊下のところで陸が待っていた。「チョー腹減ったよ〜」
猫みたいなアーモンド形の瞳を細めて笑う。
「でも、どこで食べる? こっちはダメだし・・・」
当然普通科の校舎では無理。誰が見てるか分からないし・・・
「そーだな。オレはどこでもいいけど、誰かに見られたら、結衣がイヤだもんね」
考えを読まれたようで、一瞬ドキリとする。
「あ、あたし、別に、陸と一緒のとこ見られたって・・・」
と言い訳しようとすると、
「ちょっといい場所があんだよね。あそこにしよっ♪」
と陸が歩き出す。
陸は、わざわざ普通科の校舎から遠回りするように体育館に向かった。
あたし、そんなに学科気にしてるように見えるのかな・・・
学科以前に、自分の気持ちがハッキリしてない方が問題だよね・・・
あ、やだ。また嫌なコト考えそう。
あたしは慌てて陸の袖をつかんだ。
「ん?」
「ど、どこ行くの?」
陸はあたしを体育館のステージ横に連れて行った。
ステージの横、緞帳に隠れた部分に階段があった。一つはギャラリーに上がれる階段。その階段の下に隠れるように、もっとずっと幅の狭い階段が階下に続いていた。
「なに? これ、どこに続いてるの?」
「いいから、おいでよ」
そこは、ステージの反対側に続くちょっとした通路になっていた。
「こんなとこ、あったんだ。気付かなかったぁ」
「あんま、生徒は気付かないよな。ステージなんて、卒業証書もらうときくらいしか? あがらないし」
幅が1メートルくらいで、高さにいたっては150あるかないかくらい。
「陸、頭ぶつけそう。大丈夫?」
「うん。平気。オレ、こーゆー狭いトコ好きだし。なんか秘密基地っぽくね?」
通路の真ん中あたりに来て、陸が座りこむ。続くあたし。
「早く早くっ♪」
陸が両の掌を広げる。「早く食べたい! 結衣のおべんとっ」
そんなにはしゃがれると・・・
「―――なんか、大したモノじゃないのに・・・恥ずかしいから、そんなに騒がないで?」
「いいじゃん! オレすっげ楽しみにしてたし〜」
「だからっ! そう言われるのがプレッシャーなんだってば!」
あたしはお弁当が入ったカバンを抱え込んだ。「・・・やっぱ、やめればよかった」
「何言ってんの!今さら。 さ、早く出しなさい!」
「・・・やっぱ、やだ」
「ちょっと? 腹減ってんだって!」
陸が眉間にしわを寄せる。
「だって・・・」
素直に出さなかったせいで、余計に出しにくくなってしまった。
一瞬陸から視線を外したとき、
「いただきっ!」
と陸があたしのカバンを奪った。
「あ! だ、ダメっ!」
慌ててカバンを取り返そうとしたら、勢いがついて陸のことを突き飛ばしてしまった。
頭はぶつけなかったみたいだけど、陸が後ろに倒れて肘をついた。間にカバンを挟んで、あたしが陸の上に。
「ご、ごめん! どこかぶつけなかった?」
慌てて陸から身体を離そうとしたら、腕をつかまれた。
「陸?」
陸は笑っていなかった。茶色に光る猫のような目がじっとあたしを見つめる。
「・・・やっぱ、弁当いらない」
「え?」
うそうそ? 怒っちゃった?「な、なんで?」
「別なもの、食べるから」
「ええ? 買ってたの? パン」
・・・やっぱ、あたしのお弁当なんかに期待してなかったって・・・ことだよね。
カバンを抱えて俯く。
「違う。結衣」
「え? パンじゃないなら、おにぎりとか?」
「違う。結衣」
「え? なに? じゃ、お蕎麦とか?」
とあたしが言うと、陸はぷっと吹き出して、
「こんなところで蕎麦? 結衣、よく見てよ。オレ手ぶらなんだけど?」
あ・・・そうだよね。
・・・・・・じゃ、何?
「弁当じゃなくて、結衣!」
と陸はあたしを指差した。「結衣を食べる」
「・・・ん? え? え、え―――っ!?」
やっと意味を理解したときには、もう陸にキスされていた。
「・・・やっ、ちょっと・・・待って!」
「結衣が悪い。素直に弁当出さないから」
「出す出す出す出す―――っ! 出すから、待って!!」
「遅いよ」
「待って待って待って待って!」
通路には常夜灯のようなものしか点いていなくて。相手の顔は見えるけど、なんか薄暗くて。体育館には他に誰もいないのか、シンとしてて。
マズイよマズイよマズイよ〜っ!
なんか、良く考えもしないでこんなトコについて来ちゃって、アホだ〜っ、あたし!
「いいじゃん。彼氏彼女なんだから。ね?」
・・・ね?
じゃ、なぁ―――いッ!!
「や、やだ! したくないっ! 陸とはっ!!」
ネクタイに指をかけていた陸の動きが止まる。
「・・・したくない? オレとは?」
「そ、そうっ!」
陸の動きが止まったすきに、あたしは陸から離れた。
「・・・どういう意味?」
陸が静かに聞いてくる。茶色の瞳に、常夜灯の淡い明かりが当たって、それはまるでキャッツアイのようで・・・
それであたしは、猫に睨まれたネズミ・・・
「だ、だだ、だって。絶対、陸、他の子ともしてるもんっ」
「何を?」
「何って・・・イロイロだよ!」
してるんでしょ? ホントはどうなのっ?
陸は、はぁ〜、と大きな溜息をつくと、
「ま、前科者だから? オレ。 そう思われんのも仕方ないかも知んないけど。今は結衣以外とは何もないよ?」
信じて?と、今度は捨てられた子犬のように上目遣いであたしを見つめてくる。
そんな目で見られたら、問い詰めてるあたしが悪者みたいな気になってくるじゃないっ!
「だけど、気軽に女の子に触ったりするじゃないっ!」
「触るって?」
子犬が首をかしげる。
「体育の時間! 今日、女の子の肩つかんでた!」
「は?」
陸は何のことか分かっていないみたいだった。「えー・・・と?」
忘れてしまうくらい、些細なことなんだ。陸にとっては。当たり前のことって言うか。
やっぱり、感覚が違うんだ!
「五十嵐くんが言った通りなんだ!?」
「イガラシ?」
と陸が眉間にしわを寄せる。「って、テコンドーのコト?」
「五十嵐くんが、陸はあたし以外とも付き合ってるに決まってるって! やっぱりそうなんだ!?」
「・・・・・なぁ。あいつがなんて言ったのか知んねーけど、憶測だろ? 真に受けんなよ」
陸は、面倒くさそうにあたしから目を逸らすと、前髪をかき上げた。
「だって、信じられないんだもん」
なんで、こんな目立たない平凡なあたしなんかと陸が付き合いたいのか。
からかわれてるだけなんじゃないのかって!
あたしにそんな魅力あるとは思えない・・・もん。
・・・・・・あたし、今、ちょっとだけ分かった・・・気がする。
自信がなかったんだ。
自分に対する自信のなさが、陸の気持ち疑うことになってたんだ・・・
「・・・オレの言うことは信じられなくて、テコンドーの言うことは信じるわけ?」
「ちがうっ!そんなこと言ってるんじゃないよっ!」
あたしは慌てて首を振った。
「じゃ、なんだよ? 誰の言うことなら信じるってんだよ!?」
かき上げた前髪の隙間から、陸があたしを見る。「・・・アキヒコか」
え?
なんでここで先輩が出てくるの?
「・・・何言ってんの?違うよ」
陸は先輩の名前を出したあと、眉間のしわをより深くさせて、チッと舌打ちすると、
「―――戻る」
と立ち上がろうとした。
「り、陸? 危な―――っ!?」
あたしが止める前に、急に立ち上がった陸は低い通路の天井におでこをぶつけてしまった。
「―――――ッつ・・・」
「だ、大丈夫?」
おでこを押さえる陸の指の間から、赤いものが見えた。「・・・陸っ!?血が出てる!」
あたしが、持っていたハンカチで傷口を押さえると、
「―――・・・、いいよ、ほっとけよ」
陸は目を伏せてそう言ったけれど、あたしの手を止めはしなかった。
「・・・待って。確かバンドエイド、持ってるから・・・」
あたしは慌ててカバンを探った。
・・・けれど、ゴチャゴチャいろんな物が入っててすぐに見つからない!
お弁当がジャマっ!
さっきあんなに出すのを渋っていたお弁当をカバンから出す。
あ〜、このポーチ! 大して中身入らないくせに大きいのよねっ!
テントウ虫の形のポーチを放り投げるようにカバンから出す。
やたら分厚い、ミッフィーの手帳もジャマっ!
「・・・なんか、手品みてー。そん中にどんだけ入ってんの?」
陸が傷口をハンカチで押さえながら、あたしのカバンから出てきた物を眺めて少し笑った。
良かった・・・。少しだけど、笑ってくれた。
それにしても・・・・
あーもうっ!? どこにあるわけ?
確かに入れてるはずなのに!
あたしはカバンをひっくり返した。
ケータイやボールペンなどの細かい物がバラバラと出てくる。
あ!
「あった!」
ビニールの小さなケースに入ったスヌーピーのバンドエイド。「スヌーピーだけどいいよね?」
とあたしがバンドエイドの袋を破りながら傷口に手を伸ばすと、その手を陸が止めた。
「え?」
陸はあたしの方を見てはいなかった。けれど、その目は見開かれていて、ある一点を凝視している。
な、なに?
陸が見ている視線の先をたどると、そこには・・・
「・・・っ! やだっ! 違―――ッ」
あたしがそれをつかむ前に、陸が立ち上がった。
さすがに今度は、頭はぶつけなかった。
「・・・もう、知らねー。テコンドーのとこでも、アキヒコんとこでも、好きなとこ行けば?」
そう言うと、陸は今度こそあたしを置いて一人で体育館を出て行ってしまった。
―――あたしは震える指先で、先輩からもらった指輪を拾い上げた。


どうやって教室に戻ったんだろう。
気が付いたらあたしは、ちゃんと5限目の授業を受けていた。
「・・・あのさ、村上さん?」
5限目が終わると五十嵐くんが話しかけてきた。
「・・・なに?」
「今日の放課後なんだけど、時間ある? 実はE組が風紀の見回り当番なんだけど、二人とも都合が悪いから、明日のA組と交換してくれって言われてて・・・」
五十嵐くんはなぜだかちょっとだけばつが悪そうに目を伏せている。
「・・・いいよ」
「・・・あの、村上さん?」
「なに?」
「大丈夫? なんか具合悪そうだけど・・・」
「え? 全然だよ? なんで?」
いや、と五十嵐くんは呟いたあと、
「・・・・・あの、さ。朝はゴメン」
と謝ってきた。「出すぎた事だったって思ってる。悪かった」
「なにが? 別に気にしてないよ? って言うか、五十嵐くんが言う通りになったし」
え? と五十嵐くんが顔を上げる。
「あたし、もうあの商業科の子と、何もカンケーなくなったから!」
「え? それってどういう・・・」
「麻美にも、心配しないでって言っておいて」
そうだよ。2週間前に戻っただけ。別にどってことないもん。
大体? あたしから付き合いたいって始まったカンケーじゃないし!
・・・・・やっぱり、杉田先輩のこと忘れられないし?
そうだよ!あたしやっぱり、杉田先輩のこと忘れられなかったんだよ!陸じゃダメだったんだよ!!
・・・そうそう!
・・・・・・じゃ、なんでこんなに目が熱くなるのかなぁ。
あ、なんか視界までぼやけてきた。
おっかしいな〜・・・
あたしはカバンからハンカチを出して顔に当てようとした。
直前、その手は止まる。
「ど、どうしたの?村上さん! どっか怪我してるの?」
五十嵐くんが、ハンカチについている血を見て驚いた声を上げる。
陸の血だ。
陸・・・おでこ、大丈夫だったかな・・・
あたしはそのまま机にうつ伏した。
「村上さん? ちょ、大丈夫? ねぇ、村上さん?」
そう言って頭をなでる五十嵐くんの手が思ったよりも優しげで、余計に涙が溢れてしまった。


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